WINDBIRD::ライトノベルブログ

ライトノベルブログ

2010年代のライトノベルを振り返る

はい、というわけで2010年代のライトノベルを振り返る記事です。

とりあえず
・後知恵で整理された歴史ですよ
・個人の「史観」が入ってますよ
というエクスキューズをしておくのでご了承ください。

では一年ずつ見ていきましょう。

ちなみに「*1」みたいなやつは、だいたい作品の発売年が注記として入っていて、PCならマウスカーソルをあわせるだけで表示されます。スマホは知らん。

2010年

2010年代のライトノベルを語るならば、まず間違いなく「Web小説」と「ライト文芸」がキーワードとなるだろう。奇しくも2000年代最後の年に起きた「ソードアート・オンラインの発売」と「メディアワークス文庫の創刊」という二つのトピックスは予言的だったと言える。

まず、Web小説については『まおゆう魔王勇者*1から始めるべきか。

2009年9月に始まった2chのスレッド『魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」』が、2010年3月ごろからバズりはじめ、2010年5月にはゲームクリエイター桝田省治が音頭を取るかたちで書籍化が決定した。

この『まおゆう』の出版が、同作者の『ログ・ホライズン*2と、その掲載サイトである「小説家になろう」、そして当時の「なろう」累計ランキング一位である『魔法科高校の劣等生*3に注目が集まるきっかけとなった。
「エヴァSS」から「小説家になろう」までのWeb小説年表 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

先行してWeb小説の書籍化を手掛けていた「イースト・プレス」や「アルファポリス」も忘れてはいけないだろう。特にアルファポリスは、それ以前からWeb小説の書籍化を行っていた出版社ではあったが、2010年11月発売の『リセット』から「小説家になろう」作品の刊行を本格化させている。

また、もうひとつのWeb発ムーブメントとして「ボカロ小説」がある。その元祖である『悪ノ娘』は2010年8月に発売されており、そこから『カゲロウデイズ』*4や『告白実行委員会*5『厨病激発ボーイ』*6などのヒット作が生み出されていくのである。

2011年

2011年、『ログ・ホライズン*7魔法科高校の劣等生*8が発売され、「なろう」への注目度がますます高まっていたときに現れたのが「フェザー文庫」であった。

フェザー文庫は2011年11月に創刊されたレーベルで、「ライトよりも軽いからフェザー」というありがちな発想から名付けられている。発売元は沖縄の観光ガイドなどを出している出版社だったが、そこの編集者がいち早く「なろう」に目をつけてめぼしい作家に声をかけてレーベルを立ち上げたのである。

と聞くと先見の明がある気もするが、その実は自費出版に毛が生えた程度の待遇で、ラノベのノウハウなどもなく作家や絵師とトラブルを起こしまくり、早々に「地雷レーベル」と認定されてしまった。ただ初期の売上はなかなか良好だったらしく、翌年以降に大手出版社が「なろう書籍化」に参入していくきっかけの一つになったのではないかと思う。

2011年3月には『ビブリア古書堂の事件手帖』が刊行を開始している。

いわゆる「ライトミステリ」としては『心霊探偵八雲*9万能鑑定士Q*10謎解きはディナーのあとで*11などの先行作が挙げられるが、「ライト文芸」というムーブメントを生み出したのは間違いなくメディアワークス文庫と『ビブリア』の大ヒットだったろう。
「大人向けラノベ」の誕生 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

ライト文芸」「キャラ文芸」「キャラノベ」などの違いについてはこちらの記事を参照のこと。
「ライト文芸/キャラ文芸/キャラノベ」等の定義と呼称の歴史 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

さて、2010年代のメインストリームが「Web小説」と「ライト文芸」だったとするなら、フリンジストリーム、隠れたブームは「青春」と「戦記」だったと思う。

この二つのジャンルは、アニメ化を連発するような派手な盛り上がりこそなかったが、2000年代よりも着実に増加してラノベ業界の一角を占めるようになった。それぞれの代表格として『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。*12と『魔弾の王と戦姫*13を挙げておきたい。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』は、2010年代の青春ラノベの代表格であり,このラノで三連覇を果たしたように、かなり特異な人気を得た作品である。ガガガ文庫内においては今でも『弱キャラ友崎くん*14『千歳くんはラムネ瓶のなか』*15といった青春ものの系譜が続いている。

電撃文庫もまた、鴨志田一の『さくら荘のペットな彼女*16青春ブタ野郎』シリーズ*17や、入間人間の『電波女と青春男*18安達としまむら*19などのアニメ化作品を輩出しており印象が強い。

とはいえ青春ラノベの本流といえばファミ通文庫だ。2000年代の桜庭一樹野村美月の活躍から引き続き、『ココロコネクト*20ヒカルが地球にいたころ……*21『ヴァンパイア・サマータイム*22『この恋と、この未来。』*23近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係*24など、ラノベ史に残る傑作を次々に送り出している。

あるいはライト文芸でも青春ものは大きな勢力を持っている。特に『古典部』シリーズ*25をはじめとして『ハルチカ』シリーズ*26や『櫻子さんの足下には死体が埋まっている*27などが出てきている青春ミステリは、ライト文芸の拡大とともにますます人気を獲得しているように思える。

一方「戦記ファンタジー」も、「いわゆる異世界転生以外でファンタジーをやるなら戦記ものが手堅い」というような扱いで、じわじわと増えていった印象がある。

魔弾の王と戦姫』あたりから勢いが出始めて『天鏡のアルデラミン*28覇剣の皇姫アルティーナ*29グランクレスト戦記*30『我が驍勇にふるえよ天地』*31『天才王子の赤字国家再生術』*32など連綿と人気作が出てきている。

ファンタジーではもう一つ、「魔王勇者もの」の代表格である『はたらく魔王さま!*33もこの年に発売されている。このジャンルについては「ドラクエ的な勇者と魔王の構図を借りたファンタジーパロディ」と説明できるだろうか。他に『いちばんうしろの大魔王*34はぐれ勇者の鬼畜美学*35勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決意しました。*36などが挙げられる。

2010年代に入ってファンタジーが復興していったなかで、「魔王勇者もの」ブームはその先駆けだったと言えるかもしれない。もちろん、Web小説にも「勇者召喚もの」や「魔王に転生した系」などは多くある。ただ、現在の「なろう系」ではドラクエよりもTRPGネトゲの影響が強く感じられるし、実のところどれがどのように影響し合ったのかはよくわからない。
2ch発の魔王勇者系SSの隆盛と魔王勇者系ライトノベルの増加は関連しているのか? - WINDBIRD::ライトノベルブログ

ともあれ、2010年代のファンタジーといえば「なろう系」が真っ先に出てくるが、それとは別系統の「戦記もの」や「魔王勇者もの」といったジャンルもきっちり人気があったのだということは述べておきたい。

その他のトピックスとして、KADOKAWAメディアファクトリーを買収したのがこの年である。ラノベ業界的には「非KADOKAWA系の最右翼」とみなされていたMF文庫JKADOKAWAの軍門に降ったわけで、なんか私も「ジャンプとマガジンとチャンピオンを持ってる会社がサンデーを買収したようなもんだよ!」とか言って騒いでいた記憶がある。
角川系出版社の統廃合の年表(ラノベ中心) - WINDBIRD::ライトノベルブログ

2012年

この時期のヒット作としては『ノーゲーム・ノーライフ*37と『冴えない彼女の育てかた*38が挙げられる。前者は漫画家・イラストレーター、後者は著名エロゲライターが作者ということで、どちらも新人賞出身ではないのが興味深い。このあたりから数年間は「新人賞はオワコン」「新人はWeb小説サイトで探せばいい」とか言われていた時期だった気がする。

まおゆう魔王勇者』『ログ・ホライズン』をヒットさせたエンターブレインが、Web小説の書籍化に力を入れて『オーバーロード*39や『ニンジャスレイヤー』*40などを刊行しはじめた時期でもある。

エンターブレインラノベレーベルの「ファミ通文庫」を保有しているが、Web小説についてはあえて単行本として刊行している。編集者へのインタビューなどを見ると「コレクションアイテムとしての見栄えの良さ」にこだわったということらしい。この頃はまだ「Webで無料公開されているのに書籍が売れるのか?」とか「書籍化したならWeb版は取り下げるべきでは?」とか言われていた時期だったので、装丁にこだわることで付加価値をつけようとしたのだろう。現在では多くの作品が書籍化後もWeb版を取り下げていない。

