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ライトノベルの世代分けを考える

世代分けって楽しいですよね。

無意味に「第3世代の特徴はこうだ!」などとレッテルを貼ったり、「第1世代の素晴らしさと比べて最近の世代は」「第7世代の面白さを理解できない老害は消えろ」なんてワイキャイと言い争いたいものです。

というわけでライトノベル作品の世代分けを考えてみましょう。

第1世代 ソノラマ・コバルト世代

1977年 高千穂遙クラッシャージョウ
1979年 栗本薫グイン・サーガ
1980年 新井素子星へ行く船
1982年 田中芳樹銀河英雄伝説
1983年 菊地秀行吸血鬼ハンターD
1984氷室冴子なんて素敵にジャパネスク

ラノベ史のスタンスは「ソノラマ・コバルトから始める」か「スニーカー・ファンタジアから始める」かで大きく分かれる気がしますが、ここではとりあえず「スニーカー・ファンタジア以前」をひと括りに「第1世代」として位置づけようと思います。

第2世代 スレイヤーズ世代

1988年 水野良ロードス島戦記
1989年 深沢美潮フォーチュン・クエスト
1990年 神坂一スレイヤーズ
1991年 中村うさぎゴクドーくん漫遊記
1992年 小野不由美十二国記
1994年 秋田禎信魔術士オーフェン

「スニーカー・ファンタジアの創刊」から「電撃文庫の台頭」くらいまでの世代です。ファンタジースペオペが多かったでしょうか。

アニメ化によって多くの新しい読者を獲得した時代でもあり、『スレイヤーズ』や「あかほりアニメ」などが90年代後半の夕方アニメを彩りました。

ちなみに「ライトノベル」という呼称が誕生したのもこの頃でしたね(一般に広まるのはもっと後ですが)。

第3世代 ブギポ世代

1998年 上遠野浩平ブギーポップは笑わない
1998年 今野緒雪マリア様がみてる
1998年 賀東招二フルメタル・パニック!
2000年 時雨沢恵一キノの旅
2000年 喬林知『まるマ』シリーズ
2001年 秋山瑞人イリヤの空、UFOの夏

電撃文庫の台頭」から「深夜アニメの増加」くらいまでの世代です。

大雑把には「ファンタジーから学園ものへ流行が移った」と語られ、その象徴として『ブギーポップは笑わない』が挙げられることが多いです。

アニメ化時期は主に2000年代前半ですが、ちょうど夕方アニメから深夜アニメへの移行期で、衛星放送のWOWOWでの放送が多かったこともあり、第2世代や第4世代ほど「アニメ化されて大ヒット!」という印象は無い気がします。

この頃に創刊されたレーベルはファミ通文庫富士見ミステリー文庫角川ビーンズ文庫MF文庫Jといったあたりです。

第4世代 ハルヒ世代

2002年 高橋弥七郎灼眼のシャナ
2002年 西尾維新『戯言』シリーズ
2003年 雪乃紗衣彩雲国物語
2003年 谷川流涼宮ハルヒの憂鬱
2004年 ヤマグチノボルゼロの使い魔
2004年 鎌池和馬とある魔術の禁書目録

「深夜アニメの増加」から「アニメ『ハルヒ』のヒット」くらいまでの世代です。ただし『禁書目録』はアニメ化の時期的に4.5世代くらいのイメージですかね。

深夜アニメの増加によってラノベ原作アニメも増加し、さらに2006年にアニメ『ハルヒ』が大ヒットしたことで、ラノベ業界を取り巻く環境が大きく変化しました。

人気ジャンルとしては異能バトルが存在感を見せていました。

この頃に創刊されたレーベルはGA文庫HJ文庫ビーズログ文庫ガガガ文庫といったあたりです。

第5世代 俺妹世代

2006年 竹宮ゆゆことらドラ!
2006年 有川浩図書館戦争
2007年 井上堅二バカとテストと召喚獣
2008年 葵せきな生徒会の一存
2008年 伏見つかさ俺の妹がこんなに可愛いわけがない
2009年 弓弦イズル『IS 〈インフィニット・ストラトス〉』
2009年 平坂読僕は友達が少ない

「アニメ『ハルヒ』のヒット」から「Web小説の書籍化ブーム」くらいまでの世代です。

勢いのあったジャンルはラブコメですが、単一の流行だけでは語りきれないほどラノベ業界は大きくなりました。

ハルヒブームとなろうブームの谷間の世代、という印象も無いではないですが、積極的なプロモーションで話題性を高めた『俺妹』、「萌え四コマ」的な作風を取り入れた『生存』『はがない』、異能学園もの(いわゆる「石鹸枠」)の先駆けとも言える『IS』など、後続への影響が地味に大きい作品が揃っているのではないでしょうか。

電撃のハードカバー路線を代表する『図書館戦争』のヒットから、2009年のメディアワークス文庫創刊、そして「ライト文芸」へと繋がっていく流れも無視できませんね。

第6世代 SAO世代

2009年 川原礫ソードアート・オンライン
2010年 橙乃ままれまおゆう魔王勇者
2011年 佐島勤魔法科高校の劣等生
2011年 三上延ビブリア古書堂の事件手帖
2011年 渡航やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
2012年 丸戸史明冴えない彼女の育てかた
2012年 長月達平Re:ゼロから始める異世界生活
2012年 丸山くがねオーバーロード
2013年 大森藤ノダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか
2013年 暁なつめこの素晴らしい世界に祝福を!

単純に発売年で見ると『SAO』は第5世代なんですけど、やはりWeb小説世代を代表させたいところです。

この段階ではまだ、個人サイト(SAO)、2ch(まおゆう)、Twitter(忍殺)、Arcadia(AW・ダンまち・オバロ・幼女戦記)など、なろう以外から書籍化されてヒットした作品が多かった印象です。

Web小説専門レーベルがまだ少なかった(2014年に創刊ラッシュが起きる)ということもあって、この世代はWeb小説が席巻しつつも「なろう一強」になる前段階とみなせるのではないかと思います。

第7世代 なろう世代

2014年 理不尽な孫の手無職転生
2014年 伏瀬『転生したらスライムだった件
2014年 住野よる『君の膵臓をたべたい』
2014年 日向夏薬屋のひとりごと
2015年 衣笠彰梧ようこそ実力至上主義の教室へ
2015年 白鳥士郎りゅうおうのおしごと!
2016年 屋久ユウキ弱キャラ友崎くん
2017年 安里アサト『86 -エイティシックス-』

2014年にWeb小説専門レーベル創刊ラッシュ、2016年にアニメ『このすば』『Reゼロ』のヒット、2017年にヒーロー文庫の二作品がアニメ化(以降、Web小説専門レーベルからのアニメ化が増加)あたりがトピックスで、ここから現在までが「なろう」ブームの全盛期ということになると思います。

とりあえず「お笑い第7世代」になぞらえてここで終わりにしておきますが、もし第8世代を考えるとすれば2018年あたりからのラブコメブームで区切ることになるかもしれません(まだ評価が定まっていないので語りづらい)。

まとめ

「ソノラマ・コバルト世代」
スレイヤーズ世代」
「ブギポ世代」
ハルヒ世代」
「俺妹世代」
「SAO世代」
「なろう世代」

なかなか良い感じじゃないでしょうか。

ラノベは「出版時」と「アニメ化時」の二段階で注目度が変わる(しかもたいていアニメ化時のほうが変化が大きい)ので、その両側面から考えなければいけないのが大変だと思います。

特に、ハルヒ世代と俺妹世代の区切り方と、SAO世代となろう世代の区切り方で、わりと個性が出るような気がしますね。

あるいはそのあたりをひとまとめにしてしまっても面白いかもしれません。

さあ、君も自分だけの世代表を作ってみよう!

「ライト文芸」周辺の用語整理

文学

小説や詩や随筆や戯曲などの総称。
もちろんライトノベルも文学の一種である。

業界的には何故か「純文学」の略称にもなっている。

純文学

芸術性に重きを置いた文学のこと。
対義語は、娯楽性に重きを置いた「大衆文学」。

芥川賞は純文学の賞。
直木賞は大衆文学の賞。

何故か「文学」と略されてしまう。

文芸

辞書的には「文学」とほぼ同義。
すなわち小説や詩や随筆や戯曲などの総称である。

業界的には何故か「一般文芸」の略称にもなっている。

また書店の「文芸書コーナー」から、そこに置かれることが多い作品=大判の小説単行本のことを「文芸(書)」と呼ぶ風潮もある気がする。

一般文芸

小説や詩などの「文芸全体」のような意味であることもあるし、「同人誌」と「一般文芸誌」が対置されることもあるし、「純文学」に対する「大衆文学」のような意味で使われることもある、極めて曖昧な呼称。

ラノベ業界においては「ラノベ以外の小説」を意味する。

何故か「文芸」と略されてしまう。

ライトノベル

1990年に神北恵太氏によって作られた造語。

長くなるので詳細な説明は避ける。

ライト文芸」や「キャラ文芸」といった言葉は出版社が打ち出したのに対し、「ライトノベル」は読者が作り出したという点で異なる。

ライト文芸ライトノベルに含まれるかについては議論があるが、そもそも「出版社から見た分類」と「読者から見た分類」ということで次元が違うようにも思える。

キャラクター小説

ライトノベル」と同義。

大塚英志の影響もあり「非現実的な誇張されたキャラクターを描いた小説」や「キャラクターありきで作られた物語」といったニュアンスを持つことが多い。

個人的には「キャラクター性」がライトノベルの特徴であるかは疑問に思うが、少なくともKADOKAWAはそう信じているようだ。

ライト文芸

ライトノベルの「ライト」と一般文芸の「文芸」をあわせてライト文芸

集英社オレンジ文庫の創刊(2015年)のときに使われたのが最初であると思われる。

「表紙にイラストを用いた青年向けの書き下ろし文庫小説」を指すことが多い。

ライト文芸的な領域」は以前から脈々とあったものの、やはりメディアワークス文庫の登場(2009年)と『ビブリア古書堂の事件手帖』のヒット(2011年)によって領土が確定した感がある。

刊行点数が増えすぎて書店の棚がいっぱいいっぱいになった電撃文庫が「これはライトノベルではありません」と自称して一般文芸の棚に置いてもらうように画策したのがライト文芸のはじまりである。

