WINDBIRD::ライトノベルブログ

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2025年ライトノベル個人的ベスト10

1. 『悪役令嬢、宇宙を駆ける』

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家柄だけで地球帝国軍の提督になった少女が、異星人との戦いで大敗を喫し、左遷された先で老いさらばえ、とうとう死んだあとに何故か若い頃に生まれ変わって人生をやりなおす、という話。さらに、士官学校の演習中に戦艦がなぜか超長距離ワープして異星人とファーストコンタクト、優秀な同級生たちと協力しながら地球帰還を目指すことになる、というのが一巻の内容。スペオペ戦記としての王道的な面白さに、十五少年漂流記のようなジュブナイル風味もあり、それらを「悪役令嬢」+「やり直し」という今風のフォーマットを使って上手くまとめあげているんですよね。二巻はさらに怪しげな宗教や宇宙海賊、古代兵器など、ますますエッセンスてんこ盛り。素晴らしかったです。

2. 『退魔師転生』

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狐目で関西弁で性格が悪い退魔師の名門の御曹司。まあ『呪術廻戦』の禪院直哉なんですよ。ほぼ二次創作です。ただそれがめちゃくちゃおもしろい。フォーマットとしてはやはり悪役令嬢もの、というか悪役令息もので、転生した主人公は自らの「死亡フラグ」をなんとかしようとするのですが、しかし染み付いた性格の悪さは直らない。もともと「ノクターンノベルズ」に投稿されていたということもあってアダルトなシーンもかなり多く、それがダークヒーロー的な面白さを引き立てています。もちろん異能バトルとしても単純に出来が良い。戦闘シーンがかっこよくて痺れます。

3. 『若くして引退した銀河帝国元帥は辺境の星でオーヴァーロードと暮らしたい』

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瀬尾つかさといえば『クジラのソラ』の頃からSFには定評があったわけですが、まさに期待どおりの快作でした。表面上は「ファンタジー世界でスローライフ」といった感じなんですが、その主人公は銀河帝国の英雄であり、終盤には宇宙艦隊戦があるのはもちろん、その背景では広大な銀河帝国での政争が繰り広げられている。主人公の周囲にいるドラゴン娘やらエルフ娘やらも、しっかりしたSF的な設定に支えられているわけです。ファンタジー世界とSF世界の良いとこどりがとても美味しい作品でした。

4. 『スペースオーク』

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オークが宇宙を股にかけて戦うなろう系スペオペの第二弾。昨年のベスト10にも入れましたが、続編もやはり期待どおりの面白さで、今年はもう完全にSFラノベの年でしたね。一巻はオークの本拠地での話が中心でしたが、今回はオークのお姫様を戴いた新部隊を率いて、主人公が各地を転戦するという流れ。そのぶん新しいキャラ、更なるイベントが次々とやってくるのが楽しく、このごった煮な感じがスペオペの醍醐味ですね。

5. 『処刑大隊は死なせない』

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政治警察+暗殺部隊みたいな仕事をしている主人公たちが、貴族を粛清したり提督を暗殺したりする話。スパイものというほどハードボイルドではなく、ほどよく肩の力が抜けたアクションコメディになっています。やがて革命が成就し、帝国が崩壊するにいたって、そんな厄い職場からどうやってトンズラするかという話になっていく。2巻で完結なんですが、これがまた綺麗にオチがついていて最高でした。

6. 『フェイスレスドロップアウト

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引退した宇宙傭兵がファンタジー惑星で隠居する話。設定としては『若くして引退した銀河帝国元帥〜』と同じ系統ですが、こちらはSF戦記的な要素が無いかわりに、惑星開拓シム的な匂いが強くなっていますね。『最強宇宙船』の作者だけあって一夫多妻のハーレムなのですが、こちらのヒロインたちには「独自の生態がある原住民」感があってクセも強いです。面白かったです。

7. 『奇想怪談×天外推理』

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「天狗の神隠し」「男根を断つ妖刀」「人を狂わせる館」といった怪談の真相を、オカ研が推理していく連作短編ミステリ。作者・玩具堂の十八番である「作中作の読み解き」を活かした内容になっていて、民俗学ミステリ的なゾクゾクを味わうことができます。単に怖いだけではない、オカルトを否定するだけでもない、独特の「おかしみ」が作者の味ですね。

8. 『崩壊世界の魔法杖職人』

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現代文明の礎となる「電気」が天災によりすべて失われ、かわりに「魔法」が使えるようになった人類社会を描く、ポストアポカリプス復興もの。この作者は「こういう能力があったらどう使えるだろう」「こんな行動をしたら社会はどうなるだろう」という好奇心をくすぐるのが本当に上手い。個人が魔法を研究した成果が、社会に反映されて物語が動いていく、このスケールの広げ方、テンポの良さが魅力です。

9. 『カラフ撤退戦』

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ALL YOU NEED IS KILL』などを彷彿とさせるSFミリタリアクション。上下巻完結。ハードコアゲーマーの主人公が謎のVRゲームをプレイする。異種侵略者との戦争のなかで、ハリウッド映画の英雄のごとく活躍するにつれ、次第にその世界に没入していく。「これはリアルなのかゲームなのか」なんてどうでもいい。この絶望的な撤退戦にウジウジと考えている余裕は欠片もない。その吹っ切ったような展開が良かったですね。

10. 『斯くして彼は異能となった』

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前半は「ホラゲベースの現代ハクスラもの」、謎の廃村で悪霊を殺して食って強くなっていく話。そこから脱出した後半は「霊能系の異世界帰還もの」、芸能界やお嬢様学校の悪霊がらみの事件を解決していく話。「序盤の展開からそういう話になるとは思わなかった」という意外性があって、それは乱雑さと紙一重ではあるんですが、ある意味では独自性を感じて好きな作品です。今後の期待も込めて入れておきます。

2025年ライトノベル10大ニュース

ドラゴンマガジン休刊

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ザ・スニーカーは2011年、電撃文庫MAGAZINEは2020年にすでに休刊しており、今年ドラゴンマガジンが休刊となったことで、ライトノベル雑誌はすべて姿を消したことになりました。しかし、ドラゴンマガジンの編集部は後述の「メクリメクル」に参画しているようで、ある意味では「メクリメクル」がドラゴンマガジンの後継誌と言えるようですね。

「キミラノ」が発展的解消して「メクリメクル」に

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というわけで「メクリメクル」です。レコメンドサービスと銘打って作品紹介に力を入れていた「キミラノ」よりも、内容としては雑誌的になっているようです。特に連載コラムの充実が目を引きますね。ラノベだけではなく、いろんなエンタメ業界を横断しながら賑やかにやりましょう、という印象を受けます。「次にくるライトノベル大賞」などもメクリメクルが引き継いだみたいですね。

人気作品が「100刷」を達成

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ハルヒ』『禁書目録』『SAO』が揃って「100刷」を達成したそうです。時期を合わせたのかわかりませんが、おめでたいことです。ちなみに川原礫が言っている「BECファクトリー」とは、KADOKAWAが自前で持っている印刷設備のことで、少部数からでも印刷できるので「刷数」が増えやすいということだと思われます。

noteが小説投稿サイト「TALES」をオープン

tales.note.com
ブログサービスのnoteはもともと「創作大賞」というコンテストを主催しており、そちらはエンタメ小説にかぎらずエッセイ・ビジネス記事・料理レシピまで募集しているという幅の広いものなんですが、そこからの発展として小説投稿サイトを作ったということでしょうか。コンテストが先にあって、後から投稿サイトができるという、ちょっと珍しいパターンになりました。サイトの傾向としてはカクヨムに近そうですが、より広範囲にメディアミックスの起点になりたいという意識を感じますね。

蓬莱学園」復活

www.4gamer.net

プレイ・バイ・メールの伝説的なゲームである『蓬莱学園』が4gamer上で復活しました。もちろんゲームとしてではなく連載小説としてですが。私は世代ではありませんが、その後世への影響はつとに聞くところです。
あの巨大学園が帰って来た! 次週よりスタートする新連載「蓬萊学園の揺動!」に先駆け,その世界観をざっくり紹介

一方、実在の学校が「蓬莱学園」に学校名を変更すると発表したことで騒動になったりも。こちらは話し合いで無事解決したようです。
「蓬莱学園」人気ゲームと同名学園、香川に誕生の珍事 指摘受け発覚「創作活動を妨げる意図一切ない」: J-CAST ニュース【全文表示】

ラノベニュースオンラインアワード10周年

lnoaward10th.ln-news.com

単にアワードが10周年という以上に、現編集長のもとでラノオンがリブートしてから10周年ということなので、とてもおめでたいですね。いにしえの「モノグラフ」の閉鎖以来、多くのラノベニュースサイトが生まれては消えていきました。結局はニッチなので漫画やアニメほど読者を見込めないんですよね。最初期のラノオンだって早々に開店休業状態でしたし。そこから建て直して、現在まで立派に運営をされている現編集長の功績を称え、深く敬意を表したいと思います。

ラノオン主催のライトノベルミーティングも盛り上がっていたようですね。
プロ・アマチュア問わずのクリエイター&編集者の交流イベント「#ラノベの仕事したい! 第1回ライトノベルミーティング」が2025年8月24日(日)開催決定 - ラノベニュースオンライン

出版社がアニメ制作会社を子会社化

もともとKADOKAWAあたりは「動画工房」などのアニメ制作会社を子会社に持っていたのですが、今年はアルファポリスが「WHITE FOX」を子会社化。
prtimes.jp

さらにフロンティアワークスも「横浜アニメーションラボ」を子会社化。
prtimes.jp

アニメの人気は上がっているのに制作会社の経営は苦しいと言われるなかで、出版社はメディアミックスに際してさらなる連携を求め、アニメ制作会社は体力を得るために親会社を求めているんでしょうか。

