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ライトノベルネタブログ

最近のライトノベルは「共和国」をどう描いているか?

togetter.com
ここ数日、「共和国なのに王様が統治しているラノベがあって嘆かわしい」という話題が盛り上がっておりまして、「ラノベならさもありなん」とか、「考えなしに共和国って名前だけ使ってるんだろ」とか、あるいは「そもそもラノベに共和国とか出てこなくね?」とか、好き勝手に言われていましたので、最近のラノベで「共和国」がどのように描かれているか、というところを軽く紹介してみたいと思います。

『86 -エイティシックス-』のサンマグノリア共和国

86―エイティシックス― (電撃文庫)

86―エイティシックス― (電撃文庫)

ラノベ 共和国」でググったら真っ先に出てきました(2019年4月現在)。ラノベ業界において次世代のホープと見なされている人気作品でございます。

「サンマグノリア共和国」は第一巻の舞台となる国で、自由・平等・博愛・正義・高潔を旨とする誇り高き民主主義国家です。……が、作中ではそんな素晴らしい理念も見る影はなく、「人間以下の被差別民がパイロットだから実質的に無人兵器www」とか言って主人公たちを死地に追いやるクソ野郎どもとして描かれています。というと、いかにも「分かりやすい悪役」だと思われるかもしれませんが、全体としては「おまえらだってこんなクソ野郎になるかもしれないぞ」と読者にナイフを突きつけてくるような作品になっておりますので、ご安心ください。

もうひとつ、ちょっとしたネタバレになってしまいますが……『86』には「ギアーデ連邦」という共和国も登場します。こちらは「ギアーデ帝国」で革命が起きて生まれた国で、そのギアーデ帝国の「最後の皇帝」が密かに匿われていたりします。すなわち「共和国に皇帝がいる」ことになります。なんちゃって。

天鏡のアルデラミン』のキオカ共和国

主人公たちの属する「カトヴァーナ帝国」が斜陽の大帝国として描かれるのに対して、その最大の敵である「キオカ共和国」は上り調子の新興国家として登場します。主人公は帝国の腐敗にほとほと嫌気がさしており、いずれキオカに滅ぼされることを予測していますが、その意に反してどんどん出世していき、帝国の元帥としてキオカと戦うことになっていくのです。とはいえ、キオカもけっこうキナ臭い感じに描かれており…やはり一方だけを単純に持ち上げるわけではありません。

主人公・イクタは「常怠の智将」、ライバルであるキオカの司令官・ジャンは「不眠の輝将」という、完全に銀英伝をパロった二つ名を持っていてギャグにしか見えないのですが、実のところ、この二人の名将のありかたが「権力を分散する共和制」と「名君に依存する君主制」の対比になっているんですよね。イクタとジャン、カトヴァーナとキオカ、「帝国」と「共和国」が激突するクライマックスは必見です。

幼女戦記』のフランソワ共和国

幼女戦記 (1) Deus lo vult

幼女戦記 (1) Deus lo vult

第一次・第二次大戦期のヨーロッパをモチーフとして、「帝国」とその周辺諸国の一大戦争を描く、異世界転生系架空戦記ファンタジーです。というわけで「フランソワ共和国」は完全に史実のフランスそのまま、国名や人名を変えただけ、というタイプの描かれ方ですね。ゆえに共和制を変に解釈しているということもないでしょう。

史実を下敷きにしていると言えば、冷戦時代の宇宙開発競争をモチーフに「吸血鬼の少女」という一摘みのフィクションを加えて描かれる『月とライカと吸血姫』の当初の舞台も共和国、すなわち「ツィルニトラ共和国連邦」でした。やはりソ連そのものなので、王様やお姫様は登場しません。「吸血姫」とありますが、本当の姫ではありませんし、神魔を狩ったりしませんし、十七分割されたりもしません。

『剣と炎のディアスフェルド』のアルキラン共和国

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

こちらの「アルキラン共和国」は、主人公たちの住む小王国群「ディアスフェルド」を侵略せんとする超大国です。主には共和政ローマがモチーフだと思いますが、ローマ帝国イスラム帝国モンゴル帝国といった歴代の巨大帝国の要素も混ぜ込まれており、なんとも独特な国家として描かれています。

まず、内政・軍事・外交のそれぞれの部門に、「三皇」と呼ばれる最高責任者がいます。「おっ、共和国の皇帝!?」と思いきや、彼らは選挙によって選ばれ、政策を執行するにも議会の承認を得ているようなので、古代ローマの執政官をアレンジしたような存在と言えるでしょうか。また、アルキランには「戦争で得られるものを労働で得てはいけない」という国是があり、そのため対外戦争を継続して領土拡大しなければ経済を維持できないという自転車操業状態に陥っています。特に森林資源の枯渇が深刻化しており、三皇のひとりが「そろそろ植林しない?」と提案するも、国是に反すると人気が落ちて選挙で負けちゃうし…ってな感じで、森深きディアスフェルドに侵攻せざるを得なくなるわけです。

「共和国」ながら独自の政体が描かれているパターンということで、他の作品に比べるとマイナーですけど紹介してみました。神話や伝説のエッセンスがぎゅうぎゅうに詰め込まれた、本当に面白い作品ですよ。

そもそも「王様が共和国を統治しているラノベ」って実在するの?

