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激化するラノベ天狗問題 ――そのときわたしたちになにができるのか

ラノベ天狗」を知らない方は、まずは私が以前に書いた記事をお読みください。

読むのが面倒くさい、読んでもよく分からなかった、という方のために簡潔に説明すると、日夜Twitterで「ライトノベルへの批判」と取れるツイートを検索してはRTで晒して殴りつける女子中学生、それが「ラノベ天狗」です。

さて、ラノベ天狗活動がはじまって二年半――皆がラノベ天狗の連続RTにも慣れはじめ、良くも悪くもルーチンワークに組み込まれつつあったある日、事件は起こりました。

ラノベ天狗がガラケーからスマホに買い替えたのです!

「それの何が問題なの?」……私も最初はそう思っていました。それが誤りだったと気付いたとき、すべては手遅れでした。

そう、ラノベ天狗は「Togetterで晒す」ということを覚えてしまったのです!

以下がラノベ天狗のまとめの一覧です。

特にバズったのはこのあたりでしょうか。

ラノベ天狗に目をつけられた中にはプロフィールに謝罪文を掲載してアカウントを非公開にしてしまった者もいるとか。嗚呼、あたら若い命をTwitterに散らすとは……。

Togetterでのラノベ天狗のいやらしいところは、「私は中立で何の意見もありませんよ」「読者の皆さんで判断してくださいね」といった体裁を取っていることです。

たしかに、「これは偏向したまとめだから無効だ!」といった違法捜査的批判、あるいは「こいつらも悪いが晒したヤツも悪い」といった喧嘩両成敗的空気を出されてしまうと嫌ですもんね。

古参ラノベ読みである「ぬんぬん」氏(いま考えると紅魔族っぽい名前ですね)が、この点について果敢にもラノベ天狗を糾弾しましたが、そのまま果てなきTwitter議論の闇へと消えていき、ラノベ天狗へのダメージはほとんどありませんでした。うう、惜しい人を亡くした。

この激化するラノベ天狗問題において我々に何ができるのか。

私がお願いするのはたったひとつのことです。

ラノベに関するTogetterまとめを見かけたときは、ブクマするまえに、ツイートするまえに、まずは「まとめの作成者」を見ましょう。

「srpglove」と書かれていたら――「あ、ラノベ天狗だ!」と思ってください。

ただそれだけでいいのです。

頭の片隅に「これはラノベ天狗のまとめなんだ」と置いておくだけで、きっと受け取り方に違いがでてくるでしょう。

もちろん、ラノベ天狗のまとめであることを知ったうえで、ブクマしたりツイートしたりするのは自由です。

よろしくお願いします。

あとついでに出来ればでいいんだけどラノベへの偏見も抑えてね! おもしろいラノベはいっぱいあるよ!

ラノベを買うならBOOK☆WALKER! 電子書籍のススメ!


「発売後すぐに買え」とか「取り寄せしろ」とか、出版社と取次と書店の仕組みにまつわるあれこれが話題になっていますね。

しかし皆さん、本の発売日なんて普段は気にしないし、「気がついたら数ヶ月前に新刊が出ていた」なんてことはザラじゃないですか。

取り寄せだって、おそらく慣れている人には簡単なんだと思いますが、普通は目当ての本がなければ諦めるか、それでも欲しければ別の店に行きますよね。

初週で買うのも、取り寄せするのも、ちょっとハードルが高いと思いませんか。

そこで登場するのが「電子書籍」ですよ。

書店に新刊が入荷されてない → 電子書籍なら売ってるよ
少し前の作品も置いてない → 電子書籍なら売ってるよ
平積みでないと売れない → 電子書籍はぜんぶ平積みだよ
書店が遠い → 電子書籍なら自宅で買えるよ
取り寄せに時間がかかる → 電子書籍なら一瞬で買えるよ
初週で買ってください → 電子書籍なら発売前に通知されるよ
予約してください → 電子書籍ならワンクリックで予約購入できるよ

素晴らしいですね。
まだまだありますよ。

場所を取らない。何百冊買っても部屋を圧迫することはありません。
古い作品を簡単に取り出せる。物理書籍なら確実に本の山に埋もれて見つかりませんよね。
本棚機能。現実には重すぎる本棚をお手軽にいくらでも増やすことができます。
作品内検索。あのフレーズってどの章にあったっけ、みたいな疑問もすぐに解消できます。
横断検索。自分の持っている本でも持っていない本でも全文検索できるのです。
もちろん値下げセールも頻繁にありますし、コインと呼ばれるポイント還元もありますよ。

うーん、これはもう電子書籍を使わないと損ですね…!

そしてあなたがラノベ読みなら、利用すべきは「BOOK☆WALKER」で間違いありません!

(なんてステマくさい…)


たぶんB☆Wってあんまり知られてないんですよね。世間的にはKindleダントツで、あとはAppleiBooks楽天Koboあたりが競い合っている感じ。でも、こないだ取ったアンケートによれば、なんとラノベ読みのあいだではB☆WとKindleがほぼ同率なんですよ。すごいでしょ。

B☆Wの年間売上ランキングだって、漫画も含めた「総合部門」なのに、ラノベがあっさり上位を占めてますからね。もう完全に「ラノベならB☆W」ですよ!

(ますますステマくさい…)

えー、どうしてこんなにラノベ読者の利用率が高いかというと、B☆Wの運営会社(の親会社)が、ラノベ業界を牛耳るあの「カドカワ」だからです。出版社直営なんですね。

もちろん、運営がカドカワだからって、他社の作品が無いなんてことはないですし、ラノベだけでなく一般文芸、漫画、ビジネス新書、雑誌なんかも普通に配信されてますよ。


さて、私はもう電子書籍を神と崇めて、物理書籍をまったく買わないところまで来ているのですが、いまだ神を信じない者たちは何を考えているのでしょうか。こちらもアンケートを取っております。


スマホタブレット・クレジットカードの有無

これは小中高校生を想定した質問です。おそらく実際にはこの回答以上に多いでしょうね。

あ、でも「電子書籍リーダーでないと電子書籍は読めない」と思っている人は地味に多いと思うのですが、スマホでもタブレットでも読めますよとは強調しておきます。実はPCでだって読めるんですよ。

決済手段については、クレカだけでなくWebMoneyとかにも対応しているので、そのあたりで何とかするしかないのかなあ。ちなみにiOS版のアプリ内で購入するとApple税が加算されます。

電子書籍を購入する際の支払い方法は何が利用できますか? | BOOK☆WALKER

サービスの終了が怖い

電子書籍につきものの問題ですね。個人的には、他の業種ならいざしらず出版社直営なら撤退しづらいんじゃないかな、と思っています。基幹事業ですからね。

それに、さすがに何らかの救済措置はあるだろう、という希望的観測もあります。

電子書籍は「なぜ」消えるのか?--世間にはびこる俗説を斬る - CNET Japan

ちなみにカドカワは「本棚連携」という機能も推進していて、カドカワが出版している作品であれば、B☆Wで買った作品をBook Liveやauブックパスなどでも読むことができます。
(訂正:すみません。「Book Liveやauブックパスなどで買った作品をB☆Wでも読むことができます。」でした。)

こういう仕組みがあると、万が一B☆Wが潰れたときでも、別のサービスが引き継ぎやすいんじゃないかな、と思っています。

本棚連携機能とはなんですか? | BOOK☆WALKER

目が疲れる

実は「サービス終了が怖い」がいちばん多いんじゃないかと予想してたんですが、こっちのほうが思ったより多かったという。

でも、これはもう仕方ないですね。物理書籍か電子ペーパーしかありません。

自分は四六時中PC見てるかスマホ見てるかという人間なので「液晶は目が疲れる」という感覚があまり分からないんですよね。

あ、電子書籍は文字サイズを変えられるので、そこは物理書籍よりも目が疲れづらい点なのではないでしょうか。背景色とかも変更できますよ。

出会いがない

番外ですが、「電子書籍では新たな本との出会いがない」みたいな意見をよく目にします。

でもさ、そんなのお好みの条件で絞り込んだうえで全ての新刊を舐めるようにチェックできる電子書籍ストアのほうが「出会い」も「ついで買い」も多いに決まってるじゃないですか。

