WINDBIRD::ライトノベルブログ

ライトノベルブログ

ライトノベル衰退論に対する雑感

ラノベの市場規模の話を突き詰めていくと「いったいどこまでをライトノベルと見なすか?」ということが問題になってくる。ラノベの市場規模を調べるのは難しい。なぜなら「ライトノベル」と見なされる範囲が変動するからである。ラノベの市場規模の発表をしているのは、主に「出版科学研究所の出版指標」と「ORICONエンタメ・マーケット白書」であるが、彼らが定める「ライトノベル」の基準は明らかにされていない。

たとえば「ライト文芸ライトノベルに含まれるか?」という問いは非常に繊細な政治的問題を孕んでいる。私自身は間違いなくライトノベルに含まれると思っているが、「ライト文芸ライトノベルではない」と考えている人も多い。おそらく市場規模の調査においても「ライト文芸」はライトノベルに含まれていない。というか含めると収拾がつかなくなるのだろう。イラスト付きの一般文芸などいまやありふれている。どこまでがライト文芸なのかを判断することは非常に難しい。

ライトノベルの市場規模には電子書籍の売上も含まれていない。漫画業界では、紙書籍の売上を電子書籍の売上が上回ったというが、はたしてラノベ業界ではどうなのか。もちろん売上の低下を電子書籍で補えているかどうかはわからない。「電子の売上なんて大したことない」という話も聞くし、「無視できない売上になっている」という話も聞く。だから「ラノベの売上は減少しているか」という問いには「わからない」と答えるしかない。

しばしば「いまでもラノベの刊行点数は増え続けている」ように勘違いされるが、直近数年の刊行点数はそれほど増えていない。2019年がピークで、2020年・2021年はおそらくコロナ禍のために減少、2022年はやや戻して2018年とほぼ同等になっている(ラノベの杜調べ)。さらに少年・少女向け文庫ラノベの刊行点数は顕著に減少している。

たとえば電撃文庫の刊行点数のピークは2012年である(これは「紙の文庫ラノベの売上」のピークとされる年でもある)。なぜ刊行点数が減少したかと言えば、おそらく同編集部が「メディアワークス文庫」からも新刊を出すようになったからだろう。さらに2019年には「電撃の新文芸」と呼ばれるWeb系大判ラノベレーベルも創刊している。他の編集部においても、いまや文庫ラノベと大判ラノベを同時に編集するのは普通のことである。つまりライトノベルは「少年少女向け文庫」の一本足打法から「ライト文芸」や「大判ラノベ」も含めた多角化経営を進めているのである。

追記。このくだりについて編集者の方から直接指摘が入ったので訂正します。電撃文庫の刊行点数の減少はメディアワークス文庫の創刊とは無関係だということだそうです。リプライを繋げてご解説いただいているのでリンク先に飛んでご確認ください。

追記終わり。

「若者のラノベ離れ」のような話もあるが、もともと読まれてねーだろと思う。私の学生時代にラノベを読んでいる同級生などほぼ皆無だった。もとよりニッチ市場なのだ。日本全国1億2千万人のうちたった1万人が新シリーズを買うかどうかでひーこら言っているような業界なのだ。周囲に読者がいなくて当たり前だ。私だってONE PIECEの今週の展開を語り合うがごとく友達と電撃文庫の新刊の話をしたかったよ。

いや個人的な怨念はさておいて。たとえば「なろう系を買っているのはオッサンだけ」とも言われるが、以前書いたようにWebサイトの「小説家になろう」には若い読者も多くいる。なろう系の大判ラノベを買うのがオッサンなのは、ひとえにそれが高価格だからである。若いラノベ読者が、Web小説だけで満足していたり、図書館で借りていたり、ブックオフで買っていたりすれば、その活動は市場規模には反映されない。その実態は明らかではない。

ラノベ論においては「どこまでをラノベとみなすか」で結論が180度変わってくることは珍しくない。高校生の人気ランキングに入っているライト文芸が「ライトノベルではない」として除外される。そして「ライトノベルは高校生に人気がない」と言われる。いやライト文芸ライトノベルだが、となる。「児童文庫は調子がいいのにラノベときたら」。いや児童文庫だってライトノベルだが、となる。

まあどっちでもいいのだ。要は出版社が赤字でなければいいのだ。私の好きな作品が刊行されていればいいのだ。仮に、万が一、電撃文庫富士見ファンタジア文庫が潰れて、出版科学研究所が「ライトノベル」と見なしていた領域が消滅したとしても、別のところでエンタメ小説は世に出続けるだろうし、私はそれを「ライトノベル」と呼び続けるだろう。なべて世はこともなしだ。