WINDBIRD::ライトノベルブログ

ライトノベルブログ

2022年ライトノベル10大ニュース

角川歴彦、逮捕

www3.nhk.or.jp
ラノベ業界を牛耳るKADOKAWAの会長であり、ライトノベルの歴史にも深く関わる存在であった角川歴彦が、東京オリンピック絡みの贈賄容疑で逮捕されました。出版業界的にもラノベ業界的にも激震が走った事件でしたね。まだ裁判も終わっていないのであくまで「容疑者」ではありますが、かつての「角川お家騒動」を考えると、歴史は繰り返すというか何というか、なニュースでした。

12年ぶりにスニーカー大賞の「大賞」が出る

sneakerbunko.jp
スニーカー大賞の「大賞」はなかなか出ないことで有名であり、しかもかつての受賞者には「吉田直」「安井健太郎」「谷川流」とレーベルの看板を張った作家が並ぶということで、ラノベ新人賞では随一というくらいのブランド力を持っています(そして歴代の受賞者全員が現在はスニーカー文庫で書いていないという呪いもある)。今回の受賞作も宣伝には非常に力が入っていましたが、さて肝心の作品は…どうだったでしょうか?

ソードアート・オンライン』の作中時間に追いつく

twitter.com
作中で「ソードアート・オンライン」が発売されたのが2022年10月31日だったということで当日は盛り上がりましたね。それっぽいジョーク記事も出ていました。いやしかし、現実のVR業界においてSAOがひとつの目標になっているというか、言うなれば「人型ロボット開発におけるアトムやドラえもん」みたいな立ち位置の作品になっていることは本当にすごいと思います。

にじさんじVtuber・来栖夏芽がラノベデビュー

dengekionline.com

Vtuberが書いたラノベ」は他にもいくつかあるんですが、やはり「業界大手にじさんじのライバーがラノベ作家デビュー」というニュースにはインパクトがありました。どうも配信中に書いていた短編小説が編集者の目に止まったのがデビューのきっかけらしいですね。あくまで個人としてデビューしただけで、にじさんじKADOKAWAの共同事業とかではない、というのも興味深いところです。

ちなみに「にじさんじKADOKAWAの共同事業」もちゃんと別にあって、『Lie:verse Liars』Vtuberを俳優のように起用するというコンセプトのメディアミックス作品だそうです。その小説版がカクヨムに掲載されていたりします。

アニメ『リコリス・リコイル』がヒットしてノベライズもヒット

www.animatetimes.com

ベン・トー』などで知られるラノベ作家・アサウラがストーリー原案を担当したアニメ『リコリス・リコイル』は今年のオリジナルアニメのなかではかなり評判となった作品ですが、そのノベライズをアサウラ自身が担当してそちらもかなり売れたと話題になりました。アサウラのデビュー作がまさに「百合と銃」の話だったのを遠い昔のことのように思い出しますね。

読者投票の短編コンテスト「MF文庫evo」開催

kimirano.jp
龍皇杯!おまえ龍皇杯じゃないか!久しぶりだな!というわけで、「プロ作家の短編コンテスト」「優勝作品は長編化して刊行」というMF文庫Jの企画が開催されました。今回の優勝は綾里けいしの『魍魎探偵今宵も騙らず』。順当だったのではないでしょうか。とても楽しかったので来年の開催も期待したいところですが、次は作家名を隠して匿名でやってほしいですね。

個人的には『少女人狼♥愛されピンク』『かいじゅうのせなか』が好みでした。

『月とライカと吸血姫』が星雲賞を受賞

www.sf-fan.gr.jp
日本SF大会の参加者の投票によって選ばれる歴史あるSF賞「星雲賞」の日本長編部門を『月とライカと吸血姫』が受賞しました。おめでとうございます。とはいえ星雲賞はイメージほどお堅い賞ではないので『月とライカ』の受賞もそれほどの驚きではない感じはします。いやでもそういえばSAOとかは受賞してないんですっけ(追記:完結作品限定なんでしたっけ? それはすみませんでした)。

無料ラノベアプリ「電撃ノベコミ」クローズ

dengekibunko.jp
昨年の10大ニュースで「漫画でよくあるいろんな作品を無料で公開して一話ごとに購入もできるアプリのラノベ版」として取り上げましたが敢えなくサービス終了してしまいました。やっぱり電撃文庫単体でやったのがよくなかったんじゃないですかね。KADOKAWA全体でやれば確実に成功する…とまでは言えないですが、成功確率は上がったと思うんですけどね。

美少女文庫」休刊?

www.bishojobunko.jp
フランス書院のジュヴナイルポルノレーベル「美少女文庫」の新刊が今年8月で止まっているようです。どうも「フランス書院eブックス」という電子書籍レーベルに統合されたみたいですね。ジュブナイルポルノはあまり詳しくないのですが、美少女文庫のライバルだった「二次元ドリーム文庫」もわりと刊行ペースが落ちているという話なので、業界に地殻変動が起きているのかなあと思いますね。

ラノベのアニメ化が激増

kazenotori.hatenablog.com
傾向としては去年からのようですが、去年の「10大ニュース」には入れてなかったので今年分に入れておきましょう。詳しくはリンク先の記事に書いたのでどうぞ。


去年までの年間ニュースはこちらからどうぞ。
10大ニュース カテゴリーの記事一覧 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

第二次ラブコメラノベブームとは何だったのか

はじめに

ご存知のとおり、現在のラノベ業界は「ラブコメブーム」真っ盛りです。2000年代に起きたものを「第一次ブーム」とすると、今回は「第二次ブーム」ということになるでしょう。まだまだなろう系の勢いも健在という中で、いかにして「ラブコメブーム」が起きたのか、それはいったいどのようなブームなのか、というところを、個人的な史観をまじえて語ってみたいと思います。よろしくお願いします。

前史「第一次ラブコメラノベブーム」

大雑把には、90年代のラノベ業界はファンタジーやSFが強く、1998年の『ブギーポップは笑わない』を画期として現代ものが流行りはじめ、それを受けて2000年代前半に『灼眼のシャナ』[2002年]や『とある魔術の禁書目録』[2004年]といった異能バトルの流行があり、その後に第一次ラブコメブームが到来した、というのがラノベ史の概略となります。

もちろん90年代〜2000年代前半にも、ブギポと同期の『僕の血を吸わないで』[1998年]、ファンタジーブコメの『まぶらほ』[2001年]、性と青春を描いた『ROOM NO.1301』[2003年]、俺妹に先駆けたオタクラブコメ乃木坂春香の秘密』[2004年]などのラブコメは存在していました。ファンタジーがいきなり途絶えたとか、それまでラブコメがまったく無かったとか、そういうわけではないのです。すべてはグラデーションです。

ただし、そうしたなかで「ブームの起点」を定めるならば、エロゲ業界の出身でのちに『とらドラ』を大ヒットさせる竹宮ゆゆこの『わたしたちの田村くん』が好評を博し、また第一次ラブコメブームを牽引したMF文庫Jが第1回新人賞にて『かのこん』『クリスマス上等。』を受賞させた、2005年になるのではないかなあ、と思います。

では、2005年以前と以後で何が違ったのでしょうか?

第一次ブーム前後のラブコメ

それ以前のラブコメは『うる星やつら』や『天地無用!』などの影響を受けた「少し不思議なラブコメ」が多かったように思います。物語の中心に何らかの超常要素があり、全体的に「ラブ」よりも「コメディ」要素が強くて、あるいは「バトル」展開なんかも入ってくるようなイメージですね。

しかし2000年代の半ばになると、エロゲブームの影響もあってか、超常要素のない学園ラブコメが増加していきます。『わたしたちの田村くん』はその代表格で、『とらドラ』と比べればマイナー作品ですが、初めて読んだときの「これまでとは出自の違うものが出てきた」感は今でも思い出されます。

忘れてはいけないのは「ツンデレ」の登場です。これもまたエロゲ文化の産物でした。それは単に「ツンデレ」という要素が流行ったというだけでなく、さまざまなキャラクター類型を「萌え属性」として括り、さらにそれを捻って新たな「萌え属性」を作っていく、というムーブメントを生み出したのです。当時のラブコメ作者たちは全く新しい奇妙奇天烈なヒロインをいかに生み出していくかというところに力を注いでいたように思います。

そういうわけで、2000年代の典型的なラブコメというのは、学校の部活や委員会などの狭い関係性のなかで、一人の男主人公に対して、「萌え属性」の異なるヒロインが複数配置され、誰とくっつくかわからないいわゆる「ヒロインレース」状態となり、ヒロインひとりひとりに対して、ちょっと切ないエピソードや、青春っぽいシナリオが繰り広げられる、というようなものだったわけです(あくまでイメージです)(当てはまらない作品もたくさんあります)。

と、ここまで「エロゲ」の影響を強調してきましたが、ちょっと補足すると、よく言われるような「エロゲライターがラノベ業界に流入してラノベがエロゲ化した!」といった言説はやや単純化しすぎではないかと思います。

たとえば、エロゲ出身のラノベ作家は、先述したような「エロゲっぽいラブコメ」を作っていることが意外と少ないように思います*1

あるいは、アニメ『らきすた』[2007年]の影響を受けて書かれた『生徒会の一存』[2008年]が、「日常系ラノベ」と呼ばれる短編会話劇フォーマットを発明し、のちに『はがない』などのフォロワーを生み出したことなどは、エロゲよりも萌え4コマ漫画の影響が表れた顕著な例と言えるでしょう。

2010年代前半のラブコメ事情

第一次ラブコメラノベブームは『俺妹』[2008年]や『はがない』[2009年]あたりが爛熟期で、2010年代に入ると「なろう系」に取って代わられるかたちで衰退していきました。

ただし、その頃になるとラノベ業界は市場規模も刊行点数も遥かに巨大化していましたから、一口に「ブーム」と言っても2000年代の「異能バトルブーム」や「ラブコメブーム」と、2010年代の「なろう系ブーム」は比べ物にならないくらい後者のほうがデカいですし、「衰退」と言っても2000年代前半とかよりはラブコメの熱量がぜんぜん残っていた、ということは申し添えておかねばなりません。

たとえば2010年代前半のラブコメと言えば『俺ガイル』[2011年]と『冴えカノ』[2012年]の二大作品があり、さらには『エロマンガ先生』[2013年]・『ゲーマーズ』[2015年]・『妹さえいればいい』[2015年]のような、2000年代に実績をつくった人気作家の新作も出ていました。どこが衰退しているんだ、という感じですが、しかしその一方で「なかなか新しいラブコメが出てこない」「新人作家がラブコメで売れるのは難しい」というような空気も確かにあったのです。