もちろん有能な書店員がちゃんとオススメしてくれれば話は別ですけどね。

その他の回答

読み進めるにつれ左手から右手に移っていく重みと厚みを体感したい

「残りのページ数を感覚的につかめる」ってのはわりと物理書籍の長所として聞きますけど、個人的には電子書籍のほうが「いまどのくらい読んだか」を意識するんですよね。電子書籍は「総ページ数」を確認しやすいので。

本を読む時にバッテリー残量みたいなつまらん事を気にしたくない

まあこれは分かります。

本棚が一杯で処分する本を選ぶ際に、対象となる作品の自分にとっての価値の変化を知りたい

これは電子書籍でもできなくはないような。端末から削除するときとか。

寝転がって読む時にスマホが重たい

文庫本のほうが重くないですか!?

積読が捗りすぎる

分かる。物理書籍の頃は積読しない人間だったんですが、電子書籍に移行して積読が大量にできました。

中古で売れない

逆に考えるんだ、「電子書籍なら売る必要がないさ」と考えるんだ。

現実の本棚の整理が好きだから

いちおう「本棚」機能もありますよ。

そもそも好きじゃない

すみません。

表紙を撫でるのが好き

妹てざわりカバー」とか触りたいですもんね…そこは電子書籍の真似できないところですね。

習慣がないから

いまこそ習慣をつけるとき!


というわけで電子書籍が広まれば出版業界が抱えるいろんな問題がわりと解決するんじゃね?と思っているので、みなさん、どんどん電子書籍を使っていきましょう!

あと、早くB☆Wは有能な書店員を引き抜いて特集ページを任せるんだ! そしてトップページをバナーまみれにしてんじゃねえ! それとライト文芸は「ライトノベル」と「文芸」の両方に出してくれ! 頼んだぞ!

「好きなライトノベルを投票しよう!! 2016年下期」投票

取り急ぎ投票だ!

「剣と炎のディアスフェルド」佐藤ケイ

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

【16下期ラノベ投票/9784048923941】

いでおろーぐ!椎田十三

【16下期ラノベ投票/9784048921855】

「ヒマワリ:unUtopial World」林トモアキ

ヒマワリ:unUtopial World3 (角川スニーカー文庫)

ヒマワリ:unUtopial World3 (角川スニーカー文庫)

【16下期ラノベ投票/9784041049952】

「さよなら、サイキック」清野静

【16下期ラノベ投票/9784041048535】

「我が驍勇にふるえよ天地」あわむら赤光

我が驍勇にふるえよ天地3 ~アレクシス帝国興隆記~ (GA文庫)

我が驍勇にふるえよ天地3 ~アレクシス帝国興隆記~ (GA文庫)

【16下期ラノベ投票/9784797389685】

「メロディ・リリック・アイドル・マジック」石川博品

【16下期ラノベ投票/9784086311281】

「七日の喰い神」カミツキレイニー

【16下期ラノベ投票/9784094516449】

「弱キャラ友崎くん」屋久ユウキ

弱キャラ友崎くん Lv.2 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.2 (ガガガ文庫)

【16下期ラノベ投票/9784094516319】

2016年ライトノベル個人的ベスト10

1. この恋と、その未来。

六巻で完結。この作品に関しては、もう本当に「ありがとう」を何度でも言いたい(→ ライトノベル『この恋と、その未来。』の打ち切りについて - WINDBIRD)。叶わぬ恋、望まぬ体、どうしようもなかった苦悩を、しかし年月をかけてなんとか消化して、新しいパートナーとともに未来に向かって歩いていく。読み終わったあとに人生に思いを馳せてしまうような。もちろんエンターテインメントとしても素晴らしい。やはりこれは完結すべき作品でした。本当にありがとうございました。

2. 「青春ブタ野郎」シリーズ

引きこもりの妹との絆を描いた「おるすばん妹」。現在の恋人と難病の少女とのあいだで残酷な選択を迫られる「ゆめみる少女」「ハツコイ少女」。いずれも神がかった出来栄えでした。『この恋』の主人公は年相応の少年ですけど、『青春ブタ野郎』の主人公はちょっと老成ぎみのナイスガイなので、だからこそ飄々としている彼が死に物狂いに行動するところに心が揺さぶられるんですよね。『この恋』とともに、2016年のみならず2010年代を代表する青春ラノベとして並び称されていくでしょう。

3. 七日の喰い神

四巻で完結。カミツキレイニーという作家の覚醒を目の当たりにした気持ちです。人を喰う付喪神「マガツカミ」を、元・祈祷師の男とマガツカミの少女のコンビが退治していく、一種の退魔ものなんですが、架空の日米大戦の直後という時代設定で、今なお戦争の記憶に囚われた怪人たちが策謀を巡らせる伝奇的な魅力もある。そしてなによりヒロインのラティメリアちゃんが可愛すぎるんですよね。「んまぁい!」。

4. SとSの不埒な同盟

二巻で完結。読んだのは今年なので。サディスティックな嗜好を持つ男女二人が、清純な異性に取り入っては騙して虐めて自らの欲望を満たすという、馬鹿馬鹿しくも耽美で背徳的な青春ラブコメ野村美月作品というと「清純なヒロイン」と「変人なライバル」のイメージで、自分は常々「俺は良い子ちゃんなんかに興味はねえ、もっと変態を出してくれ!」と訴え続けていたのですが、その望みがようやく叶いました。個人的には野村美月の最高傑作だと思っています。

5. ヒマワリ:unUtopial World

ヒマワリ:unUtopial World3 (角川スニーカー文庫)

ヒマワリ:unUtopial World3 (角川スニーカー文庫)

ハッタリとケレン味に溢れたいつもの林トモアキのノリながら、その最大の特徴はなんと言っても「主人公が眼鏡っ娘」であること。ズボラで引きこもりで最高にバイオレンスな眼鏡っ娘ですよ。素晴らしいですね。個人的に眼鏡っ子ラノベ・オブ・ザ・イヤーの称号を与えましょう。最新の第三巻でひとまず大きな謎が明かされ、次巻から新展開だそうなので、いまのうちに追いついておくことをオススメします。

6. 絶対ナル孤独者

いまさら紹介するのもはばかられる現代最高の売れっ子作家のひとり川原礫……の『SAO』でも『AW』でもない第三のシリーズ。過去の事件から心を閉ざした主人公。トラウマから生み出される異能力。闇夜に蠢く秘密組織。そして日常との別れ。これですよ。これこそが異能バトルですよ。徐々に明らかになる敵組織も(意外に所帯じみていて)魅力的。一年一冊ののんびりペースでの刊行ですが早く続きを読みたいですね。

7. 剣と炎のディアスフェルド

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

大帝国に侵攻されつつある小国の二人の王子を主役としたエピック・ファンタジー。兄王子は和平の代償として帝国に赴きその各地を漫遊し、弟王子は即位して帝国との対決を決意する。刃を通さぬ身体を持つ男、兄弟を殺すたびに強くなる一族、長い髪に神秘的な力を蓄えるアマゾネス……まさにジークフリートヘラクレスかといった英雄叙事詩を、すっかりベテランの貫禄を身に着けた佐藤ケイが確かな実力で描き出しています。