ちなみに、アルファポリスは「書籍化するときにWeb版を非公開にする(あるいはダイジェスト版に差し替える)」という戦略をとっており、それが後に「なろう」との対立を生むことになったりした。詳しくは以下参照。
小説家になろう - Wikipedia

2012年9月には「ヒーロー文庫」が創刊されている。

この時点では、『SAO』『魔法科』の電撃文庫にしろ、『ログホラ』『オバロ』のエンターブレインにしろ、既にラノベを取り扱っていた出版社がその範疇で出したものであったので、「ラノベを扱っていなかった出版社」による「Web小説専門のラノベレーベル(以下「Web文芸レーベル」と書く)」であるところのヒーロー文庫(とフェザー文庫)の創刊は非常にインパクトがあった。個人的にはこのヒーロー文庫創刊を「なろう(の書籍化)ブーム」の起点とすることが多い。

珈琲店タレーランの事件簿*41にも触れておきたい。前年の『ビブリア』に続いて「お店ミステリ」のヒットが続いたことで、そのブームが「点」から「線」になった感がある。こうした動きにより「あやかしカフェのほっこり事件簿」と呼ばれるようなライト文芸の方向性が徐々に定まっていった。

ちなみに2012年は『ソードアート・オンライン』のアニメ第一期が放送された年でもある。2009年の第一巻発売から数えると三年のタイムラグである。
Web小説が原作のライトノベルのWeb版・ラノベ版・アニメ版の開始時期 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

2013年

この年には『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか*42幼女戦記*43この素晴らしい世界に祝福を!*44といったWeb発のヒット作が発売されている。

ダンまち』がGA文庫、『幼女戦記』がエンターブレインの単行本、『このすば』がスニーカー文庫から書籍化されていることからも分かるように、この時点ではまだ既存のラノベレーベルの力が強い。Web文芸レーベルが猛威を振るうのは翌年以降となる。

また『アクセル・ワールド』『オバロ』『ダンまち』『幼女戦記』あたりは「なろう」ではなく「Arcadia」で連載されていた作品である。この時点での出版社の意識は「Web小説の名作を書籍化していこう!」といった感じであって、後年のような「なろうのランキング上位争奪戦!」みたいなノリではなかったと思われる。

この年に発売された『エロマンガ先生*45は、のちの『妹さえいればいい。*46とあわせて「ラノベ作家もの」ひいては「クリエイターもの」の人気を高めた感がある。

そういえば、前年発売の『冴えカノ』は、著者らしく「ゲーム制作」をテーマとしている。ゲーム制作を題材にした作品は他にもいくつか発売されているが、「個性的なメンバーが集まったチーム」としての側面が強調されるので、「作家もの」とは異なる読み味になる印象がある。が、いずれにしても「クリエイターもの」ひいては「お仕事もの」の範疇だろう。

2013年8月「MFブックス」が創刊。創刊ラインナップには『盾の勇者の成り上がり』があり、また当時の「なろう」総合ランキング1位だった『無職転生*47を年明けすぐに刊行していることも見逃せない。

MFブックスはターゲットを「30代~40代男性」と設定しており、またアルファポリスなどに学んで単価の高い四六判を選択している。文庫とは売り場が変わることで、従来とは異なる読者を開拓することができたものと思われ、ライト文芸とあわせてラノベ市場の拡大に貢献したと言える。
「小説家になろう」の読者層は「10代20代が過半数」! - WINDBIRD::ライトノベルブログ

メディアファクトリーフロンティアワークスが共同で立ち上げたレーベルだが、企画の提案はフロンティアワークスからだったらしい。同社は「アリアンローズ」「ノクスノベルス」といったWeb文芸レーベルを続けざまに立ち上げたり、「なろう」の公式WEB雑誌「N-Star」の運営を任されたりと、Web小説ブームにおいて精力的に立ち回っている印象だ。

2014年

GCノベルズ」*48モンスター文庫*49HJノベルス*50「アース・スターノベル」*51といったWeb文芸レーベルの創刊ラッシュが起きた。すなわち「なろう」ブームの本格化である。

ヒーロー文庫MFブックスの成功を見た出版社がこぞって参入したかたちだが、いずれも一定の成功を収めたと言っていいだろう。特にGCノベルズは創刊ラインナップの『転生したらスライムだった件*52がいきなりヒットを飛ばしている。

Web文芸レーベルの特長は、このように「作品を集めやすい」ということだと思われる。従来は、実績ある編集者が過去の担当作家を引っ張ってきたり、「傭兵作家」と呼ばれるようなあちこちのレーベルで書いている作家を集めてくるしかなく、いずれにしても作家とのコネがなければ立ち上げることすら困難で、しかも新人賞が軌道に乗るまでは似たような顔ぶれになりがちだった。

しかしWeb小説であれば、既にまとまった分量があり、一定の読者がついている作品に対して、なんのコネがなくても出版を打診することができる。つまり創刊当初からオリジナル作品を取り揃えたうえで、ハイペースで続編を刊行して、さらには宣伝力不足を補うことまでできるのである。こうした点が、ラノベ出版のノウハウを持っていなかった中小出版社に恩恵を与えたのではないだろうか。

その他、2014年1月に『Re:ゼロから始める異世界生活』が発売されている。メディアファクトリーは前年にMFブックスを立ち上げているのに、『Reゼロ』だけはちゃっかり自レーベルで抱えているのだから面白い。

ライト文芸では、メディアワークス文庫の後追いで「富士見L文庫」が2014年6月に、「新潮文庫nex」が2014年8月に創刊している。富士見L文庫富士見ファンタジア文庫の姉妹レーベルであり、新潮文庫nex新潮文庫のサブレーベルであるため、ラノベと一般文芸の双方が歩み寄ったような形である。

これまでのライト文芸は、ラノベと一般文芸の「境界線」だったのが、次第に周辺領域を巻き込んで「緩衝地帯」となり、拡大および多様化していった、といったところか。

ミリオンセラーとなった『ぼくは明日、昨日のきみとデートする*53の発売もこの年である。作者の七月隆文は、2002年に電撃文庫からデビューしたベテランだったが、『ぼく明日』のロングヒット、さらに『俺がお嬢様学校に「庶民サンプル」として拉致られた件*54のアニメ化と、この年から翌年にかけて一気に飛躍している。

タイムスリップ/タイムループ系の青春ものとしては、アニメがヒットした記憶も新しい『青春ブタ野郎』シリーズ』*55や、なぜか実写映画化された『二度めの夏、二度と会えない君*56などもこの時期に出ており、根強い人気をうかがわせる。

アニメでは『星刻の竜騎士*57『精霊使いの剣舞*58が放送されて「石鹸枠」なる蔑称が誕生した。2000年代の異能バトルは「異能者が人目を忍んでこっそり戦う話」が多かったが、2010年代には「異能が当たり前となった世界の学園ファンタジー」がトレンドとなった。「石鹸枠」もそのあたりの流れに含まれるものだろう。
「石鹸枠」とはなんだったのか - WINDBIRD::ライトノベルブログ

その源流としては、「巨大な異能学園」を描いた大ヒット作品『とある魔術の禁書目録*59、「なろう系」の異世界転生ものにも大きな影響を及ぼした「学園ファンタジー」の記念碑的作品『ゼロの使い魔*60、「俺TUEEE」「無双」というジャンルが認識されはじめた頃*61の代表的な作品で学園都市を舞台としたバトルファンジー鋼殻のレギオス*62、学園+バトル+萌えラブコメの代表格『IS<インフィニット・ストラトス>』*63、といったあたりが思いつく。

「なろう系」でも学園ファンタジーは人気ジャンルなので、このあたりは相互に影響しあっているのかもしれない。

2015年

この年のヒット作としては『ようこそ実力至上主義の教室へ*64と『りゅうおうのおしごと!*65を挙げておきたい。

『よう実』は、テレビアニメはさほど話題にならなかったものの、若い読者から絶大な支持を受けている。また、先行する『ノゲノラ』やその後の『自称Fランクのお兄さまがゲームで評価される学園の頂点に君臨するそうですよ?』*66などとあわせて、MF文庫J内で「頭脳バトル」系の流れを形成しているようだ。

一方で『りゅうおう』は、ライト層とマニア層のどちらからも根強い人気を得て「このラノ」を連覇したあたり、『俺ガイル』と似た支持のされかたという印象がある。題材としては前作の『のうりん!』*67とあわせて「お仕事もの」「業界もの」の側面があるように思う。

