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「好きラノ 2022年上期」投票


ブービージョッキー!!

作者の競馬歴三年、好きな馬はアーモンドアイ、ほーんお手並拝見、くらいの気持ちで読み始めたら、第一章でもうゴリゴリに取材した競馬小説であることが分かって一発でやられてしまった。なんで新人なのにこんなに上手いのかと驚いて検索したら既にプロデビューした人の再受賞作だった。納得。作品としてはもう否定しようがないくらい競馬版「りゅうおう」なんですよ。綿密な取材とくだらねえ下ネタ。ダービー勝利後にスランプの若手ジョッキーのもとに美少女が転がり込んでくる展開。でもそれが劣化コピーとかではなく「面白さ」まで含めて本当に「りゅうおう」と同じだって気付くんですよね。というわけですごく良かったです。競馬ファンって「ギャンブルとして好き」「スポーツとして好き」「生き物として好き」の3パターンくらいに分かれると思うんですけど(重複アリ)、作中の描写からしてこの作者は生き物としてのサラブレッドが本当に大好きなんだろうなと思いました。

【22上ラノベ投票/9784815614393】

紅蓮戦記

主人公は桁違いの実力を持つ魔術師で、当たるところ敵なしで連戦連勝なんだけど、既に祖国は滅びかけで敗戦は決定的、どんなに主人公がすごくても挽回できない状況で、とはいえ主人公もそんなに愛国心が強いわけでもなく、悲壮感があるわけでもなく、飄々と戦っているという戦記ファンタジー。んで敵方も、主人公を捕まえたら処刑しようだの、いや味方にして利用しようだの、まだ少年なんだから解放すべきだのと紛糾したり、そのあいだに主人公にボコボコにやられたり、主人公の旧友たちがなんとか主人公を助けようと奮闘していたり。いろんな人の視点で描かれるドタバタ劇という印象もある。作者らしくミリタリ的な描写はしっかりしつつも意外にゆるい空気感を維持していてバランスいいなーと思う。期待どおりの面白さだった。是非とも続きを読みたいな。

【22上ラノベ投票/9784046814739】

濁る瞳で何を願う ハイセルク戦記

いちおう転生ものだけど、知識チートとかは無く、主人公が抱える僅かばかりの現代的価値観に反映されている程度。敵方にも異世界転移してきた勇者パーティみたいなのがいて、主人公と好対照の位置付けとなっている。いまのところ主人公はレアなスキルを身につけて活躍はしているけど、それで出世するのでもなく、現場の一兵卒の視点での荒んだ戦場描写に終始していて、なかなかストイックだ。しかつめらしい文章にしようとして意味が通らなくなっている箇所もあるが、全体として読み応えのある作品だった。いろいろ伏線を仕込んでいる感もあるので、ここからの捻り具合によってさらに面白くなりそう。

【22上ラノベ投票/9784065242490】

亡びの国の征服者

やっぱり面白すぎな。一気に読んでしまった。前回から引き続きの逃亡行、そしてようやく助かったと思ったら今度はギリギリの撤退戦と、息もつかせぬ危機の連続で、前半は主人公の戦士としての強さ、後半は指揮官としての強さが映える。優秀な主人公がギリギリ乗り越えられるくらいのピンチっていうか。次の展開がギリギリ予測できないくらいの意外性っていうか。引き込まれるなあ。徐々に部下が揃ってる感じもあり、シヤルタ本国での戦争、あるいはその後の戦いになるのかわからんが、それに向けて一段落しつつもどんどん盛り上がっていっている。次巻も楽しみ。

【22上ラノベ投票/9784824001313】

ヘンダーソン氏の福音を

今回も素晴らしかった。アグリッピナ師が唐突に官職領地付きの貴族に抜擢されたところから始まる政界暗闘編。師は政敵たちを一網打尽にすべく策を練り、主人公は異形の暗殺者と剣を切り結ぶ。また違った方向にスケールアップして非常に読み応えのある展開だった。師の戦闘シーンは空の境界の橙子師みたいで良かったな。そして外伝はエーリヒとアグリッピナ師が結婚するif。これまた末弟主人公の珍道中を描いた次世代編を読みたくなる面白さ。姉様方がスレイヤーズみたいに大暴れするやつがいい。作者氏の身体を大量複製してこれまでの外伝の続きをひたすら出力してもらいたいよ。

