WINDBIRD::ライトノベルブログ

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スペースオペラ✕ライトノベルの現況

近年のスペオペラノベにおける課題は「なろうテンプレをいかにスペオペに移植するか」ということだったと思います。ここで言う「なろうテンプレ」とは、長らくWeb小説サイトで培われてきた、さまざまな定番要素や設定を広く指したもの、ということでご了承ください。

小説家になろう」から初期に書籍化された『銀河戦記の実弾兵器』や、現在10巻超えの長期シリーズとなっている『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』などは、なろう系における「ゲーム転生」要素を『EVE Online』や『Elite Dangerous』といったSF系MMORPGに置き換えた作品でした。つまりファンタジー世界に転生するかわりにスペオペ銀河に転生して交易に励んだり傭兵になったりするわけです。

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特に『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』は、この長ったらしいタイトル以外は本当に素晴らしい作品となっています。最強の傭兵となって銀河を駆け回り、目も眩むような大金を稼いで、さまざまな栄誉を獲得し、たくさんの美少女を助けてハーレムを築いていく。むしろ古典的なスペオペに先祖返りしているのではないかという。なろう系スペオペの代表格ですね。

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さらに『最強宇宙船』は「エルフやドワーフを登場させている」という点においても「なろうテンプレをスペオペに移植」していると言えるでしょう。昨年はそうした「エルフやドワーフが登場するスペオペ」が続けざまに刊行されて、新しい潮流となりそうな予感がしています。

まずは『スペースオーク』。地球人類が宇宙に適応するための身体改造の結果として「オーク」や「エルフ」らが生まれ、それぞれ星間国家を築いているという設定。主人公はオークの一員ですが、遠い過去の地球人(つまり現代人)の記憶が刷り込まれたために、それが疑似的な転生設定として機能しています。手柄を挙げてオークの女王を手に入れるため、脳筋オークたちを率いて奮闘する主人公の姿がかっこいい。とても面白かったです。

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そして『ファンタジー銀河』。カクヨムの人気作ですね。宇宙ゴブリンにアブダクションされて奴隷になった地球人の主人公が、なんとかそこから脱出して、さらに運良く超能力を手に入れて、銀河の冒険者として活躍していくという話。『スペースオーク』もそうなのですが、なろう系ファンタジーを表面的にスペオペにしたわけではなく、十分に独自性のあるスペオペになろう系ファンタジーの皮を被せたような形になっているところに良さがありますね。

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アニメ化も決まっている『俺は星間国家の悪徳領主!』は、なろうテンプレの一つである「悪役もの」「領主もの」をそのままスペオペにしたような作品です。お世辞にも「巧い」作品ではないのですが、とにかく勢いがあって引きが強く、そして一巻ごとにスケールが大きくなっていくので飽きないという、これはこれで「なろう系」の良いところを正しく受け継いだ作品だと思います。

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『魔王と勇者が時代遅れになりました』は、人類がとっくに宇宙に進出して、誰も残っていない異世界に召喚された「魔王」と「勇者」がタッグを組んで、宇宙船に乗って銀河で大暴れする話。つまり、なろう系でもよく見られる「魔王勇者もの」をスペオペに乗っけるという趣向ですね。魔王による「企業経営もの」でもあります。

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わらしべ長者と猫と姫』は、ベースはいわゆる「現代ダンジョンもの」なんですが、主人公のスキルが「宇宙のどこかの誰かと物々交換できる」というもので、それを通して宇宙猫やら宇宙アイドルやらが送られてきて、会社を立ち上げて宇宙技術で知識チート、最終的に宇宙に進出していくという、90年代的なごった煮感のある作品です。すごく面白かったんですが、たった二巻で完結しちゃったのが残念。

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その他、いわゆる転生・転移要素はありませんが、

異種侵略ものと「掲示板もの」をあわせてコメディに仕立てた『宇宙戦争掲示板』
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「嫌われ系」でスローライフな『キモオタモブ傭兵は、身の程を弁える』
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「勘違い系」な宇宙提督が出世して「ざまあ」する『「ここは任せて先に行け!」をしたい死にたがりの望まぬ宇宙下剋上
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といった作品が、いずれも「なろう」的な要素を加えたスペオペを展開しています。

もう一つ、直近発売された『銀河放浪ふたり旅』は、逆にあまり「なろう」っぽくない作品でした。滅びた地球の生き残りの一人が、銀河連邦的な国家に拾われて、宇宙船と超能力を手に入れて、広大な宇宙を旅していくという話なんですが、主人公に世俗的な欲望が薄く、秩序を守りつつも、純粋な好奇心によって動いているという、とてもお行儀のいいスペオペで良かったですね。
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といったわけで、ここ数年くらいのスペオペラノベをざっと紹介してみました。すっかり「なろう系スペオペ」がこなれてきて、これだけの数のスペオペが刊行されるようになったというのは、もはや90年代以来のスペオペ・ブームと言っても過言ではないのではないでしょうか。……いや、昔と比べて全体の作品数がはるかに増えているので、このくらいだとあまりブームとは認識されていない気がしますが。胸を張ってブームと言えるくらいに、もっともっと増えてほしいですね。

2024年ライトノベル個人的ベスト10

1. 『亜人の末姫皇女はいかにして王座を簒奪したか』

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人間と亜人の一大戦争を、その戦争にかかわったさまざまな人物をとおして描いたファンタジー戦記。英雄的な死に様を見せた竜騎兵。伝説的な猫人の暗殺者。飛空艇を作った発明家。砂漠の悪徳商人。人間たちを聖戦に駆り立てた神官。亜人たちを煽動する雄弁な皇女。どいつもこいつもクセの強い、あまり善人とは言いがたい連中の一生が、列伝のようなかたちで綴られていきます。まさに「歴史」を読んだ、という気分にさせられる傑作でした。

2. 『スペースオーク』

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新世代のなろう系スペオペ。遺伝子改造された人間がオークやらエルフやらと呼ばれている遠未来の宇宙を舞台に、かつての「地球人」の記憶を刷り込まれたオークの主人公が頭角を現していくストーリー。脳筋すぎてさまざまな問題を抱えるオーク社会の描き方が面白くて、SF的にも読み応えがありつつ、美しいオークの女王さまや姫さまなどのヒロイン陣も魅力的で、「スペオペ」としてのケレン味もたっぷり味わえました。

3. 『わらしべ長者と猫と姫』

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いわゆる「現代ダンジョンもの」なんですが、主人公のスキルが「宇宙のどこかの誰かと品物を交換できる」というもので、そこから喋る猫や宇宙アイドルなんかがやってきて、宇宙の進んだ技術を活用したビジネスを起業して、巨大人型ロボットを作ったり、さらには宇宙海賊だとかのスペオペ要素も絡んでくるという、なんというか、90年代の落ちものラブコメ的な「ごった煮」感がとても楽しい作品でした。

4. 『貞操逆転世界のたばこ事情』

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京都のクズ男子大学生と、それに寄ってくるダメ女たちを描いた底辺キャンパスライフもの。ただ、そこに「貞操逆転」のスパイスを振りかけることで、読者に「この世界の主人公は『男のバカ話にも付き合ってくれるタバコの似合うお姉さん』みたいなものか」という意識が刷り込まれ、なんなら主人公が本当にそういうお姉さんに思えてくるというバグを味わえるんですね。いわば実質的なTS百合ハーレムなんですよこれは。素晴らしい。

5. 『よって、初恋は証明された。』

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進学校を舞台にした理系青春ミステリ。主人公はいかにも理屈っぽい陰キャだけど、ヒロインは明るく優しい人気者。理系キャラでこのヒロインみたいな性格ってちょっと珍しいな、と思っていたら、それがちゃんと本編に絡んでくるんですよね。何の気なしに流したところをきっちり消化してくれたというか、「こんなもんだろ」で済ませないあたりが丁寧な作品だと感じます。青春の苦悩が反映された謎解きも好みでした。