いったん少年向けレーベルから切り離されると「お仕事」「青春」「オカルト」「ミステリ」などを特徴とする独自の文化が花開き、そこに少女向けラノベや一般文芸側のレーベルも相乗りしてきて、現在の「ライト文芸」というものが出来上がった。

キャラ立ち小説

ライト文芸」と同義。

KADOKAWAの「ダ・ヴィンチ」から出てきた言葉で、「メディアワークス文庫的な小説群」の最初期の命名である。

とはいえメディアワークス文庫だけを見ていたわけではなく、当時からすでに『図書館戦争』『トッカン』『万能鑑定士Qの事件簿』なども射程におさめていた。

もはや誰も使わない呼称。

キャラノベ

ライト文芸」と同義。

これもKADOKAWAの「ダ・ヴィンチ」あたりから出てきた言葉。

ライト文芸やキャラ文芸と比べるとわりと廃れぎみな呼称。

キャラクター文芸

ライト文芸」と同義。

「キャラ文芸」と略されることが多い。

キャラ文芸を「オカルトものやミステリもの」、ライト文芸を「青春ものや感動もの」として区別する出版社もあるが、後出し独自定義なので無視してよい。

2013年にKADOKAWAが自称したのが始まりである。
kadobun.jp

やはりKADOKAWAは「キャラ」推し。
ライトノベルの特徴は「キャラクター性」であり、そのキャラクター性を取り入れた一般文芸が「キャラ文芸」なのである、というKADOKAWAの強い信念がうかがえる。

新文芸

KADOKAWAの造語。

「ネット上で発表された作品を書籍化したもの」という定義で、本来はボカロ小説なども含まれるが、現在ではほぼ「Web小説系の単行本レーベル」を指すようになっている。

何年経っても「新」文芸なのか?とか、これじゃ字面から意味が推測できないだろ?とか、いろいろツッコミどころの多い呼称であるが、徐々に広まってはいるらしい。

ただし一時期(現在も?)、出版社と書店のあいだで新文芸のことを「ライト文芸」と呼んでいたことがあり、いまでも混同されることが多い。
この用法での「文芸」は、先述した「文芸=大判の小説単行本」の発想からだろうか。

ラノベ文芸

2011年に富士見書房が「富士見ラノベ文芸大賞」を立ち上げ、ライト文芸的な作品を募集しはじめたのが最初だが、近年はそれとは別に「新文芸」を指していることが多い。

単純に「ライト文芸」の覚え間違い・書き間違いだと思うが、書店側がライト文芸と区別するために字面を変えた可能性もある。

「好きラノ 2020年下期」投票

『声優ラジオのウラオモテ』二月公

一巻・二巻が「プライベートで問題が発生して声優の仕事が阻害される」という「仕事を取り巻く環境」の話だったのに対して、今回は「声優の仕事でぶつかった壁をどう乗り越えるか」という「内側」の話になっていて、「お仕事小説」として飛躍的に面白くなったように感じる。
展開的に由美子が落ち込む状況が多くて、周りが敵に見えがちなんだけど、めくるちゃんが歌種やすみのこと大好きなのが一つのクッションになってる。めくる周りのエピソードはほのぼのしていて好き。厳しくも優しい先輩方の描かれ方も良い。声優・歌種やすみのサクセスストーリーとして読んでいきたいな。

【20下ラノベ投票/9784049134919】

『ネクラとヒリアが出会う時』村田天

これは面白かったな。女の子に囲まれて怯えている非モテマインドの残念イケメンと、クールなお嬢様だと遠巻きにされて「もっとくだらない話をしたいのに…」と思い悩むぽやぽや美少女が、互いの顔を知らないまま棚越しにお喋りするようになって惹かれ合うというラブコメ
少女漫画を彷彿とさせる可愛らしい設定がハマっていて、恋愛経験皆無な二人がのろりのろりと距離を縮めていくのが微笑ましい一方で、ちょっとした言い回しにもギャグセンスが迸る、勢いのある会話がとても楽しい。比嘉智康を好きな人にオススメしたいなあ。

【20下ラノベ投票/9784040737331】

『やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい』芝村裕吏

2巻で敗れたリエメンがいよいよ立ち行かなくなり座して死ぬか否かという断末魔のような一大攻勢に打って出て、それを主人公であるお人好しのガーディが残酷なまでに一方的に打ち砕く話。今回はわりとシンプルな構成だけど、毎度の「後世から歴史家が振り返るような」書き方や、ガーディを取り巻くドタバタな人間模様の描写が巧みで、とにかく面白く読める。ますますガーディ視点が減ってその周囲の人物たちが彼を讃えあるいは畏れる様を描くのに力点が移った感もある。そうなるとこの歴史書のような書き方がさらにマッチしてくるなあと思ったり。是非とも続きを読みたいな。

【20下ラノベ投票/9784040647326】

涼宮ハルヒの直観』谷川流

涼宮ハルヒの直観 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの直観 (角川スニーカー文庫)

  • 作者:谷川 流
  • 発売日: 2020/11/25
  • メディア: 文庫

「あてずっぽナンバーズ」。短編。ひたすらニヤニヤ度の高い話。ウェットなラブコメだ。「七不思議オーバータイム」。中編。ハルヒが七不思議を探そうと言い出すまえに七不思議を考える話。キョンと古泉の会話劇でほとんど漫才のようだ。部分的にミステリ的な話もある。最後の話の原型のような趣向。
鶴屋さんの挑戦」。書き下ろしの長編。初っ端から後期クイーン問題について結構な紙幅が割かれる、作者のミステリ趣味を最大限に詰め込んだ話。鶴屋さんから送られてくる幾つかのエピソードに隠された謎を解き明かす。違和感を持つべきところで違和感を持てるような丁度いい謎解き。面白かった。

【20下ラノベ投票/9784041107928】

『亡びの国の征服者』不手折家

この作品の面白さを説明するのはなかなか難しい気がする。何か特徴的な設定があるわけでもないオーソドックスな転生ものだ。幼児から少年、青年へと成長していくなかで、学園編が始まったり、王女さまと仲良くなったり、現代知識をもとに商売を成功させたりするのは、それこそテンプレと言っていい。
特に今巻は、学生でありながら製紙や印刷術で儲けていく展開が中心となっているが、細かな専門知識が売りというわけでもない。にもかかわらず、めちゃくちゃ面白いのは、やはり巧さなんだろうな。作品世界が手に余っていない。自家薬籠中のものにしていて「よそから借りている」という感じがしない。
ようやくタイトルの意味がおぼろげに見えてくるという程度のスローペースで、いまのところ平和で淡々とした進行をしているが、行く手はどうも不穏だし、とにかくどうなるか分からなくて面白い。続きが楽しみだ。

【20下ラノベ投票/9784865547436】

『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』リュート

貴族令嬢送り届け編の後半ということで、艦隊戦から白兵戦まで派手なバトルが繰り広げられて非常に楽しかったな。ちょいちょい出てくる謎技術とか珍兵器とかこれぞスペオペという面白さがあるし、母船の購入を検討して、スピードがあるほうがいい、いや防御力重視だ、なんて語り合ってるのもワクワク感があって嬉しい。やはりスペオペの王道的な面白さが詰まった良作だよな。クール眼鏡アンドロイドの可愛さは宇宙一やで。

【20下ラノベ投票/9784040738932】

『オーク英雄物語』理不尽な孫の手

無職転生』の人の新作。豚顔で凶暴で他種族を犯して孕ませるタイプのオークたちから一身に尊敬を集める「オーク英雄」が実は童貞で、しかも何千年も続いた戦争が終わって平和になったためにオークたちはレイプが禁じられてしまい、正攻法で嫁探しするしかなくなったので旅に出る…という話。
「オークと女騎士」のミームをパロったキレのいい軽さと、作り込まれたファンタジーとしてのコクの深さを併せもった読み味はさすがという感じ。ボンドガール的に各巻で一人のヒロインを描いていくのかな。すごく面白いのにページ数が少なくて物足りなさすら感じたので早く続きを読みたい。

【20下ラノベ投票/9784040736655】

『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』森山光太郎

辺境の島からやってきて王都の軍事学校「黒の門」に入学する男装の少女は、曰く付きの騎士の娘であり、かつてその圧倒的な軍才により島の内乱を鎮圧したが、しかし今はトラウマによりその才能は失われている。…というわけで、本編中の大半で怯えて震えている主人公が、騎士たちの確執と陰謀渦巻く「黒の門」をいかに生き延びるか、あるいはその才能を取り戻せるのか。また故郷の「兄様」と王国の「麒麟児」という二人の英雄を中心に大陸はどうなっていくのか。優秀な人物が次々に登場して英雄譚の趣きがあり、敵もわかりやすい憎まれ役のようでいて一本筋が通っていて良い。
焦らして焦らしてどかんといく、主人公の「覚醒」は否応なく盛り上がる。キャッチーな設定で非常に楽しい作品だった。前に読んだ作品は面白いながらもデコボコしている印象だったけど、本作はバランスが取れていて期待どおりの面白さだったな。

【20下ラノベ投票/9784049134599】

『僕は天国に行けない』ヰ坂暁

僕は天国に行けない (講談社タイガ)

僕は天国に行けない (講談社タイガ)

  • 作者:ヰ坂 暁
  • 発売日: 2020/12/15
  • メディア: 文庫

余命僅かな青年。カルト宗教と集団自殺。連続殺人。死後の世界はあるのか。何のために生きるのか。「死と宗教」というテーマに沿って描かれる青くさいミステリ。良いですね。何が良いってヘビースモーカー眼鏡ボク女が最高に良いですね。親友が事故死した直後に現れるヘビースモーカー眼鏡ボク女
主人公は彼女とともに親友の死の真相を探ることになる、という話。主人公がその親友に抱く崇拝にも近い愛情とか、主人公とヘビースモーカー眼鏡ボク女の恋愛とも言えない共犯者的な関係とか、めちゃくちゃツボにハマりますね。自嘲的で、露悪的で、しかし後ろ向きな希望があって。面白かったですね。

【20下ラノベ投票/9784065219287】

『ボクは再生数、ボクは死』河野裕

ボクは再生数、ボクは死

ボクは再生数、ボクは死

2033年の近未来、バ美肉おじさんがVR風俗で百合えっちしてるところから始まって此は何事ぞという感じだけど、主人公が風俗の金を稼ぐためにVR内で配信を始めて、最初は再生数4の弱小配信者から、GTAみたいな街中での殺し合い、仲間を引き連れての大戦争へと発展していくドライブ感。
現在のYouTuber/Vtuber文化をしっかり下敷きにしたディテール感と、近未来VR世界のSF的な描写力。この「あるあるw」と「ねーよw」のバランスの良さ。台詞も展開もとにかくテンポが良くて読みやすい。さすが俺たちのヒロシ。傑作でしたね。

