前置き
事の発端は、とあるインタビュー記事で「ラノベで戦記ファンタジーって珍しいですよね?」みたいな発言をインタビュアーがしていたことです。「ラノベを読まない人のあいだではどういう認識がされているのだろうか?」と疑問に思った私は、Twitterアンケートを用いて調査をしてみました。選択肢は「ロボットもの」「青春恋愛もの」「戦記もの」「スポーツもの」です。
ライトノベルをあまり「読まない」人に質問です。次のうち、近年のラノベで最も「少ない」ジャンルはどれだと思いますか?
— mizunotori (@mizunotori) 2016年7月16日
お暇でしたらついでに少ない順に並べてみてください(リプライしてね)。
結果としては、
- スポーツものがいちばん少ないと思う人…64%
- ロボットものがいちばん少ないと思う人…21%
- 戦記ものがいちばん少ないと思う人…9%
- 青春恋愛ものがいちばん少ないと思う人…6%
となりました。
ご協力ありがとうございました。
やっぱり戦記ものが少ないと思っている人もけっこういるんですね。
さて、そうすると気になるのは実際の数字です。簡単に調べてみました。
レギュレーション
2015年7月から2016年6月までの一年間に発売されたライトノベルのうち、電撃文庫・富士見ファンタジア文庫・スニーカー文庫・MF文庫J・ファミ通文庫・ダッシュエックス文庫・GA文庫・HJ文庫・ガガガ文庫・一迅社文庫・講談社ラノベ文庫・オーバーラップ文庫・このライトノベルがすごい!文庫に限定して作品をチェックし、あらすじなどからジャンルを決定して、それぞれの合計をカウントしました。要するに青年向けラノベや少女向けラノベは面倒くさいので除外しているということです。
また、カウントはシリーズ数ではなく延べ冊数です。たとえば『フルメタル・パニック!アナザー』は期間内に3冊の新刊が出ているので、それだけで「ロボット」に3冊としてカウントしています。
各ジャンルの判断基準は以下のとおり。
- 「ロボットもの」…巨大人型兵器が登場する作品です。人間大のロボットやアンドロイドなどは除外しました。
- 「青春恋愛もの」…ラブコメとの線引きが難しいですが、シリアス寄りでリアリティレベル高めという感じです。ここは人によってだいぶ差が出ると思います。
- 「戦記もの」…軍を率いて戦争を行うことを条件としています。概ねファンタジーです。
- 「スポーツもの」。現実に存在しないスポーツ(たとえばハリポタのクィディッチみたいな)も含めています。頭脳スポーツやeスポーツも入れたかったんですが…今回は除外しました。
かなり主観が入っているので、調査結果もその程度のものだと思ってください。
結果
こんな雑な調査であんまり細かい数字を出しても仕方ないので大雑把にいきます。
いちばん多かったのは「戦記ファンタジー」でした。年間で四、五十冊ほど。一ヶ月に三冊以上が出ている計算ですね。シリーズとしては20作品くらいで、アニメがはじまった『天鏡のアルデラミン』や、「ロードス」の水野良『グランクレスト戦記』、さらに『魔弾の王と戦姫』や『覇剣の皇姫アルティーナ』といった長期シリーズの他、新シリーズも次々に始まっており、実はプチブームといった感じです。
グランクレスト戦記 (7) ふたつの道 (ファンタジア文庫)
- 作者: 水野良,深遊
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2016/05/20
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (2件) を見る
次点は「青春恋愛もの」。冊数では戦記ファンタジーの半分程度ということで結構な差が付いていました。「さくら荘」作者の新作『青春ブタ野郎』シリーズや、このブログでも取り上げた『この恋と、その未来。』に、『SとSの不埒な同盟』『近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係』『明日、今日の君に逢えなくても』などなど、良作が目白押し。実のところシリーズ数だけで言えば戦記ファンタジーと大差ないので、長期シリーズが少ないことが敗因という感じです。
- 作者: 弥生志郎,高野音彦
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2015/08/25
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (4件) を見る
その次が「ロボットもの」で、冊数は青春恋愛もののさらに半分くらい。というか意外に多かったですね。「魔法科高校」の作者が贈る『ドウルマスターズ』、漫画的な演出も話題の『エイルン・ラストコード』、あの名作のスピンオフ『フルメタル・パニック!アナザー』など、軌道に乗ったシリーズも少なくありませんでした。
エイルン・ラストコード 〜架空世界より戦場へ〜 (4) (MF文庫J)
- 作者: 東龍乃助,みことあけみ,汐山このむ,貞松龍壱
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2016/05/25
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (2件) を見る
そして最も少なかったのが「スポーツもの」。ロボットもののさらに半分以下。ちなみに長谷敏司『ストライクフォール』はロボットものとスポーツもの両方でカウントしてます。それ以外には、シリーズ完結したバスケラノベ『ロウきゅーぶ!』や、正統派の野球ラノベ『彼女が捕手になった理由』、タイトルどおりの社交ダンスラノベ『たま高社交ダンス部へようこそ』といったあたり。ほ、細々と出てはいるんだ…細々と…。頭脳スポーツやeスポーツを含めるなら『りゅうおうのおしごと!』や『僕と彼女のゲーム戦争』といった人気シリーズが入ってくるんですが…。
- 作者: 長谷敏司
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2016/06/17
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (6件) を見る
という感じでした。
補足しておくと、青春恋愛ものやスポーツものは、対象年齢層が高めのレーベルを漁ればもっと増えそうです。戦記ものは、Web小説専門レーベルでもそこそこあったはず。ロボットものは…どうだろう…?
私見
ラノベ業界には「ロボットものは鬼門」だとか「スポーツものは売れない」だとかいうジンクスが根強くあるみたいなんですが、それは「ロボットものやスポーツものが読者から嫌われている」というわけではないと思うんです。
ロボットにしろ、スポーツにしろ、ラノベ内外にきちんとヒット作があるんですから、決して需要がないのではなく、需要に供給が届いていないだけではないかと思います。
今回のアンケートの回答者のなかにも、「戦記ファンタジーは好きだけどラノベでは少ないと思ってた」という方が、おそらくはいらっしゃるわけです。そういう方は、そもそもラノベ売り場に寄り付かないし、だから新刊が出たことにも気付かない。そこにどうやってアプローチしていくかが課題なのだと思いました。
読者としてもブログなどで発信していければいいのですが…。