「悪」をモチーフとしたラノベは数多くある。主人公が犯罪者であったり、殺し屋であったり、あるいは流行りの「魔王」系の作品も同一ジャンルと言えるだろう。しかし、こと「悪の組織」を描くとなると、やはり仮面ライダーやスーパー戦隊の影響力が強すぎるのか、パロディ色の強いコメディ作品になりがちである。もちろん、それが悪いとは言わないが、たまにはシリアスな「悪の組織」も読みたいと思うのが人情というもの。

Hyper hybrid organization (00-03) (電撃文庫 (1170))
- 作者: 高畑京一郎,相川有
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2005/11
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『HHO』は圧倒的な筆力に任せて悪の秘密結社という荒唐無稽な代物にリアリティを与えてみせたが、しかし、そんな荒業は誰にでも出来るものではない。ましてやこれがデビュー作だという新人作家には尚更である。
第15回スニーカー大賞《優秀賞》受賞作『丘ルトロジック』。この作品は特撮パロディや変身ヒーロー物を謳っているわけではない。あらすじを見れば、どちらかと言うと『涼宮ハルヒ』シリーズのような、ちょっと変わったキャラクターたちのちょっと変わった部活もの、といった趣である。名前からして「オカルト研究会」なのだから悪の組織とは似ても似つかないように思える。
しかし、そのオカルト研究会の面々を見てみよう。頭は単純だが剛力無双の怪人、爆発物が大好きな狂科学者、無駄に色気たっぷりの女幹部、美しいものを愛でるイケメン、そして世界の支配を企むカリスマ的な首領――こうして並べてみれば、まさしく悪の組織である。そう、このオカルト研究会は「悪の組織」を名乗らない「悪の組織」なのだ。
たとえば第一巻には「死なない男」が登場する。ビルから男が飛び降りるのを見たという通報があったが何故か死体は見つからない――という不可思議な事件。これがミステリなら「実は通報者の悪戯でした」とか「実は死体に見せかけた人形で」といった解決編が用意されているだろう。しかし『丘ルトロジック』はそういった「解決」には興味がない。結局、「死なない男」は本当に死なない男であり、彼を味方に引きずり込んで、オカルト研究会はそれで満足してしまう。
彼らが「死なない男」をつかまえたのは、もちろん街の治安を守るためではない。自分たち以外の存在が「街を恐怖で支配する」ことが許せなかったからなのだ。オカルト研究会のメンバーはそれぞれに人間社会では生きていけない異形の者たちであり、だからこそ逆に人間たちを「支配」しようとする。
オカルト研究会の代表・沈丁花桜はこう宣う。
「この美しい世界を人間から取り返そう」
――いかにもラスボスの言いそうな台詞ではないか。
関連リンク:丘ルトロジック 沈丁花桜のカンタータ

丘ルトロジック 沈丁花桜のカンタータ (角川スニーカー文庫)
- 作者: 耳目口司,まごまご
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- 作者: 耳目口司,まごまご
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