【22上ラノベ投票/9784824001085】

Dジェネシス

現代ダンジョンもの。キャラメイク(ステ振りとスキル選択)の能力を得た主人公がダンジョンにまつわる様々な現象を理系的に分析するのと、それにまつわる国際的な政治情勢をさまざまな視点から描くというのがストーリーの二本柱で、作者の広範な知識もあり、緻密で奥行きのある作品となっている。しかし一方で、主人公の能力入手シーンに代表されるように、テンプレ部分がものすごい雑に処理される嫌いがあり、また垣間見える作者のセンスもちょっと合わないなと感じるところがある。至道流星とか芝村裕吏みたいな印象。とはいえ評判どおりの面白さであることは確かなので、続きも読んでみたい。

【22上ラノベ投票/9784047370647】

転生したら皇帝でした

面白かった。権力者たちの傀儡でしかない幼帝に転生した男が実権を取り戻すために画策していく話。キャラは緩いけど、歴史知識をしっかり持ってる作者がかなり細かく設定を練って作ってる印象だな。大陸に割拠する国々、さまざまに分派した宗教が、どう成り立って、権力闘争にどう関わるかまで、しっかり説明していくスタイルで、歴史小説的な面白みがある。魔法の設定とかも作り込んでる感じ。ただ一巻に盛り上がりどころを入れられなかったタイプのようで、この巻だけだとぜんぜんストーリーに起伏がなく、準備段階だけで終わってるんだよな。まあ二巻が楽しみだ。

【22上ラノベ投票/9784866994017】

エナメル

ちょっとスカした陰のある美少年とワガママでエキセントリックな美少女が日常の謎を解く青春ミステリ。いや良いっすね。こういうのが欲しかった。機能不全の家庭で育ったキャラが多く登場したり、最も恵まれていたヒロインは事故で下半身不随になっていたり、歪んだ人間の起こす事件だったり、全体に陰鬱な雰囲気が漂っているんだけど、根っこの部分では本当に年相応のめちゃくちゃ可愛らしいカップルの話なんですよね。複雑な事情で隠れてるだけで。難なく事件を解いてしまう賢くて大人びた二人が「自分の運命の相手はこの人だ」って何の根拠もなく馬鹿みたいに信じてるんですよ。可愛すぎか。

【22上ラノベ投票/9784101802343】

偽典・演義

面白い。何進亡きいま主人公の李儒が完全に漢王朝フィクサーとなって生き生きと暗躍しているのが楽しい。董卓曹操孫堅といった面々が、李儒に振り回される役回りで登場するんだけど、漢王朝が史実よりも力を保っていることもあってか、現状で「李儒と競い合うライバル」ではないんだよな彼らは。それで本来の三国志の群雄割拠感が薄れて「李儒くんの後漢運営シミュレーション」としての面白さが出てきている。一方で大枠としては史実に近い形で進んでいて李儒の思いどおりにいかないことも多い。このバランス感覚というか綱引き感は歴史改変ものの醍醐味だなあ。

【22上ラノベ投票/9784803016383】

勇者刑に処す

これで勇者の面々が全員登場したのか。ううむ、とにかく小説が上手いよなあ。今回はあらすじだけ見れば「街を守る」とか「裏切り者を探す」とか平板な感じだけど、実際は見事に山あり谷ありで読ませるし、それでいてクドくないから疲れないし、懲罰勇者たちはいずれも個性的な面々で、といって無理に奇を衒うわけでもなく、王道の熱さがあり、驚きの展開もあり、すべてがちょうどいい。作品のパラメータがオール90って感じがする。懲罰勇者たち、ほんとみんな魅力的なんだよな。こんな奴らがこれだけ頑張っても、人類が自分から負けにいってるとかどうなってんだよ。

【22上ラノベ投票/9784049141030】