Web小説レーベルとしては「カドカワBOOKS」が2015年10月に創刊され、2015年12月に『蜘蛛ですが、なにか?』が刊行されている。モンスター転生ものとしては『転生したらスライムだった件*68と並ぶ有名作であり、アニメでもヒットが期待される。

ライト文芸では、「集英社オレンジ文庫」が2015年1月に、「講談社タイガ」が2015年10月に創刊されており、このあたりで主要なプレイヤーが出揃った感がある。オレンジ文庫は少女向けラノベの嚆矢である「コバルト文庫」の姉妹レーベルであり、講談社タイガは日本の推理文壇において存在感を発揮してきた「講談社ノベルス」の兄弟レーベルであるが、それぞれ兄姉が活動を弱めているので実質的な後継レーベルになりつつある。

『紅霞後宮物語』*69は「なろう」発の中華ファンタジーだが、富士見L文庫でヒットしたことで、同じく「なろう」発の『薬屋のひとりごと*70とあわせて、女性向けライト文芸における中華ファンタジー人気を引き上げた感がある(もともと少女向けラノベでは『十二国記*71彩雲国物語*72など中華ファンタジーが人気ではあったが)。

そういえば、女性人気の高さで共通する『本好きの下剋上*73の発売も、悪役令嬢もので初めてアニメ化される『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』*74の発売もこの年である。

さらには、ライト文芸において『ぼく明日』とならぶ大ヒット作である『君の膵臓をたべたい』*75も発売されている。こちらも「なろう」発である。『キミスイ』によって「なろうはファンタジーだけではない」といった気運が生まれ、青春恋愛ものの書籍化が増加していった。「なろう」の女性向け作品にとっては2015年がターニングポイントになるのかもしれない。

アニメでは『冴えカノ』『ダンまち』『オバロ』などが放送されて人気を博した。これで2012年〜2013年ごろの「既存のラノベレーベルがいちはやく人気のWeb小説を確保した」時期の作品がアニメにまで伝播したことになる。

2016年

2010年代後半の傾向はずばり「ラブコメの復活」である。

前年の『ゲーマーズ!*76妹さえいればいい。*77に引き続き、この2016年には『俺を好きなのはお前だけかよ*78弱キャラ友崎くん*79『29とJK』*80『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』*81『友人キャラは大変ですか?』*82などが好評を博し、ラブコメ復活の前兆として捉えられたりした。

特に『俺を好きなのはお前だけかよ』や『弱キャラ友崎くん』は、なろう作品に押され気味だった新人賞出身の作品としても期待を集めた感がある。とはいえ本格的にラブコメが勢いを取り戻すのは2018年ごろということになるだろう。

アニメでは『この素晴らしい世界に祝福を!*83と『Re:ゼロから始める異世界生活*84が相次いでヒットを飛ばした。実はいわゆる「転生チート*85」を扱ったアニメは『このすば』が初めてなので、わりと重要なマイルストーンでもある。

前年放送の『オバロ』『ダンまち』とあわせて、Web発の作品が連続でヒットしたことで、「アニメでもいけるやん!」という空気になった(んじゃないかな)。

その他のトピックスとしては、2016年2月にKADOKAWAの小説投稿サイト「カクヨム」がオープンしたことが挙げられる。前述のアルファポリス・ダイジェスト騒動も2016年である。この頃から各出版社が自前の小説投稿サイトを抱えて積極的に作品発掘にいそしむようになっていった。

「出版社は『なろう』のランキングを上から順に書籍化しているだけ」なんて揶揄されることもあるが、現在の小説投稿サイトは「常設の新人賞」とでもみなすべきで、出版社はそこでさまざまなコンテストを開催したり、作品発掘用の人員を配置したりすることで、次にヒットしそうな作品を掬い上げることに注力しているように感じられる。

たとえばカクヨムは、当初から『横浜駅SF』*86や『ひとりぼっちのソユーズ*87のようなSF、あるいは『おにぎりスタッバー』*88『佐伯さんと、ひとつ屋根の下』*89スーパーカブ*90などの青春もの・青春ラブコメを積極的に書籍化しており、小説投稿サイトとして「なろう」との差別化を図ると同時に、出版社の意識としても「流行っているものを書籍化する」から「自分たちが求めているものを探し出して書籍化する」に変わってきたように思う。

もちろん、この間に「なろう」のほうも随分と様変わりしている。特に2016年のジャンル変更で「異世界転生/転移」が区別された影響が大きいと言われているが、「転生/転移」を伴わない「現地主人公」および「パーティ追放もの」が流行ったり、現代世界にダンジョンが出現する「現代ダンジョンもの」が増えたりしている。

みんないろいろ頑張ってるんだなあ、ということである。

2017年

これ以降は、どの作品もまだ評価が定まっていないこともあり、さらに胡乱な話が多くなるのでよろしく。

86-エイティシックス-*91のスマッシュヒットは、新人賞に漂っていた閉塞感を吹き飛ばしたように思う。電撃小説大賞からは翌年も『錆食いビスコ*92のような話題作が出ており絶好調といった感じだ。

このあたりから「なろう」ブームが落ち着いて、と言っても衰退したというよりは「定着した」「滑空に入った」という感じだが、「次のトレンドは何だろう?」と囁かれるようになった気がする。ラブコメもそうした流れから出てきたものだろう。

「コミカライズ」の増加が取り沙汰されるようになったのもこの頃か。「なろう系の作品が第一巻発売と同時にコミカライズ開始」といった形式も増えた。いわば「Web小説」を原作として「ノベライズ」と「コミカライズ」を同時にこなしているような感覚だろうか。

これはおそらくWeb漫画サイトおよびアプリの増加が関係していて、紙の雑誌なら連載枠に限りがあるところ、Web漫画ならその制限がかなり薄く、むしろ日刊ペースで更新を求められるので弾数が必要とされている、ということがあり、刊行点数が飽和するなかで少しでも新作を目立たせたいラノベレーベルと利害が一致したのだろう。

アニメでは『ナイツ&マジック*93異世界食堂*94異世界はスマートフォンとともに。*95などが放送された。これらはいずれもヒーロー文庫HJノベルスといった「Web文芸レーベル」の作品である。すなわち、ついに「なろう」ブームの波がアニメにまで到達したのである。ばんざーい。

2018年

『高2にタイムリープした俺が、当時好きだった先生に告った結果』*96『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』*97『ちょっぴり年上でも彼女にしてくれますか?』*98などの年の差ラブコメが急増したのが印象的である。

2000年代のラブコメの特徴が「ハーレム」「萌え属性」「部活」だったとすれば、現在のラブコメは「固定カップル」「年の差」「お仕事」といったあたりが特徴になるだろうか。「萌え属性」重視で特徴の強いヒロインたちを次々に増やしていくようなラブコメから、ある状況下における主人公とヒロインの関係性を掘り下げていくようなものへと変化したようなイメージである。

これについては漫画のほうで『からかい上手の高木さん』や『宇崎ちゃんは遊びたい!』のような「○○さん」系ラブコメが流行っていることの影響があるのかもしれない。

2000年代に「年の差ラブコメ」と言えば「ヒロインが小学生」のロリコンものが大半だったが、いま流行っているのは、主人公が高校生/ヒロインが社会人だったり、主人公が社会人/ヒロインが高校生だったりするものである。

これは以前なら「ラノベの主人公は若くないとダメだから」とか「年上ヒロインは売れないから」とか言われていたのが、「なろう系」のおっさん主人公や、ライト文芸の社会人主人公などを経由したことによって、作り手が「慣れた」ことが大きいと思われる。

「お仕事もの」についても同じことが言えると思うが、前述したとおり「お仕事もの」には「クリエイターもの」なども含まれてくるわけで、いわゆる「学園ラブコメ」にとどまらない幅広い物語背景が描かれるようになった結果と言えるだろう。

「なろう」のほうでも、2018年12月に投稿された『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』の人気のおかげで、微妙に現代ラブコメが増加していたりするらしい。今後に期待である。

この年はとにかくラノベ絡みの炎上が多かった。『異世界テニス無双』パクリ問題、『山本五十子の決断』プロモツイート問題、『ブギーポップ』キャラデザ問題、『二度目の人生を異世界でヘイトスピーチ問題、『境界線上のホライゾン』イラスト問題……いわゆるポリコレ的な問題についてはオタク業界全体に影響を及ぼしそうだ。