イラストレーター・がおうの不祥事により挿絵交代

www.oricon.co.jp
イラストレーターの「がおう」の不祥事により、アニメ化作品『ギルドの受付嬢ですが、残業は嫌なのでボスをソロ討伐しようと思います』や『追放者食堂へようこそ!』のイラスト担当が交代となりました。デビュー直前だった『1/nのワトソン』も絵師変更のうえ刊行延期。既に完結している『ハレルヤ・ヴァンプ』は容赦なく電子書籍配信停止となりました。本当にかわいそうでしたね。ずっと「店頭」に並び続けるのが電子書籍のいいところなのにな。

うえお久光復活

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秋山瑞人谷川流と並ぶラノベ界三大遅筆作家(?)の一角として、新作が絶えて久しかったうえお久光がついに復活。電撃文庫の小説サービス「電撃ノベコミ+」にて連載が始まりました。書籍化が楽しみです。

また芳林堂書店の企画で傑作『紫色のクオリア』が復刊していたりもしましたね。うえお久光作品では、個人的には『悪魔のミカタ』が思い出深いです。

田中芳樹、脳内出血で倒れていた


銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』などを執筆した、ラノベ黎明期からのレジェンド作家・田中芳樹が一年前に脳内出血で倒れていた、という報告がありました。不幸中の幸いというべきか、命に関わるようなものではなかったようで、御本人はリハビリに励んでおられるようです。こちらもぜひとも復活していただきたいですね。

『ロビンソン・クルーソー』は本当に長文タイトルだったのか?

ラノベ界隈において「異世界転生といえば火星のプリンセス」「現代知識チートといえばアーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー」 と並ぶ頻出ネタとして「長文タイトルといえばロビンソン・クルーソー」というものがあります。

Wikipediaによるとその「正式なタイトル」は『ヨークの船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と奇妙で驚くべき冒険:彼はアメリカの海岸、大河オロノコ川の河口近くにある無人島で、たった一人で28年間生き延びた;難破によって岸に打ち上げられ、乗組員は彼を除いて全員命を落とした。そして、最終的には海賊によって驚くべき方法で救出された』らしいです。

でもそれって本当なんでしょうか?

べつに私は海外文学の専門家でもなんでもないので、本当に素人の素朴な疑問なんですが。

たとえばWikipediaにアップロードされている『ロビンソン・クルーソー』の初版の扉ページを引用してみましょう。
https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/1/1e/Robinson_Crusoe_1719_1st_edition.jpg
これ、パッと見でどこまでがタイトルだと思いますか。せいぜい「THE LIFE AND STRANGE SURPRIZING ADVENTURES OF ROBINSON CRUSOE, OF YORK,. MARINER」くらいまでじゃないですか。コロンで区切られた「Who lived...」以降は著者の経歴かあらすじのように思えます。

自分にはこれが「ひとつの長いタイトル」ではなく「タイトルと著者情報とあらすじが未分化のまま繋がっている」ように見えるんですよね。

当然ながら、読者がこの作品を呼ぶときに、この文言のすべてが唱えられていたわけではないでしょう。作者のダニエル・デフォーでさえ、『ロビンソン・クルーソー』の第3巻のなかで『the Adventures of Robinson Crusoe』と呼称しています。

あるいは18世紀の書店や個人の蔵書の「カタログ」みたいなものをGoogle Booksで閲覧することができます。おそらく現在のように統一された書誌情報の登録ルールみたいなものは無く、各々が勝手にまとめていたものでしょうが、多くは「ROBINSON CRUSOE」、長くとも「THE LIFE AND STRANGE SURPRIZING ADVENTURES OF ROBINSON CRUSOE OF YORK MARINER」までの題名で記載していたようです。

では、この『ヨークの船乗りロビンソン・クルーソーの生涯と奇妙で驚くべき冒険:彼はアメリカの海岸、大河オロノコ川の河口近くにある無人島で、たった一人で28年間生き延びた;難破によって岸に打ち上げられ、乗組員は彼を除いて全員命を落とした。そして、最終的には海賊によって驚くべき方法で救出された』という文章全体が「正式なタイトル」として扱われていた状況は、本当に存在していたのでしょうか?

同時期の作品である『ガリバー旅行記』も、しばしば長文タイトルの例として言及されます。Wikipediaによると「正式なタイトル」は『船医から始まり後に複数の船の船長となったレミュエル・ガリヴァーによる、世界の諸僻地への旅行記四篇』だそうです。同じく扉ページをWikipediaから引用します。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/4/43/Gullivers_travels.jpg/1920px-Gullivers_travels.jpg

これは『ロビンソン・クルーソー』よりもわかりやすく、「TRAVELS INTO SEVERAL REMOTE NATIONS OF THE WORLD(世界の諸僻地への旅行記)」までがタイトルじゃないですか? 「In FOUR PARTS(四篇)」や「By LEMUEL GULLIVER(レミュエル・ガリヴァーによる)」以下は補助情報ですよね。それぞれを分けるように区切り線も引かれています。これを「全体がタイトルである」と判断するのはどういう理由からなのでしょうか?

ロビンソン・クルーソー(1719年)』『ガリバー(1726年)』以前の小説である『ドン・キホーテ(1605年)』の扉ページも引用します。

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/d/d8/El_ingenioso_hidalgo_don_Quijote_de_la_Mancha.jpg

これはWikipediaによると『El ingenioso hidalgo Don Quixote de la Mancha(機知に富んだ郷士ドン・キホーテ・デ・ラ・マンチャ)』までがタイトルである、とされています。つまり「Compuesto por Miguel de Cervantes Saauedra.(ミゲル・デ・セルバンテス・サアベドラ作)」はタイトルに含まれていません。「DIRIGIDO AL DUQUE DE BEJAR...」以降は献辞のようですが、そちらもタイトルには含まれていません。

「扉ページに書いてある文字はすべてタイトルなんだよ!」と言わんばかりの『ロビンソン・クルーソー』や『ガリバー』と比べると、『ドン・キホーテ』は常識的な範囲でタイトルを決定しているように思えるのですが、この違いはいったいどこに由来するのでしょうか?

要するに、それが「正式なタイトル」であるというのはWikipediaが勝手に言っているだけではないか、この時代に「正式なタイトル」なんて概念はなかったのではないか、という疑問があるのです。

繰り返しますが、私は海外文学の専門家でもなんでもなく、これは本当に素人の素朴な疑問にすぎません。何か歴史的経緯があって学術的にはそれを「正式なタイトル」としているのかもしれませんし、別のところでダニエル・デフォージョナサン・スウィフトが「あれが正式なタイトルです」と表明しているのかもしれません。悪しからず。

『千歳くんはラムネ瓶のなか』が『このライトノベルがすごい!2021』で1位となった背景を考える

アニメ『千歳くんはラムネ瓶のなか』(以下『チラムネ』)がなかなかの苦境に陥っているようで、ラノベクラスタでも敵味方に分かれての泥仕合が盛り上がっております。

私は『チラムネ』を読んでいないし、アニメを観てもいないので、作品内容については触れません。ただ、Twitterなどで「これがこのラノ殿堂入り?」「なんでこのラノで1位を獲れたの?」みたいな声を見かけたので、そのあたりについて解説できればと思います。

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このラノ2021』において、『チラムネ』はWebランキングで6位、協力者ランキングで1位となり、総合ランキングで1位を獲得しました。

簡単に説明すると、「Webランキング」というのは誰でも回答できるWebアンケートに基づくもので「すでに人気がある作品」が上位に来ることが多いです。一方の「協力者ランキング」は選ばれたラノベマニアからのアンケートに基づくもので「まだ人気のない作品」が上位に来ることが多いです。そして「Webランキング」と「協力者ランキング」をごにょごにょしつつ合算したのが「総合ランキング」になります。

ということを考えれば、未アニメ化作品がWebランキング6位というのもわりとすごいのですが、しかし総合1位の原動力となったのが協力者票だということは間違いありません。

この点について「協力者のゴリ押し」「組織票」などと批判されることもあります。しかし、『このラノ2021』における協力者81人のうち、『チラムネ」を1位に選んだのは7人しかいませんでした。5位以内に投票したのも15人だけです。

協力者の投票先は意外とバラバラで、だからこそ何人かの投票先が重なるだけでもランキング上位に入ってしまうのです。

(そもそも協力者だの何だの変な集計をしてること自体に問題があるんじゃねえの、ということについては以下の記事で語っているので今回は割愛します)
kazenotori.hatenablog.com

さらに重要なポイントとして、『このラノ2021』では新規の「協力者」が参加したということが挙げられます。

実に9年ぶりに協力者の募集が行われ、若い「協力者」がどっと入ってきました。つまり『このラノ2021』から投票傾向が大きく変わったわけです。

実際に、『チラムネ』を1位に選んだ協力者7人のうち、少なくとも6人が「その年に初めて協力者になった人」でしたので、その傾向の変化は明らかだと思います。

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なおこのラノ2022』では『チラムネ』が連覇したわけですが、Webランキングで2位、協力者ランキングで4位でしたので、支持率が逆転していることになります。

協力者は96人に増えたにもかかわらず、『チラムネ』を1位にしたのは5人、5位以内に投票したのも12人、と漸減しています。これはもちろん協力者が飽きやすいとかではなく、先述のとおり協力者は「まだ人気のない作品」に投票することが多く、いちど投票した作品を避けがちだからでしょう。

逆に言えば、『このラノ2021』で協力者が『チラムネ』をプッシュした結果、『このラノ2022』ではWeb投票者にしっかり評価された、という流れが見て取れます。

そもそも『チラムネ』は若年層を中心に支持されている作品です。『このラノ2021』の「年代別ランキング」を見ると、『チラムネ』は10代で4位、20代で5位ですが、30代・40代では10位以内にも入っていません

