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「大人向けラノベ」の誕生

「大人向けラノベ」あるいは「青年向けラノベ」とでも呼ぶべき作品/レーベルが、今年になって爆発的に増えている。2014年の終わりにこの流れを整理しておきたい。


大人向けラノベレーベルには二つの傾向があるように見受けられる。

まずはWeb小説の書籍化を行うタイプ。これはMFブックスモンスター文庫、あとは微妙に新潮文庫nexなどもそうだ。nexはともかく他の二つは大人向けなのか?と疑問に思われる方もいるだろうが、レーベル自身がそう名乗っているのだから仕方がない。どうも、Web小説の書籍化を購入するのは年齢が高めの読者だというような調査結果があるらしい。

もう一つは女性向けを意識したタイプ。富士見L文庫集英社オレンジ文庫などは特にその傾向が強い。ミステリやホラーが多いようで、特に「お店ミステリ」は流行ジャンルになっている。

前者のWeb小説タイプについては、これはアルファポリスなどが単行本サイズでWeb小説を書籍化してきた流れの延長線上にあるものと思われる。

他方、一部で使われている「キャラノベ」「ライト文芸」などの呼称は、後者の女性向けタイプを指していることが多い。「大人向けラノベ」と言ったとき、女性向けタイプだけを思い浮かべる人も少なくないだろう。

追記。この「女性向け」のくだりに多くの異論が寄せられているので追記します。これについては、「キャラノベ」と呼ばれる作品群にそのような傾向を個人的に感じているというだけで、「キャラノベ」が明確に女性向けを志向しているわけではありません。メディアワークス文庫新潮文庫nexなどは基本的にユニセックスなレーベルだと思います。誤解を招く書き方で申し訳ありません。追記おわり。


こうしたレーベルが今年になって増えてきたのは、メディアワークス文庫と『ビブリア古書堂の事件手帖』の成功を見たからであろうし、

さらにMW文庫の前身としては、電撃文庫のハードカバー戦略、つまり有川浩の活躍があったわけだが、

図書館戦争

図書館戦争

まあ大人向けラノベの変遷についてはid:nyapoonaさんの記事を読んでおけばいい。
[オトナ向けラノベ]記事一覧 - 小説☆ワンダーランド


では、なぜ「大人向け」が狙われるのか。

理由の一つとして、ここ数年のラノベの売上は横這いで、市場の拡大が限界を迎えているということがある。メディアワークス文庫ライトノベルを卒業した読者のためのレーベルと銘打ったように、離れてしまったラノベ読者を呼び戻したい、あるいは新たな読者を開拓したい、ということなのだろう。

大人向けラノベレーベルの特徴の一つとして「うちはライトノベルではありません」「ラノベ棚に置かないでください」と書店にアピールしていることがあるが、これもラノベ棚での熾烈な争いを避けるためだと思われる*1ラノベ棚の狭さについては一つ前の記事でも少し書いた。

増加し続けるラノベ作家の受け皿としても大いに機能している。少年向けのラノベレーベルと掛け持ちしつつ作風をがらりと変えている作家や、少年向けよりも大人向けの方が作風に合っている作家もいる。他ならぬ『ビブリア』がその代表例だろう。

ただ、ラノベ業界のこうした動きは「大人向け」に限った話ではない。中学生に人気のあるニコ動からの書籍化(ボカロや実況者など)、角川つばさ文庫のような児童向けレーベルの好調と併せて、「上下へ拡大を図っている」というのが近年の業界、もといKADOKAWAの戦略であるという印象だ。


漫画業界では既に「青年漫画」が多く存在しているのに対し、「青年ラノベ」というものがこれまで少なかったのは、小説業界においては大人向けの一般文芸がどーんと存在しており、またファンタジー・ミステリ・SFの専門レーベルたちが少なからずその機能を担っていたからだろう。

そのためラノベは、殊更に「少年少女向けの特殊なカテゴリ」であることを強調して、「先住民」との住み分けをしてきたように思われる。

しかし、「大人向けラノベ」が定着するならば、これからは漫画業界のように、少年向け、青年向け、さらには中高年向け*2と、幅広い年齢層を対象とした業界構造が成立するのかもしれない。

*1:ちなみに普通にラノベ棚に置かれていることも多い。

*2:このポジションには時代小説が有力である。富士見新時代小説文庫に注目。