【20下ラノベ投票/9784047363847】

【結果発表】マニアック・ライトノベル・オブ・ザ・イヤー2020

レギュレーション

・2020年内に読んだライトノベルのなかで面白かった10作品に投票してください(発売日や購入日は関係なく「読了日」を基準とします)
・「重複なし」で「10作品」必須です
・「シリーズ名」で投票してください
・ただし「スピンオフ」は別シリーズとみなします(たとえばSAO本編に対する「プログレッシブ」や「オルタナティブ」など)
・あなたがそうだと思うものがライトノベルであり他人の同意は必要ありません
・投票は「2021年1月3日(日) 24:00」までの予定です

今回の投票者は43人、すなわち全体では430票でした。順調に減っていて悲しい。

それでは投票結果です。

9票

『スパイ教室』
『ボクは再生数、ボクは死』

ボクは再生数、ボクは死

ボクは再生数、ボクは死

8票

『今はまだ「幼馴染の妹」ですけど。』

7票

『楽園ノイズ』
『探偵くんと鋭い山田さん 俺を挟んで両隣の双子姉妹が勝手に推理してくる』
筺底のエルピス

楽園ノイズ (電撃文庫)

楽園ノイズ (電撃文庫)

  • 作者:杉井 光
  • 発売日: 2020/05/09
  • メディア: 文庫
筺底のエルピス (ガガガ文庫)

筺底のエルピス (ガガガ文庫)

6票

『むしめづる姫宮さん』
『魔女と猟犬』

むしめづる姫宮さん (ガガガ文庫)

むしめづる姫宮さん (ガガガ文庫)

魔女と猟犬 (ガガガ文庫)

魔女と猟犬 (ガガガ文庫)

5票

『―異能―』
『竜と祭礼』

―異能― (MF文庫J)

―異能― (MF文庫J)

  • 作者:落葉沙夢
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 文庫
竜と祭礼 ―魔法杖職人の見地から― (GA文庫)

竜と祭礼 ―魔法杖職人の見地から― (GA文庫)

  • 作者:筑紫一明
  • 発売日: 2020/01/11
  • メディア: 文庫

4票

『こわれたせかいの むこうがわ』
『プロペラオペラ』
『ラストオーダー ひとりぼっちの百年戦争
りゅうおうのおしごと!
『君が、仲間を殺した数 ―魔塔に挑む者たちの咎―』
『継母の連れ子が元カノだった』

3票

『オーバーライト』
『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』
『きのうの春で、君を待つ』
シュレディンガーの猫探し』
ダークエルフの森となれ』
『ネクラとヒリアが出会う時』
『ねじまき精霊戦記 天鏡のアルデラミン
『ぼくの妹は息をしている(仮)』
『やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい』
やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
『異修羅』
『賢勇者シコルスキ・ジーライフの大いなる探求』
弱キャラ友崎くん
『声優ラジオのウラオモテ』
『地獄に祈れ。天に堕ちろ。』
『豚のレバーは加熱しろ』
『恋に至る病』

2票

『101メートル離れた恋』『イリヤの空、UFOの夏』『カノジョに浮気されていた俺が、小悪魔な後輩に懐かれています』『さよならの言い方なんて知らない。』『ダイブ・イントゥ・ゲームズ』『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』『とってもカワイイ私と付き合ってよ!』『ひきこまり吸血姫の悶々』『むすぶと本。』『ロード・エルメロイII世の事件簿』『ワーウルフになった俺は意思疎通ができないと思われている』『悪役令嬢になったウチのお嬢様がヤクザ令嬢だった件。』『育ちざかりの教え子がやけにエモい』『教え子に脅迫されるのは犯罪ですか?』『禁断師弟でブレイクスルー ~勇者の息子が魔王の弟子で何が悪い~』『君死にたもう流星群』『経験済みなキミと、経験ゼロなオレが、お付き合いする話。』『七つの魔剣が支配する』『真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました』『星継ぐ塔と機械の姉妹』『青春ブタ野郎シリーズ』『探偵はもう死んでいる』『超世界転生エグゾドライブ』『転生ごときで逃げられるとでも、兄さん?』『叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士』『不全世界の創造手』『魔法科高校の劣等生』『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』『狼は眠らない』

1票

『86 -エイティシックス-』『〈卵王子〉カイルロッドの苦難』『-インフィニット・デンドログラム-』『108回殺された悪役令嬢 すべてを思い出したので、乙女はルビーでキセキします』『14歳とイラストレーター』『1LDK、そして2JK。』『Babel』『BG、あるいは死せるカイニス』『Dジェネシス ダンジョンができて3年』『Fate/Requiem』『Fate/strangeFake』『Hyper Hybrid Organization』『JKハルは異世界で娼婦になった』『Re:ゼロから始める異世界生活』『Unnamed Memory』『アサシンズプライド』『あなたのことならなんでも知ってる私が彼女になるべきだよね』『アニソンの神様』『あの日、神様に願ったことは』『アルバート家の令嬢は没落をご所望です』『ある日、爆弾がおちてきて』『あれは超高率のモチャ子だよ!』『アンチリテラル数秘術師』『イスカンダル王国物語』『いつか僕らが消えても、この物語が先輩の本棚にあったなら』『ウィッチハント・カーテンコール 超歴史的殺人事件』『ウタカイ 異能短歌遊戯』『ウロボロス・レコード』『エージェントが甘えたそうに君を見ている。』『エンドブルー』『オイレン・シュピーゲル』『オーク英雄物語』『オーバーロード』『オリンポスの郵便ポスト』『お庭番デイズ』『ガーリー・エアフォース』『カネは敗者のまわりもの』『カノジョの妹とキスをした。』『キミとは致命的なズレがある』『キミと僕の最後の戦場、あるいは世界が始まる聖戦』『キミは一人じゃないじゃん、と僕の中の一人が言った』『クソゲー・オンライン(仮)』『グリモアレファレンス 図書委員は書庫迷宮に挑む』『クレイジーカンガルーの夏』『ゲーマーズ!』『ゴーストハント』『ココロコネクト』『このぬくもりを君と呼ぶんだ』『サイコパスガール イン ヤクザランド 』『さびしがりやのロリフェラトゥ』『さよなら異世界、またきて明日』『サンタクロースを殺した。そして、キスをした。』『シャバの「普通」は難しい』『ストライク・ザ・ブラッド』『スプライト・シュピーゲル』『スライム倒して300年、知らないうちにレベルMAXになってました』『セクステット 白凪学園演劇部の過剰な日常』『ソードアート・オンライン』『その色の帽子を取れ』『それでも、好きだと言えない』『タイム・リープ』『ただし彼女はレベル99』『たとえば俺が、チャンピオンから王女のヒモにジョブチェンジしたとして。』『ダンガンロンパ霧切』『ツインスター・サイクロン・ランナウェイ』『デスペラード ブルース 』『デッド・エンド・リローデッド』『デリバリールーム』『とある飛空士への夜想曲 』『どうも、好きな人に惚れ薬を依頼された魔女です。』『トリコロールをさがして』『トリニティ・ブラッド』『ニンジャスレイヤー』『ノロワレ』『ババヤガの夜』『ハル遠カラジ』『パワー・アントワネット』『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』『ファンダ・メンダ・マウス』『ブラック・ロッド』『ブレイドスキル・オンライン』『ぼくたちのリメイク』『マージナル・オペレーション』『メックタイタン ガジェット』『やがてはるか空をつなぐ』『やがて恋するヴィヴィ・レイン』『ヤンキーやめろ。メイドにしてやる』『ようこそ実力至上主義の教室へ』『ライアー・ライアー』『ラノベ部』『ラン・オーバー』『リーリエ騎士団とシンデレラの弓音』『リビルドワールド』『リュカオーン』『ルピナス探偵団の憂愁』『レディローズは平民になりたい』『ロード・エルメロイⅡ世の冒険』『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』『悪役令嬢(ところてん式)』『悪役令嬢レベル99 〜私は裏ボスですが魔王ではありません〜』『安達としまむら』『椅子職人ヴィクトール&杏の怪奇録』『異世界拷問姫』『異世界誕生』『異世界迷宮の最深部を目指そう』『異世界料理道』『一つの大陸の物語』『陰の実力者になりたくて!』『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』『嘘嘘嘘、でも愛してる』『永遠のフローズンチョコレート』『英国幻想蒸気譚』『英雄都市のバカども』『王子様の抱き枕』『王妃ベルタの肖像』『俺、ツインテールになります。』『俺の教室にハルヒはいない』『俺はまだ恋に落ちていない』『俺を好きなのはお前だけかよ』『穏やか貴族の休暇のすすめ。』『家つくりスキルで異世界を生き延びろ』『火の国、風の国物語』『花守の竜の叙情詩』『花木荘のひとびと』『外れスキル【地図化】を手にした少年は最強パーティーとダンジョンに挑む』『骸龍興亡記 人食い龍と聖女の降臨』『機龍警察』『気ままに東京サバイブ。』『虐殺器官』『吸血鬼に天国はない』『虚構推理』『境域のアルスマグナ』『教室が、ひとりになるまで』『金木犀とメテオラ』『熊本くんの本棚』『君の小説が読みたい』『君はヒト、僕は死者。世界はときどきひっくりかえる』『君を失いたくない僕と、僕の幸せを願う君』『現実でラブコメできないとだれが決めた? 』『古き掟の魔法騎士』『後宮妃の管理人』『公女殿下の家庭教師』『国道沿いのファミレス』『黒崎麻由の瞳に映る美しい世界』『黒猫館』『惚れ症のハーフエルフさん』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』『最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。』『殺したガールと他殺志願者』『紙山さんの紙袋の中には』『時空のクロス・ロード』『自殺するには向かない季節』『自称Fランクのお兄さまがゲームで評価される学園で頂点に君臨するそうですよ?』『失恋後、険悪だった幼なじみが砂糖菓子みたいに甘い ~ビターのちシュガー~』『失恋探偵ももせ』『主人公じゃない!』『終末なにしてますか? 異伝 リーリァ・アスプレイ』『終焉ノ花嫁』『住職探偵』『十三歳の誕生日、皇后になりました。』『重装令嬢モアネット』『銃皇無尽のファフニール』『処刑少女の生きる道』『女王の化粧師』『常敗将軍、また敗れる』『神々の砂漠 風の白猿神』『神様のスイッチ』『神様のメモ帳』『人類最強のヴェネチア』『世界の終わりの壁際で』『世界は愛を救わない』『世界一可愛い娘が会いに来ましたよ』『星を墜とすボクに降る、ましろの雨』『星降る夜になったら』『正捕手の篠原さん』『生活魔術師たち、ダンジョンに挑む』『精霊幻想記』『赤×ピンク』『絶望同盟』『戦闘城塞マスラヲ』『大絶滅恐竜タイムウォーズ』『蜘蛛ですが、なにか?』『中古(?)の水守さんと付き合ってみたら、やけに俺に構ってくる』『中古でも恋がしたい!』『仲が悪すぎる幼馴染が、俺が5年以上ハマっているFPSゲームのフレンドだった件について』『朝日奈さんクエスト』『帝都異世界レジスタンス』『底辺領主の勘違い英雄譚』『天才王子の赤字国家再生術 ~そうだ、売国しよう~』『天才少女Aと告白するノベルゲーム』『転生者の私に挑んでくる無謀で有望な少女の話』『湯けむり温泉郷まほろばの非日常』『董白伝』『二度目の夏、二度と会えない君』『日和ちゃんのお願いは絶対』『白百合さんかく語りき。』『八月の魔女』『叛逆のドレッドノート』『非モテの呪いで俺の彼女が大変なことに』『髭を剃る。女子高生を拾う。』『氷の海のガレオン』『封仙娘娘追宝録』『物理的に孤立している俺の高校生活』『文学少女シリーズ』『変態王子と笑わない猫。』『放課後のフェアリーテイル』『亡びの国の征服者』『僕が七不思議になったわけ』『僕たちのリメイク』『僕の軍師はスカートが短い』『僕は天国に行けない』『魔王の右腕になったので原作改悪します』『魔術士オーフェンはぐれ旅 コミクロンズ・プラン』『魔女の旅々』『魔物の国と裁縫使い ~凍える国の裁縫師、伝説の狼に懐かれる~』『無職転生』『明日の世界で星は煌めく』『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』『薬屋のひとりごと』『勇者刑に処す』『友達いらない同盟』『友達の妹が俺にだけウザい』『有閑貴族エリオットの幽雅な事件簿』『裏世界ピクニック』『瑠璃色にボケた日常』『麗子の風儀』『錬金術師の密室』『烙印の紋章