もっと言えば「青春ラブコメ」というジャンル自体が若者受けするもので、同じガガガ文庫の『俺ガイル』や『友崎くん』を支持していた読者が、その系譜に連なる『チラムネ』を支持するのは自然なことでしょう。

そうした流れが「新規募集で若い協力者が増えた」タイミングと重なって顕在化した、というのが『チラムネ』の『このラノ』1位だったのではないでしょうか。

このように『このラノ』は細かく投票データを開示してくれており、たとえ「総合ランキング」が参考にならないと思っても、「Webランキング」「協力者ランキング」「新作ランキング」「文庫ランキング」「単行本ランキング」「年代別ランキング」あるいは「新作ガイド」「ジャンル別ガイド」などを参考にすれば、必ずや素晴らしいライトノベルに出会えるものと思います。

折しも『このライトノベルがすごい!2026』が発売される季節ですね。

今回の『このラノ』は、これまで長らく編集を担当されていたマイストリートの岡田さんが退任し、代わって太田さんが率いる新興のオリミナートが編集を担当しているので、また一味違った誌面になるのではないかと思われます。

みなさん、買いましょう。

2020年代前半の「戦記ラノベ」についてオススメなどを語る

戦記ファンタジーは、ラノベでも常に一定の人気があったジャンルで、これまでに多くの作品が刊行され、いくつかはアニメ化もされてきました。冒険者がダンジョンを探索するような「冒険ファンタジー」とは異なり、国家同士の戦いを君主や指揮官の視点で描いたもの、と定義されるでしょうか。ゲームで言えば「シミュレーションRPG」になるでしょう。

たぶん完全網羅!ライトノベル戦記ファンタジー年表 | ブックオフ公式オンラインストア

ただ、王道的に人気があったというよりは、どこか「裏ローテ」的な扱いだったと思います。

冒険ファンタジーブームが落ち着いた2000年代には、目先を変えるように『ゆらゆらと揺れる海の彼方』『タザリア王国物語』『火の国、風の国物語』『烙印の紋章』などの名作が次々に登場しました。

2010年代には、爆発的な流行を見せていた「なろう系ファンタジー」に対し、「それとは違うファンタジー」を模索して『魔弾の王と戦姫』『天鏡のアルデラミン』『覇剣の皇姫アルティーナ』『グランクレスト戦記』『グラウスタンディア皇国物語』『我が驍勇にふるえよ天地』『天才王子の赤字国家再生術』といった作品が競うように出てきました。

「なろう系」からも、人気作品の間隙を突いて『ウォルテニア戦記』『幼女戦記』『やる気なし英雄譚』などの作品が登場しています。

いずれにしても「主流」にはなれないが「泡沫」として消えるわけでもない、「傍流」としての存在感を維持してきたのが戦記ファンタジーの強さだったと思います。

そして2020年代にもまた戦記ファンタジーの新しい流れが生まれています。その中心にいるのは『オルクセン王国史』でしょう。

オルクセン王国史

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第一次大戦ごろのドイツ帝国をモチーフとして「オークやエルフが存在する世界の架空の歴史」を描いたミリタリマニアらしい作品。コミカライズも人気を博しています。「なろう系」として見れば『幼女戦記』などの系譜と言えるでしょうし、「架空戦記」として見れば『皇国の守護者』『A君(17)の戦争』なども先祖となるでしょうか。

他にも第一次大戦〜第二次大戦ごろを意識した作品がいくつか出ています。

TS衛生兵さんの戦場日記

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一兵卒が主人公なので、あまり「戦記もの」という感じではありませんが、魔法が存在する世界における苛烈な戦場風景が描かれています。主人公は転生者で「前世では天才的なFPSゲーマー」という設定があるのですが、いまのところ、ときどきしか才能が発揮されていません。だいぶスローペースな話なのですが主人公が将来的にどうなっていくのか気になるところですね。

アキツ大戦記

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天狗(エルフ)や鬼(オーガ)が共生する「亜人の国」である日本っぽい国を舞台にした作品。モチーフは日露戦争で、魔法文明をベースに科学も取り入れている東洋と、亜人や魔法を否定して科学を信奉する西洋との対立が描かれています。全体的に架空戦記色が強いですね。主人公は特殊部隊の一員なんですが、戦場から離れたところでエルフの恋人といちゃいちゃしているのがとても良かったです。


もちろん中世〜近世ごろを舞台としたオーソドックスな戦記ファンタジーも多く出てきています。

転生したら皇帝でした

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大貴族たちの傀儡となっている幼帝に転生した主人公が、その立場から脱するための計略を慎重に巡らせていくところを、設定語りも交えてゆっくりじっくり描いていくので、本当にスロースターターもいいところなんですが、皇帝として権力を握って対外戦争に乗り出していく6巻あたりから、個性的な武将も増えてきて俄然面白くなっていきます。6巻かよ。しょうがないんです。でもオススメです。

ルチルクォーツの戴冠 / フリードリヒの戦場

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この二作は同じ作者です。『ルチルクォーツの戴冠』は、貧しい生まれの主人公が急死した王の庶子だったということで即位させられる話。小国が舞台なので中小企業的な内政要素もあるのですが、主人公の軍才はいかにも英雄的です。『フリードリヒの戦場』は、自分は将軍の息子であると偽った主人公が、本当に将軍の養子として迎えられて天才軍師として活躍する話。いきなり王にされて戸惑う『ルチルクォーツ』と、望んで軍人となり上を目指していく『フリードリヒ』、という対比的な面白さがあります。

滅亡国家のやり直し

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祖国の滅亡前にタイムスリップした主人公が、前回の記憶をもとに滅亡を回避しようとする話。庶民出身の主人公が英雄のもとで軍師として成長していく、という筋書きは『フリードリヒ』とタイプが近いですね。戦記ファンタジーとしてはオーソドックスな作りなんですが、「やり直し」要素による未来知識チート的な内政描写もあったりするのが面白いところですね。


さて、なろう系には「内政もの」というジャンルがあります。異世界の貴族などに転生して、前世の現代知識を使って領地を繁栄させていく、というものですね。戦記ファンタジーとは相性がいいというか、戦記ファンタジーにも内政要素はありますし、内政ファンタジーにも戦争描写はありますので、ざっくり言えばほとんど差はないものと言えます。ほんとか?

というわけで内政もの、広く言えば「政治劇」「政争劇」のオススメも挙げてみます。

亡びの国の征服者

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異世界の騎士の息子に転生した主人公、こいつがまた冷静で豪胆、何でもそつなくこなす奴なんですが、その彼が騎士の学校に入学して、現代知識をもとにいろんな商売をやったり、王女さまと仲良くなったり、それで闇深い政争に巻き込まれていったり、異民族の侵攻により滅びかけている祖国を救うために戦いもしたり、という話。内政の要素も、戦記の要素も、深いレベルで絡み合っていて、飛び抜けた完成度を誇る作品です。イチオシです。

汝、暗君を愛せよ

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いま話題の作品ですね。主人公は中小企業の経営に失敗した若社長で、そこからフランス絶対王政時代がモチーフの王様に転生します。国政のあれこれや廷臣たちの人間関係に、中小企業の経営を重ねて描くのが軽妙で、前世の失敗から下手に張り切らない「暗君」として振る舞いながら、難しい時代を乗り切るための決断を下していく主人公の葛藤が面白い作品です。

かくて謀反の冬は去り

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シェイクスピアの『リチャード三世』をモチーフとしつつも、「古代の大和朝廷から急激に近代化した日本のような王国」という個性的な舞台設定が面白い。手足に障害があり、そのために劣等感に苛まれる王弟が、「王の急死」からの後継者争いという荒波を生き残るために、策謀の限りを尽くしていく宮廷劇。権力者たちの大騒ぎはどこか喜劇的でもあり、小気味よく楽しむことができます。


その他、いくつか挙げましょう。

濁る瞳で何を願う ハイセルク戦記

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一巻は、異世界に転生した主人公が特異なスキルを発現させて一兵卒から英雄になっていくという話なんですが、そこから二巻で物語が土台からひっくり返されるような凄まじい展開になり、四巻なんかはダンジョン攻略をやっているという。巻ごとにジャンルがガラッと変わるので「戦記ファンタジー」とも言い難いんですが、まあ面白いことに変わりはありません。

亜人の末姫皇女はいかにして王座を簒奪したか

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一巻完結で、人間と亜人の戦争で活躍した人たちの半生を、史書の列伝のように綴った連作短編集。いかにも英雄然としたキャラは少なくて、個人的な理由で戦った者が全体の趨勢に影響を及ぼしていたり、小悪党か詐欺師かという連中が戦争を大きくしていったり、そういうクセの強い(でも憎めない)英雄たちの物語が連なって、最後には壮大な歴史となるのが魅力的。これもとても面白かったですね。

貞操逆転世界の童貞辺境領主騎士

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男女の歴史的・社会的な性別の役割が逆転しているという、いわゆる「貞操逆転」設定のファンタジー。そのなかで転生者である主人公は、この世界では珍しい筋骨隆々の巨漢、無双の強さを誇る男の騎士として、女王や王女たちのセクハラに耐えながら、さまざまな戦いに奔走する。一見するとキワモノ感があるけれど、土台はまっとうな騎士道物語なので、誰でも楽しめるものと思います。

悪役令嬢、宇宙を駆ける

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ファンタジーではないけど、めちゃくちゃ面白かったのでオススメします。親のコネで地球艦隊を率い、異星人との戦争に大敗した無能な悪役令嬢が、若い頃にタイムスリップしてやり直す話。一巻では、学生たちが乗った宇宙戦艦がワープ事故で三百光年先にまで飛ばされ、そこから異星人とのファーストコンタクトをこなしつつ地球圏まで帰還するというストーリーが描かれます。SF戦記としてしっかりしている上に、悪役令嬢もののエッセンス、さらに『十五少年漂流記』的な物語類型も加えて、何重にも旨味を重ねているんですよね。