ただ、ラブコメのなかでも「青春」要素の強いラブコメは、『俺ガイル』を筆頭に一定の存在感を保っており、特に2000年代後半から2010年代前半にかけてのファミ通文庫の奮闘は強調しておきたいところです。『ココロコネクト』[2010年]・『ヒカルが地球にいたころ……』[2011年]・『ヴァンパイア・サマータイム』[2013年]・『この恋と、この未来。』[2014年]・『近すぎる彼らの、十七歳の遠い関係』[2016年]など、ラノベ史に残る傑作を次々と送り出していました。まあ、いまではすっかりガガガ文庫にお株を奪われてしまいましたが…。

ラノベに先行した「ラブコメ漫画ブーム」

少し目線を変えて漫画業界のほうでは、2010年代に入ってからラブコメ人気に火が付いたように思います(もともと人気のあるジャンルだろと言われたらそうなんですが)。そのきっかけとなったのは『からかい上手の高木さん』[2013年]でしょう。主人公とヒロインのちょっと特殊な関係から繰り広げられる会話劇。そのスマッシュヒットにより、漫画業界では『かぐや様』[2015年]・『古見さん』[2016年]・『長瀞さん』[2017年]・『宇崎ちゃん』[2017年]など、タイトルにヒロインの名を関した「○○さん系ラブコメ」が続出することになりました。

また『長瀞さん』『宇崎ちゃん』がまさにそうですが、PixivやTwitterに数ページの漫画が投稿されてバズり、それが出版社にスカウトされて商業誌デビューする、という事例が増加しました(なろうブームに似てますね)。そのため1ページだけで読者をつかめるようなインパクトの強い設定、キャラの多いハーレムものよりも「主人公とヒロインの1対1の関係性」が重視されるようになり、そのためかキャラが「萌え属性」で分類されることはほとんど無くなっていきました。上記の作品も2000年代なら確実に「からかいデレ」「サドデレ」「ウザデレ」みたいな呼称がつけられていたでしょう。

「第二次ラブコメラノベブーム」はいつごろから?

というわけで、ようやくの本題、第二次ラブコメラノベブームの話に入っていきます。

第二次ブームの「起点」を求めるならば、個人的には2016年を選びたいですね。

先述したとおり、「人気作家でないとラブコメは厳しい」という空気があったなかで、2016年に『俺を好きなのはお前だけかよ』『弱キャラ友崎くん』『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない』など、新人賞作品を中心にいくつかの話題作が登場し、それがラブコメ復活の予兆として感じられたのです。

また同年に、主人公が29歳の社会人というラブコメ『29とJK』が登場しているのも見逃せません。かつてのラノベ業界には「ラノベの対象読者は高校生なのだから主人公も高校生でなければならない」というような無根拠な決めつけがあったのですが、なろう系やライト文芸の登場を経て、「別に主人公の年齢が高くてもよくない?」という空気が生まれたように思います。

次のターニングポイントは2018年、『継母の連れ子が元カノだった』と『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』の刊行でしょうか。そう、カクヨム発ラブコメの登場です。2016年のサービス開始以来、カクヨムは「うちは異世界転生以外でも書籍化するんですよ」というアピールのためか、SFとか現代ものとかをよく書籍化していたのですが、そうした動きのなかから(ライバルの「なろう」に先行して)ラブコメに強みを見せはじめたという感じがします。

そのなかで注目すべき作家としては「九曜」を挙げたいですね。九曜の『佐伯さんと、ひとつ屋根の下』[2017年]や『廻る学園と、先輩と僕』[2018年]は、カクヨムから書籍化された学園ラブコメの最初期の例でありつつ、実は2011年ごろから「小説家になろう」に投稿されていた作品でもあるんですよね。2014年に書籍化された『その女、小悪魔につき――。』とも合わせて、「なろう」における転生などが絡まない現代ラブコメとしては当時トップクラスの人気がありました。2010年代前半の「なろう」から2010年代後半の「カクヨム」までのそのパイオニアとしての功績は強調しておくべきだろうと思います。

そして2019年の『友達の妹が俺にだけウザい』『幼なじみが絶対に負けないラブコメ』『千歳くんはラムネ瓶のなか』のスマッシュヒットが多くの人に「ラブコメブーム」を印象付けたと思います。「起点」に対する「本格化」。2016年がホップ、2018年がステップ、2019年がジャンプ、という感じですかね。

2020年には『お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件』が刊行されます。この作品こそ「なろう」における現代ラブコメのいわば「中興の祖」であり、もちろん「なろう」の中では(異世界転生などに比べれば)傍流ではあるのですが、ここからなろう系ラブコメも続々と書籍化されていった感があります。

といったわけで、「新人賞発ラブコメ」「カクヨム発ラブコメ」「なろう発ラブコメ」といった複数の流れが2010年代後半に合流してできたのが「第二次ラブコメラノベブーム」である、というふうにまとめられるのではないでしょうか。

「第二次ラブコメラノベブーム」の特徴

まず第一に「ラブコメ漫画ブーム」の影響を受けているということは言えると思います。すなわち主人公とヒロインが最初から惹かれ合っていてヒロインレース状態にはならない。どちらかというと甘々でラブラブな作品が多い。つまり「多様な萌え属性を見せるハーレム」よりも「主人公とヒロインの1対1の関係性」に凝った作品が流行っているということです。

具体的なジャンルを挙げると、まずは『29とJK』『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』『ちょっぴり年上でも彼女にしてくれますか?』のような年の差ラブコメですね。第一次ブームでは「ロリヒロイン」の作品もありましたが、それらは年の差を企図するというより、単にヒロインを幼女にしたいというだけでした。対して第二次ブームでは「サラリーマンと女子高生」や「男子高校生と女教師」など設定が多様になっています。さらに主人公が社会人ということで「お仕事もの」の側面が強い作品も出てきました。

もうひとつの流れが、2010年代のラブコメ不遇の時期を耐え忍んで開花した「青春ラブコメ」で、ガガガ文庫の『俺ガイル』→『友崎くん』→『千歳くん』という流れが一つの軸となっています。とは言いつつも、現在のラブコメにはだいたい青春要素というか、恋愛小説的なシリアス要素が含まれている感じもあります。「コメディ要素なんかほとんど無いのにラブコメって何やねん」とはしばしば議論になるところではありますが。

Web発ラブコメでは「マンションの隣の部屋」や「教室の隣の席」といったような設定が多く見られます。「同居もの」も方向性としては同じかもしれません。「お隣さんラブコメ」などと総称されるわけですが、それってラブコメの定番じゃねえの?と思いつつも、第一次ブームでは「複数のヒロインが集まる場所」として謎部活の部室などが選ばれていたことを考えると、なるほど1対1ラブコメだなという感じですよね。それこそ『からかい上手の高木さん』がその類型ですし。

それとWeb発でよく見かけるのは『時々ボソッとロシア語でデレる隣のアーリャさん』[2021年]のような「ツンツンしたヒロインの本心が俺にだけはわかる」とか「クールなヒロインが自分にだけ優しい」みたいな設定ですが、うーん、でもまあこれも昔からの定番だと言われればそのとおりで、ただわざわざ長文タイトルで設定を開陳してしまうことで、実際以上に露骨さを強く感じるっていうのはあるかもしれません。

「幼馴染」という属性は、2000年以前には無敵の強さを誇りつつも、ツンデレブームによりその地位を低下させ、2010年代には「負けヒロイン」の代表格にまで落ちぶれていましたが、第二次ブームではわりと復権している気がしますね。「男友達のように思っていた幼馴染を意識するようになる」とか「オンラインゲームで仲良くなったプレイヤーが実は幼馴染だった」といった設定をよく見かけたり。一方で「幼馴染ざまあ」みたいな屈折したジャンルも生まれていたりしますが。

『継母の連れ子が元カノだった』[2018年]や『カノジョに浮気されていた俺が、小悪魔な後輩に懐かれています』[2019年]に代表されるような「元カノ」という題材もそうですね。「幼馴染ざまあ」ともちょっと共通性を感じるところですが。かつては何となく「主人公は冴えない童貞でなければならない」みたいな決めつけがあったのに対し、「主人公がそこまでモテないわけじゃないので当たり前に元カノもいる」というのは興味深い特徴の一つかなと思います。あるいは主人公が大学生や社会人ならそりゃ元カノの一人や二人はいるだろうという話でもあるかもしれません。

『高2にタイムリープした俺が、当時好きだった先生に告った結果』[2018年]のような人生やりなおし系もちょくちょく見かけますね。「タイムリープ」というよりも「逆行」として捉えると、なろう系の元となった二次創作SSの伝統を引き継いでいるわけで、「ラブコメという題材をなろう系の範囲でアレンジした結果」という感じがします。

あと、これは入間人間とみかみてれんが奮闘しているだけかもしれませんが、「百合」という題材がようやくラノベでも一般化してきた感じがします。いや、もちろん百合ラノベがこれまでに無かったわけでもないんですが、なろう系の流行のなかで多くの「女性主人公の少年向け作品」が出てくるようになって、「ラノベで女主人公は売れない」とか「ラノベで百合は売れない」とかいう無根拠な決めつけが崩れていったのではないかと感じるわけです。無根拠な決めつけがいろいろある業界なんすよラノベ

最後に『カノジョの妹とキスをした。』[2020年]や『わたし、二番目の彼女でいいから。』[2021年]あたりから盛り上がりを見せている「不純系」「背徳系」と呼ばれるようなジャンルについても触れておきましょう。つまり「浮気」や「修羅場」的な題材を扱った作品群なのですが、「1対1の甘々ラブコメ」が流行っているからこそ、それをメタるために出てきた感じがします。ツンデレのあとにヤンデレが出てきたみたいなものでしょうか。

というわけで

ざっと流れを見てきましたが、基本的には「漫画での流行がラノベに波及した」という捉え方でいいと思っています。ただ、その波及の仕方が単線的ではなく、Web小説コミュニティなどを経由したことで複雑化したというか、ジャンルとしての幅が広がっていったというのが、第二次ブームの特徴ではないだろうかと思います。

とはいえ、1対1ラブコメはわりと出オチになりがちというか、一話が短い漫画でならテンポよく読めても、ラノベで10巻20巻と続くというのはあんまり想像できない感じもするので、今後もブームが続いていくならそのあたりがボトルネックになっていくかもしれません。ハーレムありバトルありのドタバタラブコメみたいなやつもそろそろ読んでみたい気がしますね。

*1:ゼロの使い魔』は大長編ファンタジー、『神様家族』は古風なジュブナイル、『GOSICK』は近代が舞台のミステリ、『とらドラ』もかなり青春小説みが強く、『文学少女』シリーズは青春ビブリオミステリ、『人類は衰退しました』はシュールなSFで、『ようこそ実力至上主義の教室へ』は学園サスペンス。

『このライトノベルがすごい!』のランキングを変えてほしい

今年も『このライトノベルがすごい!』が発売されました。既存の作品に贈られる「文学賞」的なものが少ないラノベ業界にあって、最も規模が大きく最も注目度が高いイベントといえるでしょう。

んで、毎年思うんですが、やっぱりWeb票って要らなくないですか???