2020年ライトノベル個人的ベスト10

1. 帝都異世界レジスタンス

帝都異世界レジスタンス

帝都異世界レジスタンス

人間とともに亜人たちも暮らす架空の大正時代を舞台に、ハーフエルフの貴族令嬢や、オークの軍人、忍者の新聞記者といった個性的な面々が、謎めいた装置を使ってさまざまな異世界を行き来し、怪しげな陰謀と世界の謎へと迫っていくというお話。とにかく魅力的なのがハーフエルフの貴族令嬢こと主人公のエアルミアで、ただのお転婆な女学生と思いきや、エルフの誇りを胸に日頃から鍛錬を積んでいるバイオレンスお嬢様なんですよ。モンスターを素手で縊り殺す完全戦闘民族。超かっけえ。それでいて可愛らしい大正浪漫の雰囲気もたっぷりで、作者の力量が遺憾なく発揮されています。時代小説とファンタジー、SF的な要素が見事に調和した痛快な冒険活劇。紛れもなく2020年ベストです。

2. 亡びの国の征服者

こちらの世界で死んだ主人公が、異世界の貴族の息子に生まれ変わり、長じて騎士学校へ入学するという、実にオーソドックスな異世界転生ものです。何か目新しいアイディアがあるわけでもなく、意外な展開が目白押しというわけでもないスローペースぶりなのですが、とにかくディティールが優れていて、主人公の半生がじっくりと描かれていくだけでも滲み出るような面白さがあります。スタンダードな作りだからこそ実力が際立つと言いますか、ただ「テンプレに乗っかっている」のではなく、この作品世界を自家薬籠中のものとして「乗りこなしている」感じがするんですよね。いま異世界転生ものをどれか一つオススメしてくれと言われたら迷いなくこの作品を選びますよ。
亡びの国の征服者~魔王は世界を征服するようです~|株式会社オーバーラップ

3. 目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい

いまいちタイトルはそそられませんが、しかしその内容は「力!」「女!」「金!」のたった三言で説明できるような王道的なスペースオペラとなっております。ふと主人公が目覚めるとそこはゲームによく似た世界。ゲームでも愛機だったハイスペックな戦闘艦と、ゲームで培った変態的な操縦手腕を武器に、傭兵として星々を駆け回り、美女を助けてハーレムとし、夜はとっかえひっかえでベッドイン、宇宙海賊と出会ってはこれを退治し、大金を稼いではまた新たな装備を購入していくわけです。さまざまなSFガジェットが登場するのも楽しいところ。スペオペというジャンルの魅力をこれでもかと詰め込んだ素晴らしい作品です。

4. 楽園ノイズ

楽園ノイズ (電撃文庫)

楽園ノイズ (電撃文庫)

  • 作者:杉井 光
  • 発売日: 2020/05/09
  • メディア: 文庫
この世に存在する「間違いのないもの」の一つ、杉井光の音楽ラノベですよ。『さよならピアノソナタ』をセルフカバーしたようなあざとい作品なんですが、そうとわかっていても私には効いてしまうわけです。女装してアップしたオリ曲の演奏動画がバズってしまった主人公と、その弱みを握った破天荒な女教師と、それぞれにワケありの少女たちが集まってバンドを結成するという輝かしい青春なんですよ。まあエモい文章を書かせたら杉井光の右に出る者はなかなかいないですよね。
楽園ノイズ | 特設ページ | 電撃文庫・電撃の新文芸公式サイト

5. オーク英雄物語

無職転生』作者の最新作。長く続いた大戦争が終わったあとの平和な時代、女騎士とかをレイプするのが生き甲斐のオークにおいて「英雄」と呼ばれる最強のオークが実は情けなくも童貞で、その彼がこっそり童貞を捨てるべく嫁探しの旅に出るというヒロイック・ファンタジー。素軽く切れのいいコミカルと、きっちり作り込まれたシリアスが見事なバランスで溶け合っていて、作者がその実力を再び示した良作だと言えます。
オーク英雄物語 忖度列伝 | ファンタジア文庫

6. イスカンダル王国物語

天賦の軍才を持つ少女が、さまざまな政治的事情のもと、男装して王都の騎士学校に入学することになる学園ファンタジー。この主人公、過去のトラウマから現在はまったく覇気を無くしていて、戦いに怯えて気を失ってしまうありさま、もちろん騎士学校では周囲から馬鹿にされているのですが、そうしたフラストレーションの溜まる展開があってこそ、ここぞというところで見せる彼女の「覚醒」が大いに盛り上がるんですよね。非常にキャッチーで優れた作品だと思います。

7. ダイブ・イントゥ・ゲームズ

シビアすぎる海洋生物シミュレータ、ロボット操縦アクションでのレイドバトル、モンハンめいたVRMMORPG、中二病ロールプレイな対戦格闘ゲーム――コミュ障の主人公がさまざまな架空のVRゲームをプレイしていく趣向で、いわばビュッフェ形式でいろんな料理の美味しい部分だけを摘み食いするような作品となっています。主人公に少しずつ友人ができていくのも楽しいところで、ゲームに興じる若者を描いた青春小説としても高く評価できます。

8. こわれたせかいの むこうがわ

今年の電撃文庫の新人は粒揃いで、三巻でさらに化けた『声優ラジオのウラオモテ』や、完成度の高い『オーバーライト』も選びたいところなんですが、ここは爆発力で『こわれたせかいの むこうがわ』を推しましょう。人類が滅びたあとにたった一つ残った国家が舞台。ふと手に入れたラジオから流れてくる教育番組を聴いて「学問」を知った貧しい少女が、何があるかも分からない国外への脱出を目指すディストピア・サバイバル百合SFです。クライマックスがとにかく熱く胸に迫ります。
こわれたせかいのむこうがわ 〜少女たちのディストピア生存術〜 | 電撃文庫・電撃の新文芸公式サイト

9. やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい

限りなく優しい天才軍師の活躍を描いた戦記ファンタジー。豊富な知識に裏打ちされた独自性の高い異世界描写が面白く、また後世の歴史家が書いているというような体で「この出来事からこういうことわざが残っている」とか「今ではこう伝わっているが史実ではないと思われる」などといった「くすぐり」を入れてくるのも楽しい作品です。戦記ファンタジーでは『我が驍勇にふるえよ天地』や『天才王子の赤字国家再生術』などと並んで今が旬の作品ですね。

10. 探偵くんと鋭い山田さん

2010年代の学園ミステリの傑作『子ひつじは迷わない』の作者である玩具堂が再び挑む「日常の謎」。天才肌の姉と秀才タイプの妹と調整役の主人公の三人が、何かにつけて持ち込まれる相談に対して、あれこれと推理を巡らせていくお話です。いわゆるホームズとワトソンのような関係ではなく、得意分野の異なる三人で相談しあって真相を探っていくあたりが好きですね。もちろん三角関係ラブコメでもあり、かつて「お気に入りのぬいぐるみを取り合ってボロボロにした」という姉妹二人の修羅場にも期待したいところです。
探偵くんと鋭い山田さん | 特設ページ | MF文庫J オフィシャルウェブサイト

2020年ライトノベル10大ニュース

9年ぶりの新刊『涼宮ハルヒの直観』発売

sneakerbunko.jp

既に発表されていた2作品+書き下ろし1作品が収録された短編集で、長編『驚愕』の続きというわけではありませんでしたが、書き下ろしの『鶴屋さんの挑戦』は作者の趣味が100%反映された良い作品でした。

谷川流はミステリなら新作を書きやすいんですかね。谷川流に加えて乙一米澤穂信玩具堂・井上悠宇あたりのスニーカー文庫ミステリ組でアンソロジーとか作ってほしいですね。どうですかKADOKAWAさん!

