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「チートが誤用されている」という誤解

現在、誤用だと言われているのは、「チートとは不正行為のことなのに褒め言葉として使われている」ということ、さらに「そういった誤用が生まれたのは『なろう』系のせいである」ということについてである。

はたして、これは誤用なのだろうか。

結論から言えば「誤用」とは言いがたいと私は思っている。それは、あるキャラの圧倒的な能力を目の当たりにして「反則だぜ…」と呟いたりするのと同じ。すなわち「チートしたみたいな強さ」という比喩的な表現にすぎないからだ。

「異常なほど」「ズルいくらい」「化物じみた」「悪魔のよう」「鬼のごとく」…

ネガティブな言葉をあえて褒め言葉として使う用例はたくさんある。ことさら「チート」だけを糾弾する理由が思いつかない。

と、話としてはここでほぼ終わりなのだが、おまけとして「比喩としてのチート」用法が広まる過程を追ってみよう。

以下、面倒なので「比喩としてのチート」用法のことを「チート比喩」と略す。


まず、英語の「cheat」には「いかさま」「ごまかし」「ずる」といった意味がある。これ自体はコンピュータやゲームに限らず使われる言葉である。

コンピュータゲームにおいては、ゲームを改造したりバグを利用したりするなどの不正行為が「チート」と呼ばれている。特にVRMMORPGやオンライン対戦ゲームにおいては、チートが使われると他のプレイヤーにも影響が及ぶため、非常に忌み嫌われている。

さらにそれが転じて、2000年代半ばからゲーマーたちのあいだで、ゲーム内で飛び抜けて強いキャラやアイテムなどが、「チートキャラ」「チート性能」などと形容されるようになる。

2007年6月19日。

ビオラ(前半で飛ばし過ぎて後半で伸び悩む典型例)
弓の使い勝手(操作が上下のみリバース、変更不能)が悪過ぎるのは評価上差し置いておきます・・・こりゃゲームシステムの方に入るだろうしね。
序盤はチートキャラ、中盤は強キャラ、後半で完全に伸び悩む、と「聖剣3のリースの成長過程を過剰にしたらこんな風になるんじゃね?」なキャラw

https://riesz.blog.so-net.ne.jp/2007-06-19-1

2007年10月22日。

実績の難易度としては楽でしたが、特定のイベントをクリアーして敵武将を倒してクリアーというのが基本パターンなので、その繰り返しによるマンネリで投げ出しそうになった事が何回もあったりしましたが、全部の本編ストーリーをクリアーして武将選択の制限が解除されてからは、チート的な強さを持つキャラを使用して一気に進め、何とか実績コンプさせましたw

http://d.hatena.ne.jp/seiba_86/20071022/1193060417

こうした用法は紛れもなく「チート比喩」と言えるだろう。


次に特筆すべきは、2008年ごろから「ハンス・ウルリッヒ・ルーデル」や「シモ・ヘイヘ」の事績が知られるようになったことである。

2008年2月24日。

各界よりコメント
「何だ?このチート属性は!?私もこんなチート人間を見たことが無いぞ!」
ハンス・ウルリッヒ・ルーデル について、オスカー・ワイルド

ハンス・ウルリッヒ・ルーデル - アンサイクロペディア

2008年7月14日。

こいつチートだろ、っていう歴史上の人物と何したか書いてけ

1 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/07/14(月) 21:59:15.52 ID zWUhfMBaO
いるのかな

2 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2008/07/14(月) 21:59:32.25 ID NrudcwmN0
↓シモヘイヘ

46 名前:JACK ◆JACK/BJa3c [] 投稿日:2008/07/14(月) 22:13:25.80 ID b17t2NE10
>>2がチートMAXでFA?