2019年

今年のことなのでどうにも語りづらいが。

『友達の妹が俺にだけウザい』*99『幼馴染が絶対に負けないラブコメ*100『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』*101『娘じゃなくて私が好きなの!?』*102と、引き続きラブコメが話題となることが多かったように思う。

それと「スレ発ラノベ」として、いわゆる「やる夫スレ」を翻案した作品が立て続けに刊行されたことが挙げられるか。やる夫スレのラノベ化といえば『ゴブリンスレイヤー*103という前例があるが、これが新しい潮流になるかは分からない。やる夫スレも、まだ投稿が途絶えているわけではないとは言え、往時の勢いは失われていると思うので、一過性の企画にしかならない気もする。

あとは先日の10大ニュースでも読んでいただければ。
2019年ライトノベル10大ニュース - WINDBIRD::ライトノベルブログ

まとめ

というわけで、この十年間を振り返ってまいりました。だ・である調は解除します。

私は、あくまで少年向けラノベを主戦場としているので、触れられていないところも多いと思います。あらためて、「私はこういうふうに見てきたよ」以上のものではない、ということでよろしくお願いします。

で、こうして振り返って思うのは「十年前のラノベになかった部分をWeb小説が補完してくれた」ということですね。

2000年代には低調だったファンタジーの復活はもちろんのこと、青春ものやラブコメの増加にも影響を与えてくれていますし、「グルメ」とか「歴史」とか「おっさん主人公」とか「女性主人公」とか、これまで「ラノベでは売れない」というレッテルを貼られてきた様々な要素が、小説投稿サイトのなかでその人気を証明して書籍化されているわけです。

文庫のラノベ市場が頭打ちになったことで、一般文芸の売り場なり(=ライト文芸)、単行本の売り場なり(=Web小説)に打って出て、そこでこれまでとは違った作品が生み出されていった、ということで非常にラノベが多様化した十年間だったと思います。

そうして範囲が拡大したぶん、いよいよもってラノベの全体像を把握している人間などいなくなった…という感じもあります。はたして十年後、「2020年代ライトノベルを振り返る」なんて記事は書けるんでしょうか。

*1:2010年12月発売

*2:2011年3月発売

*3:2011年7月発売

*4:2012年5月発売

*5:2014年2月発売

*6:2016年1月発売

*7:2011年3月発売

*8:2011年7月発売

*9:2004年10月発売・2008年に角川へ移籍

*10:2010年4月発売

*11:2010年9月発売

*12:2011年3月発売

*13:2011年4月発売

*14:2016年5月発売

*15:2019年6月発売

*16:2010年1月発売

*17:2014年4月発売

*18:2009年1月発売

*19:2013年3月発売

*20:2010年1月発売

*21:2011年発売

*22:2013年7月発売

*23:2014年発売

*24:2016年4月発売

*25:2001年10月発売

*26:2008年10月発売

*27:2013年2月発売

*28:2012年6月発売

*29:2012年11月発売

*30:2013年8月発売

*31:2016年7月発売

*32:2018年5月発売

*33:2011年2月発売

*34:2008年2月発売

*35:2010年5月発売

*36:2012年1月発売

*37:2012年4月発売

*38:2012年7月発売

*39:2012年7月発売

*40:2012年9月発売

*41:2012年8月発売

*42:2013年1月発売

*43:2013年10月発売

*44:2013年10月発売

*45:2013年12月発売

*46:2015年3月発売

*47:2014年1月発売

*48:2014年5月創刊

*49:2014年7月創刊

*50:2014年11月創刊

*51:2014年12月創刊

*52:2014年5月発売

*53:2014年8月発売

*54:2011年12月発売

*55:2014年4月発売

*56:2015年1月発売

*57:2010年6月発売

*58:2010年12月発売

*59:2004年4月発売

*60:2004年6月発売

*61:俺TUEEEという言葉にまつわる取り留めもない話 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

*62:2006年3月発売

*63:2009年5月発売

*64:2015年5月発売

*65:2015年9月発売

*66:2017年4月発売

*67:2011年8月

*68:2014年5月発売

*69:2015年5月発売

*70:ヒーロー文庫版:2014年8月発売

*71:1991年9月発売

*72:2003年10月発売

*73:2015年1月発売

*74:2015年8月発売

*75:2015年6月発売

*76:2015年3月発売

*77:2015年3月発売

*78:2016年2月発売

*79:2016年6月発売

*80:2016年6月発売

*81:2016年8月発売

*82:2016年12月発売

*83:2013年10月発売

*84:2014年1月発売

*85:主人公が死んだあと女神などの存在によって異世界に転生させられるテンプレ

*86:2016年12月発売

*87:2017年12月発売

*88:2016年12月発売

*89:2017年2月発売

*90:2017年5月発売

*91:2017年2月発売

*92:2018年3月発売

*93:2013年2月発売

*94:2015年3月発売

*95:2015年5月発売

*96:2018年1月発売

*97:2018年2月発売

*98:2018年5月発売

*99:2019年4月発売

*100:2019年6月発売

*101:2019年6月発売

*102:2019年12月発売

*103:2016年2月発売

2019年ライトノベル10大ニュース

京都アニメーション放火事件

フルメタル・パニック!』『涼宮ハルヒの憂鬱』『氷菓』などラノベ原作のアニメを多くヒットさせ、また自社でもラノベレーベルを立ち上げて出版からアニメ化までを行うというビジネスモデルを成功させていた「京都アニメーション」が、2019年7月18日に放火され、多くの人命が失われました。被害者の方々の回復と冥福をお祈りします。

「電撃の新文芸」創刊

電撃文庫のWeb小説系単行本レーベル。ということで編集長が意気込みを語ったりしていました。

【特集】「電撃の新文芸」誕生特別企画 湯浅編集長&清瀬副編集長インタビュー「最後発組の我々はチャレンジャーである」 – ライトノベル総合情報サイト ラノベニュースオンライン

ラインナップのなかでは『Unnamed Memory』の評判が良いですね。このラノの単行本部門でも1位でした。

Unnamed Memory I 青き月の魔女と呪われし王 (DENGEKI)

Unnamed Memory I 青き月の魔女と呪われし王 (DENGEKI)

とりあえず「BOOK WALKERにレーベルとして『電撃の新文芸』を登録しろ」とは何度でも申し上げます。レーベルで検索&通知登録ができないんですよ。ほんとこれどこに言えばいいんですかね。

「LINEノベル」開始

ストレートエッジと手を組んでWeb小説アプリをリリースするとともに、新レーベル「LINE文庫」「LINE文庫エッジ」も創刊されました。実はLINEが「LINEノベル」という名前のサービスを立ち上げるのは2013年・2016年に続いて三回目なんですよね。今回こそはという並々ならぬ意欲を感じますが、さてどうなるでしょうか。

その他、Web小説サービスとしては「ノベルアップ+」や「ノベマ!」などが新たに始まりました。読者としてはどれかに統一してほしい、投稿者としては多重投稿の手間がかかるだけ、出版社は自社で囲い込みたい、ということで需要と供給が一致してない感はありますね。

カクヨム ロイヤルティプログラム開始

Web小説まわりではこういう話題もありました。広告収入が投稿者に還元されてお小遣い稼ぎができるというやつですね。広告収入還元では「アルファポリス」が先行していたり、前述の「ノベルアップ+」が投げ銭システムを取り入れていたりしますが、大手出版社のKADOKAWAが踏み切ったという点はなかなかインパクトがあったのではないでしょうか。

しかし、出版社はWeb小説を書籍化して儲けるのがメインなので広告収入を還元できますが、「小説家になろう」は広告収入=売上なので同じことをやるのは難しいんでしょうね。

中国なんかでは既に紙の出版よりWeb上の課金が作家の主な収入源になっているらしいですが、日本もそれに近づいていくのかどうかが注目ポイントですね。

転生したらスライムだった件』のコミカライズが大ヒット

『転スラ』については、原作の人気はもちろんですが、それ以上にコミカライズの売上のすさまじさをよく耳にしました。単月では『進撃の巨人』を超えたらしいです。

講談社社屋の垂れ幕がアピールするコミックの「近年にない大ヒット」作品とは(篠田博之) - 個人 - Yahoo!ニュース

オリコンの年間売上ランキングでもジャンプコミックスが大勢を占めるなかで10位にランクインしていましたね。次にくるマンガ大賞で1位を取ってプッシュされまくりの『薬屋のひとりごと』もありますし、ラノベ・コミック・アニメの連携がこれまで以上に重要になっている感じがします。