8. さよなら、サイキック

祝・清野静復活。かの名作『時載りリンネ!』から幾年、ついに刊行された新作です。ひねくれた性格の、しかし熱い心を持った少年。彼のガールフレンドである天真爛漫な魔女。そこに現れる謎めいた美しき発火能力者。児童文学風の『リンネ!』とモダンな異能バトルを独自の感性で組み合わせたような、素敵な青春ストーリーに仕上がっていました。この年末に発売の第二巻をまだ読んでいないので期待も込みではありますが、絶対的に面白いことは間違いありません。

9. 弱キャラ友崎くん

ゲームオタクの主人公が、学校一のリア充の指導のもとでリア充のハウツーを学んでいく青春ラブコメです。とはいえ脱オタするわけではなく、むしろ「人生」をゲームとして攻略していこうという、極まったゲーマーたちの物語なんですね。二巻では「リア充を描いたラブコメ」としての側面がより強まり、もはや同レーベルの看板作品『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』のアンチテーゼといっても過言ではなくなりつつあります。これからどう展開していくのか楽しみですね。

10. きみの分解パラドックス

きみの分解パラドックス (富士見L文庫)

きみの分解パラドックス (富士見L文庫)

これは入れるかどうか迷ったんですが……何というか「面白い」よりも「好き」という作品ですね。何でも「分解」してしまうサイコパス気味な少女と、その彼女の幼馴染をやっている少年が、謎の連続殺人事件に巻き込まれていくという、つまりは壊れた少年少女たちによる青春ミステリなのです。他人の苦しみがわからない、嘘をつくのに良心が痛まない、倫理的なブレーキが効かない……まあ、そういうの大好きですよね。


今回は迷いに迷ったあげく、去年のベストに挙げた作品を泣く泣く除外したのですが、このあたりはもう同率同順位みたいなものですから、どれもこれもオススメなんですよ。というわけで選定にあたってリストアップした作品を載せておきますね。

続きを読む

10年前のラノベが好きだったあなたに現在のラノベをオススメする

要するに「昔のラノベと今のラノベで何となく似た要素がある作品を比較して紹介しちゃおう」という記事です。

涼宮ハルヒの憂鬱』 vs 『いでおろーぐ!

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

行動力に溢れたヒロイン、その彼女を補佐する主人公、無愛想でぺったんこな少女、ふわふわした美少女、なんだか胡散臭いイケメンと、彼らが所属するよく分からない部活動、そしてヒロインに秘められた能力は世界の危機にまで直結する。『いでおろーぐ』を一巻だけでも読んでいただければ、きっとあなたは「ハルヒだコレー!」と叫ぶだろう
もちろん、パクリに堕しているわけではない。敢えて言おう。『いでおろーぐ』は「新世代のハルヒ」なのである。

『いでおろーぐ』をひとことで説明すると、学生運動をパロディにしたラブコメである。恋愛至上主義の撲滅を掲げるヒロインと、その思想に賛同する仲間たちが、世のリア充に対してアジったりテロったりするという展開だ。
ハルヒ』の場合、ハルヒの能力が突拍子もない事態を巻き起こすことに面白さがある一方で、その解決に奔走する長門や小泉といったサブキャラばかりが目立って、肝心のハルヒの影が薄くなってしまうことがあった。
しかし『いでおろーぐ』は、「恋愛に反対する二人がどう見ても恋愛している」というおかしみを、しっかりと中心に据えていることで、あくまで二人を主役とした極上のラブコメ空間を保つことに成功しているのである。

破壊的なコメディに叙情的なラブストーリー、それを裏打ちする確かな実力。かつて『ハルヒ』に夢中になった人たちにも、きっと満足していただけると思う。他ならぬ私がその実例である。
(ちなみに『いでおろーぐ』は二巻以降からシリーズとしての体裁が整ってくるので一気に読んだほうが良いと思う)

フルメタル・パニック!』 vs 『エイルン・ラストコード

エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~ (MF文庫J)

エイルン・ラストコード ~架空世界より戦場へ~ (MF文庫J)

フルメタ』の魅力といえば、細かなミリタリー描写もさりながら、戦場を知り尽くした優秀な軍人が、平和な日本に置かれるとたちまち非常識なトラブルメイカーになってしまうという、そのギャップの面白さが挙げられるだろう。

対して、かつて放映されていたアニメのキャラクター「エイルン=バザット」が、愛機とする人型ロボットと共に「現実」の世界にやってくる、というのが『エイルン』のあらすじである。アニメの世界からやってきたエイルンが、常識を知らないせいで派手な騒動を巻き起こすのは、まさに『フルメタ』を彷彿とさせる。
一方で、エイルンがやってきた世界は、実は「平和な日本」ではない。謎の怪物の侵略により人類の生存圏が脅かされている日本なのである。「戦場」で捨て駒のように扱われ、戦いに疲弊していた少年少女たちを、ヒーローたるエイルンはむしろ「日常」に引き戻し、鍛え直し、そして新たな希望を与えるのである。
さらに、この「アニメからやってきた」という設定にはもう一つのメリットがある。エイルンがどんなに超つよくて超かっこよくても、「アニメのヒーロー」だからそれは当然なのだという、圧倒的な説得力である。

リアルに寄っている『フルメタ』に対して、『エイルン』はファンタジー色の強い作品だが、新旧のロボットラノベとして読み比べてみてはいかがだろうか。

Dクラッカーズ』 vs 『ヒマワリ』

Dクラッカーズ〈1〉接触‐touch (富士見ファンタジア文庫)

Dクラッカーズ〈1〉接触‐touch (富士見ファンタジア文庫)

ヤンキー×ドラッグ×スタンドバトル、なんていう要素を組み合わせたライトノベルが二つもあっていいのか? いいんです!
というわけで『ヒマワリ』は、引きこもりを極めつつある少女が、薬をキメて超能力バトルを繰り広げていたカラーギャングたちの抗争に巻き込まれ、それらをステゴロでぶちのめすというあらすじ。
まあ、主人公のヒマワリちゃんが可愛くて可愛くてしゃーねーんですね。ジャージ、眼鏡、暴力!

『ヒマワリ』の作者は林トモアキ。実のところデビュー時期はあざの耕平と大して変わらないわけで、いまさら新旧対決というわけでもないが、ケレン味のある作風にコアな人気は共通している気がする。
『Dクラ』と違うのは、『ヒマワリ』はコメディ要素が強いという点だが、そこは林トモアキのこと、一枚めくればエグい設定が詰め込まれており、このあたりは成田良悟などを思い浮かべる人もいるかもしれない。

林トモアキ作品は、複数のシリーズで設定やキャラクターが共通していることも、その特徴のひとつである。『ヒマワリ』を気に入ったなら『おりがみ』『マスラヲ』『レイセン』、あるいは『ミスマルカ興国物語』をどうぞ。

火の国、風の国物語』 vs 『我が驍勇にふるえよ天地』

我が驍勇にふるえよ天地 ~アレクシス帝国興隆記~ (GA文庫)

我が驍勇にふるえよ天地 ~アレクシス帝国興隆記~ (GA文庫)

『火風』と言えば、現在の戦記ファンタジー、あるいは最強主人公ブームのさきがけといっても過言ではない名作である。どんなに周到な策略も、強大な魔法も、ひたすら腕力で押し切るアレスの圧倒的な強さに、かつての我々は唖然とする他なかったのである。

そしていま、怨念と復讐の血溜まりから生まれた新たな「天下無双」がひとり、それが『我が驍勇にふるえよ天地』のレオナートである。腐敗した帝国を舞台に、かつて薄汚い策略により第二の故郷を失った皇子がのし上がっていく様が描かれる。

『火風』はいちおうダブル主人公ながら「赤の悪魔憑き」アレスの強さと脆さをとことんフィーチャーした作品だったが、『我が驍勇』の場合はむしろ「吸血皇子」レオナートのその周囲に目が向けられる。いにしえの騎士物語か、それとも演義小説か、美しき天才軍師、剛弓必中の狩人、抜け目のない傭兵隊長、最強の女戦士……数多の英雄豪傑たちが現れ、ときに戦いながらも、やがてレオナートの幕下へと集っていく。
彼らの活躍が生き生きと描かれるたびに、それを率いるレオナートの強さもまた際立つのである。