宝島社の『この○○がすごい!』シリーズは、『このラノ』の他に『このミステリーがすごい!』や『このマンガがすごい!』があるんですけど、その二つはどちらも書評家なり書店員なりの「プロ」「マニア」にしか投票権が無いんですよね。一方で『このラノ』だけは、プロやマニアなどのいわゆる「協力者」の投票の他に、「Web上で誰でも投票できるアンケート」というのが加味されているわけです。

例として(今年の投票結果をいきなりネタバレするのもアレなので)昨年のトップ5を挙げてみます。

2021年のWebアンケートランキング

  1. ようこそ実力至上主義の教室へ
  2. 千歳くんはラムネ瓶のなか
  3. 探偵はもう、死んでいる。
  4. お隣の天使様にいつの間にか駄目人間にされていた件
  5. 本好きの下剋上

2021年の協力者ランキング

  1. 春夏秋冬代行者
  2. ミモザの告白
  3. プロペラオペラ
  4. 千歳くんはラムネ瓶のなか
  5. 佐々木とピーちゃん


Webアンケートのほうで選ばれるのは、すでにアニメ化されて放送されている、あるいはアニメ化の予定が決まっているような人気作品が多いです。どちらかというと「私はこの作品が好きなんです!」と推しへの愛情をアピールするような場になっていて、何年にも渡って同じ作品が票を集める傾向があります。

協力者が選ぶのは基本的に「もっと評価されるべきだ」「もっと売れてほしい」という作品です。つまりアニメ化しているような作品は「すでに評価されているから」ということで避けられ、また「この作品は去年投票したから今年は別の作品に投票しよう」という意識も働くので、毎年の順位の入れ替わりが激しいです。

問題は、このまったく傾向の異なる二つの投票結果がまとめられて、無理やり一つのランキングにされていることです。一般に「このラノ1位」とか言われて大きく扱われるのは、その「合算ランキング」のほうになります。「合算ランキング」の順位は飛び抜けて注目度が高く、その順位だけがメディアに取り上げられて広まっていきます。

2021年の合算ランキング

  1. 千歳くんはラムネ瓶のなか
  2. 春夏秋冬代行者
  3. ようこそ実力至上主義の教室へ
  4. ミモザの告白
  5. プロペラオペラ


見てのとおり、配分としては協力者票のほうが重いのですが、そこにぜんぜん毛色の違う作品が混じってくるかたちになっています。いかにもどっちつかずで中途半端です。

ちなみに『千歳くんはラムネ瓶のなか』は一昨年も1位を獲っていますし、『ようこそ実力至上主義の教室へ』は2017年と2022年にアニメ化されている作品です。協力者からすると「もう人気あるんだから貴重な上位の枠を奪うなよ」という感じですし、Web投票者からすると「よう実の得票数は圧倒的なのにどうして合算では1位を取れないんだ」と不満を募らせることになります。いびつなランキングが不和を生んでいるのです。

このラノ』は何のためにこんなことをしているのでしょうか?

私は協力者の投票結果のほうが『このラノ』の趣旨に沿っていると思っています。『このラノ』はガイド本であり、その役割は「まだ知られていない作品をラノベ初心者に向けてオススメすること」だからです。同じ作品を毎年のように1位にしてプッシュすることに何の意味があるのかわかりません(『このラノ』側もそう思っているから「殿堂入り」というシステムを採用しているのでしょうけど…)。

ただまあ、別に編集部が「このラノはマイナー作品を発掘する企画ではなく純粋な人気投票だよ!」というならそれでもいいんですよ。どちらにせよちゃんと企画としての方針を統一してほしい。せめて無理やり「合算」するのはやめてほしいと思うのです。よろしくお願いします。

余談。いちおう断っておくと、私は何年も前に協力者を辞退しているので、去年も今年もWebから投票していました。自分が協力者だから「協力者を優遇しろ」と言っているわけではありません。あしからず。

ラノベのアニメ化が激増している件

どれくらい増えたのか?

まずはライトノベルのアニメ化作品一覧 - Wikipediaをもとに、2010年以降のラノベアニメの年間作品数を数えてみました。「テレビアニメ」しか数えていないので劇場版やOVAは除外です。ちなみに「新作」というのは要するにシリーズ二期とか三期とかを除外した数です。2022年の数値はこれから始まる秋アニメの数も加算しています。数え間違いがあったらごめんなさい。

ラノベアニメ作品数 うち新作
2010年 13作品 12作品
2011年 19作品 18作品
2012年 25作品 19作品
2013年 31作品 22作品
2014年 27作品 19作品
2015年 27作品 21作品
2016年 19作品 15作品
2017年 21作品 18作品
2018年 26作品 19作品
2019年 23作品 19作品
2020年 19作品 13作品
2021年 35作品 25作品
2022年 33作品 24作品


体感的に「最近アニメ化多いなあ」と思って調べはじめたんですけど、実際に数字を見ると思った以上に増加していて驚きましたね。全体的に波があるとは言え、2018年から2020年まで徐々に落ち込んでいってからの、いきなり連続で30作品超え、というのはインパクトがあります。

「アニメ制作業界」動向調査(2022)

TVアニメ全体の制作本数も増えているのか?と思って調べてみましたが、肝心の2021・2022年がまだ集計されていなかったので何とも言えませんでした。ただ、過去の推移を見てみると、2018年〜2020年に落ち込んでいるところは重なるものの、それ以外のところでは「テレビアニメが増えればラノベアニメも増える」と言えるほど、わかりやすく連動しているわけではないようでした。

さて、ラノベアニメの増加がとりあえず立証されたところで、その理由を考えてみましょう。

ラノベのコミカライズの増加

ラノベのアニメ化の増加」の前段階として、2017年ごろから「コミカライズ」、つまり「ラノベの漫画化」の増加が話題になっていました。

ラノベニュースオンラインによれば、

2017年に連載がスタートしたコミカライズ作品は、昨年の1.5倍を超えて130作品に迫る新連載がスタート。うちWEB発となるライトノベルを原作とした作品の割合は約8割という驚異的な数字を残した。

ライトノベルニュース総決算2017 今年も続いた創刊ラッシュ、コミカライズも130作品に迫った一年 - ラノベニュースオンライン

2018年は昨年を軽々と追い抜く新連載200作品超えを果たしている。上半期の時点で100作品を超え、その勢いのまま年末まで駆け抜けた。コミカライズの作品規模は一昨年から比較すると約3倍と凄まじい速度で広がりをみせている。

ライトノベルニュース総決算2018 コミカライズ新連載は200作品超、1,000万部突破作品が2シリーズ登場した一年 - ラノベニュースオンライン

2019年もコミカライズの勢いは一切衰えることはなかった。2017年からの3年間で、600本近いコミカライズの新連載は、コミック業界としての大小はあるにせよ、ラノベ側からはまさに「怒涛」という言葉に尽きる。昨年の200作品を遥かに超えた270作品以上の新連載が動き出し、あらゆる漫画媒体でラノベ原作のコミカライズを見ないことの方が少ないくらいである。

ライトノベルニュース総決算2019 年間コミカライズ新連載は300作品目前、ラブコメ作品への注目度が高まった一年 - ラノベニュースオンライン

ということで、2017年には130作品、2018年には200作品、2019年には270作品ものコミカライズ作品が新しく連載開始していたというわけです。

ラノベ」と「コミカライズ」の関係の変化

昔は人気作品だけがコミカライズされていましたよね。コミカライズは、アニメ化に向けての一つのステップ、あるいはアニメ化合わせで開始するもので、そのためコミカライズ作品もそれほど多くはありませんでした。

しかし「紙の漫画雑誌から漫画アプリへの移行」と「なろう系ブームの漫画業界への波及」によって、その状況は変わっていきます。

漫画業界では、Web漫画サービスや漫画アプリが主流となり、紙の雑誌にあったような連載数の上限がなくなってきています。それどころか、漫画アプリでは毎日なにかしらの作品を更新する必要があるために、さらに膨大な弾数が求められるようになっています。そこで原作供給源として白羽の矢が立ったのがライトノベルだったのでしょう。

特に「なろう系」作品が多くコミカライズされているのは、もちろんなろう系アニメがいくつもヒットしていて需要が高まっているということもあるでしょうが、加えて「膨大な原作ストックがある」ということも大きいのではないでしょうか。

従来のラノベであれば刊行は不定期で、作者がスランプにでも陥ればどんなヒット作でも年単位で新刊が出ないことがある、よってコミカライズのほうも先行き不透明な中で連載を続けなければいけない、というような状態になりえました。しかしWeb系ラノベは「Web版」という原作があるために書籍の刊行ペースも早いですし、仮に書籍化のほうが途中で打ち切られてしまってもコミカライズ側は連載を続けることが可能になっているのです。

近年では「書籍化」と「漫画化」が同時に行われることも増えてきました。これも「原作」があるからこそできる力技と言えるでしょう。

「コミカライズ」が当たり前となった時代

ラノベ業界側でも「書籍化だけして終わりではなくコミカライズなどもやって多角的に売り出していくのが当たり前」「書籍化とコミカライズはワンセット」という認識になってきているように思います。Web小説サイト上で開催される新人賞コンテストでも「優秀作品は書籍化だけでなくコミカライズを確約」というものが出てきています。

「売れたからコミカライズする」から「売るためにコミカライズする」への転換、とでも言えばいいでしょうか。

「Web小説→ラノベ→漫画→アニメ」とステップを踏んでメディアミックスされていくような形ではなく、「Web小説」という原作を売り出すために「書籍化」と「漫画化」が同列に進行している、というような形になっているように思うのです。

コミカライズからのアニメ化

そして現在、「これは『ラノベのアニメ化』というより『ラノベのコミカライズ作品のアニメ化』なのではないか」と思われる事例が増えています。

たとえば、アニメ公式サイトにおいて、原作を出している出版社ではなく、コミカライズを担当している出版社の名前がクレジットされていたり。たとえば、ラノベレーベルの公式アカウントではなく、コミカライズを担当している編集部のアカウントでアニメ化の発表がなされたり。たとえば、アニメ化が決まった時点でとっくに原作の刊行が止まっており、コミカライズ作品だけが連載中であったり。

