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2022年の2大競馬ラノベ――『ブービージョッキー!!』『12ハロンのチクショー道』

「競馬ラノベ」といえば何を思い浮かべますか?

と、いきなり訊かれても、多くの人はなかなか思いつかないんじゃないでしょうか。私も今は亡きノベルゼロの『駿英血統』くらいしか記憶にありません。ラノベ近縁の作品としては『風の向こうへ駆け抜けろ』や『きみはジョッキー』といった作品が挙げられるかもしれません。あるいは、なろう作品では「競馬」ならぬ「競ドラゴン」を描いたファンタジーがいくつかあったと思います。とはいえ、総じて言えば「競馬ラノベ」は珍しいと言わざるをえないでしょう。

考えてみれば不思議なことです。『ダービースタリオン』『ウイニングポスト』といったゲームは競馬ブームの一翼を担いましたし、漫画などでも『みどりのマキバオー』や『じゃじゃ馬グルーミン☆UP!』といった名作が数多くあります。なにより昨年リリースされた『ウマ娘プリティーダービー』の熱狂は記憶に新しいところでしょう。ライトノベルもいわゆるオタク文化の一員なのですから、ライトノベルでだけ「競馬もの」が受けないという道理はありません。

と、編集者も思ったのか、あるいはウマ娘人気を当て込んだだけかは知りませんが、最近になって立て続けに「競馬ラノベ」が発売されました。やったぜ。その作品、『ブービージョッキー!!』と『12ハロンのチクショー道』が、どちらもとっても面白かったので紹介していきたいと思います。よろしくお願いします。

ブービージョッキー!!

端的に言いましょう。この作品は競馬版『りゅうおうのおしごと!』です。綿密な取材。熱いストーリー。お色気描写。下ネタ。若くして頂点を極めた主人公がその反動でスランプに陥っているところにヒロインが転がり込んでくる……なんて序盤の展開も『りゅうおう』そのまんまです。ヒロインが「ママみに溢れた年上美少女」というところは違うけどな。

しかし、もちろん『りゅうおう』の劣化コピーというわけではありません。

この作品はGA文庫の新人賞受賞作品ですが、作者は既にデビュー済みの方で、他レーベルでいくつか作品を書いておられます。そんな彼がプロデビューした2018年の桜花賞、そこで一頭の名牝と出会ったといいます。のちの9冠牝馬アーモンドアイ。彼女に惚れ込んだ作家は、そこから二年のあいだ取材に励み、その引退レースとなった伝説のジャパンカップの翌日に原稿を新人賞に送ったのです。

結果として『ブービージョッキー』は、プロ作家としての確かな技量と、競馬に対する瑞々しい初期衝動を併せ持った「サラブレッド讃歌」となっています。作品としては完成度の高いザ・エンタメですが、端々からサラブレッドという生き物の美しさに魅せられた作家の想いが伝わってくるのです。設定や展開だけでなく、作品の「面白さ」も含めて、これは本当に『りゅうおう』に匹敵する傑作だと言っていいでしょう。

12ハロンのチクショー道

こちらは一言でいうと「競馬好きの男がサラブレッドに転生する」という話。いわゆる「現代転生もの」なんですが、それを「転生後のサラブレッド」の視点ではなく、彼を取り巻く馬主、厩務員、調教師、騎手、実況アナウンサー、はたまた2ちゃんねる競馬板住人……といった人々の視点から群像劇的に描いているのがすごく面白いんですよね。

もとが「小説家になろう」の投稿作品だということもあって、実に趣味的で、いかにも競馬ファンが書いた作品という感じなんですよ。レースシーンなんか架空実況だけでまるまる表現していたりする。2chの書き込みも再現度が高い。馬券だとか、実況だとか、ネットの書き込みだとか、そういうものも含めて競馬なんだという、競馬界の広がりを感じさせる作品になっています。そして、もちろんロマンも忘れていない。

いや、主人公となる馬が、オルフェとゴルシを足して割ったような架空三冠馬の仔で、母父はアイネスフウジンで、母母父はトウカイテイオーで、佐賀競馬から中央に移籍してきて、GIを大逃げで勝つ尾花栗毛なんですよ。これはロマンでしょう。現実にいたら絶対に人気が出るよなあ。「サタンマルッコ」と名付けられた、人間のように・・・・・・賢くて人懐こい「怪馬」の一代記とでも言うべき作品。間違いなく傑作なんですよ。

というわけで

こうしてみるとなかなか対照的な背景を持っているようで興味深いですよね。「ウマ娘はプレイしてるけど競馬はあんまり詳しくない…」みたいな人は、『ブービージョッキー』→『チクショー道』という順番で読んでみるのがいいのではないかなあと思います。競馬好きの人も、競馬ラノベの勃興を願って両方とも買ってください。お願いします。