『ディバイデッド・フロント』 vs 『東京侵域』

『デバフロ』は、ガンパレマブラヴオルタなどと同じ異種侵略系の作品であり、隔離された戦場に送りこまれて、怪物との死闘を繰り広げる少年たちを描いた往年の傑作である。
『東京侵域』もまた異種侵略の系譜に連なる作品だ。謎の障壁によって外界から隔離され、怪物たちが跋扈して廃墟と化した東京の内側に、少年と少女は大切な人たちを取り返すために侵入せんとするのだ。

一応は主人公たちが学生兵めいた自衛隊員として扱われる『デバフロ』に対し、『東京侵域』の主人公たちは完全なるアウトローである。ただでさえ東京に巣食う怪物たちは会敵すら自殺行為となるほどの凶悪な存在であるのに、加えて犯罪者じみたタチの悪いハンターや、政府機関の戦闘員とも、彼らは戦っていかねばならない。
東京内部のひりつくような緊張感、ひとつの失敗も許されないという危機感、目的のためにすべてを敵に回した主人公たちの決死の「侵域」が描かれるのである。

しかし『デバフロ』は電子書籍でも出てないんだよなー……それもそれで由々しき事態ではなかろうか……。




というわけで、私が言いたいのはですね、実のところどっちの作品が良いとか悪いとかじゃなくて、昔も今も変わらず面白いラノベがたくさん出てますよ、ということなんです。この記事をきっかけに、ラノベを読むのを再開する人が少しでもいたら嬉しいなと思ったりしつつ、大晦日に今年のベスト記事を公開する予定なのでそちらも参考にしてね、と宣伝しておきます。

2016年ライトノベル10大ニュース

何となく気が向いたので選んでみた。

カクヨム開始

鳴り物入りではじまったカドカワ×はてなの小説投稿サイトでしたが、開始直後にろくごまるにの暴露ネタが炸裂するなど、しばしネガティブな話題を振りまきました。最近はようやくコンテスト受賞作の書籍化がはじまったり、トップページのデザインをリニューアルしたりと、徐々に軌道に乗りはじめたのかな…という感じがします。書籍化される作品を眺めてみると、召喚・転生ネタに偏らないよう慎重に選考されているようで、「小説家になろう」とは違った流れを生み出せるかに期待がかかります。

『このすば』&『Reゼロ』のアニメがヒット

上半期は『このすば』、下半期は『Reゼロ』が話題になりました。電撃文庫スニーカー文庫といった既存のラノベレーベルが抱えるWeb小説のアニメ化は『このすば』『Reゼロ』で一区切りとなり、来年からはヒーロー文庫を中心として「Web小説専門レーベル」の作品が続々とアニメ化されてくることになるんですよね。2012年ごろからのこのブームも、いよいよ収穫期に入ったというべきなのか、ブームをアニメにまで拡げられるか正念場ですね。

ゼロの使い魔』復活

ヤマグチノボルが遺したプロットを引き継いで続編が刊行されました。2000年代には『ハルヒ』や『シャナ』と並んでラノベの代表格とされた作品であり、また現在の異世界召喚ブームに強い影響を与えた作品でもあります。いまとなってみれば感慨深いものがありますね。最終巻は来年の2月27日発売です。

松智洋、死去

正直に言いますと、自分は彼の作品をまったく読んでいないのですが、亡くなったあとの各所の反応から、本当に周囲から慕われ、また思った以上に多彩なフィールドで活躍していた人だったんだなあと思わされました。『ゼロ魔』と同じく、遺されたプロットをもとに新作が刊行されるそうです。

ノベルゼロ創刊

いま新しく参入してくるラノベレーベルは大まかに言って、Web小説の書籍化に絞った単行本レーベルと、一般文芸とのあわいを担当するライト文芸レーベル、そしておっさん向け懐古レーベルの三種類があり(TL系は落ち着いたんだろうか?)、まあどれも20〜40代の高年齢者を狙っています。ノベルゼロは敢えて分類するなら「おっさん向け」でしょうが、なかなか独自路線を走っていて、その試みが面白いです。上手くいっているかは分かりませんが。

コバルト休刊・Webマガジンコバルト開始

ザ・スニーカーが休刊してWebに移行したのは2011年でしたが、その五年後にコバルトもまた同じ運命を辿ることになりました。時代の流れを感じます。これで(紙の)ラノベ雑誌は電撃文庫MAGAGINEとドラゴンマガジン、それと小説ウィングスだけになります。電子雑誌の試みもあまり上手くいっていない(GA文庫マガジンが去年末に停止)ように思えますが、小説投稿サイトがその役割を担っていくのでしょうか。

講談社一迅社を完全子会社化

ラノベ業界的には、講談社ラノベ文庫一迅社文庫の合併、ということになります。かつての「角川がメディアファクトリーを買収」ほどのインパクトではありませんが、それなりに衝撃の走ったニュースでした。最近の一迅社文庫は刊行点数を減らしていますが、このままフェードアウトしてしまうのでしょうか。

三木一馬退職・ストレートエッジ設立

電撃文庫の名物編集者ということで、なかなか毀誉褒貶の激しい人物ですが、そんな彼が起業するということで注目が集まりました。会社の宣伝を兼ねてかメディアへの露出も増え、最近はいろんな企画で名前を見かけます。一方、作家の川口士編集エージェント会社の設立を予告しています(一迅社文庫の編集者も絡んでいる?)。作家と編集者とのトラブルが尽きない昨今、エージェントの仲介が解決策にならないだろうかと個人的にも期待しています。

この恋と、その未来。』最終巻発売

最終巻手前にして打ち切りとなったときには、私もみっともなく騒いでしまいましたが、その後に打ち切りが撤回され、無事に(というかなんというか)最終巻が発売されました。本当にファミ通文庫には感謝しかありません。ありがとうございました。

橘ぱん、政治家を目指す

だから僕は、Hができない。』で知られるラノベ作家・橘ぱんが、小池百合子が主催する政治塾への参加を表明して話題になりました。ちなみに、ラノベ作家で政治家と言えば、コバルト文庫にて「鷲田旌刀」のペンネームで活躍した宮崎岳志議員も著名です。


以上です。
他の10大ニュースも紹介。

ブックオフオンラインの10大ニュース。

ラノベニュースオンラインの10大ニュース。

一昨年に気が向いて選んだ10大ニュース(去年は気が向かなかった)。

ぼくのわたしのライトノベル遍歴

ラノベ遍歴を語るのが少し流行っているみたいなので自分のも書いてみることにした。


最初に出会ったライトノベルは『お嬢さまとお呼び!』だったと思う。縦ロールが自慢の高飛車なお嬢様が騒動を巻き起こす学園コメディである。新装版が出ているが、もともとの刊行時期は90年代の前半。

お嬢さまとお呼び!

お嬢さまとお呼び!