6. 『第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記』

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五巻目にして主人公ジルバギアスの初陣が描かれたわけですが、これまでの蓄積を燃やし尽くしたような激動の展開と言いますか、ここまでやるのかという感想でした。何重にも絡みついたジレンマから決して主人公を解放しない、決して「なあなあ」にしないという思いが伝わってきて、本当に素晴らしかったです。

7. 『全員覚悟ガンギマリなエロゲー邪教徒モブに転生してしまった件』

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洗脳・拷問・人体実験など何でもありの「邪教」の構成員に転生した主人公が、それを内側から滅ぼすために教団に忠実な信徒のふりをする、という筋立ては『ジルバギアス』に近いんですよね。しかし本作の主人公は、特殊な能力も、特別な地位もない。ただのモブでしかない主人公が、化け物じみた幹部たちをどうやって倒すのか。本当に「覚悟ガンギマリ」なのは主人公だったという話です。

8. 『フルメタル・パニック! Family』

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言わずもがなの名作の続編。結婚した宗介とかなめが、二人の子供とともに追手と戦いながら、住居を転々としていくホームコメディ。かつての短編シリーズに近い作りですが、あそこまでギャグに振っているわけでもなく、ある意味では大人になったというか、落ち着いたコメディになっています。「大人になってしまった」という哀愁すら漂っている。でもそれは決して悪いことじゃない。というほろ苦い味が良いですね。

9. 『冒険者酒場の料理人』

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そのままでは食べられない迷宮の素材をあれこれと工夫して食べられるようにしていく異世界料理ファンタジー。『異世界刀匠の魔剣製作ぐらし』あたりと同じく一つのコンセプトを巧みに転がしていく手腕が見事。硬すぎる魚だのすぐ腐る肉だのを分析し、実験し、その調理法を解き明かしていくあたりはミステリ的な面白さもある。さらには子育て要素や恋愛要素もあって、それで描かれるキャラクターも魅力的でしたね。

10. 『エイム・タップ・シンデレラ』

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毎年のことながら「最上位以外はベスト30くらいまで同着」みたいなところがあるので悩むんですが、今回は他に選んだ作品と題材が被っていないところを買って、こちらの作品を選びました。『VALORANT』的な対戦FPSを描いたeスポーツもの。あくまで試合シーンを中心とした筋肉質な構成はスポーツ小説として出来がよく、加えて主人公を中心とした百合三角関係も見どころ。主人公のやってることが「自分の妹を倒すために無名の天才選手を育てる」という星一徹ムーブなんでエグいんですよね。とても楽しく読めました。

2024年ライトノベル10大ニュース

KADOKAWAサイバー攻撃を受ける

ja.wikipedia.org
ランサムウェアによってKADOKAWAのサーバーがロックされ、ニコニコ動画などのKADOKAWA系のWebサービスが軒並み停止するなど大騒動となりました。ライトノベル業界的にも、書籍の受注システムが停止したことで一時的に出荷が減少したり、ライトノベルレーベルの公式サイトが無くなったりなど、さまざまな問題が起きていましたね。現在でも電撃文庫以外の公式サイトは再開されていません。そのため各レーベルともSNSでの情報発信を強化するなど、図らずも広報戦略に変化があったような気がします。サーバーが別だったのか稼働を続けている「キミラノ」も公式サイトの代替として活躍していました。

あとはKADOKAWASONYに買収されるかもしれない、というニュースにも驚きましたが、いったんは資本提携というところで落ち着いたようですね。

ラノベ原作ラブコメアニメのヒット

makeine-anime.com
2010年代後半から続く第二次ラブコメラノベブームのメインストリームがついにアニメ業界にまで波及したと言うべきか、今年の夏は『マケイン』『ロシデレ』『義妹生活』『ふたきれ』『V伝』が同時に放送されるという、なんだかもったいないような気もするクールとなりました。特に『マケイン』『ロシデレ』はかなりの高評価だったようです。その余勢を駆った『マケイン』は「このラノ」でも一位になっていましたね。

とはいえ、これに続くラブコメアニメの予定は、いまのところ『クラ婚』『チラムネ』『わたなれ』『クラにか』『だんじょる』くらいか…?

涼宮ハルヒ』シリーズ新作発売

kimirano.jp
前作『直観』から四年なのでぜんぜん早かったですね(錯乱)。昔の短編に書き下ろしで肉付けをした短編集、というのは『直観』と同じでしたが、久々のハルヒを楽しませていただきました。どうなんでしょう、もう長編は書かれないんでしょうか。いっそハルヒ以外の新シリーズでも読みたいのですが。

『誰が勇者を殺したか』駄犬の活躍

ln-news.com
昨年の『誰勇』のスマッシュヒットから、今年はその作者「駄犬」の作品が各社から続々と書籍化されました。すっかりヒットメーカーといった感じですね。元・編集者という経歴や、その作品の多くが単巻完結というあたりも興味深いです。また『誰勇』の影響か「魔王を討伐したあとの勇者パーティ」を取り扱った作品が目に付くようになった気がして、勝手に2010年代初頭の魔王勇者ラノベブームのリバイバルを感じています。

小説家になろう20周年

blog.syosetu.com
2004年に個人が開設したウェブサイトが、そこから20年で日本最大のWeb小説サイトとなり、ライトノベル業界に留まらず、出版業界に凄まじい影響を与えてしまったということで、なかなかドラマチックなものを感じます。一方で、運営会社ヒナプロジェクトの経営陣が刷新され、創設者である梅崎祐輔氏も退任されたということで、詳しい事情はわかりませんが、今後の「なろう」がどうなっていくかにも注目ですね。

魔法のiらんどカクヨムに吸収される

kakuyomu.jp
「現在でもこんなにPVがありますよ!」と発表するたびに、そのPVの数字が数億単位で下がっているというのが風物詩だったケータイ小説の代表格「魔法のiらんど」でしたが、ついにカクヨムと合併することになりました。実はKADOKAWA傘下だったんですよね。読者層で言えばエブリスタと合併したほうがよかったのではと思わないでもありませんが。

カクヨムは、人気作家の新作をサブスクで読める「カクヨムネクスト」を開始するなど、さまざまな施策を行いながら、陰りを見せつつある「小説家になろう」を猛追している印象です。「なろう」は女性向けの作品が増えたために、男性向け作品がカクヨムに逃げ出したと言われていますが(それでもまだ男性読者のほうが多いらしい)、魔法のiらんどカクヨムに入ることで男女比がどうなるかも気になります。

Web発ホラーブーム

www.asahi.com
近年は『近畿地方のある場所について』『右園死児報告』『ほねがらみ』などカクヨム発のホラー小説が人気を博しており、それが今年は『変な家』のヒットなどとあわせて「ホラーブーム」として認知されたように思います。ホラー自体はずっと人気のあるジャンルではあるのですが、最近の作品はWeb発であることに加えて「モキュメンタリー」っぽさも特徴になっているでしょうか。カクヨムでも次なるヒットを狙ってモキュメンタリーホラーが続々と出てきているようですが、来年はブームにさらなる広がりがあるのか注目ですね。

ブルーライト文芸」バズる

toyokeizai.net
もともとは阪大感傷マゾ研究会のペシミ氏が提唱していた概念でしたが、上記の東洋経済の記事をきっかけにそこそこ人口に膾炙したのではないかと思います。要するにスターツ出版文庫に代表される「表紙に青系のイラストが使われているエモ系ライト文芸」のことです。その多くは「余命もの」「難病もの」であり、こちらもやはり昔から人気のあるジャンルではありますが、今年は映画『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』のヒットもあったことから、あらためて注目が集まったということでしょう。

「好きラノ」復活

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Twitterの問題により中止が続いていた人気投票企画「好きラノ」ですが、今年は開催場所をBlueskyに移して開催されることになったようです。皆さま、忘れないように投票しましょう。でもブログ投票は無いんですね。