どう見ても「ラノベのコミカライズ作品のアニメ化」なんですよね。

もちろん、従来どおりの「ラノベのアニメ化」も無くなったわけではありません。つまり「売れたラノベがアニメ化される」ルートに加えて、「ラノベが売れなくてもコミカライズ作品が売れていればアニメ化される」ルートが開通して、単純にアニメ化チャンスが倍増しているというか、そんな感じになってるんじゃないかなと思うわけです。

あとは

アニメ業界側からすると、海外向けのアニメ市場が拡大しているなかで、海外人気の高いなろう系作品をアニメ化したがっている…みたいな事情もあるんでしょうか。そのあたりはよく知らないので軽く触れるだけで済ませますが。

というわけで

ラノベのアニメ化が激増した」というのは「ラノベのコミカライズが激増してそっちからもアニメ化されるようになったから」ではないか、というお話でした。

それってそもそも「ラノベのアニメ化」と言えるのか?実質的に「漫画のアニメ化」なんじゃないの?という疑問はありますが、そこはまあ「全体としてそのコンテンツが売れるなら起点がどこかなんてどうでもよくない?」と考えるのが現代的なのかもしれませんね。

結局「ダークファンタジー」ってよくわからん問題

「ダークファンタジーって知ってる?」

と訊かれたら「なんか暗くて怖くて重くて人がたくさん死んでいくような、漫画で言えば『ベルセルク』とか、ドラマで言えば『ゲーム・オブ・スローンズ』とか、ゲームで言えば『エルデンリング』みたいなファンタジーのことでしょ?」と答える人が多いのではないだろうか。

でも「ダークファンタジーってホラーのことだよ」と言われたらどうだろう。確かにそんな用法を見かけることもある気がする。たとえば『呪術廻戦』は公式でそう銘打たれている。

異才が拓く、ダークファンタジーの新境地!

『呪術廻戦』|集英社『週刊少年ジャンプ』公式サイト

あるいは『鬼滅の刃』などもダークファンタジーと呼ばれることが多い。

まずは簡単に、『鬼滅の刃』自体の概要を紹介しよう。本作は、「人を食う鬼と人間の闘いを描いたダークファンタジー」だ。

【解説】映画『鬼滅の刃』に宿る名作漫画への敬愛と「人の弱さ、心の強さ」の美学『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』 :2ページ目|CINEMORE(シネモア)

これらは「呪霊」や「鬼」といったオカルトホラー的な要素から「ダークファンタジー」と呼ばれているのだろう。

つまり現代においては「ファンタジー系ダークファンタジー」と「ホラー系ダークファンタジー」というまったく異なる二つの用法がなんとなく使い分けられて流通しているわけだ。

なぜそんなややこしい状況になっているのだろうか?

手っ取り早く英語版Wikipediaを読もう

翻訳はDeepL

A strict definition for dark fantasy is difficult to pin down. Gertrude Barrows Bennett has been called "the woman who invented dark fantasy". Both Charles L. Grant and Karl Edward Wagner are credited with having coined the term "dark fantasy"—although both authors were describing different styles of fiction.

ダークファンタジーの厳密な定義は困難である。ガートルード・バロウズ・ベネットは「ダーク・ファンタジーを発明した女性」と呼ばれている。また、チャールズ・L・グラントとカール・エドワード・ワグナーも「ダーク・ファンタジー」という言葉を作ったとされているが、両者とも異なるスタイルのフィクションを表現している。

Dark fantasy - Wikipedia

これによると、「ダークファンタジー」というジャンルを作ったのがベネット、「ダークファンタジー」という呼称を作ったのがグラントとワグナー、しかしグラントとワグナーではその言葉が指す範囲が違った、ということらしい。

この三人についてさらに掘り下げてみよう。

まずはガートルード・バロウズ・ベネットから

彼女は「フランシス・スティーブンス」というペンネームで1917年から1923年までのあいだに作品を発表していたようだ。

In 2004, scholar Gary Hoppenstand compiled one of the more recent reprints of Gertrude’s work, releasing The Nightmare, and Other Tales of Dark Fantasy under her nom de plume. He writes, “Dark fantasy is defined as a type of horror story (possibly containing science fiction and fantasy elements) in which humanity is threatened with destruction by hostile cosmic forces beyond the normal ken of mortals,” (p. ix).

2004年、研究者のゲイリー・ホッペンスタンドは、ベネット作品の最新の復刻版の一つである「The Nightmare, and Other Tales of Dark Fantasy」を編纂して、フランシス・スティーブンス名義で発表している。ゲイリーは「ダークファンタジーは、人類の通常の理解を超えた敵対的で神秘的な力によって人類が滅亡の危機にさらされる、ホラー小説の一種(SFやファンタジーの要素を含む場合もある)と定義されている」と説明している。

Navigating the Weird Mind of Gertrude Barrows Bennett — the Mother of Dark Fantasy (pt. 1) - The Fandomentals

Bennett has been credited as having "the best claim at creating the new genre of dark fantasy". It has been said that Bennett's writings influenced both H. P. Lovecraft and A. Merritt, both of whom "emulated Bennett's earlier style and themes". Lovecraft was even said to have praised Bennett's work. However, there is controversy about whether or not this actually happened and the praise appears to have resulted from letters wrongly attributed to Lovecraft.

ベネットは「ダーク・ファンタジーという新しいジャンルを作り上げた最高の人物」であると評価されている。ベネットの著作は、H・P・ラヴクラフトとA・メリットの両者に影響を与え、両者とも「ベネットの初期のスタイルとテーマを模倣した」と言われている。ラヴクラフトはベネットの作品を絶賛していたとさえ言われている。しかし、実際にそうであったかどうかについては議論があり、この賞賛は、ラヴクラフトのものと誤ってされた手紙に起因しているようである。

Gertrude Barrows Bennett - Wikipedia

このあたりの解説を読むかぎり、まず「ダークファンタジーといえばクトゥルフ神話みたいなオカルトホラーのことだよな」という認識があり、「つまりダークファンタジーの祖はラヴクラフトだよな」ということになり、「ちょっと待ってラヴクラフトの前にこんな作家がいてラヴクラフトも絶賛してたみたいだよ!」ということでベネットが紹介されて、「ベネットこそがダークファンタジーの祖である」という評価が定着し、しかし後々調べてみるとラヴクラフトが絶賛していたというのはどうも誤りではないか、という流れのようだ。

具体的に言うと「オーガスタス・T・スウィフト」という人物がベネットを絶賛していたのだが、長らくこのスウィフトはラヴクラフトの別名だと思われていたのだという。しかし近年の研究によりスウィフトは実在の人物だと判明したので、ラヴクラフトとの同一人物説は否定されたということらしい。その前提が崩れると「ベネットがダークファンタジーの元祖」説も危うくね?大丈夫か?

次にチャールズ・L・グラントについて

グラントが本格的に作品を発表しはじめたのは時代が飛んで1971年ごろのようだ。

Charles L. Grant is often cited as having coined the term "dark fantasy". Grant defined his brand of dark fantasy as "a type of horror story in which humanity is threatened by forces beyond human understanding". He often used dark fantasy as an alternative to horror, as horror was increasingly associated with more visceral works.

チャールズ・L・グラントはしばしば「ダーク・ファンタジー」という言葉を作ったとして引用される。グラントは、自身のダークファンタジーを「人智を超えた力によって人類が脅かされるホラー小説の一種」と定義している。「ホラー」がより本能的な作品と結び付けられるようになったため、彼はしばしば「ホラー」の代替として「ダークファンタジー」という語を使用した。

Dark fantasy - Wikipedia

Mr. Grant was a master of suspense, of gradually building pressure in the readers mind until the skin at the back of their neck tickles with anticipation and fear. He dealt in shadows, fogs and darkness, in worlds like ours, but somehow slightly off-kilter.

グラントはサスペンスの達人であり、首の後ろの皮膚が期待と恐怖でくすぐったくなるまで、その心に徐々に圧力をかけていく。彼は影・霧・暗闇を扱って、私たちの世界と似た、しかしどこか少しずれた世界を扱った。

There is a theory as to why he hasn’t lasted as long as those of his contemporaries and that’s because even in the 70s and 80s Grant’s horror did not represent the pulse of the time, that pulse being grotesquery and blood-letting.

なぜ彼が同時代の作家たちほど長く残らなかったかといえば、70年代・80年代においてもなお、グラントのホラーは当時の時流に乗っていなかったからである、グロテスクで血みどろという時流に。

Charles L Grant: The Almost Forgotten Master of Suspense - Horror Oasis

総合して考えると、つまり自身のオカルトサスペンス的なホラーを、流行のスプラッタホラーと区別するために、「ダークファンタジー」や「クワイエットホラー」と自称して差別化を図った、ということなのだろうか。

グラントが「ダークファンタジー」という語を使っていたということは、彼の1987年の書評から裏付けられる。

The best of 1987's many horror novels that emphasize fantasy was Patricia Geary's Strange Toys, a tale of voodoo, magic, and a young girl's entry into adulthood that Charles Grant praised (American Fantasy, Summer 87) as "one of the best dark fantasy novels of the decade."

1987年に発表された多くのファンタジー重視のホラー小説の中で最も優れていたのはパトリシア・ギアリーの『ストレンジ・トイズ』である。これはブードゥーと魔法、そして少女が大人になるまでの物語で、チャールズ・グラントが「10年間で最高のダークファンタジー小説のひとつ」(『アメリカンファンタジー』誌、87年夏号)と賞賛した。

Science Fiction & Fantasy Book Review Annual - Google ブックス


しかしWikipediaの「Grant defined his brand of dark fantasy as "a type of horror story in which humanity is threatened by forces beyond human understanding". 」という記述はかなり怪しい。なぜなら2006年にエリック・リーフ・ダヴィン氏がベネットについて説明した文章と完全一致するからだ。ますます雲行きがおかしくなってきたぞ。

最後にカール・エドワード・ワグナーについて

Karl Edward Wagner is often credited for creating the term "dark fantasy" when used in a more fantasy-based context. Wagner used it to describe his fiction about the Gothic warrior Kane. Since then, "dark fantasy" has sometimes been applied to sword and sorcery and high fantasy fiction that features anti-heroic or morally ambiguous protagonists. Another good example under this definition of dark fantasy is Michael Moorcock's saga of the albino swordsman Elric.