と、こうして見ると、なろう系ブームを経て、やはり物語の幅がだいぶ広がったな、と思います。時代は中世から近現代まで。場所は東洋でも西洋でも。戦争を描いたもの、政治を描いたもの。それぞれのジャンルで、紹介しきれないほどたくさんの作品が出ている。今回は挙げませんでしたが、戦国時代転生ものなんかも一種の架空戦記なので、本当にいろいろな作品があるんですよね。『オルクセン王国史』のヒットで、この流れがさらに加速していくのか。期待したいですね。

最後にひとつ。ノクターンノベルズに投稿されている『ウルガリア戦記』という作品が非常に面白いです。いまノクターンノベルズの年間ランキングでダントツの1位になっていますね。ノクターンノベルズはR18のWeb小説サイトなので、ウルガリア戦記にもそういうシーンはあるのですが、それとは別に戦記パートが本当に素晴らしい。私は途中まで読んで「これは書籍化するだろ」と思って続きをとっておいたのですが、実際に書籍化が決まったらしいので読むのが楽しみです。今冬発売予定らしいです。


こちらのブログの記事ではさらに多くの作品が紹介されています。ご一読ください。
yocchi.hatenablog.com

ファンタジーにおける「魔王と勇者」について

古典における「魔王と勇者」

仏教用語としての「魔王」第六天魔王・波旬のことを指しており、この波旬というのはゲーム『真・女神転生』シリーズにインパクトのある姿で登場する「マーラ」という名でも有名である。釈迦の修行を邪魔するためにエロい美女を送り込んだとかいう「煩悩」の象徴みたいなヤツである。織田信長が「第六天魔王」を名乗ったエピソードも知られている。

14世紀に成立したとされる『太平記』には、

上座の金の鵄こそ崇徳院であられる。その側の大男は源為義の八男為朝。その左に座るのは、代々の帝王、淳仁天皇・井上皇后後鳥羽院・後醍醐院で、それぞれ位を逐われて悪魔王の首領となられた、高貴な賢帝たちである。その次に座る、玄肪・真済・寛朝・慈慧・頼豪・仁海・尊雲などの高僧たちも、同じく大魔王となってここに集まり、天下を乱すための評議をしている。

太平記/巻第二十七 - Wikisource

というようなくだりがあり、すでに仏教における「魔王」のイメージから離れて「なんか怨霊のすごいバージョン」くらいの感じで「悪魔王」「大魔王」といった語が使われているように思われる。

16世紀に中国で成立した『西遊記』には、「混世魔王」や「牛魔王」などの妖怪が登場するが、これらも中国の民間信仰における「妖魔の王」のような意味であって、仏教的な「魔王」そのものではない。なお『西遊記』は江戸時代に日本に伝来している。

ここまでは、語としてはあくまで仏教の「魔王」がベースにありつつ、民間伝承のなかでイメージが広がっていったものなのだろうが、明治以降になると、世界各国の神話や民話などが流入し、そこに「勇者」や「魔王」の訳語が当てはめられるようになっていく。

たとえば明治初期に出版された『百科全書』では、キリスト教のサタンを「魔王サタン」と訳している。同書では他に、インド神話の女神ジュルガ(ドゥルガー)の名の由来を述べるくだりでアスラ族のジュルグを「大魔王」と称したり、同じくインド神話のカンサ王や、妖精王オベロンを「魔王」としたり、あるいはインド神話の英雄や、北欧神話のエインヘリヤルを「勇者」と表現してもいる。

この頃においては、「勇者」は単に「勇気のある者」の意味だから、そもそも「魔王」よりも遥かに広範に使われる言葉ではありつつも、ファンタジー的な文脈に限定すれば、やはり神話や伝承上の英雄を「勇者」と呼ぶ例が多かったと思われる。ただし、それは「勇士」などとコンパチブルで、「勇者」という語に特殊な含意があるわけではなかった。そして、もちろん「魔王」と「勇者」が対として扱われているわけでもなく、「海外の悪魔や邪神が魔王と呼ばれることがある」「神話の英雄や豪傑が勇者と呼ばれることがある」といった事例が個別にあるだけだったろう。

ちなみに、明治大正の頃にも、権勢を振るう者を比喩的に「魔王」と呼んだりする例があったことは申し添えておく。

追記:シューベルトの『魔王』については、その元となったゲーテの詩が明治32年の『独逸詩文詳解』にて「魔王」と訳されているのが、おそらく初訳である。

Erlkönigは元来Elbenkönigと云ふべきである、Elbeは独逸の鬼神譚に拠れば、人間を嘲弄したり、侮慢したりする魔物である。(中略)ErlkönigはElbeの王の義にて仮りに魔王と訳し置く。

独逸詩文詳解 二巻 - 国立国会図書館デジタルコレクション

ソ連映画の「魔王と勇者」

戦後、「魔王」「勇者」といった用語は、神話や伝承を踏まえたヒロイック・ファンタジーに導入されていく。

1948年に日本で公開されたソ連映画『不死身の魔王』は、ロシアの「不死身のコシチェイ」の伝承を元にしており、悪の魔術師・コシチェイに婚約者をさらわれた主人公ニキータが旅に出るというあらすじ。

当時、ニキータが「勇者」と呼ばれていたのかはわからないが、1972年の『キネマ旬報』では、

古いロシアのおとぎ話にもとづく少年向き特撮映画。不死身の魔王をヒトラーになぞらえている。婚約者マリア(ゲー・グリゴリーエワ)を魔王にさらわれた勇者ニキータエス・ストリャーロフ)は荒野をさすらい、吹雪や炎熱と闘いながら魔王の城にたどりつき、さまざまな魔法をのりこえてマリアをとりもどす。

キネマ旬報 - Google ブックス

などと紹介されている。

1959年に日本で公開された映画『豪勇イリヤ 巨竜と魔王征服』は、『不死身の魔王』と同じ監督が手掛けたソ連映画である。ロシアの神話的英雄イリヤ・ムーロメツを主人公とした映画で、あらすじによれば、恋人をさらわれたイリヤが、竜を操る蛮族の王・カリンと対決する話だという。本作に登場する三つ首の竜がゴジラシリーズのキングギドラに影響を与えただとか、手塚治虫が本作のファンだったとかいう話が残っている。

やや話は逸れるが、魔術師であるコシチェイは「魔王」の「魔」の側面が強く、蛮族の王であるカリンは「魔王」の「王」の側面が強いように思われる。これ以降の魔王たちについても「すごい魔法使いだから魔王」のパターンと「邪悪な王だから魔王」のパターンに大別できるような気はする。

閑話休題、少なくとも50年代の時点で、こうした典型的なヒロイック・ファンタジーのラスボスを表すのに「魔王」というワードがチョイスされていたことは注目に値する。

アニメや特撮の「魔王と勇者」

60年代から70年代にかけて、アニメや特撮番組が増加するにつれ、「魔王」「勇者」は急激に増えていった。

1967年から放送されたアニメ『リボンの騎士』には「魔王メフィスト」が登場する。原作の漫画では初登場時に一度だけ「大魔王」と呼ばれるものの、それ以外では単に「悪魔」と呼ばれている。明確に「魔王」を名乗るようになったのはアニメ版からと言えるだろう。

1968年に日本で放送されたアメリカのアニメ『大魔王シャザーン』はアラビアンナイトがモチーフで、この「大魔王」というのは「ランプの魔人」のたぐいである。

1969年から放送されたアニメ『ハクション大魔王』もアラビアンナイトがモチーフだが、『シャザーン』にインスパイアされたのかはわからない。

1969年に公開されたアニメ映画『長靴をはいた猫』には「魔王ルシファ」が登場する。

1970年から放送されたアメリカのアニメ『チキチキマシン猛レース』の主役が「ブラック魔王」である。日本語版の名前をつけるときに、悪役だからということで「魔王」にしたらしい。

1972年から放送された特撮番組『快傑ライオン丸』には、ラスボスとしてインドで妖術を習得したという「大魔王ゴースン」が登場する。

1972年から漫画とアニメが開始した『デビルマン』には勇者アモンと魔王ゼノンが登場する。ただしアモンはゼノンの配下である。永井豪の前作『魔王ダンテ』と同じく、キリスト教の悪魔観がモチーフとなっている。

1972年から放送された特撮ヒーロー番組『サンダーマスク』では、主人公サンダーマスクは「宇宙の勇者」と呼ばれており、その敵は「宇宙の魔王デカンダ」および「大魔王ベムキング」である。神話とは無関係に「魔王VS勇者」の構図が設定されているのはこれが初ではなかろうか。

1974年から放送された『チャージマン研!』は近年になって謎の人気が出たアニメだが、敵であるジュラル星人の王が「魔王」である。

1975年から放送されたアニメ『勇者ライディーン』では、タイトルどおり主人公が「勇者」と呼ばれる。ラスボスは妖魔帝国の帝王・バラオだが、これは放送当時から「魔王バラオ」と表記されることもあったようだ。

1975年から連載された漫画『ザ・ウルトラマン』には宇宙大魔王とも言われる「ジャッカル大魔王」が登場する。

日本では1979年に公開されたアニメ映画『指輪物語』には、かのサウロンが「大魔王ソロン」として登場している。なお原作小説は日本語版が1972年から出版されたが、大部分で「冥王サウロン」とされつつ、一部で「魔王サウロン」という表記もされている。