『デアラ』『このすば』『魔法科』『フォーチュン』…人気シリーズ大量完結

今年は人気シリーズの完結が多かったですね。『フォーチュン・クエスト』なんて三十年越しの大団円ですよ。いやあレジェンドですね。

ということで、以下の記事でまとめております。
kazenotori.hatenablog.com

一方で「このライトノベルがすごい!」を見ると、『スパイ教室』『探偵はもう、死んでいる。』『カノジョの妹とキスをした。』など、今年は特に多くの新作がランキングに入っていて、世代交代の感がありましたね。

追記。そういえば今年は電撃文庫の雑誌である「電撃文庫MAGAZINE」も休刊してしまいました。ザスニもコバルトも亡き今、残るライトノベル誌は「ドラゴンマガジン」だけとなりました。

ラノベ系YouTuberに注目が集まる

やまさきりゅうさんやTERUさんなどのラノベ系YouTuberについて、新聞に取り上げられたり、出版社も宣伝を依頼したりと、その活動がさらに注目されるようになった気がします。

いわゆる「ラノベブロガー」を中心としたクラスタとはまったく範囲が重ならない別のコミュニティという感じで、個人的にこれまで見えなかった若い層が視覚化された感じがします。こうして読者も世代交代していくんですね。

あるいは、いまやVtuber業界を二分するにじさんじホロライブラノベの広報を依頼したり、若者に人気のTikTokを宣伝に使おうという流れもありますね。動画SNSを使ったマーケティングはますます盛んになっていくのでしょう。

『はめふら』と「悪役令嬢」の広がり

アニメ『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…』が注目されたことにより、いわゆる「悪役令嬢もの」というジャンルの認知が界隈の外にまで広がったのが、今年の大きな変化の一つかと思います。

というわけで「悪役令嬢もの」についてまとめた記事もあります。

kazenotori.hatenablog.com

しかし悪役令嬢もの、次のアニメ化は『はめふら』の2期しかまだ決まってないのかな。継続的なブームとしては難しいかもしれませんね。

「百合ラノベ」がトレンドに

今年のトレンドについてひとつ取り上げるなら「百合」でしょうか。もちろん、これまでも少なからぬ数の百合ラノベが出てきたわけですが、「トレンド」と認識されるまでには至らなかったと思います。

そもそもを言えば、2000年代に「萌え4コマ漫画」が流行し、それからオタク業界の中では「女の子だけの空間を描いた物語」が定着しているわけですよね。そうした作品のキャラクターを「百合」として受容することも普通に行われてきました。

しかし、その「萌え4コマ」をラノベが取り入れた際に、視点人物としての男性主人公を導入してしまったのです(生存・はがない・GJ部…)。これによりラノベの百合ブームは10年遅れたと言われています[誰に?]。

それが去年あたりからハヤカワが「百合SF」を大々的に打ち出し、そして今年は『安達としまむら』のアニメが放送、さらにハヤカワの百合SF『裏世界ピクニック』もアニメ化決定ということで、にわかに百合ラノベが盛り上がりを見せはじめました。

なろう系でも以前から「女性主人公」の作品群があり、それが女性向けに限らず男性にも読まれるユニセックスな受容がされたことで、「女の子だけのファンタジー」あるいはもっと明確に「百合を志向したファンタジー」が登場してきたという流れもあります(『私、能力は平均値でって言ったよね!』『痛いのは嫌なので防御力に極振りしたいと思います。』『くまクマ熊ベアー』など)。

そうしたなかで、いま百合ラノベを引っ張っているのは、みかみてれんのガールズラブコメでしょう。
ln-news.com

またヒットメーカー・平坂読まで百合ラノベに参入してきたということで、来年以降のさらなる盛り上がりに期待したいところです。
ga.sbcr.jp

LINEノベル終了

novel-blog.line.me
昨年、鳴り物入りで始まったLINEノベルですが、早くもサービス終了ということになってしまいました。スタートダッシュを決められなかったこともさりながら、親会社が見切りをつけるのが早すぎた感もありましたね。ソフトバンクとの経営統合なんかも影響したのかもしれませんが。

知ってのとおり、「LINEノベル」は今回で三回目の挑戦だったんですが、三度目の正直とはならず。また2022年くらいに再々々挑戦してほしいですね。

ゲームアプリ『ファンタジア・リビルド』リリース

project-frb.jp

ゲーム内容はまあぶっちゃけ「FGOのシステムでスーパー富士見大戦」なんですが、富士見ファンタジア文庫の人気キャラクターが勢揃いするということで、ラノベ読みにはたまらないゲームとなっております。いずれ、まだアニメ化されていない新作や、他レーベルの人気作品の参戦も期待したいですね。

ところで、スパロボとかをやっていてもしみじみ感じるんですが、「好きなキャラを動かす」という魅力は七難を隠すと思うんですよね。どんなにゲームシステムがマンネリでも好きなキャラがいれば苦にならない。好きなキャラを獲得するためなら課金もしたくなります。でもガチャが渋すぎると「好きなキャラを手に入れるために課金する」が「課金しても好きなキャラが手に入らない」となってしまい、むしろゲームを進める気がなくなってしまうと思うんですよ。ええ。運営さん。わかってますね?

あとほぼ同時に電撃文庫がプロデュースしたゲームもリリースされたんですけど、こちらはシナリオ担当がラノベ作家のおかゆまさきなのと、電撃文庫のアニメの主題歌が収録されたリズムゲームというくらいで、特に人気作品のキャラが出てくるとかでもないみたいですね。ファンリビに話題が掻き消された感が。
onegai-ss.com

鬼滅の刃』ノベライズが大ヒット

prtimes.jp

去年から引き続き日本を席巻している『鬼滅の刃』ブームですが、ラノベ業界でもそのノベライズが爆売れして存在感を示しています。オリコンの年間ランキングでもダントツの1位でした。

昔からノベライズは堅い売上が見込めるものでしたが、特に近年はJUMP j BOOKSが好調で、ジャンプ作品のノベライズを戦略的に売り出してきている印象がありますね。
realsound.jp

『シャングリラ・フロンティア』コミカライズがスタート

mantan-web.jp

こちらもメディアミックスの話題ですね。小説家になろうに投稿されている『シャンフロ』が書籍化をすっ飛ばして週刊少年マガジンでコミカライズ。1巻は10万部以上のスマッシュヒットということでマガジン連載陣の中でもかなり期待されている印象です。

ラノベのコミカライズの増加についてはここ五年くらいずっと言われてる気がしますね。ラノベの原作よりもコミカライズのほうが売れる、というのも昔からの傾向だと思いますが、近年は漫画アプリの普及もあり、紙なら連載枠の上限があるところを、それに制限されない大量連載が可能になったことで、コミカライズの強さがあらためて強調されている感じがします。

薬屋のひとりごと』など漫画版から人気に火が付いた作品が増えていますし、先述のとおりノベライズが好調だという話もありますから、ラノベとマンガのより密接なメディアミックスがますます重視されていくのでしょうね。

「ところざわサクラタウン」オープン

tokorozawa-sakuratown.jp

KADOKAWAの本社機能だけでなく、レストランやミュージアム、ホテル、神社まで備えた複合商業施設ということで、オープン時にはさまざまなレポートが公開されて盛り上がっていました。

KADOKAWAといえばもちろん押しも押されもせぬラノベ業界最大手であり、自社のラノベがすべて所蔵されている「マンガ・ラノベ図書館」は「日本で一番ラノベが読める図書館」と豪語しているということです。ハルヒの新刊発売時にもそれに合わせてさまざまなデコレーションをしていたみたいですね。

KADOKAWAが本社を所沢に移転するというニュースが流れたときには罰ゲームかのように騒がれたものですが、折からのコロナ禍で「リモートワークの推進」や「本社機能の地方移転」が話題となる中でのオープンとなり、図らずも時流に乗ったようにも思えます。

まあそんなこと抜きに「オタク向け観光スポット」として見てもかなり力が入っているようです。いちど行ってみたいですねえ。


というわけで2020年のラノベ業界はいろんな意味で転換期を迎えた印象ですかね。新旧の世代交代。なろうブームの爛熟。コロナ禍によるダメージと、それに伴う販売戦略の見直し。それらの変化が良い方向に働くことを願っております。

去年までの年間ニュースはこちらからどうぞ。
10大ニュース カテゴリーの記事一覧 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

なろう系異世界ファンタジー超長文タイトル批判

前置き

kazenotori.hatenablog.com

長文タイトルにはさまざまな種類があります。なろう系の長文タイトルと、ライト文芸の長文タイトルと、AVの長文タイトルと、ビジネス書の長文タイトルは、それぞれ異なる特徴を備えています。それらすべてを勘案したうえで語ることは困難なので、この記事では「小説家になろう」でよく見られるタイプの長文タイトルに限定して話を進めていきます。

ちなみに、「長文タイトル」ではなく「超長文タイトル」と銘打ったのは、最近になって一段と長文化が進んだように感じるからです。

「小説家になろう」へ2020年に投稿された作品・評価順
「小説家になろう」へ2019年に投稿された作品・評価順
「小説家になろう」へ2018年に投稿された作品・評価順

こうして見ると、2018年の作品タイトルは随分と短く感じるのではないでしょうか(感覚が麻痺しているだけで2018年時点でも相当に長いんですが)。

さらに今年10月以降の作品に限定すると…

「小説家になろう」へ2020年10月以降に投稿された作品・評価順

こんな感じになります。

メインタイトルにサブタイトルがつくようになり、「短いメインタイトル+長いサブタイトル」という形式が定着し、さらに「長いタイトル+長いサブタイトル」になっていく過程が見てとれますね。

前置きはこのくらいにして本題に入りましょう。

現在、長文タイトルに対する態度は、ひたすら馬鹿にするか、「これは必然的な進化なんだ」と肯定するかに二分されているように思えます。ただ、よく知らずに否定しているか、現状をただ追認しているかというだけで、どちらも具体的なメリットとデメリットを分析しているようには見えません。

というわけで、この記事では超長文タイトルの「メリット」と「デメリット」について語ろうと思います。いや、別に大した分析ではなく、誰でも思いつくような話になると思いますが。

メリット

作品の内容を知らせることができる

「必然的な進化だ」と主張する人は、この点を強調することが多いですね。つまり、スマホ版の「なろう」はランキング画面であらすじを折りたたんでしまうので、クリックしないとあらすじが見えない、だからタイトルにあらすじの役割が移ったのだ、ということです。

