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2ch発の魔王勇者系SSの隆盛と魔王勇者系ライトノベルの増加は関連しているのか?

「魔王と勇者モノ」が出てきて親しまれた背景 - Togetter 「魔王と勇者モノ」が出てきて親しまれた背景 - Togetter

このツイートでは「2chで魔王勇者系SSが流行」→「ライトノベルで魔王勇者系が群雄割拠」という流れだと言われていますが、実際にはどうだったのかと疑問に思ったので、ちょっと考えてみました。

SSの方の話

まず、「ゲームのお約束に対する素朴な疑問」というのは、それこそドラクエが発売された頃からずっと子供たちの心に刻まれていたものだと思います。そうした「お約束」を生かした二次創作も数多く作られていたことでしょう。ドラクエ4コマは言うに及ばず。ライトノベル絡みで言えば、たとえば今をときめく冲方丁が自サイトに書き残した『ドラゴンクエストII 任侠鉄砲玉伝説』(2001年)は名作です。


「なぜ魔王は〜」から始まるような考察記事もブログ界隈では古くから人気でした。
2007年頃に盛り上がった分が、以下の記事でまとめられています。
なぜ魔王は世界征服できないのか? - 萌え理論ブログ


そのような中で、2ちゃんねるニュース速報VIP板(2004年6月〜)には、「ドラクエSS」という文化があったようです。あまり詳しくないのですが、2006年の『ライアンですが、場車内の空気が最悪です』や『勇者の代わりにバラモス倒しに行くことになった』、それと2009年の『片乳首出したおっさんの後つけたら天空の剣見つけたwwww』あたりが有名なんでしょうか。それぞれ有志によって漫画化されていたり動画化されていたりしています。


そのあとに、ドラクエに限定しない(でもドラクエ風の)魔王・勇者系SSが登場します。ちょっと調べてみた感じでは2008年頃からでしょうか。『魔王はなかまをよんだ!しかしだれもあらわれなかった!!』とか面白かったですね。とりあえずググって出てきた魔王・勇者SSまとめも貼っておきます。これが全てでは無いでしょうけど。


こうした魔王・勇者系SSの中で、おそらく最大のヒット作が、2009年9月開始の『魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」』でしょう。ネット上で話題になり、書籍化もされました。


魔王・勇者系SSで、このように出版されてヒットしたのは、『まおゆう魔王勇者』が最初ではないかと思います。
最近ではこのような本も出ましたが。


ということで、「魔王勇者系SS」の流れを大まかにまとめると、2005年頃「ドラクエSS」→2008年頃「魔王勇者系SS」→2010年「『まおゆう魔王勇者』ヒット」となるでしょうか。

ライトノベルの方の話

とりあえず2000年以降の「魔王・勇者」系ライトノベルをまとめてみました。はてなグループの終了日を2020年1月31日(金)に決定しました - はてなの告知のリストをベースに、ラノベの杜 - DB検索「魔王」とか「勇者」とかを検索してみたりしています。全てを読んでいるわけではないので「あれがなくね?」「これちょっとちがくね?」というものはあるかと思いますがご容赦を。

2000年 8月 あおしまたかし ブレイブ・ハイスクール! [asin:4086300087]
10月 あすか正太 アースフィア・クロニクル [asin:4840216290]
11月 喬林知 今日からマのつく自由業! [asin:4044452016]
2001年 11月 豪屋大介 A君(17)の戦争 [asin:4829113812]
2002 9月 あおしまたかし デモンズ・クラッシュ! [asin:4044282013]
神代明 世界征服物語 [asin:4086300974]
2月 鏡貴也 伝説の勇者の伝説 [asin:482911410X]
10月 淺沼広太 魔王、始めました [asin:4086301008]
2004年 2月 杉原智則 てのひらのエネミー [asin:4044300011]
9月 六甲月千春 まおうとゆびきり [asin:4829116412]
2006年 1月 三浦良 抗いし者たちの系譜 [asin:4829117877]
9月 清水文化 くじびき勇者さま [asin:4894254719]
11月 真朝ユヅキ 魔王サマと勇者の私 [asin:4086008467]
2007年 3月 川口士 ステレオタイプ・パワープレイ [asin:4757519907]
2008年 2月 水城正太郎 いちばんうしろの大魔王 [asin:4894256606]
11月 田口仙年堂 魔王城一限目 [asin:475774563X]
2009年 2月 はむばね 魔王さんちの勇者さま [asin:4199051929]
5月 七飯宏隆 放課後限定勇者さま。 [asin:4048678140]
7月 伊都工平 Xの魔王 [asin:4840128472]
11月 島健 魔王さまげ〜む! [asin:4059035424]
2010年 2月 高遠豹介 ぷれいぶっ! [asin:4048683314]
秋口ぎぐる いつか、勇者だった少年 [asin:4022739320]
5月 哀川譲 俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長 [asin:4048685481]
上栖綴人 はぐれ勇者の鬼畜美学 [asin:4798600423]
6月 無嶋樹了 ハガネノツルギ [asin:4798600849]
9月 沢上水也 魔王はあまねく愛をまく! [asin:4797361522]
11月 夏緑 魔王学校に俺だけ勇者!? [asin:4798601411]
ひびき遊 勇者ノ心得 [asin:4047268909]
2011年 1月 川波無人 萌えるゴミは火曜日に [asin:4758042047]
2月 和ヶ原聡司 はたらく魔王さま! [asin:404870270X]
5月 ゆうきりん 魔王なあの娘と村人A [asin:404870513X]
志麻友紀 勇者召喚ッ!! [asin:4047272701]
9月 伊藤ヒロ 魔王が家賃を払ってくれない [asin:4094512969]
10月 原田源五郎 魔王っぽいの [asin:4094513000]
11月 大楽絢太 BIG-4 ぼくの名前は山田。目覚めたら四天
王になってました。
[asin:4829137029]
2012年 1月 冬木冬樹 無気力勇者と知りたがり魔王 [asin:4840143692]
左京潤 勇者になれなかった俺はしぶしぶ就職を決
意しました。
[asin:482913724X]
2月 来田志郎 勇者には勝てない [asin:4048862766]