1980年の雑誌『新刊展望』に掲載された手塚治虫山本和夫漫画サンデー編集長)の対談では以下のようなことが語られている。

手塚 それから今、アニメなんかでは、SFのジャンルで、勇者物というものが流行っているんです。
山本 『円卓の騎士』みたいなものですか。
手塚 いや、そうじゃなく、『指輪物語』みたいなものです。ファンタジーですね。ファンタジーだけれども、そこに恋あり、剣あり、悪魔あり、魔法あり、というような、どのジャンルにも入らないものでしょうね。そういうものが今、若い連中の間で非常に受けているものだから、当然、こういった幻想漫画集みたいなものができてくる。やはりこれは時代の要求でしょうね。

新刊展望 24(12)(418) - 国立国会図書館デジタルコレクション

「勇者物」が具体的にどの作品を指しているのかは判然としないが、手塚にそういったジャンル意識があり、そしてジャンル名として「勇者」というワードがチョイスされていた、ということは興味深い。

実際、この時期になると「勇者」の語により馴染みができたのか、他の「勇士」などの語の採用は減少しているように思える。

コンピュータゲームの「魔王と勇者」

80年代に入ってコンピュータゲームの時代が到来する。マイルストーン的な存在である『ドラゴンクエスト』までの「魔王」もしくは「勇者」が登場するゲームを列挙する。

1983年5月発売の『聖なる剣』のラスボスは「魔王」であり、主人公は「勇者」と呼ばれる。

1984年3月発売の『デーモンズリング』のラスボスは「魔王サローン」である。

1984年8月発売の『ザ・クエスト』には「勇者ゴーン」が登場する。ラスボスはドラゴン。

1984年12月発売の『ハイドライド』の主人公ジムと、ラスボスの悪魔バラリスについては、当時の雑誌などでは「勇者ジム」「魔王バラリス」の表記もあったようだ。

1985年2月発売の『ファンタジアン』のラスボスは「魔王ビルアデス」である。

1985年4月発売の『ザ・キャッスル』のラスボスは「魔王メフィスト」である(が設定だけでゲーム内には登場しないらしい)。

1985年6月発売の『アークスロード』は、アークスという島に住み着いた「魔王」を倒すというストーリーで、主人公は「勇者」と呼ばれる。

1985年9月発売の『スーパーマリオブラザーズ』には「大魔王クッパ」が登場する。

1985年12月発売の『クルセーダー』の主人公は「勇者ザーバック」、ラスボスは「魔王デッドロック」である。

1986年2月発売の『ゼルダの伝説』には「大魔王ガノン」が登場する。そしておそらく同年に発売されたボードゲーム(パーティジョイ)のパッケージには「ハイラルの勇者はキミだ」というフレーズが書かれている。

そして1986年5月発売の『ドラゴンクエスト』の登場となる。

伝説の勇者ロトが、闇の支配者であった魔王を倒し、神から授かった光の玉で魔物たちを封じ込めた

https://www.nintendo.co.jp/clvj/manuals/pdf/CLV-P-HBBBJ.pdf

この時点でも、ほとんどの作品の「勇者」はあくまで一般的な「勇気ある者」の意味であって、「特定の人物に与えられた特別な称号」というわけではなさそうだが、「魔王やドラゴンに立ち向かう戦士によく付けられる肩書き」の立ち位置にはなっていると思われる。

さらに以降のドラクエブームを通して、たとえば1989年連載開始の漫画『ドラゴンクエスト ダイの大冒険』の時点で「勇者」が特別な称号として描かれているように、徐々に「勇者」という称号が特別な意味合いを帯びていったのだろう。

ファンタジーにおける「聖女」の類型について

「聖女」とは何か

「聖女」と言えば、現代日本においてはキリスト教における「聖女」を指すことが多いだろう。

カトリックで「聖女」あるいは「聖人」(英語では区別なく「saint」)と認められるための条件ははっきりと決まっていて、もちろん敬虔であることは大前提だが、まず「殉教」、つまり信仰のために亡くなっていること、あるいは「奇跡」、科学では説明できない現象が起きたこと、が教会によって認定される必要がある。

殉教者であれば奇跡を一度、殉教者でなければ奇跡を二度、起こしたと認定されれば「聖人」「聖女」となれるらしい。「奇跡」なんてどうやって調べるんだ、そんなポンポンと起きるもんなのか、と思ってしまうが、たとえば、

アクティスさんは2020年、膵臓(すいぞう)に先天性疾患のあるブラジル人の子供を癒(いや)したとして、すでに福者に列せられていた。
そしてローマ教皇フランシスコは今回、アクティスさんが、頭部の外傷から脳出血を起こしていたイタリア・フィレンツェの大学生を癒したことを、第二の「奇跡」と認定した。

「神のインフルエンサー」の少年がカトリック教会の聖人に ミレニアル世代で初 - BBCニュース

といった感じで、意外に奇跡はよく起きているものらしい。

ともあれ、こうしたキリスト教的「聖女」がフィクションに登場すること自体は何の不思議でもない。

たとえば有名なジャンヌ・ダルクカトリックの「聖女」なので、ジャンヌ・ダルクが絡んでいればすべて「聖女が登場するフィクション」ということになる。あるいはFGOでもおなじみの「聖マルタのタラスク退治の伝承」などは、ある種のファンタジーと言えなくもないだろうから、それをもって「ファンタジーにおける聖女の元祖」ということもできるかもしれない。

それはそれでいいとして、私の興味は、そのキリスト教的「聖女」から逸脱した、近年のファンタジーに登場する「聖女」類型がどのように確立されてきたのか、というところにある。

女性向けなろう作品における「聖女」

「逸脱した聖女ってなんじゃらほい」という人のために、「小説家になろう」に投稿されている、「聖女」が主人公の人気作品(多くは女性向けの作風である)をいくつか見てみよう。

たとえば2016年に投稿され、「なろう」の累計ランキングでも12位につけている人気作品『聖女の魔力は万能です』の設定はこうである。

スランタニア王国では数世代に一度、国が瘴気に覆われ魔物が大量発生する時代がやって来る。これまではそのたびに、魔を祓う力を持つ「聖女」が現れ、国を救ってきた。過去一度だけ聖女が現れなかった時は、儀式により聖女を召喚した。

この作品の「聖女」は、瘴気を祓う特別な魔法を使えるから「聖女」なのであって、教会に「聖女」として認定されているわけではないし、神への信仰が奇跡を起こしているわけでもない。「聖女」を召喚するのも、聖職者ではなく魔道師である。これがつまり「キリスト教的な聖女から逸脱している」ということである。

他の人気作品も見てみよう。2019年に投稿された『転生した大聖女は、聖女であることをひた隠す』では、こういう設定である。

前世の私は、「大聖女」だった。聖女の中でも、飛びぬけた力を持つ者、具体的には、あらゆる傷を瞬く間に治し、欠損を補い、ほとんどの病気を快癒させる力を持つ者に与えられる尊称。私が生きていた間は、私にしか与えられなかった呼び名だ。「大聖女」としては敬われていたと思うけれど、「聖女」自体は、そもそも尊敬される職業ではなかった。なぜなら、聖女の数がとても多かったから。当時、女性の半分以上は聖女だった。攻撃魔法とは異なり、回復魔法には、精霊との契約を必要とする。そして、精霊との契約は簡単に与えられた。

主人公は、前世では精霊王の血を引く王女であり、精霊から好かれやすかったために「大聖女」となったという。前世では魔王討伐のパーティに参加し、兄弟に裏切られて死んでしまったというRPG的な要素もある。聖女たちを統括するのが教会であったりはするが、聖女である条件はあくまで「精霊と契約していて回復魔法が使えるかどうか」であるようだ。

同じく2019年投稿の『聖女じゃなかったので、王宮でのんびりご飯を作ることにしました』は、単純に『聖女の魔力は万能です』を踏襲したような設定になっている。

この世界は【瘴気】と呼ばれる物に覆われており、一定の濃度になると、魔物が何処からともなく出てきたり、そこに生きていた動物達を魔物化させるらしい。この瘴気により発生した魔物を、ある程度倒していれば瘴気は薄まったりするのだが、どういう訳か濃くなる時期があるようだ。その度に【聖女】または【勇者】が現れ、瘴気を浄化、魔物を殲滅させてきた。なのに、今世は一向に現れる気配がない。このままでは瘴気の影響を最も受けやすいこの国【ヴァルタール皇国】は、1番に滅んでしまうと考えた。そこで、この美少年。エギエディルス皇子は現れるのを待つのではなく、召喚という形で強制的に喚んでしまおうと、魔導師達を集い儀式を行った。

「聖女」と「勇者」が対になっているあたりもポイントである。なろうテンプレでは「聖女」が「女性版の召喚勇者」のような扱いであることも多い。

2020年投稿の『完璧すぎて可愛げがないと婚約破棄された聖女は隣国に売られる』では、

聖女は結界を張ったり、魔物たちの力を弱めたり、国を守る要のような役割を果たしていました。

と軽く説明されているだけで、「聖女とは何か」の具体的な説明がないままストーリーが進んでいく。ざっと斜め読みしたところでは、光属性の魔法を使って魔物を退治したり、結界を張って街を守ったりする、魔物対策の専門家、といったところだろうか。この「聖女」は基本的には世襲で、いちおう教会にも所属しているようだが、少なくとも主人公は聖職者という感じではない。

といったところでイメージを何となく掴めるだろうか。大雑把に要素を抽出してみると以下のような感じになる。

  • 回復魔法を使える
  • 瘴気を浄化できる
  • それらは聖女だけの特別な魔法である
  • (本来の聖女と比べると)宗教色が薄い
  • 聖女の血筋がある
  • あるいは召喚される存在である

聖女レベル

もちろん、「聖女」が登場するのは、女性向けなろう作品に限った話ではない。近年のファンタジー作品には、キリスト教的なものから、なろう的なものまで、さまざまな「聖女」が登場している。ただ、作品数が膨大だし、そもそも多岐に渡りすぎていて、そう簡単に「こっちはキリスト教ベース」「こっちは違う」と振り分けできるようなものではないだろう。