子供のころの私は、自分が欲しい漫画をなかなか買ってもらえなかったので(禁止されていたというほど厳しいものではなかったが)、親から買い与えられた児童文学・歴史小説と、姉が持っていた少女向け小説・漫画ばかりを読んでいたのだ。

流星香の『プラパ・ゼータ』『電影戦線』『天竺漫遊記』。瀬川貴次の『聖霊狩り』『闇に歌えば』。真堂樹の『四龍島』シリーズ。橘香いくのの『有閑探偵コラリーとフェリックスの冒険』。そして小野不由美の『十二国記』。このあたりが小学生から中学生にかけてよく読んでいたライトノベルか。


そうだ、ガンダムWのノベライズを買ってもらったこともあったな。あれが地味に初めてのスニーカー文庫だったはずだ。


小学校の図書室や公共図書館が行動範囲に入るようになってからは、漫画では手塚治虫ブラックジャックブッダ横山光輝史記三国志は通過せず)などの図書館によくある作品を、小説では原ゆたかやズッコケなどの定番の児童書と、あとはホームズをよく読んでいた。

ファンタジーについては、幼い頃に好きだったのは圧倒的に西遊記だった。いろんな出版社のバージョンを買い揃えていて、小学校の入学祝いが福音館版のゴツいやつだったことを覚えている。派生して水滸伝封神演義も。

西洋ファンタジーではオズシリーズが多かったか。図書館では、棚の端っこにあるようなマイナーな海外ファンタジーをいくつか読んでいて、その印象が強い。ハリポタは中学生になってからなのでだいぶ後だ。

ミステリは、先述したホームズ以外には、マガーク探偵団とかの児童書くらいで、ぜんぜん履修していなかった。ホームズの次のステップって一般的には何なんだろうな。

SFはもっと縁遠くて、父が持っていた小松左京の短編集とか、アシモフの科学エッセイとか、そのくらいしか読んでいなかった。ああ、『時をかける少女』は読んだ記憶があるな。SFのファーストステップって難しいよね。


中学に上がった頃には、ときどき漫画を買うくらいにはなっていた(るろ剣世代)のだが、ライトノベルを自分で買ったのは、確か『東京S黄尾探偵団』が初めてだったと思う。

たまたま姉が借りてきていた雑誌コバルトに、S黄尾の第一回が掲載されていて、それをいたく気に入ったからだった。姉からの少女向けラノベの流れと、図書館でのホームズの流れが交差した、我が人生の上で画期的な出来事だったと言えよう。

それぞれに陰のある社会のはみ出し者たちが通信制高校を舞台に破天荒な探偵業をやりはじめるという話で、もう思春期まっさかりの時期に多大なる影響を受けたよね…少なくとも自分が通信制高校にやたらロマンを抱いているのは確実にこの作品が原因だ。


あとは、講談社文庫版の『創竜伝』が図書室に置いてあって、それを気に入っていた頃に、同作者の『銀河英雄伝説』の新装版が徳間デュアル文庫から出るということで、司書さんに頼んで入れてもらった記憶があるから、それもほとんど同時期のはずだ。このあたりの記憶はだいぶ錯綜しているな。


で、いま刊行時期を調べてみて、おそらく同時期かその少し前と思われるのが『魔術士オーフェン』で、これもまた姉が持っていて、シリーズの最初のほうだけしか読んではいないものの、しばらくして書店に『我が夢に沈め楽園』が並んでいたのを見た記憶があるので、そのくらいの年代なのだろう。だから私は『スレイヤーズ』はノータッチなんだけど、『オーフェン』には軽く触れていたのだ。


その次が『フルメタル・パニック!』で、これは何がきっかけだったかな…買いはじめたのが『揺れるイントゥ・ザ・ブルー』の頃だったので、2000年くらいだと思うけど、そこからロボットものつながりで『ランブルフィッシュ』も買いはじめたり、『オーフェン』から『エンジェル・ハウリング』を買いはじめたりしていた。


実のところ、この頃までは「ライトノベル」というジャンルを意識することはまったくなくて、「書店に並んでいるかっこいい表紙の小説」くらいの認識しかなかった。さんざんコバルトや富士見などに触れていたにもかかわらず、それらを個々の作品という「点」でしか認識しておらず、全体を見渡しての体系的な理解というものが、不思議なほど頭の中から抜け落ちていたのだ。

しかし。いまも忘れない2003年の夏休み。私の脳裏にふと稲妻が走ったのだ。

「そういえばオーフェンフルメタのような小説は他にもたくさんあるのだろうか」と。

2003年と言えばADSLによる常時接続が普及した頃で、私もインターネットに、特に2chに入り浸りだった。それまでは専ら漫画系の板を見ていたのだが、同じように「富士見みたいな小説」の板もあるはずだと探していったところに、「ライトノベル板」があった。それが、私と「ライトノベル」との記念すべき出会いだった。

いくつかのスレを見て回っているうちに、どうやら最近は「電撃文庫」の人気が高いらしい、ということが分かってきた。聞いたことのない名前だった。いつも行っている小さな書店にはほとんど置いていなかったはずだ。

未知なる秘境を探索する冒険者モードになった私は、自分にしては珍しく行動力を発揮して、これまでは車に乗せられてしか行ったことのなかった、やや遠くにある書店まで自転車で行くことにした。

まずは三冊だけ買ってみようと思った。それも似たようなものではダメだ。傾向を知るためには異なる種類の作品が望ましい。だから「長く続いているシリーズの第一巻」「その年にデビューした新人の作品」「一冊完結の作品」をそれぞれ購入しようと考えた。

多少の事前準備と、書店での入念な吟味ののち、私はついに三作品を選びだした。

それが『悪魔のミカタ』『バッカーノ!』『ブラックナイトと薔薇の棘』だった。

悪魔のミカタ―魔法カメラ (電撃文庫)

悪魔のミカタ―魔法カメラ (電撃文庫)

ブラックナイトと薔薇の棘 (電撃文庫)

ブラックナイトと薔薇の棘 (電撃文庫)


私が「ライトノベルを買った」のは、つまり「確固たる目的意識を持ってライトノベルを選んで買った」のはこれが初めてであり、そういうわけで「初めて買ったライトノベルは?」と訊かれれば、何より先にこの三冊が思い出されるのである。

完。


としておきたいところだが、いちおうその続きを書いておく。

高校の図書館には、幸いなことにライトノベルがかなり入っていたので、ライトノベルに目覚めた私は、そこで『ブギーポップ』や『灼眼のシャナ』、『キノの旅』、『イリヤの空、UFOの夏』、『スクラップド・プリンセス』などの定番の名作を、片っ端から読み漁った。


図書館で読んだなかでいちばん好きだったのは乙一の『GOTH』かな。『S黄尾』から引き続きで、スカした主人公のダークな話がたまらなく好きだったのだ。そうした青少年の例に漏れずもちろん西尾維新にもドハマりしていた。中二病真っ盛りの頃だ。

GOTH―リストカット事件

GOTH―リストカット事件

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社ノベルス)

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社ノベルス)


ラノベの感想ブログを書きはじめたのは2004年3月である。その頃にはかなりのペースでラノベを買っていて、そうしてインプットした情報をどこかに発散したかったのだろう。2chラノベ板によく書き込んでいたのもこの前後の時期だ。

ふと思いついたので2004年の個人的ベスト10を引っ張り出してきてみた。長く続けたブログには多大な黒歴史とともに少々の有用な記録が残っているものである。

一位 涼宮ハルヒの消失谷川流
二位 ROOM NO.1301#3:新井輝
三位 ALL YOU NEED IS KILL桜坂洋
四位 フルメタル・パニック! つづくオン・マイ・オウン:賀東招二
五位 零崎双識の人間試験:西尾維新
六位 ディバイデッド・フロントII:高瀬彼方
七位 砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない:桜庭一樹
八位 ヴぁんぷ!:成田良悟
九位 空の境界奈須きのこ
十位 とある魔術の禁書目録鎌池和馬

こういう時代であり、こういう嗜好であった。


2004年と言えば、ライトノベル史的には「ラノベ解説本ブーム」の年である。スレイヤーズ以降、世間への露出を減らしていたライトノベルが、しばしの雌伏のときを経て再び立ち上がろうとしていた頃である。

ライトノベル完全読本 (日経BPムック)

ライトノベル完全読本 (日経BPムック)