カール・エドワード・ワグナーは、よりファンタジー的な文脈で使われる「ダーク・ファンタジー」という言葉を生み出したとされることが多い。ワグナーは、ゴシック戦士ケインについての小説を説明するためにこの言葉を使った。それ以来、「ダークファンタジー」は、アンチヒーローや道徳的に曖昧な主人公を登場させる剣と魔法やハイファンタジーの小説に適用されることもある。また、マイケル・ムアコックアルビノの剣士エルリックの物語も、このダークファンタジーの定義における好例である。

Dark fantasy - Wikipedia

ケイン。それは永年、悪魔のごとくその名を囁き交わされてきた死と破壊の化身。不老不死の呪いを受け、人類発祥の時代より生き続けてきた流浪の剣士にして戦いの天才。そして、彼の行くところ必ず戦乱が巻き起こる・・・。この時代にもまた一人、ケインの並外れた力を求める者がいた。ソヴノス帝国の覇者マリルに復讐を誓う妖女エフレルが、傭兵将軍として彼を召喚したのだ! 米国幻想文学界の重鎮が、闇に覆われた世に覇権を競う猛者達を描いた、波瀾万丈のヒロイック・ファンタシー堂々登場!

主人公は赤い長髪で髭面。身長約2メートルで熊と格闘して勝つほどの怪力。黒革製の短袴を身にまとっている。不老不死の呪いを受け世界を放浪するうち、妖術の知識を身につけ古代世界の神秘に通じるようになった。性格は狡猾で野心家。

『闇がつむぐあまたの影(カール・エドワード・ワグナー)』 投票ページ | 復刊ドットコム

彼の代表作がこの『ケイン・サーガ』と呼ばれるシリーズで、コナン・ザ・バーバリアンの衣鉢を継ぐヒロイックファンタジーということなのだが、主人公のケインが邪悪で破滅的なアンチヒーローであるのが特徴らしい。『ケイン・サーガ』の最初の作品は1973年に刊行されている。

ワグナーはホラー作家でもあり、ケイン・サーガは「ファンタジーにゴシックホラーの要素を取り入れている」とも評価されているようだ。ダークファンタジーの類語として「ゴシックファンタジー」という呼び方もある(こういう雰囲気のやつ)。

ただ現代日本の「ファンタジー系ダークファンタジー」用法においては「主人公がアンチヒーロー」みたいな前提はないよなあ。ただ単に「なんとなくシリアスめなファンタジー」くらいの意味合いしかないような気がする。なんか『鋼の錬金術師』がダークファンタジー扱いされているのも見たことあるし。

やはりと言うべきか、「ワグナーがダークファンタジーという言葉を生み出した」説も疑わしいようだ。Wikipediaのソースとして示されている記事を確認しても「1970年代にワグナー自身が作った可能性が高い」とそっけなく書かれているだけである。具体的に、いつどの著作で使用したり定義したりしたのか、という情報がまったく出てこないのだ。

当時の「ダークファンタジー」の使用例を見てみよう

怪しげな話ばかりで嫌になってきたので、Google Booksで「Dark Fantasy」を検索して調べてみよう。


まずは1970年に公開されたというリチャード・C・ウェスト『Contemporary Medieval Authors』である。

Many science-fiction writers fit into the genre quite comfortably: think of the weird fantasy of H. P. Lovecraft, the hero-wins-princess tales of Edgar Rice Burroughs, the "incomplete enchanter" series of L. Sprague de Camp and Fletcher Pratt, some of Poul Anderson's work (such as Three Hearts and Three Lions), or the dark fantasy of Michael Moorcock, to name only a few of the most popular writers.

多くのSF作家がこのジャンルにしっくりとなじんでいる。H・P・ラヴクラフトの怪奇幻想、エドガー・ライス・バローズの英雄と王女の物語、L・スプレイグ・ディ・キャンプとフレッチャー・プラットの「incomplete enchanter」シリーズ、ポール・アンダーソンの作品のいくつか(『Three Hearts and Three Lions』など)や、マイケル・ムアコックのダークファンタジーなど、人気作家の例を挙げればキリがない。

https://dc.swosu.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1059&context=tolkien_journal

マイケル・ムアコックといえばファンタジー系ダークファンタジーの代表格としてしばしば挙げられる『エルリック・サーガ(エターナルチャンピオンシリーズ)』の作者である。この当時、既にムアコックの作品を「ダークファンタジー」と見なす認識が一般に存在していたのだろうか?

ちなみに、このコラムの筆者であるウェスト氏(トールキン研究者らしい)は、ラヴクラフトやバローズやムアコックや、あるいはルイス・キャロルA・A・ミルンなどの作品をひっくるめて「twentieth-century romance(20世紀ロマンス)」と命名し(つまり最広義の「ファンタジー」を敢えて「ロマンス」と言い換えたようだ)、その20世紀ロマンスのサブジャンルとして特に『指輪物語』や『ナルニア国物語』を「contemporary medieval(現代の中世もの)」と呼んでいたようだ。独自のジャンル意識が窺えて面白い。

1972年に出版されたディーン・R・クーンツの小説指南書『Writing popular fiction』のなかでは、「ダークファンタジー」が項を立てて説明されている。

The foremost writer of dark fantasy in this century is H. P. Lovecraft (1890-1937), whose stories remain in print (even though some were written as much as fifty years ago) and enjoy regular, cyclic bursts of extraordinary popularity. With stories like "Pickman's Model," which deals with a painter who fashions portraits of monsters that, the narrator learns, are not imaginary, as they first seemed, "The Rats in the Walls."

今世紀のダーク・ファンタジーの第一人者はH・P・ラヴクラフト(1890〜1937)である。 ラヴクラフトの作品は、(50年も前に書かれたものであるにもかかわらず)今でも印刷され続けており、定期的かつ周期的に異常な人気を博している。怪物の肖像画を描く画家を扱った "Pickman's Model"や、怪物が想像上の存在でないことを語り手が知る "The Rats in the Walls"などの物語で、その人気は衰えることを知らない。

First of all, dark fantasy—unlike all other fantasies-most often takes place against a normal contemporary or recognizable historical setting. Though it could be placed in pre-history, in the far future of Earth, or in another imaginary world altogether, it seems to work best if its supernatural elements can be put in contrast with an otherwise common background.

まず、ダークファンタジーは、他のファンタジーと違って、普通の現代や歴史が舞台となることがほとんどである。別に、先史時代や遠い未来の地球、あるいはまったく別の想像上の世界を舞台としてもいいのだが、その超自然的な要素を日常的な背景と対比させることができれば最もうまくいくようだ。

http://www.saveourenvironment.ca/Writing_Popular_Fiction_Koontz_Dean.pdf

この「ダークファンタジー」はもう完膚なきまでにジャンルとして認識されているだろう。そしてそれは問答無用でホラー系を指している。「ダークファンタジーといえばラヴクラフトのようなホラーのことだよ、当たり前だろ?」と言わんばかりである。


1973年には、そのものずばり『DARK FANTASY』という名前の同人誌が出版されていたようだ。

Dark Fantasy

内容的にはヒロイックファンタジー系っぽい。

From 1975 until 1980, Gene Day published, under the imprint Shadow Press, at least 23 issues - the last being #d 24/25, and there having been no #13 - of the fanzine/magazine Dark Fantasy: The Magazine Of Underground Creators for which he was also an art contributor.

1975年から1980年まで、ジーン・デイはシャドウ・プレスというレーベルで、ファンジン/雑誌『Dark Fantasy: The Magazine Of Underground Creators』の少なくとも23号(最終号は24/25号で、13号はない)を出版し、彼はまたアート作品の提供者であった。

Gene Day - Wikipedia

この雑誌に掲載されたチャールズ・R・サンダースの「The Pool of the Moon」という作品が「The Year's Best Fantasy Stories」という選集に収められたらしいので、同人誌だからと言ってまったく箸にも棒にもかからず黙殺されたわけではないらしい。はたしてどれほどの影響があったのだろうか?

Inspired in Africa, he created the fictional continent Nyumbani (which means "home" in Swahili), where the stories of Imaro, his sword and sorcery series, take place. In 1974, Saunders wrote a series of short stories for Gene Day's science fiction fanzine Dark Fantasy. The issue of Dark Fantasy with the first Imaro story found its way to Lin Carter, who included it in his first Year's Best Fantasy Stories collection, published by DAW Books in 1975. This publication brought Saunders' work to the attention of Daw publisher Donald A. Wollheim, who eventually suggested that Saunders turn his Imaro stories into a novel. Six of the novellas originally published by Gene Day in Dark Fantasy ("Mawanzo", "Turkhana Knives", "The Place of Stones", "Slaves of the Giant Kings", "Horror in the Black Hills", and "The City of Madness") would later be used in his first novel, Imaro, which was published by Daw in 1981.

アフリカでインスピレーションを受け、彼は架空の大陸ニュンバニ(スワヒリ語で「家」の意)を創造し、剣と魔法のシリーズである『イマロ』の物語の舞台とした。1974年、サンダースはジーン・デイのSFファンジン『ダーク・ファンタジー』に短編を連載した。『ダーク・ファンタジー』誌に掲載された最初の『イマロ』は、リン・カーターに見いだされ、1975年にDAWブックスから出版された彼の最初の作品集『Year's Best Fantasy Stories』に収録された。

Charles R. Saunders - Wikipedia

1975年のこちらの書評では、タニス・リーの『アヴィリスの妖杯』という作品が「ダークファンタジー」と評されている。

Tanith lee's most powerful story to date, a dark fantasy in which three men with very differnt motives plan to steal the great cup of Avillis,

タニス・リー史上最強の物語。全く異なる動機を持つ3人の男が、アヴィリスの大杯を盗み出そうと企むダークファンタジー

British Book News - Google ブックス

『アヴィリスの妖杯』は指輪物語オマージュの作品らしい。つまりファンタジー系の用法である。

同じく1975年にウィリス・コノヴァーが編纂した伝記『Lovecraft at Last』のなかでも、

The universality of a leaning toward dark fantasy is shown by the fact that most authors of all kinds have occasionally produced specimens of spectral literature. Mere physical gruesomeness or conventional ghosts cannot make true weird art.