そのグラデーションを無理やり分類するために、ファンタジーにおける「聖女レベル」を考えてみた。

聖女レベル1 ごく普通の心優しく高潔な女性(修道女)が、比喩的に「聖女」と呼ばれている。ちなみにポルノではこの用法の「聖女」が頻出する。
聖女レベル2 宗教組織によって「聖女」と認定される。あくまで形式的な話であり、特別な能力を持っているかどうかは問わない。
聖女レベル3 RPG的な冒険者パーティの女性聖職者(多くは回復職)が、魔王討伐などの功績を挙げて「聖女」と称えられる。
聖女レベル4 「聖女しか使えない特殊能力」によって「聖女」という存在が規定されている。宗教や教会と関係が薄いことも多い。
聖女レベル5 レベル4のなかでも、特に聖女が「ほぼ一人しかいない」「世界の存否に関わるような存在」である。


つまり、レベルが上がるごとに「能力」が強力に、かつ特別なものになっていくイメージである。キリスト教的「聖女」のイメージがそのまま反映されているのがレベル1・2、キリスト教的「聖女」をRPG的世界観に導入したのがレベル3、キリスト教的「聖女」から逸脱した新しい類型がレベル4・5である、とも言える。

80年代・90年代ファンタジーの「聖女」

では、こういった「聖女」類型がどのように生まれて、どのように変化してきたのかを考えるために、80年代から90年代にかけてのファンタジー作品を見ていきたい。

1974年に制作されたTRPGダンジョン&ドラゴンズ』のクラス(職業)のなかに「クレリック(聖職者・僧侶)」があるが、これが「聖女レベル3」のような、RPG的世界観における聖職者のイメージの元になっているのだろう。聖職者がメイスを武器にしがちなのもD&Dの設定に由来するらしい。とはいえ『D&D』には「聖女」と呼ばれるような存在はほとんど登場しないようだ。

ただし、1989年『ドラゴンランス伝説』(D&Dの設定をもとにしたファンタジー小説)には「パラダインの聖女」と呼ばれるクリサニアという人物が登場する。敬虔なクレリックだったが悪の魔法使いに魅せられていく……といったキャラらしいが、英語の説明を見ても「聖女」らしき肩書きはないので、邦訳の際に分かりやすいキャラ付けとして「聖女」とされたのだろうか。

初期の『ドラゴンクエスト』にも「聖女」は登場していないが、1989年に放送されたアニメ『ドラゴンクエスト勇者アベル伝説)』に「赤き珠の聖女」と呼ばれるティアラというヒロインが登場する。主人公アベルが「青き珠の勇者」なので明らかに「勇者」と「聖女」が対比されている。ティアラは僧侶などではなく、伝説の竜を復活させる巫女のような立ち位置らしい。つまり「レベル4」あるいは「レベル5」に分類される聖女である。

かの『ロードス島戦記』には小ニースとフラウスという二人の「聖女」が登場する。小ニースの登場はロードス島戦記の6巻なので1991年(雑誌連載は1988年?)、フラウスは『ロードス島伝説』なので1994年(漫画版なら1991年?)に初登場か。もちろんのことロードスはD&Dの多大な影響下において成立した作品であり、小ニース・フラウスとも敬虔なクレリックとして描かれている。特にフラウスは、先述の「パラダインの聖女」クリサニアの立ち位置に似ているような気もする(ワルい男に惚れてしまった聖職者…みたいな)。『ドラゴンランス』の翻訳を担当した安田均は、『ロードス』を世に送り出したグループSNEの中心人物でもあり、そこに影響関係を見出すのは容易だろう。

1991年に刊行されたライトノベル流星香『プラパ・ゼータ』の1巻の副題はずばり「聖女の招喚」である。この「聖女」ファラ・ハンは、世界滅亡の危機に天界から召喚された神的な存在であり、「レベル5」の聖女だと言える。彼女は勇者・魔道士・竜使いの三人とパーティを組むことになるのだが、少女向け作品ということもあって、物語の主人公およびパーティの中心は、勇者ではなくあくまで聖女自身である(三蔵法師ポジションだとも言えるかもしれない)。

1991年から連載された漫画『ハーメルンのバイオリン弾き』には「聖女パンドラ」が登場する。彼女は人間と天使のハーフであり、聖なる者として魔王の封印を解くことができた。それとは別に、メインヒロインにも「回復魔法を使える女王の血筋」の設定があり、そちらも聖女っぽい扱いを受けている。この作品の主人公は「魔王と聖女のあいだに生まれた勇者」であり、RPG的な設定を土台としつつも、かなり特徴的な世界を構築している。

1992年に発売されたゲーム『ファイアーエムブレム外伝』には、各ユニットの兵科や役割を示す「クラス」というシステムがあり、そのうち「シスター」の上位職として「聖女」が用意されている。ただし「聖女」クラスは以降のシリーズに引き継がれなかったようである。ちなみに2002年の『封印の剣』には「聖女エリミーヌ」という人物が登場する。彼女は竜を倒した八人の英雄のうちの一人で、エリミーヌ教という宗教の開祖であるらしい。こちらは聖女レベル3.5くらいか。

1995年のOVA覇王大系リューナイト アデュー・レジェンドII』には「沈黙の聖女」ソフィーが登場する。彼女は神の血を引く一族で、意識を持つロボット「リュー」に命を吹き込んだり操ったりできる能力を持つという。聖女レベル4と言えるだろうか。

というわけで、綺麗な変遷が観察できたらよかったのだが、こうして初期の事例を眺めてみると、レベル4やレベル5の「聖女」はかなり唐突に登場している印象がある。キリスト教的な「聖女」が徐々に変化していったというよりも、実質的な役割としては「巫女」や「天使」や「宗教国家の女王」なのだが、そこでたまたま「聖女」というネーミングがチョイスされた、といった感じなのではないか。

設定だけ「聖女」っぽい例

逆に、「聖女」とは呼ばれていないものの、設定や役割が「聖女」っぽいキャラの例もいくつか思い浮かぶ。

1990年のアニメ『NG騎士ラムネ&40』では、主人公の勇者ラムネスを異世界に召喚するヒロインが、その姉妹と合わせて「聖なる三姉妹」と呼ばれている。この三人は一種の巫女であり、勇者を導く存在とされている。

1992年から連載された漫画『ふしぎ遊戯』では、主人公は中華風の異世界に「朱雀の巫女」として召喚される。朱雀の巫女が「七星士」を集めて神獣を召喚すればどんな願いも叶えてもらえるというが、実はそれは巫女の命と引き換えである。同年の『十二国記』や後の『エスカフローネ』などと共に「少女向けの異世界召喚ファンタジー」として影響力は大きそうだ。

乙女ゲームの名作『遙かなる時空の中で』(2000年発売)は、おそらく『ふしぎ遊戯』の影響を受けており、主人公は「龍神の神子」として和風異世界に召喚される。「龍神の神子」は怨霊を浄化する能力を持っており、なろう系の「聖女」の描かれ方に近い気もする。二次創作SSの題材としても人気だったというので、女性向けWeb小説に影響を与えた可能性は大いにある。

1993年から連載された漫画『魔法騎士レイアース』に登場するエメロード姫は「柱」と呼ばれる存在である。「柱」は世界を支えるために祈り続ける存在であり、「柱」がいなくなれば世界も崩壊してしまう。そしてエメロード姫は、世界を救うために異世界から「魔法騎士」を召喚することになる。

1996年発売のゲーム『ファイナルファンタジーVII』のエアリスは、古代種の血を引く存在であり、世界を救うために白魔法「ホーリー」を発動させようとする。のちの『ファイナルファンタジーX』に登場するユウナも「エボン教」における巫女のような存在として描かれる。

こういったキャラの肩書きが「巫女」となるか「聖女」となるか、あるいは独自の呼称になるかは、やはりコンパチブルな感じがある。

2000年代の「聖女」

2000年代に入ると、いろんなゲームに「聖女」が登場するようになる。

主だったところをいくつか挙げてみると、まず先述した2002年の『ファイアーエムブレム 封印の剣』の聖女エリミーヌ。

2002年発売の『ブレス オブ ファイアV』の聖女オルテンシアは「時間や空間を自在に操ると言われている統治者のひとり」らしい。

2002年発売の『テイルズ オブ デスティニー2』の聖女リアラや聖女エルレインは「神の御使い的な立場として生を受け、人々を幸福に導く使命をもって生まれてきた」。

2005年発売の『ドラッグオンドラグーン2』の聖女マナは「現在は封印騎士団の犠牲となっている弱き人々を救う解放者として日々を送っている。騎士団直轄区で生きる人々からは“聖女”と呼ばれ慕われている」。

2009年発売の『スターオーシャン4』の聖女イレーネは「占い師の女性だが、その力の占いという生ぬるいものではなく、神託により過去・未来など全ての時空を見通すことができる」。

2010年発売の『英雄伝説 碧の軌跡』の《鋼の聖女》アリアンロード、および《槍の聖女》リアンヌは、「250年前の獅子戦役の終結に多大な貢献を果たした"救国の聖女"」ということでジャンヌ・ダルクがモチーフっぽい。

ただ、90年代や2010年代と比べると、2000年代はファンタジーというジャンル自体が低調だった時期なので、アニメや漫画まで含めたときの代表的な聖女キャラがいたかというとあまり思い浮かばない。どのように2010年代のなろう系聖女へ繋がっていったかはミッシングリンクである。