個人的にもTwitterはそろそろ潮時かなと思っているんですが、とはいえネットワーク効果が強すぎて。せめてログの移行だけでも出来ればいいんですけどね。

山本弘、死去

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ラノベ作家として、あるいはSF作家として、グループSNEの中心人物として長く活躍されました。『ロードス島戦記』の元となったD&Dのリプレイ企画でエルフのディードリットを担当したことはあまりにも有名で、私自身はほとんど作品に触れる機会はありませんでしたが、ラノベ黎明期の伝説的作家の一人、といった印象があります。


去年までの年間ニュースはこちらからどうぞ。
10大ニュース カテゴリーの記事一覧 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

「自分が好きな」ライトノベル・オールタイム・ベスト100

前回は「客観的に重要な作品」で100作品を選んだのですが、いちおう「自分が好きな作品」に全振りしたリストも作っておこうと思いました。「シリーズ単位」「一作家一作品」で選出。とはいえ、西尾維新が言うところの「はぐれてしまった」というやつ、つまり「最初は大好きだったけどいつのまにか買わなくなったシリーズ」も多い。でも、そのとき好きだった気持ちは嘘じゃないから…と言い訳しておきます。

ちなみに私のライトノベル遍歴を読むと、初期のあたりがどうしてこういうラインナップなのかがわかると思います。

というわけでそのリストです。

  1. 田中芳樹銀河英雄伝説』(1982年)
  2. 森奈津子『お嬢さまとお呼び!』(1991年)
  3. 小野不由美十二国記』(1992年)
  4. 流星香『電影戦線』(1997年)
  5. 賀東招二フルメタル・パニック!』(1998年)
  6. 城平京『名探偵に薔薇を』(1998年)
  7. 響野夏菜『東京S黄尾探偵団』(1999年)
  8. 秋田禎信『エンジェル・ハウリング』(2000年)
  9. 上遠野浩平『ナイトウォッチ』シリーズ(2000年)
  10. 秋山瑞人イリヤの空、UFOの夏』(2001年)
  11. 海羽超史郎『ラスト・ビジョン』(2001年)
  12. 三雲岳斗ランブルフィッシュ』(2001年)
  13. 岩井恭平『消閑の挑戦者』(2002年)
  14. うえお久光悪魔のミカタ』(2002年)
  15. 乙一『GOTH』(2002年)
  16. 西尾維新きみとぼくの壊れた世界』(2003年)
  17. 谷川流涼宮ハルヒ』シリーズ(2003年)
    • 人生で「ベスト3」を選ぶとしたらこの『GOTH』『きみぼく』『ハルヒ』なのだが、この三作品の時期が固まっているのは偶然ではなく、つまりいちばん多感な青春時代、いちばんライトノベルを新鮮に感じていた頃に、いちばん好きな作品だったから、という思い出補正が大きい。
  18. 新井輝ROOM NO.1301』(2003年)
  19. 桜庭一樹『赤×ピンク』(2003年)
  20. 海原零銀盤カレイドスコープ』(2003年)
  21. 桜坂洋ALL YOU NEED IS KILL』(2004年)
  22. 米澤穂信さよなら妖精』(2004年)
  23. 奈須きのこ空の境界』(2004年)
  24. 近藤信義『ゆらゆらと揺れる海の彼方』(2004年)
  25. 中村恵里加ソウル・アンダーテイカー』(2005年)
  26. 扇智史『アルテミス・スコードロン』(2005年)
  27. 山形石雄戦う司書』シリーズ(2005年)
  28. 新城カズマサマー/タイム/トラベラー』(2005年)
  29. 友桐夏白い花の舞い散る時間』(2005年)
  30. 周防ツカサ『ユメ視る猫とカノジョの行方』(2006年)
  31. 水瀬葉月『ぼくと魔女式アポカリプス』(2006年)
  32. スズキヒサシ『タザリア王国物語』(2006年)
  33. 林トモアキ戦闘城塞マスラヲ』(2006年)
  34. 竹宮ゆゆことらドラ!』(2006年)
  35. 木ノ歌詠『幽霊列車とこんぺい糖』(2007年)
  36. 一柳凪『みすてぃっく・あい』(2007年)
  37. 清野静時載りリンネ!』(2007年)
  38. 森橋ビンゴ『ラビオリ・ウエスタン』(2007年)
  39. アサウラ『バニラ』(2007年)
  40. 師走トオル火の国、風の国物語』(2007年)
  41. 杉井光さよならピアノソナタ』(2007年)
  42. 藍上陸アキカン!』(2007年)
  43. 葉鳥哲『この広い世界にふたりぼっち』(2008年)
  44. 平坂読ラノベ部』(2008年)
  45. 伏見つかさ俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(2008年)
  46. 十文字青『ぷりるん。』(2009年)
  47. 壁井ユカコクロノ×セクス×コンプレックス』(2009年)
  48. 本田誠空色パンデミック』(2010年)
  49. 耳目口司丘ルトロジック』(2010年)
  50. 日野一二三『A=宇宙少女^2×魂の速度』(2010年)
  51. 南井大介『小さな魔女と空飛ぶ狐』(2010年)
  52. 比嘉智康神明解ろーどぐらす』(2010年)
  53. 玩具堂子ひつじは迷わない』(2010年)
  54. 広沢サカキ『アイドライジング!』(2011年)
  55. 高木幸一『俺はまだ恋に落ちていない』(2011年)
  56. 宇野朴人天鏡のアルデラミン』(2012年)
    • この時期の選出が少ないのはお金が無くてラノベから離れていたため。かわりにWeb小説を読み漁っていた。
  57. 石川博品『ヴァンパイア・サマータイム』(2013年)
  58. 佐藤ケイ『魔女は月出づるところに眠る』(2013年)
  59. 青葉優一『王手桂香取り!』(2014年)
  60. 出口きぬごし『サディスティックムーン』(2014年)
  61. 田吉孝『夏の終わりとリセット彼女』(2014年)
  62. 稲葉義明『ルガルギガム』(2014年)
  63. Gibson銀河戦記の実弾兵器』(2014年)
  64. 雨木シュウスケグリモアコートの乙女たち』(2015年)
  65. 鳩見すた『ひとつ海のパラスアテナ』(2015年)
  66. 椎田十三いでおろーぐ!』(2015年)
  67. 白鳥士郎りゅうおうのおしごと!』(2015年)
  68. あわむら赤光『我が驍勇にふるえよ天地』(2016年)
  69. 久遠侑近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係』(2016年)
  70. 川原礫絶対ナル孤独者』(2016年)
  71. 神野オキナ『EXMOD』(2017年)
  72. 長谷敏司『ストライクフォール』(2017年)
  73. 河野裕『ウォーター&ビスケットのテーマ』(2017年)
  74. 羽場楽人『わたしの魔術コンサルタント』(2017年)
  75. 杉原智則『叛逆せよ! 英雄、転じて邪神騎士』(2017年)
  76. 紙城境介『継母の連れ子が元カノだった』(2018年)
  77. 松屋大好『無双航路』(2018年)
  78. 酒井田寛太郎『ジャナ研の憂鬱な事件簿』(2018年)
  79. 西条陽『ランダム・ウォーカー』シリーズ(2018年)
  80. 黒留ハガネ『世界の闇と戦う秘密結社が無いから作った(半ギレ)』(2019年)
  81. まきしま鈴木『気ままに東京サバイブ。』(2019年)
  82. リュート『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』(2019年)
  83. 遠藤浅蜊『帝都異世界レジスタンス』(2020年)
  84. 不手折家『亡びの国の征服者』(2020年)
  85. 理不尽な孫の手『オーク英雄物語』(2020年)
  86. 二月公『声優ラジオのウラオモテ』(2020年)
  87. 芝村裕吏『やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい』(2020年)
  88. ヰ坂暁『僕は天国に行けない』(2020年)
  89. Schuld『ヘンダーソン氏の福音を』(2020年)
  90. 之貫紀『Dジェネシス』(2020年)
  91. 紫大悟『魔王2099』(2021年)
  92. ロケット商会『勇者刑に処す』(2021年)
  93. 依空まつり『サイレント・ウィッチ』(2021年)
  94. 野井ぷら『12ハロンのチクショー道』(2021年)
  95. 有丈ほえる『ブービージョッキー!!』(2022年)
  96. 甘木智彬『第七魔王子ジルバギアスの魔王傾国記』(2022年)
  97. トルトネン『ハイセルク戦記』(2022年)
  98. 七篠康晴『ダンジョンシーカーズ』(2023年)
  99. 荻原数馬『異世界刀匠の魔剣製作ぐらし』(2023年)
  100. Syousa.『あなたの未来を許さない』(2023年)

