「Googleストリートビュー気持ち悪い」話を読んでいるうちに、『ギートステイト』のことを思い出した。
MouRa│東浩紀、桜坂洋│ギートステートMouRa│東浩紀、桜坂洋│ギートステイト
50年後の未来はどうなっているのだろうか。温暖化で海面が上昇するだろうか、はたまた少子高齢化が進むのか、戦争が起こるのか。考えられる未来はいくつもあるが、どれも今ひとつ現実味を帯びない。
そんな未来の予測を、ポストモダンからサブカルチャーまで幅広い論考を繰り広げる批評家の東浩紀氏と、IPA未踏ソフトウェア創造事業で天才プログラマーに認定されたこともあるエンジニアの鈴木健氏、そして小説家の桜坂洋氏が、人文・社会学や情報技術という観点から検証しストーリー化し、さらには映像作品としての公開を目指すプロジェクトギートステイトを開始する。
批評家とエンジニアが予測する2045年の世界--プロジェクト「ギートステイト」 - CNET Japan
『ギートステイト』の紹介を兼ねて、キーワードを軽く解説してみる。
まずは「ゲームプレイ・ワーキング」。
これは「特定の知的作業を、極小単位に分割し、ネットワーク上に公開し、本来の作業とまったく異なった印象を与えて多人数に匿名的に実行させる、匿名集団単純知的労働の一種」らしい。たとえば、データ入力をテトリスに変換してそれを大勢にやらせる、みたいな感じなのかな。
→ゲームプレイワーキング
次に「公共サービスプラットフォーム（PSP）」。
これは「リバタリアンな分散民主主義社会で自生的に生まれた擬似政治体の総称」らしい。はい、よくわかりません。行政サービスのほとんどすべてが民営化されたあと、それがさらに再統合されたもの、ということなので、バスも図書館も救急車もカード1枚で利用できるようになるシステム、みたいな感じ？
→公共サービスプラットフォーム
そして「オープン主義」。
自分がストリートビューから連想したのはこれだ。オープン主義とは「私的所有とプライバシーの概念を止揚し、あらゆる情報の徹底的な共有（情報の自律化）が必要だと説く思想」らしい。「公道上の情報の徹底的な共有」を目的とするストリートビューを極限まで突き詰めたような思想だと思ったんだけど。どうだろう。
→オープン主義
まとめると、ゲームプレイ・ワーキングによって「働く引きこもり」＝「ギート」が増加し、PSPによって生活のすべてが一枚のカードに記録され、さらにその記録を全世界に公開しまくるオープン主義者たちが生まれているのが、『ギートステイト』の世界だということで（いいのか？）。
近隣住民のアクセスコードを持っていれば、誰でも、ネットを通してカメラの映像を見ることができる。人口よりも多く全国に散らばって存在する監視カメラのすべてをチェックするほど警察は暇じゃないし、警備会社と契約すれば莫大な維持費用がかかる。だから、住民すべてが閲覧可能なのだ。カメラにアクセスすれば、カメラの映像と、カメラの映像を見ている人間のＩＰアドレスを見ることができる。カメラに映った人間も、映った人間を見る人間も相互に監視されるシステムである。
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あらかわ中州は、オープン主義者と呼ばれる思想集団の溜まり場となっている。
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以前は彼らも街中に住んでいた。しかし、彼らの周囲にある監視カメラの記録は誰でもアクセスできる。それが、オープン主義者たちの信条だからだ。すべての情報は公開されるべきなのだ。彼らが設置したカメラの前では、見ず知らずの男や女がやってきて、世界に向けて全裸をさらしていくという事件が絶えなかったという。
どこの誰だかわからぬ人間の奇行が原因となり、オープン主義者たちは地域住民と揉めることとなった。そして、移動を余儀なくされた。南関東と東京首都のあいだでどちらが管理するかはっきりしないまま放置されているこの場所に落ちついたのは、つい半年ほど前のことである。
一連の議論の中で、「監視カメラのほうがやばい」とか「ストリートビューがリアルタイムの映像になったら」とかいったあたりの話が出ていたけど、ここではまさにそうした世界が描かれている。「ストリートビュー気持ち悪い」という人は、これを読んでどう感じるのだろう。やっぱり「気持ち悪い」と思うだろうか。「こんな未来ありえない」と思うのだろうか。そのあたりについて少し知りたい。
まあ、「Googleストリートビューが行き着く先を描いた（かもしれない）小説がウェブ上で無料公開されてるよ、まだ読んでない人はちょっくら読んでみようぜ」と、そういう趣旨のエントリでした。
それにしても『ギートステイト』っていまどうなってるんだろう？ 自然消滅？
ギートステイト休載のお知らせからもうすぐ1年だなぁ。