なろう系に大きな影響を与えた『ゼロの使い魔』では、ヒロインのルイズは作中で「聖女」と崇められることになる。ルイズは始祖ブリミルの力を扱える「虚無の担い手」なのだが、「虚無の担い手」というだけでは「聖女」と呼ばれておらず、あくまで「聖女」という呼称は教会から与えられたものだった。いちおう聖女レベル2としておこう。最初に紹介したような女性向けなろう作品における「聖女」は、明らかに『ゼロ魔』的な設定ではないので、その影響は限定的だと思われる。

2010年代初頭のなろう作品

小説家になろう」において、大々的に「聖女もの」が広まったのは、『聖女の魔力は万能です』の影響が大きいのだろうが、もちろんそこが元祖だったわけではないだろう。というわけで『聖女の魔力は万能です』以前、というか「なろう系ブーム」以前となる、2010年代初頭の作品を調べてみよう。

いまも削除されずに残っている作品のなかで、総合評価が高めなのは、2011年に投稿された『裏切られた勇者のその後……』か。これは勇者として召喚された主人公が、パーティーの「聖女」に裏切られ、魔王もろとも殺されかけるという話。聖女レベル3である。この聖女は王女であり、また勇者を召喚した張本人でもあったりと、設定が盛り盛りだが、ただし作品自体は男性向けである。

「聖女」が主人公の作品としては、たとえば2010年投稿の『世界は無常に満ちている』は、主人公の友人が瘴気を浄化する「聖女」として異世界召喚され、主人公はそれに巻き込まれて召喚され、「バシレース」という聖女以上の存在になる、という話。

同じく2010年投稿の『ラダトリアの聖女異聞』は、戦争に疲弊した王が、異世界から「神子」を召喚し、王の伴侶にしようとする話。

やはり2010年投稿の『役割を終えた神の子』は、異世界から召喚された「神子」が、平和になってから王と結婚した、そのあとを描いた話。

2009年投稿の『正しい国の作り方』は、異世界に「巫女姫」として召喚され、五つの王国の王子のいずれかを伴侶として選ぶことになる、という話。乙女ゲーチック。

これらは『聖女の魔力は万能です』などの設定と繋がりを感じる。また、この頃の「聖女」や「巫女」は、現在よりも「召喚される存在」だったようで(そもそも「なろう」全体で召喚・転生が流行りはじめた時期でもある)、さらに王や王子と恋愛をするのがお約束にもなっている(がゆえに、いくつかの作品はその逆張りをしている)。

もちろん、これらの作品が、なろう系の「聖女もの」の元祖だとか、以降の作品にめちゃくちゃ影響を与えたとか、そういうわけではなさそうだ。やはり「なろう」よりもさらに以前、2000年代のあいだに女性向けのWeb小説などで「聖女」概念が育まれており、これらの作品はその影響下にあったのではないか、と思う。

まとめ

思ったよりだいぶ長くなったわりに散漫な感じがするが、調べながら結論を探っているので仕方がない。

80年代から90年代にかけてのファンタジーブームにおいて、TRPGクレリックなどから派生した「聖女」キャラは、「巫女」や「天使」などとのイメージの混同もあり、早々に多様化していったが、そのなかでも「聖女を主役にした作品」は、おそらく90年代の異世界召喚系の少女漫画から乙女ゲームなどを通じて、2000年代の創作界隈において「異世界召喚されて聖女になって王子さまとラブロマンス」的なテンプレとして発展していき、さらに2010年代になって「小説家になろう」という器を得て爆発的に拡大していった。

みたいな仮説でどうだろうか。特に2000年代以降は確証がないが。

スペースオペラ✕ライトノベルの現況

近年のスペオペラノベにおける課題は「なろうテンプレをいかにスペオペに移植するか」ということだったと思います。ここで言う「なろうテンプレ」とは、長らくWeb小説サイトで培われてきた、さまざまな定番要素や設定を広く指したもの、ということでご了承ください。

小説家になろう」から初期に書籍化された『銀河戦記の実弾兵器』や、現在10巻超えの長期シリーズとなっている『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』などは、なろう系における「ゲーム転生」要素を『EVE Online』や『Elite Dangerous』といったSF系MMORPGに置き換えた作品でした。つまりファンタジー世界に転生するかわりにスペオペ銀河に転生して交易に励んだり傭兵になったりするわけです。

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特に『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』は、この長ったらしいタイトル以外は本当に素晴らしい作品となっています。最強の傭兵となって銀河を駆け回り、目も眩むような大金を稼いで、さまざまな栄誉を獲得し、たくさんの美少女を助けてハーレムを築いていく。むしろ古典的なスペオペに先祖返りしているのではないかという。なろう系スペオペの代表格ですね。

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さらに『最強宇宙船』は「エルフやドワーフを登場させている」という点においても「なろうテンプレをスペオペに移植」していると言えるでしょう。昨年はそうした「エルフやドワーフが登場するスペオペ」が続けざまに刊行されて、新しい潮流となりそうな予感がしています。

まずは『スペースオーク』。地球人類が宇宙に適応するための身体改造の結果として「オーク」や「エルフ」らが生まれ、それぞれ星間国家を築いているという設定。主人公はオークの一員ですが、遠い過去の地球人(つまり現代人)の記憶が刷り込まれたために、それが疑似的な転生設定として機能しています。手柄を挙げてオークの女王を手に入れるため、脳筋オークたちを率いて奮闘する主人公の姿がかっこいい。とても面白かったです。

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そして『ファンタジー銀河』。カクヨムの人気作ですね。宇宙ゴブリンにアブダクションされて奴隷になった地球人の主人公が、なんとかそこから脱出して、さらに運良く超能力を手に入れて、銀河の冒険者として活躍していくという話。『スペースオーク』もそうなのですが、なろう系ファンタジーを表面的にスペオペにしたわけではなく、十分に独自性のあるスペオペになろう系ファンタジーの皮を被せたような形になっているところに良さがありますね。

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アニメ化も決まっている『俺は星間国家の悪徳領主!』は、なろうテンプレの一つである「悪役もの」「領主もの」をそのままスペオペにしたような作品です。お世辞にも「巧い」作品ではないのですが、とにかく勢いがあって引きが強く、そして一巻ごとにスケールが大きくなっていくので飽きないという、これはこれで「なろう系」の良いところを正しく受け継いだ作品だと思います。

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『魔王と勇者が時代遅れになりました』は、人類がとっくに宇宙に進出して、誰も残っていない異世界に召喚された「魔王」と「勇者」がタッグを組んで、宇宙船に乗って銀河で大暴れする話。つまり、なろう系でもよく見られる「魔王勇者もの」をスペオペに乗っけるという趣向ですね。魔王による「企業経営もの」でもあります。

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わらしべ長者と猫と姫』は、ベースはいわゆる「現代ダンジョンもの」なんですが、主人公のスキルが「宇宙のどこかの誰かと物々交換できる」というもので、それを通して宇宙猫やら宇宙アイドルやらが送られてきて、会社を立ち上げて宇宙技術で知識チート、最終的に宇宙に進出していくという、90年代的なごった煮感のある作品です。すごく面白かったんですが、たった二巻で完結しちゃったのが残念。

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その他、いわゆる転生・転移要素はありませんが、

異種侵略ものと「掲示板もの」をあわせてコメディに仕立てた『宇宙戦争掲示板』
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「嫌われ系」でスローライフな『キモオタモブ傭兵は、身の程を弁える』
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「勘違い系」な宇宙提督が出世して「ざまあ」する『「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上
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といった作品が、いずれも「なろう」的な要素を加えたスペオペを展開しています。

もう一つ、直近発売された『銀河放浪ふたり旅』は、逆にあまり「なろう」っぽくない作品でした。滅びた地球の生き残りの一人が、銀河連邦的な国家に拾われて、宇宙船と超能力を手に入れて、広大な宇宙を旅していくという話なんですが、主人公に世俗的な欲望が薄く、秩序を守りつつも、純粋な好奇心によって動いているという、とてもお行儀のいいスペオペで良かったですね。
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といったわけで、ここ数年くらいのスペオペラノベをざっと紹介してみました。すっかり「なろう系スペオペ」がこなれてきて、これだけの数のスペオペが刊行されるようになったというのは、もはや90年代以来のスペオペ・ブームと言っても過言ではないのではないでしょうか。……いや、昔と比べて全体の作品数がはるかに増えているので、このくらいだとあまりブームとは認識されていない気がしますが。胸を張ってブームと言えるくらいに、もっともっと増えてほしいですね。

2024年ライトノベル個人的ベスト10

1. 『亜人の末姫皇女はいかにして王座を簒奪したか』

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人間と亜人の一大戦争を、その戦争にかかわったさまざまな人物をとおして描いたファンタジー戦記。英雄的な死に様を見せた竜騎兵。伝説的な猫人の暗殺者。飛空艇を作った発明家。砂漠の悪徳商人。人間たちを聖戦に駆り立てた神官。亜人たちを煽動する雄弁な皇女。どいつもこいつもクセの強い、あまり善人とは言いがたい連中の一生が、列伝のようなかたちで綴られていきます。まさに「歴史」を読んだ、という気分にさせられる傑作でした。

2. 『スペースオーク』

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新世代のなろう系スペオペ。遺伝子改造された人間がオークやらエルフやらと呼ばれている遠未来の宇宙を舞台に、かつての「地球人」の記憶を刷り込まれたオークの主人公が頭角を現していくストーリー。脳筋すぎてさまざまな問題を抱えるオーク社会の描き方が面白くて、SF的にも読み応えがありつつ、美しいオークの女王さまや姫さまなどのヒロイン陣も魅力的で、「スペオペ」としてのケレン味もたっぷり味わえました。