ダークファンタジーへの傾倒が普遍的であることは、あらゆる作家が時として幽霊文学の標本を作っていることからもわかる。単なる肉体的なむごさや、ありきたりの幽霊では、真の怪奇芸術は生まれない。

Lovecraft at Last - Howard Phillips Lovecraft, Willis Conover - Google ブックス

などと書かれている。こちらはホラー系の用法である。

70年代半ばの時点で、ホラーとファンタジー、両方の文脈から言及されていたことがわかるが、どちらが先だったのかはよくわからない。「Dark Fantasy」というのはそれほど特殊な単語の組み合わせではなく、単に「暗い妄想」のような意味合いで使われている例も多く見受けられる。ホラー文脈やファンタジー文脈で出てきていても、確固たるジャンル意識のもとに「Dark Fantasy」という語を使用しているわけではなかった可能性もある。

まとめると

なんもわからんということがわかった。

「ダークファンタジー」という言葉は1970年代に生まれたようであるが、誰が作ってどう広まっていったかは不明である。

初期の段階から「ホラー系ダークファンタジー」と「ファンタジー系ダークファンタジー」に意味が分裂していたようである。

ホラー系ダークファンタジーは、エログロなスプラッタホラーと対置して、クトゥルフ神話などを代表とする「オカルト要素のあるサスペンスフルなホラー」に対して使われることが多い。

ファンタジー系ダークファンタジーは、正義感の強いヒロイックファンタジーと対置して、「アンチヒーロー的な陰鬱で残虐な主人公のファンタジー」として認識されることが多い。

現代日本では拡大解釈の末に、ホラー系ダークファンタジーは「オカルト要素のある異能バトル」とかにも使われているし、ファンタジー系ダークファンタジーは単なる「シリアスな雰囲気のファンタジー」とかまで指すことがある。

という感じだろうか。

ラノベにおける「ダークファンタジー

このブログはいちおうラノベブログなので、あらすじに「ダークファンタジー」が入っているラノベをいくつか紹介して終わろう。

その辺境のギルドには、ゴブリン討伐だけで銀等級(序列三位)にまで上り詰めた稀有な存在がいるという……。
冒険者になって、はじめて組んだパーティがピンチとなった女神官。それを助けた者こそ、ゴブリンスレイヤーと呼ばれる男だった。
彼は手段を選ばず、手間を惜しまずゴブリンだけを退治していく。そんな彼に振り回される女神官、感謝する受付嬢、彼を待つ幼馴染の牛飼娘。そんな中、彼の噂を聞き、森人(エルフ)の少女が依頼に現れた――。

圧倒的人気のWeb作品が、ついに書籍化! 蝸牛くも×神奈月昇が贈るダークファンタジー、開幕!

言わずと知れたゴブスレ。全体的な雰囲気が陰鬱というわけではないと思うが、残酷描写・性描写があるという点でダークファンタジーに分類されている感じ。

農園と鍛冶で栄える小国キャンパスフェロー。そこに暮らす人々は貧しくとも心豊かに暮らしていた。だが、その小国に侵略の戦火が迫りつつあった。闘争と魔法の王国アメリアは、女王アメリアの指揮のもと、多くの魔術師を独占し超常の力をもって領土を拡大し続けていたのだ。

このままではキャンパスフェローは滅びてしまう。そこで領主のバド・グレースは起死回生の奇策に出る。それは、大陸全土に散らばる凶悪な魔女たちを集め、王国アメリアに対抗するというものだった――。
時を同じくして、キャンパスフェローの隣国である騎士の国レーヴェにて“鏡の魔女”が拘束されたとの報せが入る。レーヴェの王を誘惑し、王妃の座に就こうとしていた魔女が婚礼の日にその正体を暴かれ、参列者たちを虐殺したのだという。
領主のバドは “鏡の魔女”の身柄を譲り受けるべく、従者たちを引き連れてレーヴェへと旅立つ。その一行の中に、ロロはいた。通称“黒犬”と呼ばれる彼は、ありとあらゆる殺しの技術を叩き込まれ、キャンパスフェローの暗殺者として育てられた少年だった……。
まだ誰も見たことのない、壮大かつ凶悪なダークファンタジーがその幕を開ける。

こちらの作品はゲーム・オブ・スローンズから影響を受けているそうだが、暗い…というよりはシリアスで、やや残酷描写がある、くらいの感じ。異能バトル的な側面もあって面白い。

異世界の勇者が救った世界』エウシュアレで一匹の闇スライム『ブラックウーズ』がこの世に生を享けた。牛や犬にも劣る小さな魔物。そんな彼が『人間』を吸収して手に入れたのは……。
――雄の欲望。
やがて彼は自分を討伐すべく洞窟にやってきた天才魔導士のフレデリカ、奴隷のサティア、王国直属のエルフの女騎士フィアーナたち精鋭を捕らえて幽閉する。全ての悪夢はここから始まった。彼女たちは無事生還できるのか……。
闇スライムが欲望の限りを尽くす。無慈悲に蹂躙される異世界を描いたダークファンタジー。今、平和だった世界に悲劇の幕が上がる。

こちらも過激な性描写があるタイプ。というかノクターンノベルズで連載されていた作品だしな。

能力値ゼロという身でありながら勇者パーティに選ばれてしまったフラム。唯一持っているのは“反転”というよく分からない能力。
案の定、戦闘ではまったく役に立たなかったが、それでもめげず、健気にパーティのためにと働く彼女を、天才として名高い賢者のジーンは疎ましく思い、ことあるごとにいびり続け、ついには強引に奴隷商に売り払ってしまう。

その奴隷商会でも虐げられるフラムは、挙げ句余興として凶悪なモンスターの餌食になろうとしていた。
だが、装備したが最後身体をドロドロに溶かしてしまう『呪いの大剣』を手にした瞬間、彼女の人生は急激に“反転”する。

呪いが祝福へと変わるとき、その絶望は反転する―― 
少女と少女が織りなすダークライトファンタジー、ついに登場!!

ダークライト」ってなんじゃらほいって感じだけど、ライトな追放系百合ファンタジーと、かなりガチなホラー要素が混じり合った作品で、独特な面白さがある。

夏の猛暑のさなか、行方不明となっていた少年が凍った死体となって発見された。警察は事件の異常性から“マガツガミ”によるものと判断した……。古来よりこの国には人間に害を為す禍々しい神々“マガツガミ”が存在する。そして、それらマガツガミを討伐する特殊な力を持った者たちを“祈祷士”と呼んだ。連携し独自に組織を作り上げた祈祷士たちは、マガツガミたちと長きにわたり戦いを続けてきた――。
そして現代、天才的な資質を持ちながら祈祷士としての道を捨てた男・古川七日と、可愛らしくも残酷な“喰い神”の少女ラティメリア。人間とマガツガミという許されざる異種間のコンビは、法や常識に縛られることなく、彼らなりの理由と方法でもって禍々しい神々を葬っていく。
カミツキレイニー待望の新作は、「冷徹な最強の男」×「人を喰う神の少女」の異種バディもの! 共闘もするが、たまに殺し合いもする……そんなコンビが見せるダークファンタジー

こちらは「オカルト要素のある異能バトル」的な用法。ストーリー的にはあんまりダークではない。ダークヒーローではあるかもしれない。ラティメリアちゃんかわいい。

目覚めた少年は、何者でもなかった。“再葬開始”の合図と共に、いつの間にか持っていた火の粉を纏う刃を振るい、異形の敵を倒すのみ。“境死者(ニアデッド) No.7”――赤鉄(アカガネ)。それが、彼に新たに与えられた名だった。なぜ自分は戦うのか――。
No.6である美しき少女・紫遠(シオン)と共に、訳のわからぬまま死闘に身を投じる赤鉄は、やがてある事実にたどり着く。No.7の称号を持つ“先代”がいたこと、そして自分がその人物に殺され、No.7を“継承”したことを……。
現代ダークファンタジー、開幕!

こちらも「オカルト要素のある異能バトル」的な用法。ゾンビ版「サイボーグ009」という感じ。


これら以外でも、最近なんだか「ダークファンタジー」と銘打ったラノベをよく目にする気がするけど、やっぱりジャンルとかバラバラなんだよな…。

「好きラノ 2022年上期」投票


ブービージョッキー!!

作者の競馬歴三年、好きな馬はアーモンドアイ、ほーんお手並拝見、くらいの気持ちで読み始めたら、第一章でもうゴリゴリに取材した競馬小説であることが分かって一発でやられてしまった。なんで新人なのにこんなに上手いのかと驚いて検索したら既にプロデビューした人の再受賞作だった。納得。作品としてはもう否定しようがないくらい競馬版「りゅうおう」なんですよ。綿密な取材とくだらねえ下ネタ。ダービー勝利後にスランプの若手ジョッキーのもとに美少女が転がり込んでくる展開。でもそれが劣化コピーとかではなく「面白さ」まで含めて本当に「りゅうおう」と同じだって気付くんですよね。というわけですごく良かったです。競馬ファンって「ギャンブルとして好き」「スポーツとして好き」「生き物として好き」の3パターンくらいに分かれると思うんですけど(重複アリ)、作中の描写からしてこの作者は生き物としてのサラブレッドが本当に大好きなんだろうなと思いました。

【22上ラノベ投票/9784815614393】

紅蓮戦記

主人公は桁違いの実力を持つ魔術師で、当たるところ敵なしで連戦連勝なんだけど、既に祖国は滅びかけで敗戦は決定的、どんなに主人公がすごくても挽回できない状況で、とはいえ主人公もそんなに愛国心が強いわけでもなく、悲壮感があるわけでもなく、飄々と戦っているという戦記ファンタジー。んで敵方も、主人公を捕まえたら処刑しようだの、いや味方にして利用しようだの、まだ少年なんだから解放すべきだのと紛糾したり、そのあいだに主人公にボコボコにやられたり、主人公の旧友たちがなんとか主人公を助けようと奮闘していたり。いろんな人の視点で描かれるドタバタ劇という印象もある。作者らしくミリタリ的な描写はしっかりしつつも意外にゆるい空気感を維持していてバランスいいなーと思う。期待どおりの面白さだった。是非とも続きを読みたいな。

【22上ラノベ投票/9784046814739】

濁る瞳で何を願う ハイセルク戦記

いちおう転生ものだけど、知識チートとかは無く、主人公が抱える僅かばかりの現代的価値観に反映されている程度。敵方にも異世界転移してきた勇者パーティみたいなのがいて、主人公と好対照の位置付けとなっている。いまのところ主人公はレアなスキルを身につけて活躍はしているけど、それで出世するのでもなく、現場の一兵卒の視点での荒んだ戦場描写に終始していて、なかなかストイックだ。しかつめらしい文章にしようとして意味が通らなくなっている箇所もあるが、全体として読み応えのある作品だった。いろいろ伏線を仕込んでいる感もあるので、ここからの捻り具合によってさらに面白くなりそう。

