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2011年ライトノベル個人的ベスト10

1. 『アイドライジング!3』広沢サカキ

アイドライジング!〈3〉 (電撃文庫)

アイドライジング!〈3〉 (電撃文庫)

バトルスーツを身に纏い、美少女同士が殴りあう、アイドルたちの格闘ショーが一大イベントとして認知されている近未来。ひょんなことから何の覚悟も無しにアイドルになってしまった少女が、先輩アイドルや同期のライバルとの戦いを通じて、彼女たちとの友情と、自身のアイドルとしてのスタンスを育んでいくという、新人アイドルの成長ストーリー。
清く、正しく、明るく、楽しく、ときに弱く、でもいつも可愛く。極めてポジティブに読める作品であり、読後感が心地良い。この作品自体がまさに「アイドル」を体現している。そして作者の広沢サカキも、主人公のモモと同じく、荒削りだが魅力的な新人作家なのである。

2. 『丘ルトロジック3 女郎花萩のオラトリオ』耳目口司

この第3巻では、フランケンシュタインをモチーフに、というよりあらすじだけ見ればターミネーターに近いが、怪物のような男に追われて街中を駆けまわることになる。主人公と行動を共にするのは、美少女予知能力者と超ド級マゾ……設定だけ見れば異常な二人は、しかし、この作品においては「マトモ」な側の人間として描かれている。真に異常であり怪物であり邪悪であるのは、主人公たちオカルト研究会の方なのだ。「正義」よりも「悪」に魅力を感じる中二病患者の皆様方に是非ともご覧いただきたい作品である。
シリアスな「悪の組織」ものとしてのライトノベル『丘ルトロジック』 - WINDBIRD


3. 『ニーナとうさぎと魔法の戦車4』兎月竜之介

アイドライジング!』が「陽」の百合とすれば、こちらの『ニーナ』は「陰」の百合である。第4巻の主役は、居眠り病を患ったことでいじめられ、そして学校を追われた少女である。彼女は戦車隊「首無しラビッツ」に拾われ、そこで喧嘩友達もとい大切な少女と出会った。しかし、学生時代に憧れだった先輩に誘われた彼女は、悩んだ末に復学してしまう。
『ニーナ』に登場する少女たちは、誰もが重く苦しい過去を抱えている。現在を取るか、過去を取るか。そこでどうしても過去に囚われてしまうのが彼女たちであり、しかしその過去を粉々に吹き飛ばすのもまた彼女たちなのである。百合って素晴らしい。

4. 『変愛サイケデリック』間宮夏生

変愛サイケデリック (電撃文庫 ま)

変愛サイケデリック (電撃文庫 ま)

前作『月光』で捻くれ者のツンデレカップルをミステリ風に描いて人気を博した作者の新作は、またも中二病マインドがびんびんに刺激される奇妙で爽快な青春ストーリー。超高校級の知識と行動力と奇抜さを兼ね備えた美少女と、自殺願望にまみれた無表情系美少年の出会いから物語は始まる。他作品では「頼りになる変な先輩」として登場するようなタイプのキャラクターを敢えて主人公に据えているところが挑戦的で素敵だと思う。

5. 『STEINS;GATE -シュタインズ・ゲート- 円環連鎖のウロボロス2』海羽超史郎

言わずとしれた傑作ADVゲームを伝説の作家・海羽超史郎が完璧にノベライズ。海羽超史郎とシュタゲ。まさにアムロガンダムに乗せるがごとき究極の組み合わせ。さらにファンディスクを原作とした「比翼連理のアンダーリン」も現在発売中!…なんだけど、こっちはまだ読んでないんだよね。

6. 『涼宮ハルヒの驚愕(前)(後)』谷川流

ついに発売された『涼宮ハルヒ』シリーズの最新刊。詳細な感想はこちらで書いた。これでまた『ハルヒ』の続きが出なくなったとしても、もはやそれに対して文句を付けることはない。作家としての活動だけは続けてもらいたいと願うばかりだ。

7. 『俺はまだ恋に落ちていない』高木幸一

俺はまだ恋に落ちていない (GA文庫)

俺はまだ恋に落ちていない (GA文庫)

性格の異なる美人姉妹、活発で男受けの良い恵衣美と、大人しそうでいてちょっと腹黒い詠羅。顔を合わせては罵りあうような険悪な関係の二人が、主人公を挟んで火花を散らす三角関係ラブコメ
『青春ラリアット!!』『脱兎リベンジ』『東雲侑子は短編小説をあいしている』『桜色の春をこえて』『豚は飛んでもただの豚?』などなど、非「非日常」な青春恋愛物にスカっとした良作が多かった今年、もっとも俺の心を捉えたのがこの作品だった。怪力メイドや祖母の遺訓など突飛な設定も多い中で、それでも地に足のついたリアリティを感じたのは、主人公がどこまでも自然体だからだろう。デビュー作ながらとても完成度の高い作品である。

8. 『神明解ろーどぐらす5』比嘉智康

神明解ろーどぐらす5 (MF文庫J)

神明解ろーどぐらす5 (MF文庫J)

ほんわか下校風景を描く日常系から急転直下のサイコサスペンスへ。「MF文庫Jで人気のある主人公」と言われて多くの人が挙げるくらい、ラノベ界でも屈指の男気を見せる主人公の池田十勝(通称・勝ち越しさん)と、ラノベ界でも屈指の変態性を誇る「犯人」が、二人絡み合い螺旋を描いて互いを高めあっていくような、そんなシリーズ最終巻。日常系・サスペンス・ハーレムラブコメ、それぞれのジャンルで傑作は数あれど、三つ全てを兼ね備えた傑作は『ろーどぐらす』だけであろう。

9. 『テルミー2 きみをおもうきもち』滝川廉治

テルミー 2 きみをおもうきもち (集英社スーパーダッシュ文庫)

テルミー 2 きみをおもうきもち (集英社スーパーダッシュ文庫)

クラスメイトのほぼ全員が亡くなる大事故のたった二人の生き残り、恋人を失った主人公と、死んだクラスメイトの想いを憑依させたヒロインが、二十四人のクラスメイトの心残りを晴らしていく、青春オカルトストーリーの第二巻。ちょっと言い方は悪いけれど、お涙頂戴の鉄板話を、実力派の作家が見事に描き切っているのだから、そんなの感動しないわけがない。ずるさを感じるくらいに切ない作品である。

10. 『六花の勇者山形石雄

六花の勇者 (六花の勇者シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

六花の勇者 (六花の勇者シリーズ) (集英社スーパーダッシュ文庫)

ファンタジー + 人狼ゲーム。という一発ネタでは、もちろん終わらないのが山形石雄である。前作『戦う司書』シリーズにて、至極巧妙に伏線を張り巡らせ、きっちりと回収してのけたその手腕は、この作品においても遺憾なく発揮されている。
クローズドサークルに閉じ込められた六人の勇者たち、状況から推理して互いに疑惑をなすりつけあうミステリ要素、それぞれに特徴的な能力を持った彼らのバトル要素、疑心暗鬼に陥った彼らのなかでそれでも芽生える信頼、そして恋愛要素。美味しい食材をたっぷり詰め込んでまとめあげた超一流のエンターテイメント作品である。