3. 『わらしべ長者と猫と姫』

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いわゆる「現代ダンジョンもの」なんですが、主人公のスキルが「宇宙のどこかの誰かと品物を交換できる」というもので、そこから喋る猫や宇宙アイドルなんかがやってきて、宇宙の進んだ技術を活用したビジネスを起業して、巨大人型ロボットを作ったり、さらには宇宙海賊だとかのスペオペ要素も絡んでくるという、なんというか、90年代の落ちものラブコメ的な「ごった煮」感がとても楽しい作品でした。

4. 『貞操逆転世界のたばこ事情』

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京都のクズ男子大学生と、それに寄ってくるダメ女たちを描いた底辺キャンパスライフもの。ただ、そこに「貞操逆転」のスパイスを振りかけることで、読者に「この世界の主人公は『男のバカ話にも付き合ってくれるタバコの似合うお姉さん』みたいなものか」という意識が刷り込まれ、なんなら主人公が本当にそういうお姉さんに思えてくるというバグを味わえるんですね。いわば実質的なTS百合ハーレムなんですよこれは。素晴らしい。

5. 『よって、初恋は証明された。』

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進学校を舞台にした理系青春ミステリ。主人公はいかにも理屈っぽい陰キャだけど、ヒロインは明るく優しい人気者。理系キャラでこのヒロインみたいな性格ってちょっと珍しいな、と思っていたら、それがちゃんと本編に絡んでくるんですよね。何の気なしに流したところをきっちり消化してくれたというか、「こんなもんだろ」で済ませないあたりが丁寧な作品だと感じます。青春の苦悩が反映された謎解きも好みでした。

6. 『第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記』

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五巻目にして主人公ジルバギアスの初陣が描かれたわけですが、これまでの蓄積を燃やし尽くしたような激動の展開と言いますか、ここまでやるのかという感想でした。何重にも絡みついたジレンマから決して主人公を解放しない、決して「なあなあ」にしないという思いが伝わってきて、本当に素晴らしかったです。

7. 『全員覚悟ガンギマリなエロゲー邪教徒モブに転生してしまった件』

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洗脳・拷問・人体実験など何でもありの「邪教」の構成員に転生した主人公が、それを内側から滅ぼすために教団に忠実な信徒のふりをする、という筋立ては『ジルバギアス』に近いんですよね。しかし本作の主人公は、特殊な能力も、特別な地位もない。ただのモブでしかない主人公が、化け物じみた幹部たちをどうやって倒すのか。本当に「覚悟ガンギマリ」なのは主人公だったという話です。

8. 『フルメタル・パニック! Family』

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言わずもがなの名作の続編。結婚した宗介とかなめが、二人の子供とともに追手と戦いながら、住居を転々としていくホームコメディ。かつての短編シリーズに近い作りですが、あそこまでギャグに振っているわけでもなく、ある意味では大人になったというか、落ち着いたコメディになっています。「大人になってしまった」という哀愁すら漂っている。でもそれは決して悪いことじゃない。というほろ苦い味が良いですね。

9. 『冒険者酒場の料理人』

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そのままでは食べられない迷宮の素材をあれこれと工夫して食べられるようにしていく異世界料理ファンタジー。『異世界刀匠の魔剣製作ぐらし』あたりと同じく一つのコンセプトを巧みに転がしていく手腕が見事。硬すぎる魚だのすぐ腐る肉だのを分析し、実験し、その調理法を解き明かしていくあたりはミステリ的な面白さもある。さらには子育て要素や恋愛要素もあって、それで描かれるキャラクターも魅力的でしたね。

10. 『エイム・タップ・シンデレラ』

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毎年のことながら「最上位以外はベスト30くらいまで同着」みたいなところがあるので悩むんですが、今回は他に選んだ作品と題材が被っていないところを買って、こちらの作品を選びました。『VALORANT』的な対戦FPSを描いたeスポーツもの。あくまで試合シーンを中心とした筋肉質な構成はスポーツ小説として出来がよく、加えて主人公を中心とした百合三角関係も見どころ。主人公のやってることが「自分の妹を倒すために無名の天才選手を育てる」という星一徹ムーブなんでエグいんですよね。とても楽しく読めました。

2024年ライトノベル10大ニュース

KADOKAWAサイバー攻撃を受ける

ja.wikipedia.org
ランサムウェアによってKADOKAWAのサーバーがロックされ、ニコニコ動画などのKADOKAWA系のWebサービスが軒並み停止するなど大騒動となりました。ライトノベル業界的にも、書籍の受注システムが停止したことで一時的に出荷が減少したり、ライトノベルレーベルの公式サイトが無くなったりなど、さまざまな問題が起きていましたね。現在でも電撃文庫以外の公式サイトは再開されていません。そのため各レーベルともSNSでの情報発信を強化するなど、図らずも広報戦略に変化があったような気がします。サーバーが別だったのか稼働を続けている「キミラノ」も公式サイトの代替として活躍していました。

あとはKADOKAWASONYに買収されるかもしれない、というニュースにも驚きましたが、いったんは資本提携というところで落ち着いたようですね。

ラノベ原作ラブコメアニメのヒット

makeine-anime.com
2010年代後半から続く第二次ラブコメラノベブームのメインストリームがついにアニメ業界にまで波及したと言うべきか、今年の夏は『マケイン』『ロシデレ』『義妹生活』『ふたきれ』『V伝』が同時に放送されるという、なんだかもったいないような気もするクールとなりました。特に『マケイン』『ロシデレ』はかなりの高評価だったようです。その余勢を駆った『マケイン』は「このラノ」でも一位になっていましたね。

とはいえ、これに続くラブコメアニメの予定は、いまのところ『クラ婚』『チラムネ』『わたなれ』『クラにか』『だんじょる』くらいか…?

涼宮ハルヒ』シリーズ新作発売

kimirano.jp
前作『直観』から四年なのでぜんぜん早かったですね(錯乱)。昔の短編に書き下ろしで肉付けをした短編集、というのは『直観』と同じでしたが、久々のハルヒを楽しませていただきました。どうなんでしょう、もう長編は書かれないんでしょうか。いっそハルヒ以外の新シリーズでも読みたいのですが。

『誰が勇者を殺したか』駄犬の活躍

ln-news.com
昨年の『誰勇』のスマッシュヒットから、今年はその作者「駄犬」の作品が各社から続々と書籍化されました。すっかりヒットメーカーといった感じですね。元・編集者という経歴や、その作品の多くが単巻完結というあたりも興味深いです。また『誰勇』の影響か「魔王を討伐したあとの勇者パーティ」を取り扱った作品が目に付くようになった気がして、勝手に2010年代初頭の魔王勇者ラノベブームのリバイバルを感じています。

小説家になろう20周年

blog.syosetu.com
2004年に個人が開設したウェブサイトが、そこから20年で日本最大のWeb小説サイトとなり、ライトノベル業界に留まらず、出版業界に凄まじい影響を与えてしまったということで、なかなかドラマチックなものを感じます。一方で、運営会社ヒナプロジェクトの経営陣が刷新され、創設者である梅崎祐輔氏も退任されたということで、詳しい事情はわかりませんが、今後の「なろう」がどうなっていくかにも注目ですね。

魔法のiらんどカクヨムに吸収される

kakuyomu.jp
「現在でもこんなにPVがありますよ!」と発表するたびに、そのPVの数字が数億単位で下がっているというのが風物詩だったケータイ小説の代表格「魔法のiらんど」でしたが、ついにカクヨムと合併することになりました。実はKADOKAWA傘下だったんですよね。読者層で言えばエブリスタと合併したほうがよかったのではと思わないでもありませんが。

カクヨムは、人気作家の新作をサブスクで読める「カクヨムネクスト」を開始するなど、さまざまな施策を行いながら、陰りを見せつつある「小説家になろう」を猛追している印象です。「なろう」は女性向けの作品が増えたために、男性向け作品がカクヨムに逃げ出したと言われていますが(それでもまだ男性読者のほうが多いらしい)、魔法のiらんどカクヨムに入ることで男女比がどうなるかも気になります。

Web発ホラーブーム

www.asahi.com
近年は『近畿地方のある場所について』『右園死児報告』『ほねがらみ』などカクヨム発のホラー小説が人気を博しており、それが今年は『変な家』のヒットなどとあわせて「ホラーブーム」として認知されたように思います。ホラー自体はずっと人気のあるジャンルではあるのですが、最近の作品はWeb発であることに加えて「モキュメンタリー」っぽさも特徴になっているでしょうか。カクヨムでも次なるヒットを狙ってモキュメンタリーホラーが続々と出てきているようですが、来年はブームにさらなる広がりがあるのか注目ですね。

ブルーライト文芸」バズる

toyokeizai.net
もともとは阪大感傷マゾ研究会のペシミ氏が提唱していた概念でしたが、上記の東洋経済の記事をきっかけにそこそこ人口に膾炙したのではないかと思います。要するにスターツ出版文庫に代表される「表紙に青系のイラストが使われているエモ系ライト文芸」のことです。その多くは「余命もの」「難病もの」であり、こちらもやはり昔から人気のあるジャンルではありますが、今年は映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』のヒットもあったことから、あらためて注目が集まったということでしょう。

「好きラノ」復活

lightnovel.jp
Twitterの問題により中止が続いていた人気投票企画「好きラノ」ですが、今年は開催場所をBlueskyに移して開催されることになったようです。皆さま、忘れないように投票しましょう。でもブログ投票は無いんですね。

個人的にもTwitterはそろそろ潮時かなと思っているんですが、とはいえネットワーク効果が強すぎて。せめてログの移行だけでも出来ればいいんですけどね。

山本弘、死去

ln-news.com
ラノベ作家として、あるいはSF作家として、グループSNEの中心人物として長く活躍されました。『ロードス島戦記』の元となったD&Dのリプレイ企画でエルフのディードリットを担当したことはあまりにも有名で、私自身はほとんど作品に触れる機会はありませんでしたが、ラノベ黎明期の伝説的作家の一人、といった印象があります。


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