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愛と鬱と性の青春ライトノベル、十文字青『ぷりるん。』がすごい!

注:ネタバレがあります。
ある作家の、その最も濃い部分がぎゅっと凝縮されたような作品が、不意にぽろっと産み落とされることがある。たとえば桜庭一樹の『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』や、谷川流の『絶望系』などがそうだろうか。いま最も勢いのあるラノベ作家の一人、十文字青にとって、この『ぷりるん。』がそうなるのかもしれない。正式タイトルは『ぷりるん。〜特殊相対性幸福論序説〜』。精神的性的不能者の主人公・ユラキくんが、どこかがおかしい少女たちから好意を寄せられ、セックスし、懊悩し、肉体的にも性的不能者になって、そして最後に幸福を掴むというストーリーだ。

ぷりるん。~特殊相対性幸福論序説~ (一迅社文庫)

ぷりるん。~特殊相対性幸福論序説~ (一迅社文庫)

タイトルだけ見ればお気楽な日常系ラブコメのノリである。表紙だけ見ればお色気満載のハーレム物かもしれない。確かに、この作品に登場する5人のヒロイン――兄に恋する妹・うずみ/元天才のビッチな姉・綾/クラスのアイドル、ヤリマンでヤンデレ・桃川みう/クールな奇人、電研部長・小野塚那智/「ぷりるん」としか言わない・ぷりるん――から伸びる矢印は、明らかにユラキの方を向いている。もしも、うずみの気持ちに気付いていたら、綾を姉ではなく他人だと割り切っていたら、みうの狂気を受け入れることができたら、部長に告白していたら、ぷりるんをもう少し構ってあげていたら、物語はまったく違う方向に進んだだろう。しかしラブコメは始まらないしハーレムも作られない。矢印は紙一重でユラキの脇をすり抜けていく。個人的には部長のキャラが超お気に入りだし、もしくはユラキくんには『ROOM No.1301』の健一くん以来の近親相姦も期待したけれど、まあでも読み終わったいまとなっては、この終わり方がいちばん良かったよな、と素直に思える。
書店で見かけてスルーした人は、もういちど手に取ってみて欲しい。誰にとっても面白いとはさすがに言えないけれど、とにかく凄い作品であることは間違いないから。