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ここがスゴいよ武装錬金!

はじめに

武装錬金』という傑作を世に送り出してくれた和月伸宏氏に感謝を。


さて、ここでは『武装錬金』完結記念として、熱く痛く語りたいと思う。というか、『武装錬金』のおもしろさについては常々熱く語りたかったのだが、どうせなら最終巻発売という区切りのいいときにやろうと思って、ずっと待っていたのだ。


俺個人は漫画に対してそれほど造詣が深くはないもので、謙遜ではなく大した内容にはならないだろうけど。


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では、とりあえずはじめてみよう。


少年漫画を取り巻く状況の変化

現在の週刊少年誌(ここでは週刊少年ジャンプに限定する)では、雑誌売上の低迷という問題が起こっている。私はその原因を「"雑誌"から"単行本"へのシフト」だと分析する。


現在の読者の行動は以下のようになる。

  • コンビニや本屋等でジャンプを立ち読みする
  • 気に入らない作品は読み飛ばす
  • 気に入った作品の単行本を購入する
  • 多少気になる程度の作品は漫画喫茶や新古書店で読む


つまり、いまのジャンプ本誌は読者にとってショーケース程度の役割しか果たしていないのだ。もはや、作者と読者の主戦場は単行本にその舞台を移している。『ワンピース』などは緩慢とも言えるペースで連載を続けているが、それは単行本で一気に読むときに合わせたものだ。


しかし、ジャンプ編集部は未だにアンケートによる10週打ち切り制にしがみついている。漫画を"雑誌"の上でしか見ていないということだ*1。たとえば、いまのペースのまま『ワンピース』が新連載として始まったら、確実に10週打ち切りだろう。しかし、ペースの緩やかな漫画が駄作というわけではないのは、『ワンピース』がいまなお売れ続けていることからも分かる。


読者は"単行本"に移行しているにもかかわらず、連載続行の是非は"雑誌"で判断されてしまう。いまの漫画家は、"雑誌"的なおもしろさと"単行本"的なおもしろさを両立しなければならないのだ。


武装錬金』の場合

武装錬金』はこの問題にひとつの解決策を提示しているように思う。"雑誌"向けにインパクトのあるギャグを、"単行本"向けにシリアスなストーリーを用意することで、両方に対処しているのだ。


もちろん、その二つは両立させようと思って両立できるものではない。『ワンピース』にだってシリアスなストーリーとコミカルなギャグの両方が入っているが、それはあくまで二つが独立して存在しているのであって、二つが相乗効果的に働いているとは言いがたい。二つを絡めようとすると、どうしても間延びしてしまうのだ。


武装錬金』の2巻第16話では、蝶野が人を食べて回るシーンをギャグとして見せ、直後、一転してシリアスに「蝶野攻爵はとっくの昔に死んでいたのか…」と呟かせる。このギャグとシリアスの切替えの早さこそが、『武装錬金』が間延びしない理由である。そしてその切替えを、異常に早いストーリー進行によって可能としているのだ。


武装錬金』の進行の早さは、2巻での鷲尾との戦いに4話使っただけで「中だるみした」と不評を買ったことからもわかるだろう。4話にわたる戦いは、他の漫画と比べてそんなにも長いだろうか? ちなみに、"パピヨン"編のボスである蝶野との戦いは、たった5ページで決着が付いている。


この「雑誌向けにギャグ・単行本向けにシリアス」という手法は、『魔界探偵脳噛ネウロ』でも一部見られる。『錬金』と『ネウロ』は結構似てると思うんだけど、あんまり同意をもらったことがない。


ともあれ、これは少年漫画の未来像とも思える。ジャンプではいまだにスローテンポな漫画が多いが、これからはスピードアップが求められるのではないだろうか。


武装錬金』打ち切りの原因

そんなにも素晴らしい『武装錬金』がどうして打ち切りになってしまったのか。


まず一つ目の理由として、"再殺部隊"編に突入して戦闘が増えたことにより、ストーリーが間延びしてしまったことが挙げられる。前述したように、シリアスとギャグのバランスを保つためには一定以上の進行速度が必要である。しかし、戦闘が多くなると、そのあいだはストーリーは進行しないため、進行速度が鈍ってしまうのだ。


二つ目の理由として、あまりにも"パピヨン"のインパクトが大きかったために、雑誌だけしか読んでいない読者から「変態で目を引くだけの漫画」と認識されたことが挙げられる。『ネウロ』で言えば"ドーピングコンソメスープ"の知名度が先行してしまったのと同じ現象だ。また、『武装錬金』には単行本で確認しないとわからないような緻密な伏線が多く仕込まれているが、それも雑誌しか読まない読者にはわかるはずもない。結果、『武装錬金』に対する誤解はますます広がっていった。


もちろん、漫画そのものが狭い層にしか受けなかったこともあるだろう。かつての味方と戦う主人公、敵を惨殺するヒロイン、変態でダーティなライバル。大まかなストーリーは少年漫画的だったが、細かな要素は少年漫画的ではなかった。


結局のところ

早いうちに編集部が『ジャンプ』を単行本主体に切替えないと、"雑誌"と"単行本"のあいだに生じた齟齬はますます大きくなっていくだろう。『武装錬金』的な作品を増やすなら、それもまたいいんだろうけどね。最近は10週打ち切り制度がなくなった、もしくは打ち切りまでの期間が伸びたと聞くが、はてさてどうなるのか…。


俺としては

武装錬金』が売れてくれればそれでいいんだがナー。



武装錬金 10 (ジャンプ・コミックス)

武装錬金 10 (ジャンプ・コミックス)

*1:もちろん単行本売上げも考慮されてはいるだろうが