ライトノベル・オールタイム・ベスト100を考える

オールタイムベストって「自分が好きな作品」を選ぶか「客観的に重要な作品」を選ぶかでかなり性質が違ってくると思うんですが、そもそも「自分が好きな作品」なら毎年の個人的ベスト10をまとめればいいだけだし、「客観的に重要な作品」を選ぶならアニメ化リストを見ながら売れてそうな作品を選ぶだけなので、あんまり面白くないんですよね。

と思いつつ、まあ何事も経験だし、いったん100作品挙げてみるか、ということでリストアップしてみました。大変でした。

いや100作品って中途半端なんですよ。まずパッと思いつく作品を並べてみたら60作品くらいだったんですよ。んで気合を入れて候補をリストアップしたら140作品くらいになったわけですよ。だからもう極端に言えば「同率61位が80作品ある」みたいな感じなんですよね。今日寝て明日起きたらぜんぜん別のリストを作っているかもしれない。その程度のものです。

ちなみに私がリアルタイムで知っているのはだいたい2000年以降です。それ以前の作品は、先達のラノベ語りを聞いて、そこでよく出てくる作品とかを並べているだけだと思ってください。

あと、個人的な信条として、少女向けやライト文芸も含め、ラノベの定義をなるべく広く取ろうとしています。

なろう系は本当に網羅しようと思ったら数が多すぎるので「悪役令嬢」とか「追放もの」とか「クラス転移」とか「グルメもの」とかそういった小ジャンルの代表を選んでいるような感覚です。

もっと「自分が好きな作品」も入れたかったんですが、どちらかというと「客観的に重要な作品」だけで一杯になってしまっています。

そういった意味でも、全体的に選出基準にムラがあって、かなりバランスが悪いリストだと思っているんですが、リスト作成に費やした時間がもったいないので記事にします。このリストが完璧だとはまったく思っていません。と言い訳しまくっておきます。

というわけでそのリストです。

  1. 時をかける少女(1967年)
  2. ウルフガイ(1971年)
  3. ねらわれた学園(1973年)
  4. クラッシャージョウ(1977年)
  5. グイン・サーガ(1979年)
  6. 星へ行く船(1981年)
  7. 銀河英雄伝説(1982年)
  8. キマイラ(1982年)
  9. 吸血鬼ハンターD(1983年)
  10. なんて素敵にジャパネスク1984年)
  11. 妖精作戦1984年)
  12. ロードス島戦記(1988年)
  13. 隣り合わせの灰と青春(1988年)
  14. フォーチュン・クエスト(1989年)
  15. スレイヤーズ(1990年)
  16. 炎の蜃気楼(1990年)
  17. ゴクドーくん漫遊記(1991年)
  18. 蓬萊学園シリーズ(1991年)
  19. 〈卵王子〉カイルロッドの苦難(1992年)
  20. 十二国記(1992年)
  21. 魔術士オーフェン(1994年)
  22. セイバーマリオネットJ(1995年)
  23. タイム・リープ(1995年)
  24. ブラックロッド(1996年)
  25. ブギーポップシリーズ(1998年)
  26. マリア様がみてる(1998年)
  27. フルメタル・パニック!(1998年)
  28. ラグナロク(1998年)
  29. 皇国の守護者(1998年)
  30. キノの旅(2000年)
  31. まるマシリーズ(2000年)
  32. 少年陰陽師(2001年)
  33. まぶらほ(2001年)
  34. トリニティ・ブラッド(2001年)
  35. イリヤの空、UFOの夏(2001年)
  36. 古典部シリーズ(2001年)
  37. 戯言シリーズ(2002年)
  38. GOTH(2002年)
  39. NHKにようこそ!(2002年)
  40. 灼眼のシャナ(2002年)
  41. 伝説の勇者の伝説(2002年)
  42. 涼宮ハルヒシリーズ(2003年)
  43. 撲殺天使ドクロちゃん(2003年)
  44. 彩雲国物語(2003年)
  45. 半分の月がのぼる空(2003年)
  46. 銀盤カレイドスコープ(2003年)
  47. されど罪人は竜と踊る(2003年)
  48. マルドゥック・スクランブル(2003年)
  49. 空の境界(2004年)
  50. ゼロの使い魔(2004年)
  51. とある魔術の禁書目録(2004年)
  52. 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない(2004年)
  53. All You Need Is Kill(2004年)
  54. レイン(2005年)
  55. 狼と香辛料(2006年)
  56. とらドラ!(2006年)
  57. “文学少女”シリーズ(2006年)
  58. 図書館戦争(2006年)
  59. バカとテストと召喚獣(2007年)
  60. ミミズクと夜の王(2007年)
  61. 俺の妹がこんなに可愛いわけがない(2008年)
  62. 生徒会の一存(2008年)
  63. とある飛空士への追憶(2008年)
  64. AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜(2008年)
  65. ソードアート・オンライン(2009年)
  66. IS〈インフィニット・ストラトス〉(2009年)
  67. 紫色のクオリア(2009年)
  68. まおゆう魔王勇者(2010年)
  69. ゲート(2010年)
  70. 悪ノ娘(2010年)
  71. 魔法科高校の劣等生(2011年)
  72. やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。(2011年)
  73. デート・ア・ライブ(2011年)
  74. ビブリア古書堂の事件手帖(2011年)
  75. 魔弾の王と戦姫(2011年)
  76. 冴えない彼女の育てかた(2012年)
  77. オーバーロード(2012年)
  78. ニンジャスレイヤー(2012年)
  79. この素晴らしい世界に祝福を!(2013年)
  80. ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか(2013年)
  81. 青春ブタ野郎シリーズ(2014年)
  82. Re:ゼロから始める異世界生活(2014年)
  83. 転生したらスライムだった件(2014年)
  84. 無職転生(2014年)
  85. 薬屋のひとりごと(2014年)
  86. 異世界居酒屋「のぶ」(2014年)
  87. ようこそ実力至上主義の教室へ(2015年)
  88. りゅうおうのおしごと!(2015年)
  89. 乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…(2015年)
  90. ありふれた職業で世界最強(2015年)
  91. 君の膵臓をたべたい(2015年)
  92. ゴブリンスレイヤー(2016年)
  93. 弱キャラ友崎くん(2016年)
  94. 86-エイティシックス-(2017年)
  95. 真の仲間じゃないと勇者のパーティーを追い出されたので、辺境でスローライフすることにしました(2018年)
  96. お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件(2019年)
  97. わたしの幸せな結婚(2019年)
  98. 時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん(2021年)
  99. VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた(2021年)
  100. 誰が勇者を殺したか(2023年)

おまけで、リストからは泣く泣く外したけれども「自分が好きな作品」寄りの候補。

未アニメ化の定番名作。このラインの作品をリストアップしたほうが面白いのでは?と思わないでもない。

セックスあり青春ラノベの代表格。

最近思い出す機会があった。刊行当時にかなり話題になった鮮烈な作品。こういうのも入れたいよな。

ラノベにおける「無双」「俺TUEEE」の先駆けとしてエポックメイキングな存在だと思っている。

ある種の極北として非常に重要な作品だと思っているが同意が得られないのも理解している。

  • 幽霊列車とこんぺい糖(2007年)

