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長文タイトル考

長いというだけでラノベのタイトルとAVのタイトルを一緒にするな!
同じ長文タイトルでもその性質の違いを見極めようじゃないか!
といった趣旨の記事です。

2時間ドラマの長文タイトル

愛妻を殺された刑事の執念!60km移動した変死体
満員のエレベーターで消えた容疑者か!? 全ての謎は瞬間移動!?

魔性の群像 - Wikipedia

死を呼ぶレジ係コンテスト!! 優勝候補が審査員を殺害!?
急に白髪になるアレルギーと割れた卵の謎

検事・朝日奈耀子 - Wikipedia

盗聴された殺人!! 容疑者声紋一致せず!? 焼き芋に謎!

京都南署鑑識ファイル - Wikipedia

はめられた男 不倫相手の女性を殺した!?
カメラに映らない逃亡者の謎 妻の証言で逆転法廷に!

事件 (テレビ朝日のテレビドラマ) - Wikipedia

2時間ドラマのサブタイトルが長いのは、ラテ欄に載せるための「あらすじ」だからですよね。本編の内容を適度に掻い摘みながら見どころを伝えています。映画の予告編などと性質が近いのではないでしょうか。

最大の特徴は、「60km移動した変死体」「死を呼ぶレジ係コンテスト」「焼き芋に謎」「カメラに映らない逃亡者」など、謎めいた単語が散りばめられていることです。こうした工夫によって「これはどういう展開なんだ?」と視聴者の興味を引こうというわけですね。

あ、最初に断っておくと、これは2時間ドラマのなかでも長めのサブタイトルをわざわざ探してきているのであって、短いサブタイトルもたくさんあるということはご留意ください。これ以降に挙げていく他のタイトルも同様です。「2時間ドラマは長いタイトルばかりwww」とか言ってると2時間ドラマ天狗に攫われてしまうので気をつけましょう。

ビーイング系の長文タイトル

このまま君だけを奪い去りたい

DEEN - Wikipedia

錆びついたマシンガンで今を撃ち抜こう

WANDS - Wikipedia

愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない

B'z - Wikipedia

いま見るとあんまり長くない気もしてきますが、長文タイトルの話題になると「ビーイング系」はよく挙がるので、やはり当時はインパクトがあったということでしょう。

ビーイング系の特徴は、すばり「歌詞の一部である」ということですね。すなわち、詩的な情感を垣間見せているだけで、どんな歌かを説明しているわけではない。タイトルを見ただけでは、その曲がロックなのかポップスなのか、アップテンポなのかバラードなのかは分からないわけです。

つまりビーイング系の曲名は「非あらすじ」的な長文タイトルと言えますね。

AVの長文タイトル

工場勤務で趣味はバイク 化粧っ気ないクールなおねえさんが巨根で陥落。むっつりドMの本性とガチイキっぷりを晒しちゃいました!

こっそり小悪魔淫語でアナタのチ○ポを寸止め焦らしエステサロン チ○ポと脳みそがとろける程のささやきVOICEで200%勃起してるのになかなかイカせてくれないみあの超密着快感エステ体験VR!!

夢の近親相姦 兄妹編 妹の発達したお尻!ミニスカからハミ出したパンチラに辛抱たまらずチ○コ突き立ててしまった。「お兄ちゃんパンティ破って入ってきそうだよ」って笑いながら小悪魔の誘い。親の目の届かない公衆トイレや図書館で挿入しちゃったよ~ん!

