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「All You Need Is Kill」と「オール・ユー・ニード・イズ・キル」

映画版「オール・ユー・ニード・イズ・キル」のストーリーは、原作「All You Need Is Kill」から大きく変わっているが、その中でも特に気になった点について述べることで、映画版の感想の代わりとする。以下、多少のネタバレがある。


最初に軽く説明しておこう。AYNIKは「ガンパレード・マーチ」や「マブラヴ オルタネイティヴ」のような異種侵攻ものの系譜に属している。人類は正体不明の怪物たちとの戦争において長く劣勢を強いられている。その戦場で主人公はタイムループに陥る。
ループものと言えば、今なら「シュタインズゲート」などが思い出されるかもしれないが、AYNIKの特徴は、シュタゲのようなパズルじみた時系列、バタフライ効果による状況の変化、といった要素に重きを置かない点にある。
AYNIKのタイムループは単純明快で、それは「斬り覚える」ための設定である。ループ中にいくら体を鍛えても、時間がリセットされれば肉体も元に戻る。なぜループを繰り返すと主人公は強くなるのか。経験である。実際の戦場でひたすら斬り覚えることによって主人公は強くなるのである。
…というようなところは、原作でも映画でもあまり変わっていない。では何が変わっているのか。


ひとつは、ヒロインであるリタ・ヴラタスキが、ループ能力を既に失っているという点である。
原作はボーイミーツガールの物語である。戦場の数日間に閉じ込められ、人類のためにたった一人で戦い続けていた中で、初めて「自分と同じ存在」と出会う。ふたりだけの時間、奇跡的なひとときを共有する。だからこそ、その出会いは劇的に、その別れは切ないものとなる。
しかしリタにループ能力がなければ話が違ってくる。映画でのリタはかつてループを体験した「先輩」にすぎない。いまや唯一のループ能力者であるケイジに訓練を施す教官であり、彼と共にギタイの殲滅を目指す戦友である。しかし、ギタイに対抗できる唯一の手段を失っている時点で、ケイジと同じ「主人公」には、リタはなりえない。
「少年と少女の出会いと別れ」というセンチメンタリズムを捨て、「世界を救えるのはたった一人だけ」というヒロイズムを選んだ、といったところだろうか。


もうひとつは、敵であるギタイが、宇宙からの侵略者になっているところである。
原作でのギタイは自律思考を持った惑星改造用マシンである。人類がいるとも知らずに遥か遠くの星から地球に送り込まれたものである。
人類が必死に戦っている相手が人類を認識すらしていないただの工作機械だった…という非対称的な設定が、原作を読んだ時に印象に残っていたのだが、映画でのギタイは地球を侵略する宇宙人そのものであり、地球人を殲滅するために戦略を考え、ケイジを始末するために囮を使ったりもするのである。
ちなみに、ギタイサーバがタキオン通信で過去に情報を送る云々のSF的な設定も、映画では「時を操る能力」という漠然としたものになっている。もちろん意味のない改変ではないのだが。
ともかく、原作はあくまで「ケイジとリタの物語」なのだが、映画では最後まで「人類とギタイの戦争」が中心となっている印象だ。


と、二つの「改変」について書いてきたが、当然ながら「原作に準拠していないからダメ」と言うつもりはない。映画自体は非常によく出来ている。戦場に降り立ったパワードスーツの兵士たちが、秩序もクソもなくわらわらと突っ込んでいって、いとも簡単に死んでいく戦闘描写は新鮮で面白かったし、ギタイのビジュアルも素晴らしく、俊敏で強靭な「異生物」感が、圧倒的な絶望を掻き立てる。アメリカ製のアクション映画の豪華さと爽快さ、そこに日本製のライトノベルのエッセンスがふわりと香る、そんな映画だったと思う。


もしあなたが映画だけを観てまだ原作を読んでいないなら是非とも読んでみて欲しい。映画とはまったく違う物語があなたを待っている。あるいは原作にわりと忠実な漫画版もオススメだ。
そして同作者の作品が気になったなら、オンライン対戦の格ゲーに没頭する青年を描いた『スラム・オンライン』や、コンピュータプログラムとして魔法を操る現代の魔女たちの活躍を描いた『よくわかる現代魔法』も読もう。いずれ劣らぬ傑作である。さあ読もう。いますぐ買おう。

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