という思いつき。
ミステリ(推理小説)とラブコメはちょっと似ている。
言うなれば、探偵は主人公であり、犯人はヒロインであり、事件は恋愛である。
ミステリの「フーダニット(だれがやったか)」「ハウダニット(どうやったか)」「ホワイダニット(なぜやったか)」は、ラブコメにおいては「誰が主人公の恋人となるか」「いかにして両想いになるか」「なぜ好きになったか」にそのまま置き換えることができる。
ミステリにつきものの「トリック」もラブコメに応用できそうだ。
たとえば双子の入れ替わりトリック。双子のうち、片方と仲良くして、両想いになったと思ったら、それが実は変装したもう片方だった、とか。
たとえばバールストン先攻法(名前がぐうかっこいい)。あるヒロインが早々に別の男と付き合いはじめて恋愛戦線から離脱…したと見せかけて実は主人公のことが好きだった、とか。
たとえば叙述トリック。憧れのあの娘が一人称視点で秘めた想いを語っているかと思ったら、実はその親友のクール系美少女の独白だった、とか。
逆に、最初からメインヒロインが決まっているものは(トリックではないが)「倒叙」というやつになるだろうか。
現在のラブコメは「ハウダニット」を重視しているように思われる。主人公とヒロインが両想いになるまでの過程がじっくりと描かれる。その一方で、ヒロインの数は多いのにメインヒロインが決まっていたり、ちょっと親切にされただけでヒロインが主人公に惚れたりするように、「フーダニット」「ホワイダニット」は軽視されがちである。
しかし、ラブコメの肝は「意外性」である、と私は思っている。「まさかこのキャラがあのキャラのことを好きだったなんて」というのが私の大好物なのである。
簡単に言えば、俺は「フーダニットなラブコメ」を読みたいのだった。
読者は主人公が誰とくっつくのかを推理しながら読み、作者はそれを容易には悟らせないよう技巧を凝らす。そういうラブコメがもっと増えてもいいのではないだろうか。
ちなみに「ノックスの十戒」をラブコメ版に改変するならこんな感じだろうか。
- ヒロインは物語の当初に登場していなければならない
- 恋愛行動のために超自然能力を用いてはならない
- ヒロインとのあいだに秘密の思い出が二つ以上あってはならない
- 未発見の惚れ薬、難解な科学的説明を要する機械を恋愛に用いてはならない
- 中国人を登場させてはならない
- 主人公は、偶然や第六感によって恋人を決定してはならない
- 女装して登場人物を騙す場合を除き、主人公自身がヒロインであってはならない
- 主人公は読者に提示していない理由によってヒロインに惚れてはならない
- 「主人公の親友」は自分の判断を全て読者に知らせねばならない
- 双子・一人二役は予め読者に知らされなければならない
2や4はあれだな、魔法や薬でヒロインの心をねじ曲げて…ってやつだと考えればまだ。
6とか禁止されたら大半のラブコメが壊滅しそうだ。
…まあノックスの十戒だってぜんぜん守られていないわけだし。