長え。AVはあらすじタイプの長文タイトルですね。しかも2時間ドラマよりも詳細度が上がっているように見えます。

思うにAVには「ネタバレがない」のではないでしょうか。2時間ドラマは「謎」を提示することで視聴者の興味を引いていましたが、AVではクールなおねえさんが実はむっつりドMであることが最初から明かされているのです。「クールなおねえさんが実は…!?」で寸止めするようなタイトルはあんまりない。

AVはかなり特殊なコンテンツですから、シチュエーションは事細かに説明してほしい、全ての展開が分かっていたほうが買いやすい、という視聴者の要望があるのかもしれません。

2ちゃんねるの長文タイトル

ゲーセンで出会った不思議な子の話

https://toro.5ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1326566620/

うまい棒配ってたら人生変わったでござるの巻

https://hayabusa3.5ch.net/test/read.cgi/news4viptasu/1328537904/

ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない

https://yutori.5ch.net/test/read.cgi/news4vip/1195907887/

特にストーリー系スレのタイトルを並べてみました。

これらは「誰かに話しはじめるときの第一声がそのままタイトルになっている」…といった印象を受けます。あらすじタイプと言えばそうかもしれませんが、ものすごく詳細度が低いですよね。前提だけを示して過程をすっとばしているような。読者からすると「え、それでどうなるの!?」「なんでそうなったの!?」という感じでしょうか。

それと、スレタイって「素人」が書いているので、言葉遣いがすごく素朴なんですよね。プロみたいにかっこつけるのは気恥ずかしく、そのせいで言葉としては飾り気がありませんが、意外な単語の組み合わせなどで受けを狙ったりする、というイメージがあります。

エロゲの長文タイトル

恋する妹はせつなくてお兄ちゃんを想うとすぐHしちゃうの

オッパイたっぷん熟れ熟れボディ 保健のせんせ×2
えっちの悩みにこたえてあげる いっぱい出してね 〜精液過剰編〜

ツンデレ魔界プリンセス・アリサと孕ませ新婚生活!
〜全部出すまで抜いちゃダメ!ぜったい受精させなさいよね!〜

参考にしたサイト→旧エロゲ情報とりあえずまとめ:エロゲの長すぎるタイトルランキング

こうして眺めて気付いたんですが、エロゲの長文タイトルって「台詞」になっていることが多いんでしょうか。「いっぱい出してね」とか「ぜったい受精させなさいよね」とか、サブタイトルとしてヒロインの台詞を添えることで長くなっている感じがします。あまり「あらすじ」的ではないですよね。

ただ、同じ「非あらすじ」タイプとはいえ、ビーイング系ほど抽象的ではないというか、詩情(?)を抑えつつも、目を引くフレーズを入れようという感じがあります。

あるいは、そこまで長くはないですが『乙女はお姉さまに恋してる』や『夜明け前より瑠璃色な』といったあたりの文章系タイトルも、「非あらすじ」タイプのタイトルです。こちらは抽象寄りといえるでしょうか。

ライトノベルの長文タイトル

いよいよライトノベルです。
私が見るところ、ライトノベルの長文タイトルには三種類があります。
すなわち「俺妹系長文タイトル」「きみぼく系長文タイトル」「なろう系長文タイトル」です。

俺妹系長文タイトル

要するに、2008年の『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』あたりから始まって、2013年ごろまでブームが続いたラノベの長文タイトルのことです(2013年以降に長文タイトルがまったく無くなったわけではありませんが)。

俺の妹がこんなに可愛いわけがない

https://www.amazon.co.jp/dp/4048671804

お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ

https://www.amazon.co.jp/dp/4840136769

俺の彼女と幼なじみが修羅場すぎる

https://www.amazon.co.jp/dp/4797363967

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。

https://www.amazon.co.jp/dp/4094512624

参考にしたサイト→題名が長いライトノベル(2010〜2011年版) - 平和の温故知新@はてな

いずれも2010年前後にシリーズを開始して、のちにアニメ化された作品です。あらすじタイプではありませんね。強いて言うならエロゲの長文タイトルに近いでしょうか。

もちろん、ラノベの長文タイトルはエロゲが由来だ…とまでは言いませんが、たとえば『僕は友達が少ない』が「はがない」と略されるのは、エロゲの『月は東に日は西に』が「はにはに」と略されたことのオマージュだというのは有名な話です。このひらがなだけを拾う略し方を「ラノベっぽい」という人もいますね。元はエロゲ界隈の慣習なんですよ。というわけでまったく無関係というわけでもないかもしれない。