実は有力候補を見つけています。
ずばり『いちばんうしろの大魔王』です。

マリン
海の中にある共和国の国王の青年で皇帝の血を引いている。

いちばんうしろの大魔王 - Wikipedia

ちょっと記述がわかりづらいですが、「帝国」の皇帝の血を引きつつ、海中にある「共和国」の国王を務める青年、らしいです。私は実物を読んでいないので、もしかすると作中で何らかのエクスキューズが示されているかもしれません。情報募集です。

ちなみに、この作品は藤子不二雄作品のパロディが多く、「マリン」というキャラも藤子不二雄の『海の王子』がモチーフではないかと言われています。その『海の王子』では「海底王国」らしいので、それをあえて「共和国」に変えた意図というのは何かしらあるのかもしれません。

とはいえ

これだけ探しても「王様が共和国を統治しているラノベ」がほとんど見つからなかったことは事実なので、この話題の発端となった教授には「言うほどそんな作品ばかりじゃないから大丈夫ですよ」と申し上げたいところです。

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エロゲが衰退したのはラノベのせいなのか?

ヨッピー:ちなみにこの辺が全盛期として、だんだん売り上げが下がってしんどくなって来るのってどれくらいからですか?

野嶋さん:うーん、2010年くらいからかな……。

ヨッピー:どういう要因で売れなくなるんですかね?

にゃるらさん:諸説あると思うんですが、「泣き」とか「物語」を求めるオタク層が、ライトノベルに流れたのが要因として大きいんじゃないかと思うんですよね。

「平成のエロゲ」を振り返ろう【令和にも伝えたい】 | オモコロ

ラノベがエロゲに取って代わった」――というエロゲ衰退ラノベ原因説。
けっこうあちこちで見かけるんですが、個人的にはちょっと疑問に思っているんですよね。

まずエロゲが衰退しはじめたのはいつごろでしょうか?
実は市場規模のピークは2002年だそうです。

アダルトゲーム:ユーザー人口増加も、不正利用の増加や、参入事業者及びコンテンツの減少等により、2002年をピークに市場規模縮小が続く。

矢野経済研、「オタク市場」に関する調査……4人に1人がオタク、2010年成長は「オンラインゲーム」 1枚目の写真・画像 | RBB TODAY

2003年ごろにCD-ROMからDVD-ROMへの移行があって大幅に減少。
2004年には『CLANNAD』『Fate/stay night』の発売があって多少戻しますが、そこからは漸減が続いているようです。
広くとっても2000年代前半が最盛期と考えていいのではないでしょうか。

一方で、ライトノベルのアニメ化が急増したのは2006年以降。
アニメ『涼宮ハルヒの憂鬱』が大ヒットしたのも同じく2006年です。

ライトノベルのアニメ化作品一覧 - Wikipedia

2003年に6作品、2004年に3作品、2005年に8作品と推移していたのが、2006年には18作品まで膨れ上がります。
市場規模について言えば、何をラノベと見なすかで大きく変動して扱いづらいのですが、とりあえず最盛期は2010年代前半あたりになると思います。

エロゲ衰退ラノベ原因説を唱えている人って、「エロゲが衰退しはじめたのは2000年代後半」と思っているから、2000年代後半に流行したもの=ラノベをその原因として挙げているのだと思うのですが、「エロゲが衰退しはじめたのは2000年代前半」という前提を採用すると、その仮説は一気に怪しくなりませんか。

「エロゲライターからラノベ作家に転身した人が多い」というのも傍証とされていますけど、「エロゲ時代のファンを引っ張ってきて大成功!」みたいな事例って実はそれほど思い浮かばないんですよね。エロゲ時代にはあまり活躍していなかった人とか、逆にエロゲでは知られていたけどラノベでは売れなかった人とか、あるいは作風をエロゲ時代からガラリと変えている人も多くて、「ラノベさえ読んでいればエロゲに求めていたものを補給できる」という感じがしないというか。

ちなみに、エロゲ原作アニメが最も多かったのも2005〜2007年頃で、ラノベ原作アニメが増えはじめた時期と一致します。

エロゲが原作のアニメ作品の一覧とは (エロゲガゲンサクノアニメサクヒンノイチランとは) [単語記事] - ニコニコ大百科

ときどき「昔はラノベアニメよりエロゲアニメのほうが多かったのにな」と言っている人がいるのですが、数字の上では「エロゲアニメのほうが多かった」という時期は無さそうです。ただし、2000年代前半のラノベアニメはWOWOWで放送されることが多かったので、体感的にはエロゲアニメのほうが多いように感じられたのでしょう。