ここで注意すべきは、「なろう」という環境が特殊だからそうなったのであって、同じことが他の環境にも当てはまるわけではないはずだ、という点です。

たとえばTwitter漫画でも「○○が××する話」というタイトルを添えることでバズりやすくなる、ということが話題になり、「なるほどラノベのタイトルが長文化するわけだ」と納得されていました。しかし、これは「漫画にあらすじを添えている」のであって「漫画のタイトルをあらすじにしている」のではないはずです。Twitterには「タイトル欄」と「あらすじ欄」の区別などないはずですから、「○○が××する話」をタイトルだと思いこむのは単なる先入観にすぎません。

また、後述しますが「長文タイトルは意外に作品の内容を知らせていないぞ」ということもあります。

SEO的に優れている

タイトルにさまざまな単語が入っていると、たとえば「異世界」で検索したときにも「無双」で検索したときにも引っかるので、SEO的には優秀だと思います。ただし、「なろう」に限ってはデフォルト設定で「あらすじ」や「キーワード」も検索対象に入るので、必ずしもタイトルに入れる必要はないのではないかとも思います(Googleからの流入ってどんなもんなんだろ)。

表示領域が大きいので目立つ

あのシンプルな「なろう」のデザインで何行にも渡ってタイトルが表示されていたら否応なしに目立ちます。少し前にバズった「クリック領域が増える」なんてのもそれの一種ですね。要するに看板だろうがバナー広告だろうがWeb小説のタイトルだろうが大きい方が正義ということです。

デメリット

覚えづらい・言いづらい・書きづらい

これが最大のデメリットだと思います。

たとえば友人から面白そうな作品を紹介されたとき、その場でタイトルを覚えられなければ、後から検索もできません。その友人のほうも「タイトルは何だったか全部は覚えてないけど」みたいな曖昧な紹介しかできないでしょうし、メールやチャットなどで送るにしてもそこに文字を打ち込むのが面倒すぎます。私自身も、ブログやTwitterでタイトルを記述する機会が多いのですが、いちいちググってから正式タイトルをコピペしたりしています。

覚えづらい・言いづらい・書きづらいことは口コミを阻害するのです。

あと、これは要らぬお世話なのかもしれませんが、たぶん出版社や書店も大変なんじゃないでしょうか。だって電話とかで「こういうタイトルの本が発売されるので宣伝してください」とか「こういうタイトルの本が売れてるので在庫を回してください」とか言ったりするんですよね。客から「こういうタイトルの本ってありますか」とか聞かれたり。何十字もあるタイトルを毎回言ったりするのめちゃくちゃ疲れそうですよ。

表示領域を圧迫する

これは「目立つ」というメリットの裏返しですが。

たとえば字数制限のあるサービスだったり、タイトルを先頭10文字程度しか表示しなかったりするページでは、長文タイトルだと不便ですよね。字数制限といえばTwitterですけど、私はラノベの読了報告をTwitterに書き込んでいるので、たまに「タイトル+作者名+URL」が140字を超えないか冷や冷やしています。

あとは何と言っても書籍化されたときの表紙ですよね。いまでもデザイナーさんがいろいろ工夫して表紙に収めていますが、デザインの自由度はかなり下がっているはずです。ぜんぶ収めようとして表紙の文字が小さくなれば、サムネイル画像からタイトルを判断するのが困難になるというデメリットもあります。電子書籍がいま以上に普及していけば「書店で実物を見たときの感覚」と同じくらい「電子書籍ストアでサムネイルを見たときの感覚」も重要になってくるでしょう(この点に関しては既に「電子書籍の書影には帯がないのでアピールが弱い」みたいな重要な問題が起きています)。

イメージの平板化

内容を詳しく説明しているはずの長文タイトルですが、不思議とどれも似たような印象を受けます。これはもちろん「作品の内容が同じだから」ではなくて「内容を説明しきれていないから」だと思います。

つまり長文タイトルは「転生」「無双」「最強」「追放」「復讐」「令嬢」みたいな受けそうなワードを繋げているだけで、実は「あらすじ」といえるほど詳細なストーリーを説明できていないのです。

肝心の言葉選びが似たりよったりなのと、長文タイトルというだけで何となくシリアスな印象は受けづらい(ために気の抜けた感じのタイトルからバリバリのダークファンタジーが繰り出されたりする)という点で、受ける印象が平板化するのでしょう。

また、なろう系は大長編が多く、出発点からは想像もできないような話になっていくところが魅力ですが、逆に言うとタイトルを付ける時点では後々のことをあまり考えていないことも多いのでしょう。

というわけで

総じてメリットよりもデメリットのほうが大きいのではないか、というのが個人的な主張です。

もちろん、見比べたうえで「いや俺はメリットのほうが大きいと思うな」という人もいると思いますし、デメリットを承知しつつ状況に応じて長文タイトルを敢えて採用するということもあると思います。

私個人の経験ですが、いわゆる「当て字系タイトル」がどうにも覚えづらかったので、それほど長くない長文タイトル(ややこしい)は歓迎したいなあという気持ちもあります。過ぎたるは及ばざるが如しということで。

ではどうすればいいのか?

ガチでタイトルをあらすじにする

「なろう」って今でもアマチュアの人が多いと思うんですけど、アマチュアだと短くてオシャレなタイトルをつけるのが恥ずかしいっていうのもあると思うんですよね。あるいは逆に「タイトルをあらすじにしたほうが受ける」と言われても、どこか気後れして徹底できなかったりすると思うんです。でも一回突き詰めてみたらいいんじゃないですか。

つまり、100字であらすじを書いてタイトル欄に入力し、あらすじ欄のいちばん最初に短いタイトルを書けばいいんですよ。

これは「タイトルを長くするな」派の人も「タイトルをあらすじにすべき」派の人も納得の完璧な解決策だと思うんですけど、いかがでしょうか。

書籍化のときにはサブタイトルを省略する

サブタイトルは「なろう」向けのものだと割り切って、書籍化するときにはぜんぶ取っ払ってしまっていいのでは?

どうしてもサブタイトルを使いたいなら一巻の帯とかに入れておけばいいと思います。

略称をあらかじめ決めておく

これは「なろう」というよりラノベ全般に言える話なんですけど、長文タイトルは必然的に略称が求められるにもかかわらず、多くの作者・編集者は略称を考えていません。

しかし、略称は下手をすればタイトルよりも多く客の目に触れるものなので、タイトルと同じくらい気合を入れて決めておくべきなんじゃないかと思います。

理想は「特徴的で他の作品と区別がつきやすい」かつ「何となく元のタイトルがわかる」というものですね。

先ほど「転生」「無双」「最強」「追放」「復讐」「令嬢」みたいなキーワードが共通してしまうということを書きましたけど、それらの字を略称に使ってしまうと他の作品と被りがちになるわけです。

ちなみに現代ものだと「俺」「僕」「君」「彼女」「妹」「恋」「可愛い」「好き」とかが略称に使われすぎて「俺好き」とか「きみ好き」とか「僕愛」とか没個性な略称が生み出されていたりします。

むしろ「こういう略称にしたいから正式タイトルにこの単語を入れる」くらいのことを考えてもいいのでは?

なろう運営に訴える

変なノウハウを蓄積してタイトルを長くするより運営にメール送ったほうが遥かに簡単じゃないですか?

ぶっちゃけ「なろう」運営が怠慢でクソデザインを改善しようとしないからこんなことになってるわけですよ。

スマホ版のランキングを「タイトルは一行分のみ表示して以降は省略」「あらすじを折りたたまずにデフォで表示」にするだけで解決する話でしょう。

お問い合わせはこちらだ!
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最近の「歴史ラノベ」オススメ10選

最近のマイブームとして、スペオペと歴史ものがバチクソに来ているので、歴史ものをオススメする記事を書きます。(スペオペを読みたい人は『無双航路』『一戸建て』を読みましょう)

せっかくなので舞台となる時代順にいきます

項羽と劉邦、あと田中


いわゆる楚漢戦争の時代にタイムスリップしてきた「田中」くんが、項羽でも劉邦でもなく、田儋・田栄・田横の三兄弟が治める第三勢力「斉」を舞台にその舌先三寸で活躍する話。つまり「田中(たなか)」でなく「田中(でんちゅう)」というネタ。

全体的にみるとかなり史実に沿いつつ、たとえば漫画『キングダム』でおなじみの名将・蒙恬の命を救ったりする胸熱な歴史改変もあり、またマイナー勢力視点でかなり細かいところまで描かれているので、楚漢戦争のことをぜんぜん知らない人も、けっこう知ってるよという人も楽しめると思います。

董白伝


知る人ぞ知る董卓の孫娘・董白ちゃんとなってしまった主人公が、史実のバッドエンドを回避するために奮闘することになる話。いわゆる憑依ものというやつで、かつ悪役令嬢もののエッセンスも取り入れているのが特徴。

こちらは史実なんかガンガン無視していくタイプですね。当たり前のように女体化している馬超。軽薄なノリでめちゃくちゃ残虐な呂布。一身是胆どころかまったく覇気の感じられない趙雲武侠ものの要素もあったりして、三国志の英雄たちによる超人的なバトルが繰り広げられる、とてもハチャメチャで楽しい作品になっています。

緋色の玉座


ところ変わって中世ヨーロッパは東ローマ帝国。ベリサリウスといえばややマイナーどころですが、「中世最高の名将」とも讃えられる、東ローマ帝国の最大版図を実現した大将軍です。ところがこの人は史実でも面白くて、恐妻家で奥さんの言いなりになっていただとか、皇帝に疑われて何度も解任されてはピンチになると都合よく呼び戻されたりだとか、最後は乞食にまで落ちぶれたとかいう俗説もあり。

そんなベリサリウスを無口で生真面目な主人公とし、秘書官のプロコピオスや妻のアントニーナも大胆なアレンジをされて登場、ちょっとしたファンタジーで味付けしつつも本格的な戦記ものとなっています。

斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!