といった歴史意識は、ニワカの私にはもちろん無かったのだが、エロゲ論壇とかが盛り上がって(終わりかけて)いた頃だったし、いわゆるWeb2.0のブログブームも重なっていたし、大学でヒマだったし、とにかく色んな状況が変わりはじめている気がして、私も執筆意欲が旺盛な時期であった。若気の至りも多かった。

そんなときにやってきたドデカいムーブメント、それが『涼宮ハルヒの憂鬱』、そのアニメ化であった。2006年のことである。

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

ハルヒの第一巻は2003年発売で、私のラノベ覚醒時期と重なっている。当時のネット上では毀誉褒貶の激しい作品だったが、先述のベスト10を見れば分かるように、個人的には「谷川信者」を名乗るくらいに好きな作品で、だからアニメの放送時には、自分のブログでハルヒ関連の記事を書きまくったのだった。私の中で燃え盛っていた執筆意欲はこのときに使い果たしたといっても過言ではなかった。


こうして振り返ってみると、やはり今の私を形作ったのは2000年代前期から中期にかけての作品であるなあ、と思う。富士見世代か電撃世代かといえば自己認識では後者だ。

とはいえ、それから十年以上を経てもなお、私は変わらずラノベを読み続けている。ライトノベルの面白さも変わっていない。感想はTwitterのほうに書くようになった。ブログは不定期更新です。今後ともよろしくお願いいたします。

川上量生発言についての記事のブックマークコメントに対する反論

それでは必死こいて反論していきたいと思います。


id:ko2inte8cu 売れるから売っとるだけで、わいは評価しとらん、ちゅうわけや。

評価していないとは川上量生は言っていないですね。

id:dalmacija この噛み合わない議論を糧にしてる界隈って、雑かどうかじゃなくて、事実か虚偽かは語れないもんなのかな。反証も噛み合わないもの選んでるし。小説自体からの異なるメタレベルの「語り」をどう識別してるんだろう

川上量生の主張は「努力できる立派な人物が主人公だと感情移入できないから、ライトノベルの主人公は等身大の人物として描き、いつのまにか能力を身につけさせるなどして努力をさせない、というのが売れるための絶対の方法である」というものです。だから「努力して頂点に立ち、立派な人物として描かれるSAO」「能力を手に入れるのに犠牲を払い、また明らかに等身大の人物ではない魔法科」「等身大の人物として描かれることで嫌われ、かつ困難に対して努力することが受けているReゼロ」を反例として挙げているのですが、どこが噛み合っていないのかご教示いただければ幸いです。

id:munioka303 ああ言われたのを貶されたと思ってるんだな。文脈をその程度にしか読み取れない人らが喜んでる感じがまさにライトなんだよね。浅くてつまんないの多いもの。

先の記事を読んで「貶されたと思っている」と解釈するような、文脈をその程度にしか読み取れない方は、何もコメントしないのがよろしいかと思います。

id:shields-pikes 俺TUEEEは貴種流離譚の亜種だから、超努力派のライバルは、天才肌・血筋・前世・伝説・ニュータイプ云々の運命を背負った異世界主人公に決して勝てない。でも現実世界のトップの人は皆、才能を持ちつつ超努力家だよね

いわゆる俺TUEEEにおいては、むしろ才能にあぐらをかいている貴族たちを、実力でのし上がった主人公が倒す、という展開がよく見られます。

id:oscdis765 チートとかハーレムが頻出単語なのは間違いない なろうの累計ランキングhttp://yomou.syosetu.com/rank/list/type/total_total/

id:Red-Comet 川上氏の話は一部のラノベ愛好者以外の人が思っている、一般的なイメージだと思うけどね。カクヨムでもなろうでも、人気作はオレtueeチートハーレム転生ものばかり。

id:Harnoncourt 雑なコメントで図星突かれてキレる図。転生チート主人公のハーレム物語だらけ。20年前のエヴァ二次創作で非常によく見ました。あれから何も変わっておりません/努力してチートになった姫川亜弓を見習うべき。

チートやハーレムであっても、努力をしていないわけではないし、主人公に自己投影しなければならないわけでもない、ということを書いているのですが、ご理解いただけているでしょうか。チートを持ったうえで堅実に努力することも多いですし、レベル1からはじめて延々とレベルを上げ続けるような作品も人気があります。あるいはチート主人公を教師的な立場において周囲の成長に重点を置くパターンもあります。「チート」「ハーレム」のひとことで説明できるほど単純なものではありません。

id:natu3kan 今の作品と過去の作品の比較や統計が無いので、どっちも印象論でしかない感じがする。キリトくんのゲーム廃人で天性の二刀流スキルと「さすおに」はスポ根の努力と根性に比肩しうるか

スポ根も一時の流行にすぎないわけですし「過去の作品」全てを代表させるのは難しいのでは。

id:kamei_rio タイトルに強い言葉を使ってるけど、これだと "分析としても根拠がない" をそのまま返されてしまうのでは

私もあまり強い言葉は使いたくなかったのですが、タイトルしか理解できない方がいらっしゃったので仕方ないですね。まあ、川上量生こそ「絶対の方法」という非常に強い言葉を使っているので、売れ筋の三作品だけでも充分に論拠となると思うのですが、いかがでしょうか。

id:tpircs 全部がそうである、なんて言ってなくて傾向の話をしてるだけなのになんでこんなに必死に反論してるんだろう。傾向に逆張りした作品作ってもいいし、傾向に乗っかってもいいし、気にすること無いような。

id:chokovi あの発言って、そういう傾向があるって風にしか読めんけどな。歌謡曲と同じ。

id:yamadadadada2 川上さんの十把一絡げな言い方はよくないが、それへの反論が三作品てのもちと少ない気が。全体としてどういう傾向という話であって、個別の論ではないもんね。

id:shiori_lov web発の粗雑乱造ラノベみれば傾向としては間違ってないあれが手っ取り早く人気の出るスタンダードな訳で

はい、私も傾向の話をしております。三作品はあくまで代表例であり、「それ以外の作品でもだいたい努力してますよ」と書いております。というか、売れ筋でさえ川上量生の主張には当てはまらないのに、どうして「売れ筋以外には川上量生の主張どおりの傾向がある」と信じておられるのですか。

id:inazakira 孫悟空は?デクは?ってね。ジャンプの熱血モノ、ラノベの俺TUEEEモノ、なろうの転生モノ、どれも需要と供給。ランキングや発行部数を論拠にラノベの売れ線の傾向を語ればああなると思うが。

実に良い例ですね。孫悟空とデクは「才能型」「努力型」どちらの代表にもなりえます。孫悟空サイヤ人としての生来の能力があるうえで修行をしてさらに強くなっていくキャラですし、デクは幸運にも強力な能力を与えられしかしそれに傲ることなく努力して能力を高めています。ことほどさように才能と努力の描写とは複雑なものであり、川上量生の言うような単純なものではないことが分かりますね。

id:acealpha ここにあげたコンテンツの印象はまさに社長指摘の通りのものだが オタクの知見による裏設定熱く語られてもなあ

裏設定ではなく本編できっちり描写されていることなのでぜひお読みください。acealphaさんのような門外漢と、門外漢であってはならない社長の印象が同じというのが、まずおかしいことだと思います。

id:kotetsu306 雑な語りに対する雑な反論。反例をいくつ挙げても、それ以上に実例を出されたら反論にならないわけで。いい加減な話でも、「事実に反する」として批判するのはけっこう面倒です(ニセ科学批判の経験上)

さいわいなことに未だ実例は出されておりません。

id:mahiru123 努力した結果強くなった設定の主人公と、実際の努力が描かれてる主人公を混同してるな。劣等生なんてそもそも努力してないし。作品例が悪い。

id:uturi 『作中で努力して成長する』という要素についての議論で成長済みのキャラ(SAOと魔法科)を出すのはちょっと違うと思う。川上氏の発言も2chで聞きかじったかのような雑な言い方だけども。