コバルト文庫電子書籍のみに移行

これに関しては「コバルト文庫が終了しそう」という記事が話題になったりもしました。まあ書いたのは私なんですが。

集英社「コバルト文庫」新刊が電子書籍のみになりレーベル終了の臆測広がる 集英社は否定 - ねとらぼ

ある意味「電子書籍オンリーでどのくらいやれるか」という試金石にもなっているんでしょうか。漫画のほうでは「最終巻は電子書籍のみ」みたいな措置が増えているようですし。ただ、これから電子書籍の売上の割合が増えていけば「電子のみに移行=終了間近?」なんて論調にはならなくなるかもしれませんね。

BOOK WALKERで「角川文庫・ラノベ読み放題サービス」が開始

いくつか制限はあるものの月760円でKADOKAWAの小説が読み放題という画期的なサービス。

ちなみにBOOK☆WALKERでは「まる読み10分」という、KADOKAWAの作品なら一日10分だけ何ページでも読み放題、というサービスも開始していました。どちらも野心的なサービスですが、はたしてどのくらい売上増につながるのか、今後を注視したいところです。

同じくKADOKAWAWebサービスとしては「キミラノ」も始まっていました。これは「ラノベ関連のポータルサイト」といったコンセプトでしょうか。読書管理+リコメンド機能を搭載しつつ、さまざまな企画を開催しています。

ライトノベルEXPOの開催が告知

そのキミラノの企画らしいですが、来年開催される謎のイベントです。KADOKAWAラノベレーベルが全員集合するようです。いまでも各レーベルは「ファンタジア文庫大感謝祭」だとか「MF文庫 夏の学園祭」だとかリアルイベントを開催していますが、それらをあわせたような特大のイベントになるんでしょうか。なんだか編集長のコメントも気合が入っていますし、期待以上に盛り上がってくれるといいですね。

まあ個人的にはこういうリアルのイベントには参加しないので遠巻きに眺めるだけなのですが。

やる夫スレ発ラノベ4作品が刊行

やる夫スレ、ぶっちゃけ旬は過ぎている気もしますが、面白い作品が日の目を見るのは単純に良いことであります。これまでもライトノベルは外部のコンテンツを吸収して成長してきたプラットフォームですしね。

賀東招二炎上

去年はラノベ絡みで炎上まみれでしたけど、今年はこの件くらいしか目立った炎上はなかったのではないでしょうか。やったね。

とはいえ、「オタクとフェミ」という構図での炎上騒ぎは、むしろ去年よりも格段に深刻化している感がありますね。ウヨクとサヨクの対立みたいに定着していくんでしょうか。はー、やだやだ。



というわけで2019年の10大ニュースでした。主にKADOKAWAが新たな試みをいろいろやってる感じがしますね。かわんご退任は残念でしたが、なんか本社移転もするようですし、今後の発展に期待したいところです。2020年代ライトノベルがますます隆盛するといいですねえ。

10大ニュース カテゴリーの記事一覧 - WINDBIRD

ラノベ天狗 VS アリュージョニスト作者

(たぶん多くの人は全く興味がないと思いますが)おなじみラノベ天狗ことsrpglove氏と、カルト的な人気を誇るWeb小説「幻想再帰のアリュージョニスト」の作者homiya氏の世紀の一戦について、自分なりに論点を整理してみたいと思います。

経緯についてはこちら(srpgloveさん自身が書いているので細かい記述を鵜呑みにしないように)。

とりあえずの発端であるsrpgloveさんの発言について。

「アリュージョニストは気に食わない人間を無断で作中に登場させて揶揄するような作品である」という命題を分割すると

(1) homiyaさんにとってsrpgloveさんは気に食わない人間である
(2) 作中に登場した『天狗』とはsrpgloveさんのことである
(3) homiyaさんは『天狗』を揶揄的に描いている

の三点になります。

とりあえず(2)について、

  • 「天狗」といえばラノベ天狗=srpgloveさんが連想されるのは界隈では自明だった
  • ただしラノベ天狗をもじって(srpgloveさん以外を)「○○天狗」と呼ぶ用法は当時から存在していた
  • そのあたりの機微はhomiyaさんも把握していた

といった点はほぼ確実だと思っています。

それに対してアリュージョニスト読者が「srpgloveの自意識過剰だ」的な見当違いな批判をしてしまったことで、論点として(2)だけが先走ってしまったわけですけど、本来的には他二つの論点が重要なはずです。

(1)について、homiyaさんは最初に「srpgloveさんを中傷する意図はない」と明言しています。これはそうだろうと思います。homiyaさんはむしろsrpgloveさんに好意的な立場だろうという印象が個人的にもあります。こちらに関しては、なぜsrpgloveさんが「自分は気に食わない人間だと思われている」と思っているのかを聞いてみたいところであります。

(3)についても、

  • srpgloveさんに限定した記述ではない
  • 「○○天狗」的な行為そのもののパロディにすぎない

といったhomiyaさんの抗弁に嘘はないと思いますが、ただその箇所を書いているときにsrpgloveさんのことを意識はしていたでしょうし、「パロディ」という行為自体に揶揄や風刺のニュアンスが混じるものではあるので、「○○天狗のパロディ」に「○○天狗の代表格たるラノベ天狗」が不快感を抱くことは決して不当ではないと思います(この「不当ではない」は「まあ不快に思うこともあるだろう」「不快だという主張も理解はできる」というニュアンスです)。

以上からして、srpgloveさんが提起した(1)(2)(3)の論点については、イチャモンくさいけど一理はある、といったくらいのものであると思います。

あとはhomiyaさんの落ち度がどの程度のものかを見定めて、問題の解決を「要求」するというのが筋でしょう。

ところでsrpgloveさんは何の「要求」もしていません。

その凶暴性のわりに、srpgloveさんの殴り方はアウトボクシング的というか、レトリックを駆使して自身の正当性をアピールしつつ、ネチネチと迂遠な皮肉を連ねていくというものとなっています。

(1)(3)をあまり論点にせずにひたすら(2)の真偽に問題を絞っているのもそうですし、homiyaさんが「srpgloveさんに限定した記述ではない」と言ったのを「srpgloveさんをまったく意識していない」にすりかえているあたりも厄介ですね。

ともあれ、落としどころが用意されていないのですから、問答を重ねてもいたずらに問題が大きくなっていくだけです(というか大きくなってしまいました)。問題が大きくなってから、homiyaさんは落としどころを探っていたようですが、落としどころなんて無いので、単純に引き下がったほうが良かったと思います。とりあえずついさっき問題となった記述が修正されたようなのでなんとなく解決したように見えますが、srpgloveさんは納得していないようなので折に触れて蒸し返されていくのでしょう。

というわけで今回の件でいちばん悪かったのは「ラノベ天狗なんて知らねえよ!」という程度の認識しかないくせに迂闊に突っ込んでいって天狗の怒りに火をつけたアリュージョニスト読者だと思います。

追記。後日談です。

 大前提として、homiyaさんはラノベ天狗を昔から知っているし、魔王14歳さんあたりとのつながりから距離的にも近いというのがあって、だから「ラノベ天狗なんて知らねえよ!」という人とはまったく立場が違うんですよ。
 srpgloveさんと「ラノベ天狗を知らないアリュージョニスト読者」のあいだでは「作中の描写は本当にラノベ天狗と関係があるのか?」が論点になっている(これについては明確に「関係がある」が答えで「srpgloveさんの自意識過剰」というのは間違いです)。
 対して、srpgloveさんとhomiyaさんとのあいだでは「作中の描写はsrpgloveさん個人を揶揄しているのか?」が論点になっているんです。だからhomiyaさんは「特定個人を攻撃しているのではなくsrpgloveさんを含む全体の状況をネタにしたんです」と答えている。
 ここでsrpgloveさんは、ア読者とhomiyaさんをひと括りにして、homiyaさんの回答を「関係があるか?」問題のほうにズラした。つまり「homiyaさんが『自作とラノベ天狗は関係ない』って主張してる」というふうに捉えてしまった。だから拗れているのだと私は考えています。

いまのところこういう整理です。

星を目指せ!銀河を駆けろ!宇宙を舞台にしたSFラノベ5選!