もちろん、テレビアニメ全体からすればエロゲ原作アニメもラノベ原作アニメもごく一部にすぎない、ということは言うまでもありません。

Category:2006年のテレビアニメ - Wikipedia

なぜラノベもエロゲも2006年にアニメ化が増えたのか?
それは深夜枠が定着してテレビアニメの本数自体が増加したからです。

年度別テレビアニメ・アニメ映画の本数 - 人生reject

つまりラノベブーム自体が、極論すれば「深夜アニメブーム」に内包されるわけで、「漫画も読むしラノベも読むしアニメも観るしエロゲもやる」というオタクの生態を前提とした上で、「エロゲだけが衰退した」ことの理由を考えるのであれば、ラノベよりもアニメの影響のほうがよほど大きいのではないかと思うのですが、どうなんでしょう。

エロゲの衰退理由、誰かガチで研究してくれ。


追記。
エロゲの衰退理由について各所の意見をまとめると、

  1. ラノベ・深夜アニメ・ソシャゲ(あるいはスマホゲー)など他のメディアに客を奪われた。
  2. ファイル共有ソフトなどにより海賊版が蔓延して購入者が減った。
  3. CDからDVDへの移行、スマホの普及、光学ドライブのつかないノートパソコンの普及など、周辺環境の変化によりプレイヤーが減った。
  4. エロゲの大長編化による制作コストとプレイコストの上昇。

といったあたりに整理できるかなと。たぶんこれらの複合的な理由なんでしょうけど。

まあエロゲ衰退の理由を解き明かすのは本記事の目的ではないので詳しい人に任せます。

角川系出版社の統廃合の年表(ラノベ中心)

自分のなかでも混乱を来していたので備忘録的に整理してみた。

角川書店富士見書房メディアワークスアスキーアスキーエンターブレインメディアファクトリー
前史1945年に設立される。1972年に角川書店の子会社として設立される。 1977年に設立される。
1986 リクルートの子会社としてリクルート出版が設立される。
1987「角川文庫・青帯」創刊。 ベストロン・ピクチャーズの子会社としてベストロン映画が設立される。
1988 富士見ファンタジア文庫」創刊。
1989青帯が「角川スニーカー文庫」に改名して独立創刊。
1990 アスキーの子会社に。
1991 角川書店へ吸収合併(事業部として存続)。 アスキーの子会社としてアストロアーツが設立される。 メディアファクトリーに社名変更。
1992スニーカー文庫から「角川ルビー文庫」が独立創刊。 角川書店から追放された角川歴彦によって設立される。
1993角川春樹逮捕。 電撃文庫」創刊。
角川歴彦角川書店へ復帰。
1994
1995
1996
1997
1998 ファミ通文庫」創刊。
1999
2000 富士見ミステリー文庫」創刊。 アスキーのエンタメ出版部門(含・ファミ通文庫)を引き継ぎエンターブレインに社名変更。
2001角川ビーンズ文庫」創刊。
2002 角川書店の子会社に。メディアリーヴスに社名変更。アスキーに社名変更。 MF文庫J」創刊。
2003角川ホールディングスに社名変更。
2004 角川HDの子会社に。
2005 再独立して角川HDの子会社に。
2006角川グループホールディングスに社名変更。 ビーズログ文庫」創刊。
2007
2008 アスキー・メディアワークスに社名変更。 メディアワークスへ吸収合併。
2009 メディアワークス文庫」創刊
2010 エンターブレインへ吸収合併。
2011 角川グループHDの子会社に。
2012
2013KADOKAWAに社名変更。KADOKAWAへ吸収合併。KADOKAWAへ吸収合併。 KADOKAWAへ吸収合併。MFブックス」創刊。
KADOKAWAへ吸収合併。
2014ドワンゴ経営統合
KADOKAWAKADOKAWA・DOWANGOの子会社に。
富士見L文庫」創刊。
富士見書房ノベルス」創刊。
2015KADOKAWA・DOWANGOがカドカワに社名変更。富士見書房ノベルスを「カドカワBOOKS」に改名して新創刊。
2016 「ノベルゼロ」創刊。
2017
2018
2019ドワンゴKADOKAWAの子会社に。

2013年のKADOKAWA大統合後、各出版社は「ブランドカンパニー(社内カンパニー)」として扱われ、2015年にブランドカンパニー制が廃止された後も、角川書店富士見書房・AMW・エンターブレインメディアファクトリーなどはブランドとして残り、各ラノベレーベルもそのままのかたちで現在まで存続している。ただし、カドカワBOOKSやノベルゼロなどの新しいレーベルは「KADOKAWA」ということを前面に出していて、実際にどこの部署が担当しているのか分かりづらくなっている。

あと省略したけど「角川書店」は、初代・角川書店 / 初代が「角川HD」に変わったあとに作られた二代目・角川書店 / 二代目が「角川グループパブリッシング」に変わったあとに作られた三代目・角川書店 / 三代目がKADOKAWAに吸収されたあとのブランドカンパニーとしての角川書店 / ブランドカンパニー制廃止後の単なるブランドとしての角川書店(←いまここ)という感じらしいので、ご理解のほどよろしくお願いします。

現在の組織構成をまとめるとこんな感じっぽい。

会社情報:グループ会社一覧|カドカワ株式会社