違いますよ、川上量生が言っているのは「努力をするような立派な人物だと感情移入できなくて売れない」なのですから、物語開始時点で成長が済んでいようが(もちろん物語開始後も困難は降りかかりますし主人公はそれを乗り越えていくのですが)「この主人公は努力をする立派な人物だ」という設定だけで充分な反例になります。
それと魔法科はもともと「いつのまにか能力が身についている」「等身大の主人公」という主張に対する反例として挙げたものですし、加えて言えば、作中でも研究を重ねて新技術を生み出したりしているので立派に努力しています。それとも技術者の研究は努力ではないとお考えなのでしょうか。

id:yetch 巨人の星みたいに、努力と苦労だけしか無いような作品が無くなったという話。いまそんなのが売れないのは当たり前だし。

「努力をするとダメ」と「努力だけだとダメ」の違いはお分かりになりますでしょうか。

id:shoot_c_na コミカライズや、アニメ化にまで至らないラノベ全体像としては間違ってないだろう。出版は切るの早いし安いから一割ヒッターでも回せなくはない業界だし。傍流好きにはたまったもんじゃない話だが

「売れるための絶対の方法」の話なのに、売れてない作品の話をしてどうするのですか。というか、売れてない作品を含めていいならますます「反例」が増えますよ。

id:ara40ojisan マンガやアニメの主人公・ヒロインの大多数が美男美女ってことと同義なんじゃないかな。自分と同じ不細工なら感情移入できないし、リアルで美男美女がマンガ読む必要がないのと同じな気がする。

同義でないと思います。

id:colic_ppp ある種の傾向を門外漢が読むかもしれない媒体でひとつの喩えとして伝えるのだからつかみ程度のことで十分だとは思うし、インタビューは今まで話してきたことの総括だったが面白くはあった。MMOのくだりも怒られそ。

門外漢にまったく適切でない解説を広めているから怒っているのですが…

id:sharia 読んでないけど、ラノベ界隈の人は一般的な映画(洋画)や過去の映画(古典ともいう)がどういうことを書いてきたかを知らなすぎるんだよ。でそれを俯瞰したときにラノベの異様性がまざまざと理解できるという話。

あなたは、あなたの好きな映画以外を知らなすぎるのではないでしょうか。

id:Lhankor_Mhy 数年前のガガガ大賞作品、主人公が努力も成長も苦悩もせず敵を圧倒する作品で、選考委員バカじゃねえのか、と思った。でも、続巻も出ているようなので読者もバカならそれはそれで回るか、などと思いなおした。

どの作品だろう…今年のガガガ文庫だと『弱キャラ友崎くん』おすすめです。

弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)

弱キャラ友崎くん Lv.1 (ガガガ文庫)

id:kawango みんな取材されたことないから分からないだろうが、本人のセリフ形式になっている文章は本人の言葉まんまだと思うだろうけど違うから。取材記者が要約したセリフに変えられる。「絶対の法則」とか言い回ししねーし

「発言が変えられる」と仰られましても、読者としてはどこまでが真意でどこまでが編集なのかを判断できませんし、真意が明らかにされるまでの議論は、唯一のソースである新聞記事に依拠せざるを得ません。川上さんご自身の名誉のためにも、ぜひとも真意を明らかにしていただきたいところです。よろしくお願いいたします。

ラノベ業界最大手企業の社長・川上量生氏が垂れ流したラノベに関する偏見・虚偽・流言について

追記:元のタイトルは「ラノベ業界最大手企業の社長・川上量生氏が垂れ流した『雑なラノベ語り』について」でしたが「雑かどうかではなく虚偽かどうかを語れ」と言われましたのでタイトルを変更いたしました。記事内容としてはもとより「川上量生の主張は偏見にもとづく流言でありラノベの主人公が努力をしてはいけないというのは虚偽である」というものです。

――社会がバラバラになってしまった世界とはどのようなものなのでしょうか。なかなか想像はつきにくいですが。
 もうすでに、半分そうなっていますよ。ネットの中でも既に価値観が多様化している。(中略)例えば、ライトノベルの分野で言うと、今は売れるための絶対の方法があるんです。

――軽いタッチで描かれた、若年層向きの小説ですね。
 ライトノベルの主人公は努力しちゃダメなんです。読む側が自分を投影できなくなるからです。ヒロインは都合よく向こうからやってくる。超能力などの能力は、いつのまにか勝手に身についている。今のライトノベルの多くが、そういう設定で書かれていますよ。

――恋人や能力を努力して勝ち取るのではなく、何もしなくても、いつの間にか恋人と能力を手に入れているという設定でないと売れないということですか。その努力の過程こそが、今までは物語の根幹だったはずなのに。
 そうです。今は努力できる立派な人物が主人公だと、読む側が気後れして感情移入できないんですよ。主人公は読者と同じ等身大の人間。そして、主人公に都合のいい物語を求める傾向が進んできた。

川上量生によるこれらの発言は、トヨタの社長が「今の若者は金を持っているのでウチの若者向けラインナップは高級車ばかりですよ」などと言い出したようなものだと思います。分析としても根拠がない上に、自社がどういう商品を出しているかすら把握していない。

これが余人の言ったことならまあラノベ天狗がちょっと突っついて終わりでしょうが、現在の川上量生ラノベ市場の8割を寡占する出版社グループのトップであるわけで、こんな事実とかけ離れた認識をしていたらダメでしょう、と思うわけです。

ライトノベルの主人公は努力しちゃダメ?

たとえば『ソードアート・オンライン』の主人公は、ゲームのなかで努力して最強までのしあがった人物です。幾度も逆境に追い込まれ、敗北も喫していますが、そのたびに危機を乗り越え、他のプレイヤーたちを救ってきた英雄的な人物です。

たとえば『魔法科高校の劣等生』の主人公は、あまりにも強大な力を持っていますが、それは「いつの間にか」手に入れたものではなく、過去の人体実験でほとんど全ての感情を失った末に与えられたものです。そのため彼は非常に老成した人物として描かれています。

たとえば『Re:ゼロから始まる異世界生活』の主人公は、何度も何度も苦難に直面して絶望し、それでもそこから立ち上がるキャラクターです。良くも悪くも人間くさく、その性格から読者に嫌われることも多いですが、それでも最近放送されたアニメは大成功をおさめたようです。

いずれもWeb小説発で、カドカワ傘下の出版社から発売され、大ヒットしたラノベです。これらの主人公は努力をしていないのでしょうか。読者と同じ等身大の人物なのでしょうか。彼らが好かれて(あるいは嫌われて)いるのは何故なのでしょうか。

面倒なのでこれ以上は挙げませんが、他のラノベや「小説家になろう」作品だって、その登場人物たちは多かれ少なかれ努力を経て成長しています。

何か目に付くところだけを取り上げて「今の読者は決定的に変わってしまった」と言い立ててみせるのは、ワイドショーを眺めて「最近の若者は」と嘆く老人と変わりないと思います。

いちおう書いておきますが、逆に「フィクションの主人公は絶対に努力をせねばならない」とか言い出す人がいたら、私はそちらにも断固反対しますよ。

主人公には自己投影するもの?

