近年、ラノベ業界で盛り上がりを見せている戦記ファンタジーですが、その代表格とも言える『天鏡のアルデラミン』『グラウスタンディア皇国物語』『覇剣の皇姫アルティーナ』の「共通点」と「相違点」について、語りたくなったので語ります。ちなみに見出しで「三大」とか書いてるのはあくまで個人の感想なので、皆さんも「魔弾の王を忘れんな」とか「グランクレストはどうした」とか「いまこそアルスラーンだろ」とかどんどん言ってください。
なぜこの三作品なのかと言えば、もちろん自分が好きだからというのもありますが、先に述べたとおりいくつかの共通点があるからです。
- ほぼ同時期に始まったこと
- 魔法的なものがほとんど出てこないこと
- ヒロインが皇帝の娘であること
- 主人公がその軍師であること
- 帝国は大陸最強国であるが、それ故に問題を抱えていること
- 周辺国との戦いを繰り広げながら、同時に他の皇子たちと後継争いをすること。
- トリックスター的な、不気味な敵役が登場すること
- 皇帝の死が物語の転換点となっていること
特に、帝政の軍事国家を舞台とし、主人公は帝国側に味方している、という点は興味深いと思います。他のファンタジーでは、そういう国ってたいてい悪役だったりするイメージですしね。
さて、それぞれの作品を紹介していきましょう。
- 作者: 宇野朴人,さんば挿
- 出版社/メーカー: アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2012/06/08
- メディア: 文庫
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主人公のイクタ・ソロークは、「全ての英雄は過労で死ぬ」を座右の銘として、英雄主義を批判する怠け者の青年です。ヤン・ウェンリーと違うのは、国家にさえ何の期待もしていないことでしょうか。しかし、彼がやってのけることは「国家の英雄」そのものなのです。彼が考え出す作戦は「肉を切らせて骨を断つ」というものが多いように思います。少勢で不利を強いられつつ、敵軍には強力なライバルが存在している、という状況が多いため、互いに手の内を読み合いながら最後にギリギリで凌ぐという、手に汗握る戦いが展開されます。
単純な出来の良さだけで言えば『アルデラミン』は三作品の中で随一でしょう。各種投票でも常に上位に入っており、特にマニア層から高く評価されているタイプの作品です。
ちなみに、知っている方はタイトルだけでピンとくるかもしれませんが、ピンとこない方は一巻を読んだあとでWikipediaの「ケフェウス座アルファ星」のページを見てみると良いと思います。
- 作者: 内堀優一,鵜飼沙樹
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2013/10/31
- メディア: 文庫
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主人公はクールな肉体派軍師クロム・ジャレット。イクタと違うのは、物語開始時点で軍の指揮を任されていることでしょう。そのため、特に大軍勢を率いての一大決戦が描かれる第三巻以降、個人の能力だけでは戦況を打開できなくなってくるあたりから、ぐっと面白くなってくるのです。相手がどう進軍してくるか、相手の行動のうちどれが陽動でどれが本命なのか、といったあたりの心理戦は、その点に限れば『アルデラミン』を凌ぐのでは、とさえ思います。
また、「世代交代」というテーマもあり、かっこいい老将・名将が次々に登場して、かっこいい散りざまを見せていくというのが、ちょっと反則的な魅力を醸し出しています。三作品の中では最もファンタジー度が高く、残虐な描写もままあるということで、『アルデラミン』よりも尖った印象を受けますが、独自の面白さを確立していることは間違いありません。
- 作者: むらさきゆきや,himesuz
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2012/10/29
- メディア: 文庫
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主人公レジス・オーリックは、三作品の中では最もオーソドックスというか、つまりは奇策を使って大軍を軽々と打ち破るような「軍師」です。本人は虚弱で、臆病で、自信もなく、ただひたすら本を読むことが大好きなだけのモヤシですが、一方のアルティーナは人並み外れた膂力を持つ脳筋ヒロインなので、まったくお似合いのカップルですよね。
この作品の特長については、各巻の冒頭に必ず「これまでのあらすじ」を挿れつつ、巻末に「設定資料」を載せているあたりが象徴的ですね。設定をきちんと作りこんだ上で、同時に分かりやすい物語を心がける。平原に、海に、攻城に、政争にと、各巻で異なる戦いを扱っているあたりも、サービス精神旺盛だなあと思うところです。
いずれのシリーズも(いまのところ)(まだ)(なんとか)10巻以内に収まっていますので、手を出すなら今がチャンス。戦記ラノベの実りの秋。是非とも読み比べてみてください。