なんだかんだ言って宇宙を舞台にしたラノベって少ないんですよねってことで直近五年くらいのオススメを五作品ほど挙げることで今後益々の発展を祈念していこうという記事です。

漂流英雄

宇宙漂流ボーイ・ミーツ・ガール・ラブコメディ! 戦闘中に遭難して敵軍の異性と二人きり、というある意味でロマンチックな状況で、しかもどっちの子もめちゃくちゃ優しくてずっとお互いのことを気遣っていて、惹かれ合う二人の気持ちが盛り上がっていくのは当然で……もう主役の二人がとにかく純朴で可愛らしいんですよ。なんだか90年代の夕方アニメっぽさを感じるんですよね。スカッと笑えて爽やかな気持ちになれる作品です。

無双航路

無双航路 1 転生して宇宙戦艦のAIになりました (レジェンドノベルス)

無双航路 1 転生して宇宙戦艦のAIになりました (レジェンドノベルス)

目覚めたら何故か遥か遠い未来の宇宙戦艦になっていて、しかもまさに戦争中でボロ負け中、なにがなんだか分からないまま敵の包囲網を脱出して撤退しなければならない…というプロローグから、さらに想像もつかない激動の展開を見せていくスペースオペラ。なお二巻くらいで既に「おまえ無双でも転生でも戦艦ですらないやんけ!」みたいな感じになります。もちろん超面白いので文句はありません。

ストライクフォール

人型機動兵器を用いて宇宙を駆け戦うスポーツ「ストライクフォール」。そのプロ選手を目指す少年が、ある出来事から実態以上の注目を集め、そのために敗北や挫折を味わいながらも、決して心が折れることなくひたむきに努力し成長していく、最高のスポ根ロボットラノベです。この全く想像からつくられた架空のスポーツの描写が本当に楽しいんですよ。まさにSFの醍醐味をあじわえる傑作ですね。

アウトロー×レイヴン

アウトロー×レイヴン (電撃文庫)

アウトロー×レイヴン (電撃文庫)

宇宙船をかっ飛ばして銀河を股にかけ、ビームブレードを振り回してお姫様をお助けする、伝説の賞金稼ぎとその弟子を描いたコッテコテの宇宙西部劇です。少年の成長を描いた冒険活劇として最初から最後まで王道を踏襲しているので、そういうのを期待している人には絶対的にオススメできます。そうでない方には『無双航路』をオススメしておきますね。

ドウルマスターズ

魔法科高校の劣等生』の佐島勤が描く本格的なロボットアクション。こちらの人型機動兵器は「超能力」の増幅器として扱われるため描写としてはスーパーロボット的なイメージですね。とはいえ世界設定としては『鉄血のオルフェンズ』のような感じ、主人公が入るのはエリート部隊であり、裏主人公とでも言うべきキャラがテロリストに属すあたりの対比が面白いところです。

「小説家になろう」の読者層は「10代20代が過半数」!

小説家になろう」読者にはオッサンが多い――という噂は、その意外性もあってかよく広まっているのですが(ググってみると「なろう系ラノベの読者層は30代~40代」や「異世界転生ものの読者層は40代の中年男性が殆ど」といったページが引っかかります)、反面、「なろう」運営が実際の利用者データを発表していることはあまり知られていません。

というわけで、こちらが2019年の数字です。

──ユーザーの年齢層や性別の割合はいかがでしょうか。

平井 ユーザー登録されている方々のデータしかないので、実際に利用されている層とは少々異なるかもしれませんが、割合としては男性が6割くらい。女性は確実なのが3割で性別を入力していない方が1割くらいです(※1)。

年齢層は20代が44パーセントで半分近く、10代が14パーセント、30代が24パーセントと、これでほぼ8割を占める計算になります。あとは40代が12パーセント、50代以上が6パーセントくらいでしょうか。

※1「小説家になろう」はユーザー登録とログインを行わなくても、アップされた作品を閲覧することができる。

「40代がほとんど」どころか20代が半数近く、10代と合わせると過半数を占めています。もちろん彼らがわざわざ人気作品を避けるとも考えづらいですから、いわゆる「異世界転生もの」は20代を中心に幅広い年齢層に人気があると言っていいでしょう。

「なろうは男性中心」なんてことを言う人もいますが、女性読者もかなり多いですね。「悪役令嬢もの」の人気を体感していれば言わずもがなというところですけど。

でも、実態にそぐわない噂がなぜ広まっているのでしょうか。

そもそも「なろうユーザー」と「書籍化されたなろう作品を買う人」と「なろう原作アニメのファン」はかなり傾向が違います。

たとえば中高生なら、無料で観られるアニメから入って、無料で読める原作のWeb小説を読んで、特に気に入った書籍だけを小遣いの範囲内で購入する、といった行動が自然だと思います。つまり若い読者は人気作品に集中するわけです。

逆に、アニメ化されてもいない新作を率先して購入するような層は、懐に余裕のある大学生以上が中心になるので、平均年齢は高めに出るでしょう。特にWeb小説は大判の単行本で出版されることが多く、それらは一冊1000円〜1500円くらいします。中学生や高校生が気軽に購入できる値段ではありません。

このような「新刊書籍を買っているのは大人が中心」という話が独り歩きして「なろう読者は実はオッサン」と面白おかしく語られているのだと思います。

ラノベに対する「もはや一般文芸だ」は褒め言葉なのか?


こちらの記事に対して、

ここまで典型的な「褒めてるつもりの雑語り」を久々に読んだ。

とコメントしたところ、某王女様らしき人に、
https://marshmallow-qa.com/system/images/f1eb09cc-1bdc-4325-92b8-75f3ba4cad70.png
と言われたのでぐだぐだと書きます。先に言い訳しておくとそんな明快に解答しているわけではありませんのでご了承ください。


まず「雑語り」というのはちょっと捉えどころのない言葉ですよね。「嘘」でも「偽」でも「誤」でもなく「雑」という形容ですから。まあ「当てはまる部分もあるが多くの補足が必要でそのまま採用するには問題がある言説」といったところでしょうか。

そのうえで当該記事について簡単にまとめてみましょう。

  • 私はあまりラノベを読まない
  • 昨今のラノベは萌えを前面に出したものだと思う
    • 主人公が異様にモテる
    • 魔法を使う強力な敵が出てくる
    • 装丁やタイトルのライトノベル
    • などの特徴を備えている
  • この作品は上記の特徴に当てはまらない
  • よってライトノベルらしくない
  • もはや一般文芸だ
  • と言えるくらい面白かった

この「ラノベらしくない」「もはや一般文芸だ」みたいな微妙な褒め方、ラノベ以外でもけっこう見かけますよね。「エロゲーとは思えないくらい面白い」とか「大人の鑑賞に堪えるアニメだ」とか。

そのジャンルに通暁している人が他作品との差異を細かく分析していくのならいいですが、往々にしてリンク先の記事のように「そのジャンルを知らないから細かい認識ができていないだけ」だったりするわけです。

ラノベとはこういうものだがこの作品は違う」。

本当に「ラノベとはそういうもの」なんですか?

本当に「その作品」だけが違うんですか?

もちろん「主人公が異様にモテる」とか「強力な敵が出てきて魔法を使う」といったイメージは全くの誤りではないですよ。とはいえ、そのイメージに当てはまらないからラノベではない、というのは明らかに言い過ぎですよね。

主人公がモテないラノベだって、魔法や異能が出てこないラノベだって、異世界転生しないラノベだって、タイトルが長くないラノベだって、いまでもたくさん出ていますし、それらが「ラノベと見なされない」なんてこともありません。

つまり「当てはまる部分もあるが多くの補足が必要でそのまま採用するには問題がある言説」だと思うわけです。

なんでしょうね。「ラノベじゃなかった!」ではなく「こんなラノベもあるんだ!」でいいと思うんですけど。

いっそ「そもそもハヤカワ文庫はラノベでしょ」みたいなところから始めたほうが面白くなったりして。

とりあえず去年書いたSFラノベのオススメ記事を貼っとくね!