【22上ラノベ投票/9784065242490】

亡びの国の征服者

やっぱり面白すぎな。一気に読んでしまった。前回から引き続きの逃亡行、そしてようやく助かったと思ったら今度はギリギリの撤退戦と、息もつかせぬ危機の連続で、前半は主人公の戦士としての強さ、後半は指揮官としての強さが映える。優秀な主人公がギリギリ乗り越えられるくらいのピンチっていうか。次の展開がギリギリ予測できないくらいの意外性っていうか。引き込まれるなあ。徐々に部下が揃ってる感じもあり、シヤルタ本国での戦争、あるいはその後の戦いになるのかわからんが、それに向けて一段落しつつもどんどん盛り上がっていっている。次巻も楽しみ。

【22上ラノベ投票/9784824001313】

ヘンダーソン氏の福音を

今回も素晴らしかった。アグリッピナ師が唐突に官職領地付きの貴族に抜擢されたところから始まる政界暗闘編。師は政敵たちを一網打尽にすべく策を練り、主人公は異形の暗殺者と剣を切り結ぶ。また違った方向にスケールアップして非常に読み応えのある展開だった。師の戦闘シーンは空の境界の橙子師みたいで良かったな。そして外伝はエーリヒとアグリッピナ師が結婚するif。これまた末弟主人公の珍道中を描いた次世代編を読みたくなる面白さ。姉様方がスレイヤーズみたいに大暴れするやつがいい。作者氏の身体を大量複製してこれまでの外伝の続きをひたすら出力してもらいたいよ。

【22上ラノベ投票/9784824001085】

Dジェネシス

現代ダンジョンもの。キャラメイク(ステ振りとスキル選択)の能力を得た主人公がダンジョンにまつわる様々な現象を理系的に分析するのと、それにまつわる国際的な政治情勢をさまざまな視点から描くというのがストーリーの二本柱で、作者の広範な知識もあり、緻密で奥行きのある作品となっている。しかし一方で、主人公の能力入手シーンに代表されるように、テンプレ部分がものすごい雑に処理される嫌いがあり、また垣間見える作者のセンスもちょっと合わないなと感じるところがある。至道流星とか芝村裕吏みたいな印象。とはいえ評判どおりの面白さであることは確かなので、続きも読んでみたい。

【22上ラノベ投票/9784047370647】

転生したら皇帝でした

面白かった。権力者たちの傀儡でしかない幼帝に転生した男が実権を取り戻すために画策していく話。キャラは緩いけど、歴史知識をしっかり持ってる作者がかなり細かく設定を練って作ってる印象だな。大陸に割拠する国々、さまざまに分派した宗教が、どう成り立って、権力闘争にどう関わるかまで、しっかり説明していくスタイルで、歴史小説的な面白みがある。魔法の設定とかも作り込んでる感じ。ただ一巻に盛り上がりどころを入れられなかったタイプのようで、この巻だけだとぜんぜんストーリーに起伏がなく、準備段階だけで終わってるんだよな。まあ二巻が楽しみだ。

【22上ラノベ投票/9784866994017】

エナメル

ちょっとスカした陰のある美少年とワガママでエキセントリックな美少女が日常の謎を解く青春ミステリ。いや良いっすね。こういうのが欲しかった。機能不全の家庭で育ったキャラが多く登場したり、最も恵まれていたヒロインは事故で下半身不随になっていたり、歪んだ人間の起こす事件だったり、全体に陰鬱な雰囲気が漂っているんだけど、根っこの部分では本当に年相応のめちゃくちゃ可愛らしいカップルの話なんですよね。複雑な事情で隠れてるだけで。難なく事件を解いてしまう賢くて大人びた二人が「自分の運命の相手はこの人だ」って何の根拠もなく馬鹿みたいに信じてるんですよ。可愛すぎか。

【22上ラノベ投票/9784101802343】

偽典・演義

面白い。何進亡きいま主人公の李儒が完全に漢王朝フィクサーとなって生き生きと暗躍しているのが楽しい。董卓曹操孫堅といった面々が、李儒に振り回される役回りで登場するんだけど、漢王朝が史実よりも力を保っていることもあってか、現状で「李儒と競い合うライバル」ではないんだよな彼らは。それで本来の三国志の群雄割拠感が薄れて「李儒くんの後漢運営シミュレーション」としての面白さが出てきている。一方で大枠としては史実に近い形で進んでいて李儒の思いどおりにいかないことも多い。このバランス感覚というか綱引き感は歴史改変ものの醍醐味だなあ。

【22上ラノベ投票/9784803016383】

勇者刑に処す

これで勇者の面々が全員登場したのか。ううむ、とにかく小説が上手いよなあ。今回はあらすじだけ見れば「街を守る」とか「裏切り者を探す」とか平板な感じだけど、実際は見事に山あり谷ありで読ませるし、それでいてクドくないから疲れないし、懲罰勇者たちはいずれも個性的な面々で、といって無理に奇を衒うわけでもなく、王道の熱さがあり、驚きの展開もあり、すべてがちょうどいい。作品のパラメータがオール90って感じがする。懲罰勇者たち、ほんとみんな魅力的なんだよな。こんな奴らがこれだけ頑張っても、人類が自分から負けにいってるとかどうなってんだよ。

【22上ラノベ投票/9784049141030】

中国の「異世界転生もの」の解説記事を翻訳して読んでみる

以前、韓国語でやったやつの中国編です。とりあえず「百度百科」のそれらしい項目をDeepL百度翻訳で翻訳していこうと思います。

韓国編はこちら。

Web小説

网络小说_百度百科

現状

台湾

(中略)

台湾のWeb小説は「情色文学(訳注:情色=エロティック)」から始まった。大学生が独自に設置したネット掲示板のセックスコーナーで、その利用者が創作物を公開しはじめた。その後、学校の事情で個人向けプラットフォームに移されたが、この流れは多くの読者に影響を与え、彼らは創作に参加するようになっていった。「情色文学」とは言うものの、実際には感情描写が中心で、エロティックな描写はむしろあっさりしていた。

それから作品は「情色」の領域から脱し、痞子蔡の『第一次的親密接触』のように、キャンパスライフを記録した、爽やかな学園小説へと移行していった。 こうしてネット文学が芽生えはじめたのである。

现状

台湾

(中略)
台湾网络小说的起源自情色文学起家,交大学生自建的BBS性版上开始有BBS使用者发表创作,后因校方关切,遂将舞台搬移至私人站台,后来这种创作风潮影响了不少读者也开始参与创作,最早的故事虽名为情色文学,但实际上仍以情感为主,情色的描写反而是非常清淡的过场而已。
并且故事脱离了情色范畴,转为生活纪录、清新的校园小说,如痞子蔡的《第一次的亲密接触》便是受到影响的第二代。于是网络文学开始由此萌芽。

「情色文学」のくだりは、最初は大学のサーバーで公開してたけど、大学側に睨まれたので個人サイトに移行した、みたいな話かと思ったんですが、その解釈で合ってるのかわかりません。訳が難しくてあまり自信がないですね。

『第一次的親密接触』は「台湾で最初に注目されたWeb小説の一つ」とされる作品で、1998年に出版されて数百万部の売上があったらしいです。この作品も大学のBBSに掲載されていたようです。

大陸

(中略)

2001年、有名なWeb小説家の今何在が、エポックメイキングなWeb小説『悟空伝』を出版した。これは実際に出版された最初のWeb小説であり、国内にWeb小説の熱気が広がるきっかけとなった。

(中略)

6年間の発展を経て、2007年以降にインターネットが国内で普及し、それに伴いネット小説も萌芽から成長、成熟へと進み、賛否両論の中で歩みを進めてきた。

2009年、天蚕土豆の『闘破蒼穹』によって、Web小説は無線読書の時代へと突入し、発展しはじめた。

大陆

(中略)
2001年,著名网络小说家今何在出版了具有划时代意义的网络小说《悟空传》,这是第一本在现实中出版的网络的小说,引发了国人对网络小说的无限热情。
(中略)
经过6年发展,到2007年之后互联网基本在国内普及,网络小说也随之从萌芽到成长再到成熟,在争议中步步前行。
2009年,天蚕土豆的《斗破苍穹》将网络小说发展带入无线阅读时代,开始蓬勃发展。

この『悟空伝』という作品が、初期の流行を牽引した作品で、それまでは青春ものが多かったのが、ここからファンタジー系が増えていった、という流れのようです。

また『闘破蒼穹』は、検索してみると「中国のネット文学史上最も影響力があった作品」というコラムが出てきますね。読んでみると「『闘破蒼穹』の文章はド下手だったのでストーリーさえ面白ければ売れるんだと知った素人が大量に参入するようになった」という褒めてるのか貶してるのかわからん話でしたが。『闘破蒼穹』が大ヒットして、そのフォロワーが大量に生まれたのは事実のようです。

無線読書(无线阅读)というのは、たぶん「電子書籍」の意味なんでしょう。Kindleとかの電子書籍リーダーのことを「无线阅读器」と言ったりするみたいです。別の記事によると、当時の中国の携帯電話はまだほとんどネット接続機能がなかったのでWeb小説を読むことができず、そのかわりに電子書籍リーダーが普及して、そのなかで『闘破蒼穹』がめちゃくちゃ売れた、ということのようですね。

分类

网络小说(Internet novel),大致可分为以下几种类型:
玄幻:东方玄幻、王朝争霸、异世大陆、异术超能、远古神话、高武世界、转世重生、西方玄幻、BL玄幻、GL玄幻
武侠:传统武侠、新派武侠、国术武侠、历史武侠、浪子异侠、谐趣武侠、快意江湖、BL武侠、GL武侠
仙侠:现代修真、修真文明、洪荒封神、古典仙侠、奇幻修真、BL修真、GL修真
(这两种是玄幻的延伸,也可以另当一种)
奇幻:西方奇幻、吸血家族、魔法校园、异类兽族、亡灵异族、领主贵族、剑与魔法、历史神话、
科幻:机器时代、科幻世界、骇客时空、数字生命、星际战争、古武机甲、时空穿梭、末世危机、进化变异
都市:都市生活、恩怨情仇、青春校园、异术超能、都市重生、BL小说、GL小说、合租情缘、娱乐明星、谍战特工、爱情婚姻、乡土小说、国术武技、总裁虐恋、官场沉浮、商场职场
言情:冒险推理、纯爱唯美、品味人生、爱在职场、菁菁校园、浪漫言情、千千心结、古代言情、宫廷争斗、女尊王
历史:架空历史、历史传记、穿越古代、外国历史
军事:战争幻想、特种军旅、现代战争、穿越战争、谍战特工、抗战烽火、军旅生涯
游戏:全息网游、游戏生涯、电子竞技、游戏异界
体育:弈林生涯、篮球运动、足球运动、网球运动、体育赛事
灵异:推理侦探、恐怖惊悚、灵异神怪、悬疑探险、风水秘术
同人:小说同人、动漫同人、影视同人、武侠同人、游戏同人
耽美:BL小说、同性之爱、同志文学
二次元:原生幻想、青春日常、变身入替、搞笑吐槽、衍生同人