前世では医者だった主人公が斎藤義龍に転生する話で、危ない橋を渡ったうえに早死するのは勘弁と、斎藤道三織田信長とは争わない未来を狙うことになります。「義龍と争った道三が敗死したことを理由に信長が美濃を攻める」という史実の流れがどうなるのか気になるところですが、とりあえず、この作品はまだ道三が「長井規秀」と名乗っていた時期からはじまります。

土岐氏と斎藤氏の関係、ひいては守護大名と家臣団の関係、あるいは朝倉氏や六角氏といった周辺大名の状況などについて、かなり細かく書かれているのが興味深いところです。医者ということもあって、主に医療系の現代知識を活用する方向になっていくのも特徴ですね。

淡海乃海


私はまだ一巻しか読めていませんが、すでに八巻まで刊行されている人気シリーズ。こちらも歴史転生もので、主人公は西近江の国人領主である「朽木元綱」(この作品では基綱)となります。近江、すなわち滋賀県というと、京都に面していて足利将軍家と関係が深く、また東日本から上洛するにはだいたい近江を通らねばならない、つまり超がつく要所なんですよね。

そんな中で、朽木基綱は弱小領主として、現代知識を武器に飛躍していくわけです。室町幕府三好長慶の争いを中心に、四方八方の勢力と関わっていくことになるんですが、一巻時点ではまだ主人公が大名ではないので、周囲に翻弄される国人領主という、かなりミクロな視点で物語が進行していくのが面白い。これからどんどん舞台が大きくなっていくんでしょうね。

戦国昼寝姫、いざ参らぬ


非常に聡明だが極めてぐうたらな公家の娘が、三好長慶麾下の武将に嫁ぎ、夫に宥めすかされながら、男装の軍師として活躍していくという話。家臣たちからの信頼を得て、土地の揉め事を収め、そして合戦に勝利する。

やはり国同士の戦略というよりも、小さな土地での出来事を描いたもので、じつに地に足のついた物語となっています。戦国の世に「軍才豊かな女性」として生まれた主人公のさまざまな苦悩を描いた、『茉莉花官吏伝』などにも通じる女性の生き方の物語でもあるんですよね。

天下一蹴 今川氏真無用剣


ゴブリンスレイヤー』の蝸牛くもが描く、今川氏真を主人公とした時代小説。一般的には今川氏を滅ぼした愚将として知られる氏真ですが、剣術と蹴鞠の達人という史実を活かして、本作では飄々とした剣客として描かれます。

今川がすでに滅び、織田はますます勢い盛ん。氏真は名刀「義元左文字」を信長に届けに上洛への旅路につく。供は最愛の妻、蔵春院。敵は恐るべき忍び、甲賀金烏衆。氏真と蔵春の仲睦まじさは微笑ましく、奇怪な術を操る忍者との戦いは勇ましく、まさに痛快な剣豪伝奇小説ですね。

皇妃エリザベートのしくじり人生やりなおし


ミュージカルなどさまざまな作品の題材にされるハプスブルク帝国の皇后エリザベートが主人公で、彼女が逆行して人生をやり直す話。エリザベートという人物は、非常な美貌を持ち、皇帝フランツ・ヨーゼフと愛し合って結婚をしたものの、宮廷の暮らしに馴染めず、度重なる不幸もあって気力を失い、最後には暗殺されてしまう、「悲劇の女性」とも「無能な皇后」とも取れる面白い人物なんですよね。

この作品のエリザベートハプスブルクにまつわる不幸の種をことごとく潰してまわり、フランツ・ヨーゼフとの結婚も避けようとしますが、しかしフランツ・ヨーゼフの熱烈なアプローチを受けて…というラブストーリーとなっています。最後のあたりがやや駆け足ですけど「ありえざるハッピーエンド」を読みたい方におすすめですね。

Re:スタート!転生新選組


織田信奈の野望』の作者が描く幕末もの。死ぬたびにタイムループを繰り返し、土方歳三が死なない未来を目指す物語。新選組メンバーはことごとく美少女で、主人公だけが男、といういつもの作風ですが、とにかく面白いのが「この出来事が起きなければどうなるか」というifが細かく描かれることですね。最善だと思ってやったことが、回り回って思わぬ結末をもたらす。何度もループを繰り返しながら、主人公は最良の未来を目指していきます。

説明台詞の多さは欠点ですが、幕末の情勢をかなり細かく取り込んでいる作品なので、それを分かりやすく伝えるには、こういうスタイルのほうが良いのかもしれません。

双血の墓碑銘


欧米各国は吸血鬼に支配されており、幕末にやってきた黒船はその尖兵だった……という設定で、吸血鬼に取り込まれた薩長が幕府を打ち破った鳥羽伏見の戦いのあと、新撰組隊士と吸血鬼の少女が出会って逃避行をするという話。

相手は吸血鬼ということで、「鉄腕ゲッツ」やら「ワイルド・ビル」やらの歴史的な人物が不老不死の存在として登場したり、もちろん幕末なので沖田総司坂本龍馬といった面々も登場します。いわばFate鬼滅の刃。スタイリッシュかつオーソドックスな、熱い異能バトルですよ。

「ライトノベル=漫画を小説にしたもの」論

ライトノベルの特徴は、「小説文化」と「オタク文化」の境界にあって、その両方のカルチャーに食い込んでいるというところにあります。

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そのためか、ライトノベルはしばしば「漫画を小説にしたもの」と評されることがあるわけですが、これがなかなかセンシティブな話なのです。なぜなら「漫画を小説にしたもの」はだいたいネガティブな文脈で言われてきたからです。「大人の鑑賞に堪えない作品だ」「あれは『本物の小説』とは別物だよ」といったような。

かつてラノベは「字マンガ」などと呼ばれて馬鹿にされたとも聞きますが、そうした歴史もあって「漫画を小説にしたもの」という評価には、ラノベ関係者からは強い反発があったりするわけです。

ところで、「漫画を小説にしたもの」と聞くと、どんなものを思い浮かべるでしょう。「デフォルメされたキャラクターによる喜劇的で夢想的な子供向けの作品」といったようなものを思い浮かべることが多いような気がします。これはしかし、よく考えてみればおかしな話です。

現代の漫画界においては、老若男女の幅広い読者に向けて、さまざまな作品が描かれています。「デフォルメされた夢想的な作品」は当然として、社会問題をリアリスティックに扱った作品や、中高年男女の自意識を描くような作品だってまったく珍しくありません。

おそらく日本で最も多くのクリエイターが集まり、最も多様な物語が生み出されている業界です。小説で扱うような題材はたいてい漫画でも扱っている……というより「漫画で扱われていて小説では扱われていない題材」のほうが遥かに多いでしょう。

そう考えたとき、小説文化とオタク文化の中間に座す我らがライトノベルは、オタク文化、なかでも特に豊かな漫画文化を、小説に取り込むためのムーブメント」と位置づけることが可能なのではないかと思うのです。つまり「ライトノベル=漫画を小説にしたもの」という見方を積極的に肯定できるのではないかということです。

たとえば、漫画で大ヒットしているような題材が、なぜかラノベでは扱いが少ないということがあります。ライトノベルが「漫画を小説にしたもの」という前提からすると、それはつまり「漫画を小説にする」努力が足りていない、どんどん「漫画を小説にして」いきましょうよ、ということになるわけです。

あるいは、ライトノベルを「読者層」で定義するかどうかという問題があります。「メディアワークス文庫の読者層は電撃文庫とは違うからライト文芸ラノベじゃない」みたいなやつですが、これなんて漫画に置き換えれば「ヤンジャンの読者層はジャンプとは違うから青年漫画は漫画じゃない」という話になるわけですよ。そんなおかしなこと誰も言わないでしょう。

複数の異なる読者層をまるごと抱え込んでいるからこそ、漫画業界はその豊穣さを維持できるわけで、ならばそれを目指すライトノベルが、複数の異なる読者層を抱えて何の不思議があるでしょうか。

……といったわけで、「ライトノベル=漫画を小説にしたもの」論、あらためて考えてみるとそう悪くはないな、と思っている今日この頃です。よろしくお願いします。

悪役令嬢は「小説家になろう」において如何にして生まれたか?

悪役令嬢とは?

簡単に説明すると、

  • 異世界転生もの/異世界トリップものの一種である
  • 主人公が「乙女ゲームが現実化したような異世界」の「意地悪なライバルキャラ」に転生する
  • 原作ゲームでは「意地悪なライバルキャラ」は最後に没落して死亡したりする
  • なので原作どおりに進まないよう主人公が試行錯誤する

といったあたりが基本的な趣向である。

また隣接ジャンル的な感じで、

  • 主人公は王子様の許嫁だったのが「メインヒロイン」の登場で婚約を破棄される=婚約破棄
  • 最終的に主人公が幸せになる/婚約破棄した側は不幸になる=ざまぁ

といった要素も存在する。

この記事では「悪役令嬢もの」の原型としての「悪女もの」と「乙女ゲー転生」について考えてみたい。

「当事者が昔を振り返る」というよりは「よく知らないので改めて調べてみる」という記事なので、間違ったところがあれば遠慮なく突っ込んでもらいたい。

悪女ものとは?

普通は「悪女を主役とした物語」のことだが、「なろう」では「主人公が誤解から『悪女』として嫌われてしまう」といった、「嫌われ」や「勘違い系」の要素を含んだ類型のほうが多い気がする。本来の「悪女もの」とは区別して「勘違い悪女もの」とでも呼ぶべきかもしれない。

また、男性向け「なろう」作品の「勇者」のように、女性向けの「なろう」作品には「聖女」という概念がある。大雑把に言えば「神に選ばれた巫女」のようなもので、多く異世界(現実世界)から召喚され、特別な魔法を使えたり、勇者を選んだり、王族と結婚してその権威を保証したりするような役回りである。いわば『ふしぎ遊戯』の「朱雀の巫女」や、『遙かなる時空の中で』の「龍神の神子」のようなポジションか。

「勘違い悪女もの」では、ときに「聖女」によって王子様を奪われてしまい、主人公は聖女をいじめる「悪女」の濡れ衣を着せられて「婚約破棄」されてしまう…という展開になったりすることもある。その場合は「聖女」と「悪女」が対置されていることになる。

「なろう」内で最初に「悪役令嬢」という言葉を使ったのは、2012年2月12日投稿の『悪役令嬢後宮物語』であるが、この作品は乙女ゲームや転生とは無関係で、「悪人面の伯爵家とその令嬢が裏社会の帝王だとか冷酷な悪女だとか誤解されている」という勘違い悪女ものであった。この「悪人面なので周囲から誤解される」という設定は、のちの「悪役令嬢もの」でも定番となっている(まあ『エンジェル伝説』や『とらドラ!』なども考えればそもそも特異な設定ではないとも言える)。