重要そうな作品をいくつか挙げてみると、

まるマシリーズ

少女向けライトノベルの大ヒット作。アニメ化もされています。
未読ですが、異世界に召喚されて魔王になる話ですよね(超大雑把)。

A君(17)の戦争

異世界に召喚されて魔王になってオタク活動したり戦争したりする話。
ファンタジー物へのパロディ意識も強かった記憶が。

抗いし者たちの系譜

魔王を倒した勇者が、代わって魔王となり大陸を征服、魔物や人間たちを統治する話。
個人的に、『まおゆう魔王勇者』を読んだときに、この作品を連想しました。

いちばんうしろの大魔王

魔法学校に入学したら職業適性検査で「魔王」だと判定されて…という話。
この作品がヒットし、アニメ化されたこともあって、HJ文庫には魔王・勇者系が多い印象。
今度『はぐれ勇者の鬼畜美学』もアニメ化されますし。
以降の魔王勇者系ラッシュの先駆けと言っていいのではないでしょうか。

はたらく魔王さま!

勇者に敗れて現代日本に逃げてきた魔王が、捲土重来を期してマグロナルドでアルバイトをする話。
一緒に逃げてきた部下たちや、あとを追ってきた女勇者と、なんだか家庭的な空気を作っています。
中間管理職の悲哀や、子育て要素もあったりして、「魔王・勇者でシチュエーションコメディ」的なアイディアは、だいたいこの作品でやられているのでは。

以上から説明を試みる

2000年代前半(と言っても90年代の『スレイヤーズ』等の影響が大きいでしょうけど)の『A君(17)の戦争』や『伝説の勇者の伝説』『抗いし者たちの系譜』は、「ゲームやファンタジーのお約束を逆手にとったファンタジー」でした。


一方、2008年頃からの作品は、『いちばんうしろの大魔王』や『はたらく魔王さま!』『魔王が家賃を払ってくれない』のような「ゲームやファンタジーのお約束だけ持ってきて現代的なラブコメや学園物に組み込んだ作品」になっています。学園ファンタジー化は『ゼロの使い魔』(と、さらに遡ってハリーポッター)の影響かもしれません。


主観になってしまいますが、ドラクエSSや魔王勇者系SSは「ゲームやファンタジーのお約束を逆手にとったファンタジー」が多く、具体的な内容を見ても、魔王勇者系ライトノベルとはやや異なるように思います。もちろん、まったくの無関係というわけではなく、たとえば『はたらく魔王さま!』あたりは、内容的にも時期的にも、魔王勇者系SSの影響を受けていてもおかしくないと思いますが。
参考:電撃大賞銀賞受賞作『はたらく魔王さま!』和ヶ原聡司先生インタビュー! - 電撃オンライン


また、ライトノベルで魔王勇者系が急増したのは2010年ですが、この動きは2010年12月発売の『まおゆう魔王勇者』とは明らかに無関係です。少なくとも時系列では、2008年「魔王勇者系SSの増加」→2010年「魔王勇者系ライトノベルの増加」→2010年末「『まおゆう魔王勇者』の発売」となるでしょう。

結論として

2ch発の魔王勇者系SSの隆盛」と「魔王勇者系ライトノベルの増加」は、相互に影響しあって発展してきたとは思いますが、それぞれに独立した流れだったと思われます。Web小説の方の流行はまったく追っておらず、完全に抜けてしまっているので、どなたか補足をお願いします。


余談ながら、自分のTwitterログを漁ってみたところ、私が「魔王勇者系ラノベって流行ってるの?」と思ったのは、『俺と彼女が魔王と勇者で生徒会長』の発売がアナウンスされた頃、2010年3月のことでした。私が特別に流行に敏感なわけではないので、その頃には既にそういった認識が一般にあったと考えていいと思います。



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