砂糖菓子を入れるならこんぺい糖も入れたいじゃないですか。

2008年にすでに最高の現代ダンジョンものが出ていたという事実を噛み締めたい。

「日常系ラノベ」で選ぶならジャンルを確立した『生徒会の一存』は外せないんだよな、と思ってこっちを外しました。すみません。

やっぱり石川博品は入れておくべきなんじゃないですか。

  • 継母の連れ子が元カノだった(2018年)
  • ひげを剃る。そして女子高生を拾う。(2018年)

2010年代後半からのラブコメブームの初期の代表格として入れておくべきなのではと悩む。

「いいな」と思った最近のライトノベル表紙(2024年版)

なんとなく思い立ったときにやってみるコーナーです。本当に素人目で見たときの「いいな」なのでデザインの専門的な解説などはありません。作品内容の良し悪しとも関係ありません。

過去のやつ → 2017年版 2021年版

TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA

TS悪役令嬢神様転生善人追放配信RTA 嫌われ追放エンドを目指してるのに最強無双ロードから降りられない

大きくて目立つ黄色い文字と、光り輝く熱狂感、そして主人公の不敵な笑み。まさにRTAのような勢いを感じます。一発で印象に残りますよね。

ジェノヴァの弟子

ジェノヴァの弟子 ~10秒しか戦えない魔術師、のちの『魔王』を育てる~ (ダッシュエックス文庫DIGITAL)

輝きならこっちだって負けてないぜ、とばかりにキラキラのビカビカ、タイトルロゴまで閃光エフェクトで飾られている。なんだかよくわからんがド派手すぎる。いやあ好きですね。

刻をかける怪獣

刻をかける怪獣 (角川スニーカー文庫)

これはタイトルロゴが好きですね。こういうデザインって何て言えばいいんだろ。何か言い方がありそう。キャラクターはわかりやすく『怪獣8号』なんですが、この太くて無骨なタイトルロゴによって異なる印象になっている気がします。

同い年の妹と、二人一人旅

同い年の妹と、二人一人旅 (MF文庫J)

横向き表紙で海のパノラマ感を出している。美しいですね。

竜殺しのブリュンヒルド

竜殺しのブリュンヒルド (電撃文庫)

下半分をバッサリ白くした大胆なデザインに、血のように真っ赤なタイトルロゴが鮮烈。作品自体がスマッシュヒットしたこともあって、ここ数年では最も話題になった表紙ではないでしょうか。

恋は暗黒。

恋は暗黒。3 (MF文庫J)

暗闇のなかで黄色い照明だけを浴びせたような二階調デザイン。濃い黄色で塗られることでむしろ「暗黒」を強く感じます。

冤罪執行遊戯ユルキル

冤罪執行遊戯ユルキル 上冤罪執行遊戯ユルキル 下

ノベライズ作品の表紙はやっぱり「ラノベとは別の文法」でデザインされていることが多い気がします。ロゴもゲーム用に作られているからめちゃくちゃ凝っているし。あとはまあ毎度のことですが清原紘の絵ヂカラが強い。そして単色背景が好き。

プラントピア

プラントピア (電撃文庫)

こちらも単色背景。しかもビビッドなピンク。タイトルロゴもフローラルに飾られていて端正ですね。

仕事が終われば、あの祝福で

仕事が終われば、あの祝福で

『エルデンリング』のノベライズ…というか、「エルデンリングのプレイヤーのノベライズ」として話題になった作品。現実のオフィスの窓から『エルデンリング』の黄金樹が見えている、という構図が印象に残るし、キャラクターも向こうを見ていて顔がわからない、というのも面白いです。

推しに捧げるダンジョングルメ

推しにささげるダンジョングルメ 01 最強探索者VTuberになる

Vtuberものは、表紙にシークバーをつけたり、アイコンを添えたりすることが多いんですが、この表紙も密かにウィンドウになってますね。作者名などが枠外にあるので、要素は盛り込まれているんだけどスッキリして見えます。遠近感のある構図が良くて、大きく口を開けたヒロインもすごく可愛い。

小説が書けないアイツに書かせる方法

小説が書けないアイツに書かせる方法 (電撃文庫)

日陰に立っているような暗めのイラストに、白黒のはっきりした太いタイトルロゴと真っ白な原稿用紙のコントラストがスタイリッシュですね。妙に現実感があるというか、写真にマンガキャラをコラージュしたような印象を受けます。

小鳥遊ちゃんは打ち切り漫画を愛しすぎている

小鳥遊ちゃんは打ち切り漫画を愛しすぎている (MF文庫J)

作中の一場面を切り取ったようなストーリー性の高い表紙イラスト。タイトルがフキダシになっているだけでなく、フチのところが漫画の原稿用紙になっているのも芸が細かいです。

大っっっっっっっっっっ嫌いなアイツとテレパシーでつながったら!?

大っっっっっっっっっっ嫌いなアイツとテレパシーでつながったら!?【電子特典付き】 (MF文庫J)

陰影のはっきりしたアニメっぽいイラストに、疾走感のあるタイトルロゴ。キックボードに乗って追っ手から逃げる主人公たちの動きが伝わるような、シンプルですけど作品内容をよく表したデザインですね。

ルチルクォーツの戴冠

ルチルクォーツの戴冠 -王の誕生- (DREノベルス)

デザインというよりは、単純にイラストが好きですね。光の差し込むステンドグラス。ルチルクォーツの王冠と首飾り。主人公のちょっと頼りなさそうな表情。作品のモチーフが詰め込まれていて、強く印象に残ります。

負けヒロインが多すぎる!

負けヒロインが多すぎる! 6 (ガガガ文庫)

いや、眼鏡っ娘が好きなので…。いまだにラノベ業界には「表紙に眼鏡っ娘を描いてはいけない」という無根拠で無思慮な不文律が残っているのですが、そうした非文明的な因習は駆逐していかなければいけないな、と思わされますね。

はじめてのゾンビ生活

はじめてのゾンビ生活 (電撃文庫)

こういった「写実性の高い美少女イラスト」は近年の一般文芸でよく見られるもので、というかイラストの雪下まゆは実際に『同志少女よ、敵を撃て』などの装画を手掛けている方なんですが、電撃文庫でこのタイプの表紙をやるんだ、というのが少し驚きでした。既成概念はぶっ壊していけ。

まだ「ラノベレーベルから出てるのがラノベ」とか言ってるの?

ラノベレーベルから出てるのがラノベ」論(以下「レーベル論」)、この明らかにトートロジーな言説が世間に広まったのは、とある横光三国志コラのせいだったと記憶しています(もちろんレーベル論自体はそれ以前からありましたが)。どこが初出なのかもわからないのでリンクは貼りませんが、そのセリフをいくつか引用してみましょう。

最初に断言しておきます。ライトノベルというのは文章の内容ではなくレーベルによる分類です! SFやミステリのような内容によるジャンル分けとは根本的に異なるのネ。

「ジャンル分けではない」というのは正しいですね。SF・ミステリ・ファンタジー・ホラーなどはジャンルの分類ですが、ライトノベルはさまざまなジャンルを含んだプラットフォームなので、コンテンツとしては「漫画」や「アニメ」などと横並びのカテゴリになります。ただし、「小説」という大カテゴリのなかではサブカテゴリ的に扱われている、というあたりがラノベ定義論のややこしいところなわけですが。

ライトノベルを漫画の『少年誌』に置き換えてみましょう。「バガボンドは少年誌か」答えはもちろんNOネ。質問の意味すら不明よ。「スラダンは少年誌か」質問が少しおかしいけど強いて答えればYES。スラムダンクは青年誌で連載しても通用する作品だったネ。でも実際連載してたのは少年ジャンプだったネ? だから分類は少年誌。内容が高尚だろうがスポーツ漫画だろうが関係ないのよ。