ついでに言うと、この俺妹系の長文タイトルには、2ch的な定型句(「〜〜な件」「〜〜した結果」「〜〜なんだが」など)がほとんど見られません。特に「〜〜な件」は、やたらラノベっぽいって言われてますけど、実際はかなり少ないですからね。ほぼ『俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件』と『転生したらスライムだった件』だけから作られた風評です。

きみぼく系長文タイトル

ライト文芸でよく見られる長文タイトルです。

ぼくは明日、昨日のきみとデートする

https://www.amazon.co.jp/dp/4800226104

僕は何度でも、きみに初めての恋をする。

https://www.amazon.co.jp/dp/4813700438

君に恋をするなんて、ありえないはずだった

https://www.amazon.co.jp/dp/4800270294

これは見るからに「非あらすじ」タイプですね。ビーイング系に似ていて、詩的というか、叙情的な印象です。

おそらく『世界の中心で、愛をさけぶ』あたりからの流れで、切ない恋愛ものにこういった長文タイトルが多い気がします(セカチューのタイトルはSF小説が元ネタですが)。

なろう系長文タイトル

俺妹系長文タイトルと入れ替わるようにして増加してきた「小説家になろう」由来の長文タイトルです。ちなみに、小説家になろうの作品タイトルがなぜ長いかについては「なろうのスマホ向けデザインだとランキングでもあらすじが折り畳まれてタイトルしか見えないから」説を個人的には推しています。

とりあえず「小説家になろう」の今週のランキングから適当に引っ張ってきてみました。

一億年ボタンを連打した俺は、気付いたら最強になっていた~落第剣士の学院無双~

https://ncode.syosetu.com/n1474fh/

最強出涸らし皇子の暗躍帝位争い~帝位に興味ないですが、死ぬのは嫌なので弟を皇帝にしようと思います~

https://ncode.syosetu.com/n2377fh/

始祖魔法師の最強生活 ~未来の魔法を学びたくて転生したのに古代魔法の劣化版なんですけど!?~

https://ncode.syosetu.com/n8765fg/

なろう系と一括りに言っても、期間によって細かく流行が変わっているのですが、最近はメインタイトルを短く、サブタイトルを長くするパターンが多いなあ、と思ったりします。

さて、もう何度もこのブログで書いてることなんですけど、なろう系の長文タイトルって「本編の内容」を明かしているわけではないんですよね。なろう系のタイトルが説明しているのは「プロローグ」なんです。ここ、めちゃくちゃ強調したい。「一億年ボタンを連打して最強になるまで」を描くんじゃなくて「一億年ボタンを連打して最強になったあと」を描くんですよ。

つまり、本編の内容を紹介する2時間ドラマやAVのタイトルとは、明確に異なるんです。前提だけを示して読者の興味を引くのは、2ちゃんねるスレタイに近いかなと思います。

もうひとつ言うと、小説家になろうの作品は(いまはプロが増えたとは言え)基本的にはアマチュアが書いているのであって、だから言葉遣いも2ちゃんねるスレタイに近いように思います(というか自然と似てしまう?)。

まとめ

  • あらすじタイプ
  • 非あらすじタイプ

ちょっと無理やり感もありますが、こんな感じの分類でいかがでしょうか。

ビジネス書の長文タイトルも入れたかったんですが、調べてみるといろいろ種類があって分類しづらかったので除外しました(「なぜ〜〜なのか?」「〜〜なら〜〜しなさい」「〜〜をするための10の方法」など、抽象的な「釣りタイトル」もあれば、内容を端的に説明したものもあるという印象)。

ちなみに、ビジネス書のタイトルの長文化は2005年の『さおだけ屋はなぜ潰れないのか?』がターニングポイントであり、「最近の書籍はタイトルが長すぎる」みたいなツッコミがあったのも、ラノベよりビジネス書のほうが早かった記憶があります。

ともあれ、私の分類を受け入れてもらう必要はありませんが、できれば「長文タイトルにもいろいろ種類があるんだなあ」ということだけ頭に入れていただければと思います。よろしくお願いします。