暇人\(^o^)/速報 (旧) こいつチートだろ、っていう歴史上の人物と何したか書いてけ

2008年8月11日

スポーツ選手なんかをみていると身体能力的にチートしてね?とか思うことも多々あります。

また歴史上の偉人もチート疑惑がわきますよね。(スゴイ記録があったからこそ名が残るとも言うけど)

という事で、キング・オブ・チートっぽい人のご紹介。

狙撃手 シモ・ヘイヘ

人類チート列伝 その1: カゲッチのぶろぐ

ルーデルやシモ・ヘイヘの事績が「チート」という形容とともに広まったことで「チート比喩」もこのあたりから人口に膾炙していったものと思われる。ルーデルやシモ・ヘイヘがゲームとは無関係であることにも注目しておきたい。

ちなみに、ログ速で検索するかぎり、最初期に立てられたチート比喩と思われるスレタイはこのあたりだろうか。

B'zってチート使ってんの?(2007年12月21日)
ポケモンで一番チートな道具って(2008年4月28日)
米飯に焼肉のタレってチートじゃね?(2008年7月6日)
ガンダム世界最強のチートMSは?(2008年7月26日)


さて、もう一つ書いておかねばならないのは、なろう系における「チート」についてである。なろう系(あるいはその元となった二次創作SS)の「チート」には、実は二種類がある。すなわち「転生チート」と「知識チート」である。

転生チート。

主人公が神から貰った能力(チート)で無双したり原作蹂躙したり恋愛関係を築いたりとご都合主義的内容が多いため(いわゆる俺TUEEEEやニコポやナデポ、二次創作小説であればメアリー・スーなど)人によって好き嫌いが大きく分かれるジャンル。
(中略)
神様が主人公に能力(特典とも呼ばれる)を与える。(通称「チート」。桁外れに強力だったり、主人公以外の登場人物は誰も持っていない特別な能力だったり)

http://dic.nicovideo.jp/a/%E7%A5%9E%E6%A7%98%E8%BB%A2%E7%94%9F

つまり、転生チートとは「単純に強い能力」というだけではなく、誰も持っていないような能力を特別に与えてもらうから「チート」なのである。

知識チート。

内政チート
トリップや憑依、転生もののSSによく見られる、ファンタジー世界や過去の時代に現代の知識・技術を持ちこみ、主人公の支配下または所在している地域の内政面を向上させる行為を指す。
(中略)
これを用いるとき、主人公はさながらウィキペディアをリアルタイムで見ているように正確に知識を思い出し、なおかつウィキペディアに載っている程度の情報を基にして、本職顔負けの内政手腕を発揮してしまう。

http://dic.nicovideo.jp/a/ss%E7%94%A8%E8%AA%9E%E4%B8%80%E8%A6%A7

こちらも本来であれば存在しないはずの知識を特別に持ち込むから「チート」と呼ばれるものである。チートシート=カンニングペーパーに近い用法である。

いずれも「自分だけ特別に能力を高めている≒自分だけズルをしている」という認識があるからこその「チート」なのである。むしろ本来の「チート」の意味に近いとさえ言えるのではなかろうか。

二次創作SSの総本山Arcadiaを検索してみるかぎり、こういった二次創作における「チート」表記は2009年ごろから流行りはじめたようである。さらに、「小説家になろう」の作品が大々的に書籍化され、衆目にさらされるようになったのは2011年ごろからとなる。であれば2008年ごろから広まったチート比喩用法を「なろう」のせいにするのはお門違いであろう。

ちなみに、「チートの誤用はSAOのせいじゃね?」という声もあるが、SAOの書籍化は2009年、アニメ化は2012年であり、やはり時系列的にはかなり遅い。またSAO内では「チーター」は蔑称であり、褒め言葉としては使われていないという点でも、SAOのせいにはできないだろう。


以上から「チートがなろう系のせいで誤用されている」といった認識は誤解であると言いたい。「チートを褒め言葉として使う」のは誤用とは言いがたいし、百歩譲って誤用だとしても、そういった用法を最初に使いはじめたのはゲーマーたちなのである。

変な八つ当たりはやめよう!