これはラノベを「少年誌」に置き換えることの妥当性が示されていません。たとえば、ライトノベルを『漫画』に置き換えてみましょう。「バガボンドは漫画か」答えはもちろんYESネ。と言っても比喩は成り立ちます。このコラの書き手は「大前提としてラノベは若者向けのコンテンツである」と認識しており、それが無意識的に「ラノベレーベルかどうか」の判定に反映されているように思えます。

ソノラマ作品はラノベ? 答はNOです。歴史的にも内容的にもラノベ的でありますが、当時はライトノベルという分類がありませんでした。だからラノベじゃないネ。同様の理由で90年代のスニーカーやファンタジアなんかにもラノベじゃない作品が混じってるけど、これは『ラノベの歴史』で改めて話すとするネ。

「同じレーベルでもラノベじゃない作品が混じってる」というのはレーベル論として破綻してますよね。ちなみに「ライトノベル」という呼称は1990年に生まれ、当時から「ソノラマやコバルトあたりの作品群」が想定されていました。よって「当初からライトノベルに分類されていたかどうか」という基準なら「分類されていたからラノベだ」と言えるし、分類の遡及を認めず「あくまでラノベという分類が生まれて以降に創刊されたレーベルに限る」とするならスニーカーや富士見もバッサリ除外しなければおかしい。まあ分類の遡及を否定する理屈もわかりませんが。

徳間デュアル文庫は迷ったんだけど除いたヨ。創刊当時はラノベ路線だったけど今はターゲット違うしさ。少女レーベルに関しても儂的には非ライトノベル。あっちの方が確固とした歴史があるしね。

今度は「ターゲット層の違い」に基準がすりかわっていますね。こうしてレーベルごとに別の基準を持ってきて都合よく除外するのがこのコラの書き手の特徴です。少女レーベルについても、先述したとおり「ライトノベルという分類が生まれたときに含まれていたか」であればYESのはずなんですが、またまた「確固とした歴史があるかどうか」などといった別の基準を持ってきています。

……とまあ、いくらでもツッコミができる代物で、コラが広まった当時から笑って見ていたのですが。

ただ、このコラの書き手は「どのレーベルがラノベレーベルか」を中途半端に決めようとしたからボロが出てしまっていますが、本来のレーベル論のキモはむしろ「どのレーベルがラノベレーベルかなんてぐだぐだ議論しなくたって分かるだろ」というところにあるわけです。すなわち、本当は皆だってわかってるだろ、ラノベレーベルのコアイメージは共有されてるだろ、少数の例外なんて無視すればいいだろ、細かい定義なんてしなくても伝わるだろという脳筋的なわかりやすさがレーベル論の良いところなんですね。

10年前ならまだそれでもよかった。ところが、現在のラノベではそれが通用しません。なぜなら「共通認識」が崩壊しているからです。

2010年代に入ってからライトノベル業界は爆発的に拡大して「新文芸」や「ライト文芸」といった領域に進出していきました。

「新文芸」は*1、簡単に言えばWeb小説を書籍化したもののことです。おおむねライトノベルとして扱われることが多いですが、四六判やB6判の大判サイズで刊行されていること、そのため書店での売り場が違ったりすること、また読者層も違ったりすることで、ライトノベルと見なされないこともあります。

また、『オーバーロード』『幼女戦記』などのようにレーベルのない「単行本」として刊行されている新文芸や、「電撃の新文芸」のようにレーベルなのかどうか怪しい*2新文芸も多かったりします。『佐々木とピーちゃん』のようにレーベルは「MF文庫J」だけどB6判で刊行されているなんてケースも。

かつては「ライトノベルは文庫レーベルから出る」と決まっていたからレーベル単位で括るのが便利だったわけですが、「レーベルから出るとはかぎらない」「レーベルの存在が曖昧になっている」となるとその利点も薄れてしまいます。

ライト文芸」は、簡単に言えば、書店の一般文芸コーナーに並んでいるライトノベルのことです。「ライトノベルのことです」と言いましたが、「ライトノベルではない」と言う人もかなり多いです。アンケートを取ったらYES/NOが半々くらいになるんじゃないでしょうか。まさに「共通認識」の崩壊です。

ライト文芸は、(少年・少女向け)ライトノベルと一般文芸の中間のカテゴリー、と言われることが多いですね。当初はライトノベル編集部が一般文芸に殴り込んで作ったエリアでしたが、そこに衰退した少女向けラノベが避難してきて、一般文芸からも参入があり、ケータイ小説からの流れもあって、そうして現在の「ライト文芸」が出来上がっていきました。そのためライト文芸自体の境界が曖昧で、まだまだ議論が足りていないところではあります。

昔なら、*3少なくともレーベルとしてはラノベレーベルではない、とされることが多かった講談社ノベルスハヤカワ文庫JAなども、今なら「ライト文芸レーベル」として見られてもおかしくないのではないでしょうか。

いまやライト文芸は巨大なカテゴリになっていて、それをラノベに含めるかどうかで「ラノベ語り」の結論がまるきり変わってくる、というレベルに達しています。決して「少数の例外」と切り捨てられるものではありません。

さて、新文芸やライト文芸ライトノベルなのでしょうか? それは「議論しなくても分かる」問題でしょうか?

申し添えておくと、「新文芸」や「ライト文芸」は出版社が提唱したカテゴリです。一方で「ライトノベル」は読者が提唱したカテゴリです。つまり出版社が「これはライト文芸ですよ」と主張したからと言って、それが「ライトノベル」でなくなるとは限りません。出版社から見た「ライト文芸」が、読者から見て「ライトノベル」であることだって十分にありえるわけです。

以上、長々と話を続けてしまいましたが、「ラノベレーベルから出てるのがラノベ」じゃ済まなくなってるのが現在のライトノベル業界なんだよ!というところだけ理解していただいて、今後とも実りあるラノベ定義論を続けていけたらと思います。よろしくお願いします。

*1:ネーミングセンスがないことに定評があるKADOKAWAが提唱した概念なので分かりづらいですが

*2:当初は電子書籍サイトでもレーベルとして登録されていなかった

*3:個々の作品がライトノベルとして見られることはあっても

「一般文芸」とは何か?

「一般文芸」という不思議な言葉がある。出版業界用語の一種で、普通の辞書には載っていない言葉である。ラノベ業界においては「ラノベ以外の小説」という意味で使われることが多いが、別にラノベ発祥というわけでもない。よく本を読む人でも「そんな言葉は知らなかった」ということも多いだろう。明確に定義されているわけではないし、誰が言いはじめて、いつから使われているのかもわからない。

しかし、いまや我々はインターネットだけで明治以降のさまざまな書籍を全文検索して用例を調べることができる。そう「国立国会図書館デジタルコレクション」である。ありがたやありがたや。というわけで「一般文芸」について検索してみよう。


検索できるかぎりにおいて、おそらく最も古いのが1892年(明治25年)『哲学雑誌』内の一文である。

文學史といふ名稱は文學の歴史即ち「リテラツールグシヒテ」といふ意味なるべしと思ひしに此度の三書は文學史といふ名稱に就いて各其解釋を異にせり
增田、小中村の二氏は文學を以て一般文藝の意に解したりとみえ學校、學術、文字、文章、歌、詩、歷史小說の等の部門に分ちて各其沿革を述べたり

ここに挙げられた「此度の三書」の他の二書は「文学とは国語国文の種類・理論・及用法を攻究する学」だとか「文学史は言語の発達・思想の変遷を語るものなり」としており、それに対して増田・小中村は「文学」を「一般文芸」の意味と捉えてその沿革を述べている、というようなことが書かれている。ここでの「一般文芸」は「和歌」「詩」「歴史小説」などの「文芸作品全般」の意味だと考えていいのではないか。