悪役令嬢後宮物語 (アリアンローズ)

悪役令嬢後宮物語 (アリアンローズ)

  • 作者:涼風
  • 発売日: 2013/08/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

ちなみに、「なろう」以外で最初に「悪役令嬢」という言葉を使ったのは2009年発売の『悪役令嬢ヴィクトリア』であるらしいが、やはり乙女ゲームとは無関係である。どちらかというと森奈津子の『お嬢さま』シリーズ(意地悪お嬢様パロディの先駆けとも言えるライトノベル)との類似が指摘されているようだ。『悪役令嬢後宮物語』の作者がどこかで『ヴィクトリア』を見かけてその単語を用いた…という可能性もないではないが、とりあえず『ヴィクトリア』自体が後続に大きな影響を与えたというわけではないだろう。

悪役令嬢ヴィクトリア (ルルル文庫)

悪役令嬢ヴィクトリア (ルルル文庫)

他の人気作品で言うと、2013年7月25日投稿の『勘違いなさらないでっ!』が挙げられるだろうか。こちらは逆に「主人公は悪女として振る舞っているつもりが周囲にはバレバレ」という話である。

勘違いなさらないでっ!  1 (アリアンローズ)

勘違いなさらないでっ! 1 (アリアンローズ)

  • 作者:上田 リサ
  • 発売日: 2014/07/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

私の知るかぎりでいちばん古いのが2010年8月31日投稿の『エルサティーナの笛吹姫』で、これは「王に嫁いだ主人公が悪女と呼ばれ、もうひとりの妃のほうが皆から愛されて、耐えきれなくなった主人公が宮廷から逃げ出す」という話である。前出の二作品とは違って、かなりシリアスなタイプの「勘違い悪女もの」で、この時点で既に「婚約破棄」的な要素も見られる。ただし『エルサティーナ』が元祖というわけでもないだろう。

女性向けの恋愛小説を扱う「ハーレクイン」でも、「勘違い悪女」や「婚約破棄」といったジャンルは古くからあるらしい。

ハーレクイン人気漫画 悪女と呼ばれても 特集 | 特集 | ハーレクイン ライブラリ
遺産目当て?!誤解されたヒロイン特集 | 特集 | ハーレクイン ライブラリ
婚約破棄から始まる恋特集 | 特集 | ハーレクイン ライブラリ

私もさすがにハーレクインは詳しく語れないが、「なろう」では昔からハーレクイン的な現代ラブロマンスが地味に投稿されているので(自宅でできる趣味としてWeb小説を投稿している主婦層が多かったりするらしい)、意外に影響があるのではないかと思っている。

あるいは、ハーレクインに限らず女性向けの恋愛小説では、こうした「薄幸」「いじめ」「嫌われ」を前提としたシンデレラストーリーが普遍的に好まれるということでもあるのだろう。

乙女ゲー転生とは?

その名のとおり、乙女ゲームの世界に転生する話のことである。「悪役令嬢もの」の原型、というか悪役令嬢ものも含む大ジャンルと言うべきか。以下は「なろう」内の「乙女ゲーム」作品の年毎の投稿数である。

2009年:2作品
2010年:3作品
2011年:11作品
2012年:47作品
2013年:343作品
2014年:778作品
2015年:1,094作品
2016年:1,006作品

2012年に流行の兆しが見えはじめ、2013年から本格的に流行、といったところか。ちなみに「悪役令嬢」という呼称が定着したのは2015年頃となる。

悪役令嬢ものの(「なろう」における)最大のヒット作品は、2013年7月投稿の『謙虚、堅実をモットーに生きております!』である。書籍化もされないまま一時期は累計ランキング2位まで上り詰め、この作品の人気をきっかけに悪役令嬢ものが流行したと言われている。というわけで、次は2012年ごろから『謙虚』投稿に至るまでの「乙女ゲー転生」人気作品を並べてみよう。

初回掲載日タイトル総合評価ジャンル主人公の役柄書籍化備考
2012年2月7日ロザリアンの庭14,821pt現代ヒロインの友人
2012年7月13日結構ハードな乙女ゲーの世界31,284ptファンタジーヒロインのライバル 死亡フラグあり
2012年10月23日漆黒鴉学園25,719pt現代ヒロインの友人
2013年1月05日転生少女は自由に生きる。18,911ptファンタジー攻略対象の異母姉
2013年1月13日だから彼女はキューピッドになりたい17,954pt現代攻略対象の親友の妹
2013年3月11日乙女ゲーム世界で主人公相手にスパイをやっています16,407pt現代攻略対象の従妹
2013年6月9日ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです96,850ptファンタジーヒロインのライバル死亡フラグあり
2013年7月3日幸せな脇役17,796ptファンタジーヒロインと共に育った妹的ポジション
2013年7月21日謙虚、堅実をモットーに生きております!375,988pt現代ヒロインのライバル 乙女ゲーではなく少女漫画 / 没落フラグあり
(この表は横にスクロールできる)

まずひとつの特徴として、『謙虚』も含めて「現代もの」が多いことが挙げられる。私も、この時期に「乙女ゲー転生」をいくつか読んでいて、「現代の学園が舞台」という印象を持っていたので、数年後に「悪役令嬢もの」のブームを知ったとき、それらの大半が「ファンタジー」だったことに違和感を覚えたものだった。

とはいえ、当時から女性向け作品ではファンタジーが強かったので、「乙女ゲー転生」から「悪役令嬢もの」のテンプレが確立されていくにつれて、自然とそちらの流れと融合していったのだろう。

さらに、主人公が「脇役」志向であるという点も特徴である。ほとんどの主人公が「乙女ゲームの主人公」役ではなく、「主人公の友達」や「攻略キャラの家族」となっているのである。あえてテンプレを外し、主役以外の視点から物語を再構築するという点では、二次創作的な作り方を引き継いでいるように思う。

これは「乙女ゲー転生」に限ったことではない。「外れスキルを引いてゲーム攻略から脱落する(が実は有用なスキルだった)」とか、「争いを嫌って辺境でのんびり暮らす(が結局争いに巻き込まれる)」といった「主役になるのを避ける」話は、「なろう」全体で人気がある。直近の流行である「追放もの」もその一種と言えるだろう。

一時は猛威を奮った「勇者召喚もの」でも、友人や兄弟が勇者に選ばれて自分は脇役に回る、というタイプの類型があった。たとえば2010年6月13日投稿の『義妹が勇者になりました。』などがある。

義妹が勇者になりました。 (アリアンローズ)

義妹が勇者になりました。 (アリアンローズ)

  • 作者:縞白
  • 発売日: 2013/07/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

こちらの記事によると、2011年2月18日投稿の『脇役の分際』や、削除済みだが2011年10月17日投稿の『ジュディハピ!』なども大きな影響を残したらしい。

脇役の分際 (フェザー文庫)

脇役の分際 (フェザー文庫)

  • 作者:猫田 蘭
  • 発売日: 2011/11/10
  • メディア: 文庫

ジュディハピ!

ジュディハピ!

『謙虚』以前から「死亡フラグを回避する」という趣向が取り入れられていたことも興味深い。特に「ヒロインのライバル」に転生して「死亡フラグを回避する」という条件を満たした作品として、『結構ハードな乙女ゲーの世界』→『ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです』→『謙虚、堅実をモットーに生きております!』という流れが見てとれる。これを「悪役令嬢」の本流と見るべきだろう。

ただし、この段階では「悪役令嬢といえば死亡エンド」という共通認識がまだ無かったのか、代わりに「やたらキャラの死亡率が高い高難易度ゲー」「ヤンデレばっかりでキャラがすぐ刺される怪作」みたいな概念が(微妙に)広まっていたりした。「実際の乙女ゲームに悪役令嬢なんて登場しない」とは言われがちだが、「キャラがよく死ぬ乙女ゲーム」はけっこう実在するらしい。

ヤンデレゲー」で「主人公に死亡ルートがある」という設定では、2011年2月3日投稿の『Dear 狂愛』がおそらく「なろう」では最古だと思われる(もちろんそれより古い作品が削除されている可能性もある)。が、この作品が始祖というわけでもないのだろう。

既に知られているとおり、いわゆる「なろうテンプレ」は(女性向けの夢小説も含む)二次創作SSの影響を強く受けている。さらに2000年代には、個人サイトでも「異世界トリップもの」が盛んに書かれており、そうした書き手が「なろう」に流れ込んでいたと思われる。ただし、そうした2000年代の動向は「検索避け」「ホームページサービスの終了」「投稿日時の不明」「歴史を語っている人が少ない」などによって、とにかく把握しづらかったりする。ぶっちゃけよくわからんのである。

「悪役令嬢」は如何にして生まれたか?

ここまで悪役令嬢の「なろう」における源流とも言うべき二つの流れ――「勘違い悪女もの」と「乙女ゲー転生」を説明してみたが、いずれにしても「なろう」のなかでゼロから生み出されたわけではないことが分かる。

  • 童話に登場する「意地悪な継母」
  • 史実のマリー・アントワネット(悪女とみなされて処刑される)
  • 少女漫画などで定番の「高慢なお嬢様」
  • ハーレクインなどにも見られる「勘違い悪女」や「婚約破棄」
  • 乙女ゲームを題材にした「二次創作小説」
  • 夢小説などで流行した「嫌われ」

といった要素が間接的に、あるいは直接的に「なろう」に注ぎ込み、組み合わされて、現在の「悪役令嬢」テンプレが生まれたのであろう。

おまけ

つまり「悪役令嬢もの」はけっこう古くからある流行なのだが、悪役令嬢ものの一つがようやくアニメ化されて「悪役令嬢もの」というジャンルの認知が進んだのが今年なので、『謙虚』から数えてもざっと七年くらいのタイムラグがあるわけだ。書籍化→漫画化→アニメ化と経由するうちにやたら時間が経ってしまうのは「なろう」あるあるである。

これは個人的な考えなのだが、悪役令嬢ものは書籍化ではなくコミカライズから一般的な人気が出てきた感じがする。悪役令嬢ではないが女性人気の高い『薬屋のひとりごと』もそんな感じ。女性向けのなろう作品がコミカライズ経由で売れるようになった。そうして他のなろう系と比べてワンテンポ遅れたぶん、特にタイムラグが大きくなったのではないだろうか。

なろう作品はこのあたりの時系列認識が狂いがちなので気をつけたいね。