川上量生は「読者は主人公に自己投影するものだ」という前提で語っているようです。こういう人はよく見かけますね。最強主人公を見ても「自己投影」、クズ主人公を見ても「自己投影」、学園ものでも「自己投影」、ファンタジーでも「自己投影」、はいはい自己投影自己投影。

「自己投影」や「感情移入」の用法にはブレがあるので、あまり使いたくはない言葉ですが、単に主人公に好感を持ったり、憧れたり、応援したりするのを超えて、「自分と主人公を同一視する」ような読み方に対して使われているように思います。

主人公と自分の境遇がまったく異なると物語を楽しめない、という人は確かにいるでしょう。話題のシン・ゴジラについても「主人公に感情移入できない」と言って批判している人がいましたね。どう考えても主人公に感情移入するような作品ではないのに。

しかしながら、多くの読者は、主人公に自己投影しなくとも作品を楽しんでいます。自分とはまったく異なる天才が主人公でも、自分では味わいたくないような苦痛を主人公が感じていても、構わず面白がることができるのです。

それは「小説家になろう」の作品だって同じです。テンプレの裏をかくアイディアを楽しむ、ゲーム実況を見るように主人公のスーパープレイを楽しむ、主人公によって引き起こされる異世界の変化を楽しむ、作者が作中に盛り込んでくるマニアックな知識を楽しむ……さまざまな楽しみ方があります。決して主人公と自分とを同一視して気持ちよくなるような作品ばかりではありません。

また感情移入するにしても、その移入先が主人公とは限らないもので、ハーレムラブコメなどでさえ、サブヒロインを応援するあまり、「主人公死ね!」などという感想を持つことがままあるわけです。もちろん、ある作品では自己投影するが、ある作品では自己投影しない、ということも普通にあるでしょう。

なんでもかんでも「読者が主人公に感情移入する」というスキームで説明しようとするのは無理があると思います。

昔は「努力」が物語の中心だった?

こういう「昔は○○だったが今は○○でなくなった」みたいな意見には、矛盾するようですけど、「今も○○はたくさんあるよ」と「昔だって○○ばかりじゃないでしょ」という反論が同時に出てきちゃいますよね。

つまり、昔も今も努力型や才能型やそのハイブリッドが多種多様に存在しているわけですよ。すべてを把握して語るのは不可能だし、何を努力と感じるかも人それぞれなわけですが、少なくともそんな一刀両断して語れる話ではないのです。

たとえば、私がいくらSAOや魔法科で描かれる「努力」を挙げたところで、「そんなものは努力と言えない」とか「努力の描き方が悪い」とか「昔の作品の努力はもっとすごかった」とか文句を言われて、あとは水掛け論でしょう。

そんな議論には付き合いたくありませんが、個人的には昔の作品と今の作品でそんなに違いがあるとは思わないです。

過去の発言

川上量生が「小説家になろう」およびライトノベルに対して言及している記事を紹介しておきます。

—— 実質的な多様性が減る、とは?
川上 例えば、「小説家になろう」っていう小説投稿サイトがあるんですけど、そのランキング上位の小説の設定がほとんど一緒になってたりするんですよ。だいたい転生もので、主人公が生まれ変わって、別の人生を歩んで、活躍するっていうストーリーです(笑)。

—— ユーザーの願望が(笑)。
川上 投稿されている小説の中には本来多様性があるはずなんだけど、ランキング上位に来るものは全部似たようなものになる。ニコ動だって、いろいろな作品が投稿されていますが、何かが流行るとそれ一色になりがちです。参加数が多いってことは、逆に実質的な多様性を減らす効果があるんです。

https://cakes.mu/posts/5036

ここで「ユーザーの願望」を勝手に読み取っているのはインタビュアー(cakesを運営している株式会社ピースオブケイク代表取締役加藤貞顕)ですが、川上量生も特に否定はしていません。

川上氏:
 そうだ。ゲームの話題からはちょっと離れますけど,最近の「欲望充足型コンテンツ」――最近の言い方でいうと“なろう系”について,海燕さんはどう思ってるんですか?

海燕氏:
 僕はいわゆる「なろう系」の小説をそこまで読み込んでいるわけではないんですけれど,友人にはめちゃくちゃ読んでいる人が何人もいて,「俺TUEEE」だとか「チート」だとか,さまざまな言われ方をしていますよね。漫画やライトノベルなんかも含めて,努力をしないで勝利する物語が,いまの時代の流行なんだと。

川上氏:
 努力すると感情移入ができないって話はよく聞きますよね。

http://www.4gamer.net/games/236/G023617/20140509083/index_3.html

「欲望充足型コンテンツ」の最近の言い方が「なろう系」だなんて初耳です。何だかこのあたりの聞きかじりの印象が熟成されて先の発言につながったように思われますね。

終わりに

とにかく一介のネット芸人ではなくカドカワ株式会社の社長として、適当な思いつきではなく地に足の着いた発言をしていただきたく、またできるかぎり現状の把握につとめて業界の発展につなげていただきたいと思います。よろしくお願いします。

『君の名は。』を好きな人にオススメする青春ライトノベル

君の名は。』を観てきた記念で、かつ積極的に流行りに乗っていこうということで、『君の名は。』が好きならこういうのもどうよ、というライトノベルをいくつか紹介します。キーワードとしては「ちょっとしたSF要素」「遠く離れた男女が繋がる」「青春恋愛もの」というあたりでしょうか。


ヒイラギエイク

長野県の山奥、古いしきたりと神事に縛られた閉鎖的な村。両親の離婚で傷付いた心を慮った親戚の招きで、東京からその村にやってきた少年は、同じ年頃の四人の少女と毎日のように一緒に遊ぶ。特にそのうちの一人と惹かれあった少年は、来年の旧暦七夕に再会することを彼女と約束して村を離れる。しかし、約束の日に少年が村を再訪すると……というわけで、神秘的な力によって離ればなれになる少年少女の切ないラブストーリーです。ヒロインの方言も可愛いよ。

LOST ~風のうたがきこえる~

主人公と一緒にバンドを組んでいた幼馴染が、ミュージシャンになるためにと東京へ旅立つその直前に亡くなってしまう。悲しみに暮れる主人公のもとに、なんと死んだはずの幼馴染から電話がかかってくる。どうやら電話の向こうの世界では、幼馴染は無事に東京へ着いたようなのだ――というわけで主人公は、電話を通して幼馴染が作った曲を聴き、それをネットにアップして人気を得て、やがて幼馴染が目指した東京へと向かいます。彼女の音楽を世に残すために。

あじさいの季節に僕らは感応する

昔から主人公は、ある少女の思考や五感を、テレパシーで感じ取っていた。どこの誰かも分からない、その実在すら証明できなかった彼女に、しかし、修学旅行のときに出会ってしまって……というところから始まる青春ストーリー。『君の名は。』を観ているときに実際に連想したのがこの作品だったんですよね。どこか懐かしい香りのする超能力ジュヴナイルです。

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち

目覚めるたびに二つのパラレルワールドを移動している主人公。一方の世界では演劇部の「部長」が幼馴染で「副部長」は他人、もう一方の世界では「副部長」が幼馴染で「部長」は他人という、奇妙な二重生活。『君の名は。』の前半っぽいラブコメですが、そこから二つの世界が重なり、どちらかの世界が消えてしまうことが明らかにされ、主人公はそれを阻止すべく奮闘することになります。

サマー/タイム/トラベラー

タイムリープ能力に目覚めた少女を巡る物語。寂れた地方都市を舞台に、早熟な少年少女たちの青春が描かれる、ジュヴナイルSFの傑作。『君の名は。』と共通するのは、SF設定を軸にした青春ものというのはもちろん、小さな町の閉塞感や、大人たちへの不満、そして町に振りかかる災厄、などでしょうか。とはいえ、彼と彼女の「出会い」と「別れ」という点においては、むしろ正反対の物語とも言えるかもしれません。

きみにしか聞こえない

いまは中田永一や山白朝子の別名義でも活躍する乙一の初期の代表作のひとつで、表題作の「Calling You」がその作品となります。自分の頭の中にだけ存在する、妄想の産物だったはずの携帯電話が、何故か他の携帯電話とつながってしまう、という不思議なシチュエーションからはじまる、切ない恋愛小説です。



以上、いずれも一巻もしくは上下巻で完結していますし、電子書籍もあるので購入しやすいと思います。よろしくお願いします。