次に1901年(明治34年)『國學院雜誌』

吾人は儒教道教等の漢學講究と共に、佛教々義の國民間に於ける進歩の狀態を明かにし、一般文藝の發達を知りて以て人麿以下の歌人の現れ來る所以を詳かにせんと欲するもの

この論説は、「儒教道教」「仏教」「一般文芸」などが柿本人麻呂などの万葉集歌人たちにどう影響を与えたのかを研究すべきだ、という話のようで、つまり、ここでの「一般文芸」は和歌以外の「文芸全体」の意味だと思われる。「ラノベ以外の小説」を一般文芸と呼ぶ用法に近いのではないか。

その他の用例を見てもだいたい同様のようである。つまり「一般文芸」とは昔から「文芸全般」「文芸全体」という意味で使われており、特に「あるカテゴリーをテーマにして語っているときのそのカテゴリー以外の文芸全体」を指すことが多い、ということである。


だが、そもそも「文学」や「文芸」とは何を指しているのか。

もともとの「文学」とは「武」に対する「文」であり「書物を用いて行う学問」の意味だった。時代が下るとそれが「詩学」「言語学」「修辞学」「史学」などの書物を研究する学問のことに限定されていった。一方で「文芸」は「文学に関する技芸」という意味でしかなかった。

現在の辞書的な意味での「文学」とは、「言語によって表現された芸術作品のこと」で、小説だけでなく詩やエッセイや評論などが含まれる。そして「文芸」は「文学」と同義である。

「文学」は大きく二つにわけられる。芸術性を追求した「純文学」と、娯楽性を重視する「大衆文学」である。たとえば芥川賞は純文学の賞、直木賞は大衆文学の賞であり、ライトノベルは「大衆文学」に分類される。

ところが、現代で「文学」と言えば、何故か「純文学」を指すことが多い。ほとんど「純文学」の略称になってしまっている。

たとえば「ライトノベルは文学か?」と問われるとき、それは「ライトノベルに芸術性は存在するか?」という意味なのである。

さらにややこしいことに、多くの人は「純文学」と「大衆文学」の区別が付いていない。なので「芸術性を追求した文学と、娯楽性を重視するライトノベル」のような捉え方をして、「ラノベ以外の小説」を「文学」と言う人もいる。酷いときには「ラノベ以外の小説」という意味で「小説」と言うことさえあるのだ。


書店では「文芸書」というコーナーが設けられていることが多い。「文芸書」とはこれまた曖昧な呼称だが、これは実用書や学術書などではなく、コミックや児童書でもなく、文庫でもノベルスでもない、つまり往々にして単行本の小説や詩・エッセイが置いてあるコーナーである。

出版社のほうもそれに合わせたのか、単行本の小説のことを「文芸書」と分類していることがある。

たとえばKADOKAWAの公式サイトでは「文芸書」と銘打って単行本の小説がずらっと並んでいる。
文芸書 | KADOKAWA

講談社では「文芸(単行本)」としてカテゴライズされている。
文芸(単行本) 作品一覧|講談社BOOK倶楽部

おそらく「文学」と書くと純文学、すなわち芸術的な小説のように思われてしまうので、「文芸」と呼んでそれを回避しよう、という意図もあるのだろう。つまり「文芸」が「大衆文学」の意味に近づいていっている。

辞書的には「文学」と「文芸」は同義だと言っても、現場レベルでは微妙に使い分けられ、異なる意味を持っているのである。


そしてラノベ業界では「文芸」と言うだけでも「一般文芸」を指すことが多い。「文芸」と「文芸書」と「一般文芸」を意識して使い分けている人はあまりいなさそうだ。

ラノベは文庫書き下ろしであることが多い(多かった)ので、もとから書店の「文芸書コーナー」には置かれておらず、そのため「ラノベ以外の小説=文芸」という印象が強いのだろう。そもそも「ラノベ以外の小説」を指すのが「一般文学」ではなく「一般文芸」であるのは、そうしたところも影響しているのかもしれない。

たとえば「ライト文芸」は、書店でのラノベの棚が満杯になってしまったので、一般向けの文庫棚にラノベを進出させようとしたものだし。「新文芸」は、Web小説の書籍化の多くが単行本(大判)サイズだったので、書店で置かれる棚がまちまちになってしまい、そこで新しい名前を与えることで新しいコーナーを作ってもらおうとしたものだ。そこには「文芸」を名乗れば既存のラノベコーナーには置かれないだろうという意図もあったのではないか。

ともあれ、「一般文芸」はこの混沌極まる出版業界において「ラノベ以外の小説を漠然と指し示したい」という需要から使われているものであって、実際のところ個々人によってその認識する範囲は微妙に違っているのだろうと思う。


結論。出版業界はもうちょっとカテゴリーを整理しろ。

2023年ライトノベル個人的ベスト10

1. 『あなたの未来を許さない』

ひとことで言えば「クレイジー百合バトロワ」。未来人が現代で秘密裏に開催している「未来のない人間を集めて殺し合いをさせる」というTVショー。その参加者のひとり、学校ではイジメられているような鈍臭い陰キャ少女が、しかし心から愛する幼馴染のために「天性の殺戮者」として覚醒していく。トリッキーなように見えてものすごく直球のエンタメなんですよね。味方にしろ敵にしろ一癖も二癖もあるキャラクターたち。超能力が与えられた参加者を無能力の主人公が食い破っていく熱いバトル。そして少女たちの抱える巨大な感情。最高でした。

2.『ダンジョンシーカーズ』

いわゆる「現代ダンジョンもの」なんですが、この作品はボーイ・ミーツ・ガールを主軸にしているのが特徴です。というか、ものすごく「異能バトル」の読み味がする。日常に倦んでいた主人公が、ダンジョンという非日常にのめりこんで飛躍的に強くなっていき、一方で古くから異能を管理してきた名家の娘であるヒロインが、主人公と共に戦ううちに惹かれ合い、今度はヒロインを縛る名家との戦いになっていく。キリトとアスナもかくやというバカップル。もはや純度の高い青春ラブストーリーでしたね。

3. 『三傑のサッカーは世界を揺らす!』

サッカー素人の主人公が、自分に憑依した謎の「声」と協力することで、その天才的なパサーとしての能力を発揮していく…という、いわゆるヒカ碁フォーマットの「サッカーもの」。主人公の性格がクソ悪いのが最高で、サッカーは嫌々やってるくせに自信満々、周囲には横柄で協調性は皆無。でも「声」がすごく気のいいやつなのと、主人公の才能に惚れ込んだライバルキャラがめちゃくちゃ人格者なので、全体のバランスは取れてるんだよな。シンプルにスポーツものとしてすごく面白かったです。

4. 『異世界刀匠の魔剣製作ぐらし』

『キッチンやらない-O』の作者の新作。こだわりもクセも強い刀鍛冶の主人公が打った刀剣にまつわるさまざまなエピソードが描かれる。あまりの美しさに自分を斬りたくなってしまう妖剣。病弱な領主を思わず剣術に駆り立ててしまうほどの名刀。それらにさらに魔法が付与され、立派な拵えがつくことで、まさに「魔剣」というべき代物になり、またそれが数奇な運命を生み出していくわけです。主人公が序盤で結婚してラブラブ新婚生活を送ってたりするのも好きです。

5. 『魔王2099』

うおお復活! もう続きが出ることはないと思ってたけど復活! そしてアニメ化! おめでとう! ブランクが心配だったけど面白さもまったく変わらず。魔王や勇者のキャラが完璧に立ってて、ファンタジー設定もサイバーパンク設定もしっかりしてて、それでストーリーがジェットコースターのように推進していくんだから、そりゃ面白いに決まってるんだよなあ。