「好きラノ 2019年上期」投票

lightnovel.jp

無双航路

無双航路 2 転生して宇宙戦艦のAIになりました (レジェンドノベルス)

無双航路 2 転生して宇宙戦艦のAIになりました (レジェンドノベルス)

【19上ラノベ投票/9784065136720】

やがてはるか空をつなぐ

やがてはるか空をつなぐ (ファミ通文庫)

やがてはるか空をつなぐ (ファミ通文庫)

【19上ラノベ投票/9784047354708】

ジャナ研の憂鬱な事件簿

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (5) (ガガガ文庫)

ジャナ研の憂鬱な事件簿 (5) (ガガガ文庫)

【19上ラノベ投票/9784094517743】

世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)

世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ) 1 (オーバーラップ文庫)

世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ) 1 (オーバーラップ文庫)

【19上ラノベ投票/9784865544497】

僕は何度も生まれ変わる

僕は何度も生まれ変わる2 (角川スニーカー文庫)

僕は何度も生まれ変わる2 (角川スニーカー文庫)

【19上ラノベ投票/9784041065204】

絶対ナル孤独者

絶対ナル孤独者5 ―液化者 The Liquidizer― (電撃文庫)

絶対ナル孤独者5 ―液化者 The Liquidizer― (電撃文庫)

【19上ラノベ投票/9784049123821】

学園者!

学園者!: ~風紀委員と青春泥棒~ (ガガガ文庫)

学園者!: ~風紀委員と青春泥棒~ (ガガガ文庫)

【19上ラノベ投票/9784094517903】

前略、殺し屋カフェで働くことになりました。

【19上ラノベ投票/9784094517927】

スイレン・グラフティ

スイレン・グラフティ わたしとあの娘のナイショの同居 (電撃文庫)

スイレン・グラフティ わたしとあの娘のナイショの同居 (電撃文庫)

【19上ラノベ投票/9784049124590】

原始時代からその6000年後の現代までを描く大河ファンタジー『始まりの魔法使い』の打ち切り回避を祈る

『始まりの魔法使い』というライトノベルがあります。

異世界にドラゴンとして転生した男を主人公とするファンタジーです。

そう、ドラゴンです。ドラゴンなので長命です。ほとんど不老不死です。物語は数十年単位で進んでいきます。第一巻は主人公が生まれた年――竜歴0年から始まり、最新の第五巻では竜歴1350年まで来ています。もはや、とてつもない時間が経過しているように思えますが、シリーズ冒頭で示される「現代」は竜歴6050年の彼方にあるのです。なんとも驚くべきスケールではないですか。

主人公は、その長い長い歴史のなかで、さまざまなことを行います。人間たちと共に暮らします。学校を建てて教育を施します。世界の仕組みを研究し、新しい魔法を生み出します。人間以外の種族とも交流します。主人公の教え子たちはやがて主人公を超えるほどの能力を身に着けていきます。ときには恐ろしい敵を生み出してしまいます。戦います。結婚もします。そして愛する人間を失います。

石之宮カントは、そんな壮大な物語を、軽妙な筆致で描いていきます。

「面白そう」と少しでも思ってくれたなら、ぜひとも購入をよろしくお願いします。

始まりの魔法使い1 名前の時代 (ファンタジア文庫)

始まりの魔法使い1 名前の時代 (ファンタジア文庫)

さて、ところが、そんな『始まりの魔法使い』が打ち切られるらしいのです。

ちょっと、それはないんじゃないかと思うんですよ。

もちろん、ラノベ業界だって売上が厳しい昨今ですから、どんな作品がいつ打ち切りになってもおかしくはないと思います。これが他の作品だったら、どんなに面白くても、「またか」「しょうがないか」で済ませていたでしょう(いや済まさねえけど)。

しかし『始まりの魔法使い』ですよ。

あらかじめ定められた6000年分の物語ですよ。

それを途中でぶった切って終わらせちゃあいけないでしょう。

語弊を恐れずに言えば、これは「面白さ」の問題じゃないんですよ。この作品が「最後まで刊行してこそ意味のある物語」だということなんですよ。このコンセプトで途中下車は許されませんよ。というか、そんなの最初からわかってたはずじゃないですか。富士見ファンタジア文庫はその覚悟をもって書籍化したんじゃないんですか。ほんとがっかりだよ。

これで『ファイフステル・サーガ』まで打ち切ってたら絶対に許さなかったからな富士見

というわけで『始まりの魔法使い』、一冊でも多くの既刊が売れて、シリーズが再開されることを祈るものであります。


追記。

買いたくなるほどのアピールがまだ足りない。もっと推して - Fushiharaのコメント / はてなブックマーク

基本的にはコンセプトどおりの作品なんですよ。ただ主人公はけっこう間が抜けているので、人類を教え導くというよりは「一緒に成長していく」という印象が強いかなと思いますね。全体的にほのぼのとしているんですが、作中でほぼ唯一の「悪意を持った敵」は、『ガンバの冒険』のノロイを彷彿とさせてかなり怖いです。あとは、そうですね、推しになるか分かりませんが、この作品の章題はマジック:ザ・ギャザリングを意識したもので、フレーバーテキストまでついていて楽しいです。たとえばこんな感じです。

第12話 かくれんぼ / Hide and Seek
エルフに森で追われたとき、木の陰に隠れるっていうのはそんなに悪い手段じゃないよ。
全く意味のないその行為に何の意味があるのか、数秒くらいは考えてくれるさ。

第14話 度量衡 / Metrology
1メートルは、1秒の299792458分の1の時間に誘導呪物による通信魔術が伝わる行程の長さである。
――第22回国際度量衡総会決議1、竜歴5463年

第19話 穴 / Hole
良いことを教えてあげる。
あんたのその作戦とドーナツには、共通点があるわ。
――緑の魔女、ニーナ


面白さの問題じゃない、とか言われたら、さすがに読んでみようかなとは思わないな…。まあでもカクヨムで連載続くみたいですよ。 - yuatastのコメント / はてなブックマーク

語弊を恐れず書いたら語弊を招いたようですが、もちろん「そんなに面白くないよ」と言っているわけではなく、「面白いのは当然としてそれだけでなくこのコンセプトは最後まで刊行してこそじゃないか」と言っているのです。それと、作者に「続きを書いてくれ」とお願いしているのではなく、出版社に「続きを出してくれ」とワガママ(ワガママでしかないことは自覚しています…)を言っているのであって、Webで続きが読めるからいいという問題ではないんですよね…。

せっかくだし平成を代表するラノベを30作品ほど選んでみる

「なんか平成にちなんだこと書くか」と思うたびに思うんだけど平成って長すぎる。1990年代・2000年代・2010年代の三十年間をほぼ内包している。ライトノベル史の大半がこの三十年間に収まってしまう。「平成のベストラノベ」とかほとんどオールタイム・ベストじゃねえかって感じだし、「平成のラノベを振り返る」とか言ってもラノベ全史みたいなもんじゃねえかって感じだ。それでもなお振り返ろうとしても俺は90年代にはラノベに触れていなかったので伝聞でしか振り返れなかったりする。あとなんか90年代って昭和扱いされてる感があるよな。いや、ともかく、そういうわけで、1990年代・2000年代・2010年代のそれぞれでなるべく客観的にその年代を代表する10作品を選んで、合計して30作品。この方向性でいこうと思う。

1990年代

1989 無責任艦長タイラー
フォーチュン・クエスト
1990 スレイヤーズ
1991 ゴクドーくん漫遊記
1992 十二国記
1993
1994 魔術士オーフェン
1995 セイバーマリオネットJ
1996
1997
1998 ブギーポップは笑わない
マリア様がみてる
フルメタル・パニック!
1999

ラノベ史を語るのは目的じゃないので簡潔にまとめると、90年代の開幕を飾るは『スレイヤーズ』、前後して『フォーチュン・クエスト』『ゴクドーくん漫遊記』などのファンタジーの隆盛、やや遅れて『魔術士オーフェン』、90年代に猛威を振るったあかほりさとるも忘れずに、そして1998年の特異点っぷりがすごい、という感じ。

さらに、この中から特に三つ選ぶとしたら、やはり『スレイヤーズ』『オーフェン』『ブギーポップ』かな?

2000年代

2000 キノの旅
2001 イリヤの空、UFOの夏
2002 戯言シリーズ
2003 涼宮ハルヒの憂鬱
2004 とある魔術の禁書目録
ゼロの使い魔
2005
2006 図書館戦争
2007
2008 生徒会の一存
俺の妹がこんなに可愛いわけがない
2009 ソードアート・オンライン

ようやく俺の知ってる時代なので、ちょっと饒舌になるぜ。西尾維新は、知名度的には『化物語』なんだろうけど、ことラノベにおける影響力という点では『戯言』が飛び抜けてるでしょう。異能バトル系では『シャナ』も入れたかったけど、まあどちらかしか入れられないとしたら『禁書』で仕方ない。『ハルヒ』『シャナ』『ゼロ魔』が一時期のラノベの代表格だったんだなあ。で「越境」の象徴『図書館戦争』。『生徒会の一存』は萌え四コマ的な「日常系ラノベ」を作り上げたという点でもっと評価されるべき。『生存』を優先したので『はがない』は泣く泣く落選。『俺妹』はシーンの雰囲気をガラッと(いろいろな意味で)変えたということで、90年代における『ブギーポップ』みたいな立ち位置だと思う。

さらに、この中から特に三つ選ぶとしたら、やはり『ハルヒ』『禁書』『SAO』かな?