6. 『クセつよ異種族で行列ができる結婚相談所』

電撃の新人さん。全種族を巻き込んだ大戦争が終わって「恋愛結婚」や「異種族間結婚」が流行するようになった街の結婚相談所を舞台にしたお仕事ファンタジー。もともと書籍化してる作家さんということもあるんですが、やはりエンタメとしての完成度の高さを感じますよね。明るくて可愛くて、実は身体能力的にもつよつよな主人公がストーリーを引っ張っていくんですが、それでも最初にきっちり失敗させておいたりするバランス感覚なんかは、すごく良かったですね。

7. 『ミリは猫の瞳のなかに住んでいる』

同じく電撃の新人ですが、先行してガガガ文庫でデビューして評判となっていた作家さん。超能力系恋愛もの、奇人変人演劇もの、連続殺人と館ものミステリ、タイムループSFと、いろんなジャンルが詰め込まれていて、エンタメとしてみればとっちらかっている。わけがわからないところもある。でも、そうした要素をひとつの想いが貫いている。読み終わったあとにしばらく頭から離れない、ふと考えてこんでしまうようなところは他の作品にない魅力でした。

8. 『オルクセン王国史

欲望のままに暴れるだけの種族だったオークが、一人の名君のもとで一つにまとまり、ドワーフコボルトなども取り込んだ多民族国家として、著しい発展を遂げたさまを描いた戦記ファンタジー。モチーフとなっているのは近代のドイツ帝国あたりか。社会制度や軍事体制がファンタジーならではの事情も絡めながら興味深く描写されます。「エルフによって虐殺されたダークエルフの生き残り」がオークの国へ亡命し、王のもとでエルフへの復讐を誓うという筋立てもふるっていますね。

9. 『かくて謀反の冬は去り』

古代から数十年くらいで急に現代文明レベルまで発展したような日本が舞台という独特な設定。『オルクセン王国史』と同様に架空史ものとして見ても面白かったですね。主人公は手足に障害のある王子で、非常に頭は回るがもちろん宮廷での立場は悪く、劣等感と自尊心をどちらも抱えながらなんとか生き延びようとしている。そんなときに父王が急死してしまい後継者争いが勃発する…という喜劇的にも悲劇的にも思えるような宮廷サスペンスとなっています。

10. 『死亡遊戯で飯を食う。』

正直、デスゲームものはちょっと苦手なんですけど、この作品はひと捻りがあって面白いですよね。まあ、デスゲームに何度も参加している「プロデスゲーマー」みたいな連中を描いた作品なので、デスゲームというより命懸けのエクストリームスポーツみたいな空気ですが。デスゲームを繰り返すなかでもちゃんと「物語」をやっているのもよい。本当に完成度の高い作品だと思います。

2023年ライトノベル10大ニュース

MF文庫Jの2022年の紙書籍の売上が電撃文庫を超える

prtimes.jp
ラノベ業界では長らく電撃文庫がナンバーワンであり、それがずっと意識に刷り込まれていたので、これはなかなか衝撃的なニュースでしたね。おそらく電撃文庫の看板作品である『SAO』や『86』の新刊があまり出なかったことと、MF文庫Jの看板作品『ようこそ実力至上主義の教室へ』がアニメ第2期の放映で爆発的に売り上げを伸ばしたこと、MF文庫Jのボカロ小説が好調だったことなどが要因としてあるのだと思われます。

なお電子書籍の売上を加味するとまだ電撃文庫のほうが上らしいです。

ラノベVtuber「本山らの」が電撃文庫編集者となって大復活

www.youtube.com
昨年、大学卒業とともにVtuberを卒業していた本山らのさんが、KADOKAWAに就職して電撃文庫の編集者となりVtuberとしても復活。Vtuber業界全体を見渡してもかなり珍しいキャリアアップなのでは。

ちなみに電撃文庫「電ちゃん」という謎のマスコットキャラクターもデビューさせています。

プチ・ミステリブーム

note.com
「なんか新刊にミステリ多くね?」「ちょいちょい話題作も出てね?」という感じで、にわかに「ミステリブーム」が騒がれたりしていました。とはいえ、もちろんラブコメなどに対抗できるほどの数ではないんですが。

そもそも昔からライトノベルとミステリの相性は良くて、また近年ではその領域を「ライト文芸」として積極的に取り込んできたので、ミステリブーム自体はずっと以前から続いているとも言えるのですが、今年は特に少年向けレーベルからミステリがよく出ていた(気がする)のが新しい傾向でしたね。

電撃文庫30周年

dengekibunko.jp
電撃・富士見・スニーカーの御三家は創刊年が揃っている(電撃だけ5年遅れ)ので定期的に「3レーベル同時アニバーサリー」の年がやってきます。

電撃文庫では、長らく新刊が出ていなかった『ウィザーズ・ブレイン』『9S』の再開・完結や、『ブギーポップ』の久々の新刊、さらに『灼眼のシャナ』の短編集の発売など、往年の名作の話題で盛り上がりました。昨年終了した無料小説&漫画サービス「電撃ノベコミ」が「電撃ノベコミ+」となって復活するというサプライズもありましたね。

富士見ファンタジア文庫35周年

fantasiabunko.jp
「35の夢」と題して無理やり捻り出した35個の企画のなかでは、五年ぶりの龍皇杯の開催や、『魔王2099』のTVアニメ化、フルメタの続編『フルメタル・パニック!Family』の発表などが、個人的には印象的でした。なお未だに35番目の夢は発表されていない模様。

角川スニーカー文庫35周年

sneakerbunko.jp
スニーカー文庫は…『涼宮ハルヒ』シリーズの新刊予定が発表されたのと、あとは次世代のエース『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』のアニメ化が(35周年イベントでの発表ではないですが)決定したのが大きかったでしょうか。

あとはスニーカー文庫も専属Vtuber「須二川文」爆誕させていましたが、35周年限定だからもう活動しないんですかね。

戯言シリーズ復活

bookclub.kodansha.co.jp
西尾維新といえば世間的にはもう『物語』シリーズとか、ジャンプの漫画原作とかのイメージが強いのかもしれませんが、ゼロ年代に生きたオタクとしてはやはり『戯言』シリーズなんですよね。この作品がどれだけの若者を狂わせ、どれだけの作家に影響を与えたことか。

と言いつつも『キドナプキディング』は購入したまま積んでいますが…。

「好きラノ」中止

lightnovel.jp
半年ごとに開催されるラノベ人気投票企画「好きラノ」は、Twitterからの投票も受け入れるようになってからその規模を拡大していましたが、そのTwitterがまあご覧の有様になってしまったので、2023年上半期の開催は中止、下半期もどうなることやら、という状況です。

出版社ではなくラノベ読者が主催する企画ということで、かつてのライトノベルサイト杯から続く伝統行事だったのですが、はたしてこのまま途絶えてしまうのでしょうか。

「ダンガン文庫」創刊発表

www.youtube.com
BookBaseという独自の小説販売サービスをやってるところが企画して、来年の創刊を予定している電子書籍専門ライトノベルレーベルだということで、Twitter上で盛んにプロモーションを行い、かなり目立っていた印象です。参加作家をスマブラみたいなアオリPVで発表するなど面白い試みもしていましたね。

ノベリズム文庫などはBook Walkerに配信してくれなかったので結局は購入することもなかったのですが、ダンガン文庫はまさかBookBase上でしか販売しないなんてことはないですよね…?

吉岡平、死去

www.asahi.com
私自身はあまり作品に触れてきませんでしたが(ファミ通文庫の『シャルロット・リーグ』くらいかな)、黎明期のラノベを引っ張った功労者のおひとりですね。『無責任艦長タイラー』は90年代スペオペライトノベルの代表格でした。

今年はその他に、『後宮小説』によって中華ファンタジーの成立に影響を与えた酒見賢一ソノラマ文庫などでも活躍したSF作家・豊田有恒の訃報もありました。


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