2010年代

2010 まおゆう魔王勇者
2011 魔法科高校の劣等生
ビブリア古書堂の事件手帖
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
2012
2013 ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
この素晴らしい世界に祝福を!
2014 転生したらスライムだった件
2015 りゅうおうのおしごと!
君の膵臓をたべたい
2016
2017 86 -エイティシックス-
2018
2019

「なろう系」と「ライト文芸」の時代っすよねー。『まおゆう』はSAOからなろう系の隆盛へとつながるなかで重要な立ち位置を占めていると思っているので入れてみた。なろう系の頂点『魔法科』とライト文芸の精華『ビブリア』が同年。Web発の人気作『ダンまち』『このすば』『転スラ』、さらに加えるなら『オバロ』『幼女戦記』『Reゼロ』『盾の勇者』あたりか。「なぜかこのラノでやたら強い枠」としての『俺ガイル』と『りゅうおう』。なろう出身でライト文芸として大ヒットした『君膵』は象徴的。2010年代後半はまだ評価が固まっていないと思うけど、次世代のホープ『86』は入れておきたい。

さらに、この中から特に三つ選ぶとしたら、…難しいな。なろう系から『魔法科』、ライト文芸から『ビブリア』、文庫ラノベから『俺ガイル』、って単なる2011年組じゃん。

まとめ

さらにさらに、この中から特に三つ選ぶとしたら?

スレイヤーズ』『ハルヒ』『SAO』

でいいんじゃないかと思うんだけど、どうだろう?

君も好きな作品を選んで、自分だけの平成ラノベデッキを作ろうぜ!

おまけ

ラノベ史ざっくり振り返りということではこちらのTogetterがオススメだよ。
togetter.com

最近のライトノベルは「共和国」をどう描いているか?

togetter.com
ここ数日、「共和国なのに王様が統治しているラノベがあって嘆かわしい」という話題が盛り上がっておりまして、「ラノベならさもありなん」とか、「考えなしに共和国って名前だけ使ってるんだろ」とか、あるいは「そもそもラノベに共和国とか出てこなくね?」とか、好き勝手に言われていましたので、最近のラノベで「共和国」がどのように描かれているか、というところを軽く紹介してみたいと思います。

『86 -エイティシックス-』のサンマグノリア共和国

86―エイティシックス― (電撃文庫)

86―エイティシックス― (電撃文庫)

ラノベ 共和国」でググったら真っ先に出てきました(2019年4月現在)。ラノベ業界において次世代のホープと見なされている人気作品でございます。

「サンマグノリア共和国」は第一巻の舞台となる国で、自由・平等・博愛・正義・高潔を旨とする誇り高き民主主義国家です。……が、作中ではそんな素晴らしい理念も見る影はなく、「人間以下の被差別民がパイロットだから実質的に無人兵器www」とか言って主人公たちを死地に追いやるクソ野郎どもとして描かれています。というと、いかにも「分かりやすい悪役」だと思われるかもしれませんが、全体としては「おまえらだってこんなクソ野郎になるかもしれないぞ」と読者にナイフを突きつけてくるような作品になっておりますので、ご安心ください。

もうひとつ、ちょっとしたネタバレになってしまいますが……『86』には「ギアーデ連邦」という共和国も登場します。こちらは「ギアーデ帝国」で革命が起きて生まれた国で、そのギアーデ帝国の「最後の皇帝」が密かに匿われていたりします。すなわち「共和国に皇帝がいる」ことになりますね。

天鏡のアルデラミン』のキオカ共和国

主人公たちの属する「カトヴァーナ帝国」が斜陽の大帝国として描かれるのに対して、その最大の敵である「キオカ共和国」は上り調子の新興国家として登場します。主人公は帝国の腐敗にほとほと嫌気がさしており、いずれキオカに滅ぼされることを予測していますが、その意に反してどんどん出世していき、帝国の元帥としてキオカと戦うことになっていくのです。とはいえ、キオカもけっこうキナ臭い感じに描かれており…やはり一方だけを単純に持ち上げるわけではありません。

主人公・イクタは「常怠の智将」、ライバルであるキオカの司令官・ジャンは「不眠の輝将」という、完全に銀英伝をパロった二つ名を持っていてギャグにしか見えないのですが、実のところ、この二人の名将のありかたが「権力を分散する共和制」と「名君に依存する君主制」の対比になっているんですよね。イクタとジャン、カトヴァーナとキオカ、「帝国」と「共和国」が激突するクライマックスは必見です。

幼女戦記』のフランソワ共和国

幼女戦記 (1) Deus lo vult

幼女戦記 (1) Deus lo vult

第一次・第二次大戦期のヨーロッパをモチーフとして、「帝国」とその周辺諸国の一大戦争を描く、異世界転生系架空戦記ファンタジーです。というわけで「フランソワ共和国」は完全に史実のフランスそのまま、国名や人名を変えただけ、というタイプの描かれ方ですね。ゆえに共和制を変に解釈しているということもないでしょう。

史実を下敷きにしていると言えば、冷戦時代の宇宙開発競争をモチーフに「吸血鬼の少女」という一摘みのフィクションを加えて描かれる『月とライカと吸血姫』の当初の舞台も共和国、すなわち「ツィルニトラ共和国連邦」でした。やはりソ連そのものなので、王様やお姫様は登場しません。「吸血姫」とありますが、本当の姫ではありませんし、神魔を狩ったりしませんし、十七分割されたりもしません。

『剣と炎のディアスフェルド』のアルキラン共和国

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

剣と炎のディアスフェルド (電撃文庫)

こちらの「アルキラン共和国」は、主人公たちの住む小王国群「ディアスフェルド」を侵略せんとする超大国です。主には共和政ローマがモチーフだと思いますが、ローマ帝国イスラム帝国モンゴル帝国といった歴代の巨大帝国の要素も混ぜ込まれており、なんとも独特な国家として描かれています。

まず、内政・軍事・外交のそれぞれの部門に、「三皇」と呼ばれる最高責任者がいます。「おっ、共和国の皇帝!?」と思いきや、彼らは選挙によって選ばれ、政策を執行するにも議会の承認を得ているようなので、古代ローマの執政官をアレンジしたような存在と言えるでしょうか。また、アルキランには「戦争で得られるものを労働で得てはいけない」という国是があり、そのため対外戦争を継続して領土拡大しなければ経済を維持できないという自転車操業状態に陥っています。特に森林資源の枯渇が深刻化しており、三皇のひとりが「そろそろ植林しない?」と提案するも、国是に反すると人気が落ちて選挙で負けちゃうし…ってな感じで、森深きディアスフェルドに侵攻せざるを得なくなるわけです。

「共和国」ながら独自の政体が描かれているパターンということで、他の作品に比べるとマイナーですけど紹介してみました。神話や伝説のエッセンスがぎゅうぎゅうに詰め込まれた、本当に面白い作品ですよ。

そもそも「王様が共和国を統治しているラノベ」って実在するの?

実は有力候補を見つけています。
ずばり『いちばんうしろの大魔王』です。

マリン
海の中にある共和国の国王の青年で皇帝の血を引いている。

いちばんうしろの大魔王 - Wikipedia

ちょっと記述がわかりづらいですが、「帝国」の皇帝の血を引きつつ、海中にある「共和国」の国王を務める青年、らしいです。私は実物を読んでいないので、もしかすると作中で何らかのエクスキューズが示されているかもしれません。情報募集です。

ちなみに、この作品は藤子不二雄作品のパロディが多く、「マリン」というキャラも藤子不二雄の『海の王子』がモチーフではないかと言われています。その『海の王子』では「海底王国」らしいので、それをあえて「共和国」に変えた意図というのは何かしらあるのかもしれません。

とはいえ

これだけ探しても「王様が共和国を統治しているラノベ」がほとんど見つからなかったことは事実なので、この話題の発端となった教授には「言うほどそんな作品ばかりじゃないから大丈夫ですよ」と申し上げたいところです。

続きを読む