「インターネット小説は、大きく以下のジャンルに分けられる」として、玄幻・武侠・仙侠・奇幻(ファンタジー)・科幻(SF)・現代・恋愛・歴史・ミリタリー・ゲーム・スポーツ・怪異・同人・耽美・二次元などといったジャンルが挙げられています。

「玄幻」というのは、中国神話的な要素を取り入れたファンタジーの総称で、韓国で言うところの「フュージョンファンタジー」に近いものでしょう。

武侠」は日本でもそこそこ知られたジャンルですが、めちゃくちゃ大雑把に言えば、超人的な中国武術家たちを描いた歴史ファンタジーのことです。「仙侠」はそれの仙人バージョンで、西遊記とか封神演義みたいな作品をイメージすればいいんじゃないでしょうか。「この二つは玄幻の延長線上のものとして捉えられているが、別の一ジャンルとして見てもよい(这两种是玄幻的延伸,也可以另当一种)」といった注釈がされていますね。

とはいえ武侠も仙侠も、決して新しいジャンルというわけではなく、直接的な起源としては民国期(1920年代〜)、その原型となる作品まで含めると清代とか明代とかにまで遡るものなので、どちらかというと伝統的な武侠ものや仙侠ものにファンタジーやSFの要素を取り入れて現代的にアレンジしたものが「玄幻」である、と言えそうです。

あと「奇幻=ファンタジー」「科幻=SF」というのも基本として押さえておきましょう。

というわけで、次は「玄幻」について見ていきます。

玄幻小説

玄幻小说_百度百科

定義

玄幻小説という言葉は、香港の作家・黄易によって作られたもので、もともとは「玄学に基づいたファンタジー小説」という意味だったと、一般的には考えられている。

黄易の言う玄学とは、儒教道教を融合した哲学思想である魏晋玄学のことではなく、近代中国思想史における「科玄論戦」における、科学とは対極のものとしての玄学のことである。 黄易の作品の文脈では、それは超物理的なもの、あるいは超経験的なものであり、見るからに奥深く難解で、理解も接近も困難であるが、本質的には存在論的な「道」の性質を持ち、全体性と根源性を持つものである。

1990年代後半にネット文学が勃興し、インターネット上で公開される小説が増えたが、その中に剣と魔法の冒険を描いた作品があり、それらはいったん「RPG小説」として分類された。 しかし、ジャンルの拡大と多様化に伴い、これらの小説を分類するために「玄幻小説」という言葉が使われるようになり、ネット社会の中で瞬く間に普及していった。

2000年以降、ジャンルの定義は緩やかで曖昧なものとなり、従来のSF・武侠・ホラーといったカテゴリーに明確に分類されないファンタジー小説が何でも玄幻小説に分類されるようになったため、黄易の本来のビジョンからは明らかに外れた定義になった。

玄幻小説の正確な定義は、「玄学に基づき、形而上学的な概念的思考に主導された、超自然的な力を解釈するための小説のジャンル」である。

以前は「玄幻」と「fantasy」を同一視することが多かったが、厳密には「玄幻」と「奇幻」は別物とされ、海外版の「起点」(訳注:中国のWeb小説サービス)では「Xuanhuan」と英訳されている。

ファンタジー小説全般を「玄幻」と総称するのに慣れたコミュニティでは、fantasyというカテゴリーを統括して「玄幻」という言葉を使うこともあれば、特に超自然的・魔術的なものに焦点を当てた欧米的なファンタジー小説を指して「魔幻」という言葉を使うこともある。

定义

一般认为玄幻小说一词为香港作家黄易所提出,原意指“建立在玄学基础上的幻想小说”。
黄易的玄学并非魏晋玄学之儒道结合的哲学之玄学,而是中国现代思想史上‘科玄论战’中与科学相对立的玄学。结合黄易作品来看,就是涉及超物理的或超经验的东西的某些事物,从外表上看是深奥晦涩难以理解和接近的,从本质上看则又具有本体论的‘道’的性质,因而具有总体性和根源性。
20世纪90年代后期网络文学兴起,在网络上发表的小说作品与日俱增,有些带有剑与魔法风格的冒险故事,曾一时被归类为RPG(角色扮演)小说。但随著故事题材的拓展与多元化,开始有人引用玄幻小说一词来为这些小说分类,并且迅速普及于网络社群之间。
到了2000年之后,由于文类定义的松散模糊,原则上凡是不能明确归类于科幻、武侠、恐怖等传统范畴的幻想小说,都可以被归于玄幻小说之类,因此其定义也明显超出了黄易初时对此用词的设想。
玄幻小说的准确定义是:以玄学为基础,以形而上的观念思维为主导,进行超自然力量演绎的一种小说题材。
过去我们常把玄幻和fantasty等同,但是,玄幻并不同于奇幻,在起点国际版里,玄幻的英文名就是“Xuanhuan”。
对于惯于以玄幻来统称幻想小说的社群而言,他们有时会以玄幻来统括fantasy的范畴,有时会以魔幻一词来指称欧美的fantasy小说,尤其是强调其偏重于超自然与魔法的特色。

「玄学」について何やら小難しい説明がされていますが、要するに「形而上学」のことです。

形而上学の「形而上」とは元来、『易経』繋辞上伝にある「形而上者謂之道 形而下者謂之器」という記述の用語であったが、明治時代に井上哲次郎がmetaphysicsの訳語として使用し広まった。中国ではもとmetaphysicsの訳語に翻訳家の厳復による「玄学」を当てることが主流であったが、日本から逆輸入される形で「形而上学」が用いられるようになった。

形而上学 - Wikipedia

「科玄論戦」=「科学と玄学の論争」とは、「俺の人生の問題は科学じゃ解決できねえっすわ!科学じゃわからんこともあるんすわ!」「は?そういう悩みこそ科学的に分析して解決すべきなんだが?」みたいなありがちな論争らしいです。ともあれ、元の意味はどんどん脱臭されていったので、そのあたりを理解する必要はないってことみたいですね。

ただ、この黄易という人の作品が、現在の「玄幻小説」とは似ても似つかない小難しいものだったかというわけでもないようで、むしろマジで「玄幻小説」の元祖とみなされうる作家のようです。1988年に出版された黄易のデビュー作である『月魔』が最初に「玄幻小説」を名乗った作品であり、その後も武侠小説をベースにSF要素やファンタジー要素を交えた作品を執筆して、いくつもヒットを飛ばしたとか。代表作には、現代の特殊部隊員が戦国時代の秦にタイムスリップする武侠小説『尋秦記』などがあります。うーん、ラノベの歴史を語るときに田中芳樹が出てくるみたいなイメージなんですかね。ちなみに2017年に65歳で亡くなったそうです。

「玄幻」がいつから始まったかについてはさまざまな意見がある。『道徳経』をはじめとする思想書が元になっているのだろう。 ただし「玄幻小説」という言葉が黄易に由来することはよく知られている。 玄幻小説の定義についてはいまだ議論の余地がある。 SF作家の叶永烈は「科幻小説」「魔幻小説」「玄幻小説」が幻想小説の3大タイプであると述べている。 この分類方法は広く認められており、いわゆる幻想小説とは、空想的な設定をもとにして作られた一連の物語のことである。 それらの違いとして、「科幻小説」はイギリスの作家メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』を最初の傑作とし、科学をベースに構築することに重点を置いている。「魔幻小説」は、西洋の『指輪物語』や『ドラゴンランス』に代表される、神話をベースにしたものである。

そして「玄幻小説」は、中国大陸で興ったブームであり、それはファンタジーの上に作られ、「魔幻小説」のさらに先を行き、さらに自由で、科学的な束縛を受けず、幻想を発揮する余地がさらに多く、黄易は現代中国の玄幻小説の代表と見なすことができる。

玄幻起于何时,恐怕各有各的说法。《道德经》等思想典籍可能是源头。但“玄幻小说”这个名词来自于黄易,是有记载的。玄幻小说的定义,至今仍有不少争议。科幻小说家叶永烈说过,科幻小说、魔幻小说、玄幻小说是幻想小说的三大种类。这种分类方法得到较多的承认,所谓幻想小说是一种建立在假想情况下发生的一系列故事。区别在于:科幻小说注重建立在科学基础上,以英国作家玛丽·雪莱的《科学怪人》为第一部代表作;魔幻小说是建立在神话基础上的,以西方的《魔戒》、《龙枪》等为代表。
而玄幻小说是在中国大陆兴起的热潮,它建立在玄想之上,走得比魔幻小说更远,更自由,不受科学依据的束缚,有更多空间可以发挥幻想,黄易可视为中国现代玄幻小说的一个代表。

このあたり「幻想小説」「玄幻小説」「奇幻小説」「魔幻小説」がいずれも「ファンタジー」と訳されうるのでややこしいですね。まあニュアンスを汲み取っていただければ。

それと「玄幻」の近縁ジャンルとして「修真」というのもあるらしいのでその説明を見てみましょう。

修真小説

修真小说_百度百科

分類

修真小説は、インターネット上の玄幻小説の中で最大のカテゴリーである。

このジャンルは、仙侠小説・神魔志怪小説・武侠小説を組み合わせたもので、現実のネット文化や西洋古典文化が散りばめられたものもある。 しかし、それは仙侠小説と同じように中国本土の道教修練文化に基づいて発展した新しいジャンルなので、仙侠小説とは兄弟の関係だと言われている。一部の仙侠小説と修真小説は本当に区別しづらい。

修真小説は、仙侠小説に比べて修行の描写に極めて重点を置いており、分野によって様々な種類がある。 主人公は通常、道教の秘法(に似たもの)を通じて、より高いレベルの修練に到達するように描かれる。

修真小説の最大の特徴は、修練のレベルを描くことである。 ここが仙侠小説と大きく違うところである。修真小説は仙侠小説よりも空想的で神秘的なものが多く、古代の神々や三界の大災害、さらには不思議な大陸やタイムスリップ、星間戦争などの物語が描かれている。 題材はほぼ自由なので、若い人たちにも受け入れられやすいと思われる。

修真小説は、「仙侠」と「玄幻」を掛け合わせたようなものである。

代表作:『修真世界』『誅仙』

分类

修真

修真小说是网络上玄幻小说最大的一类。
修真类小说题材是从仙侠小说,神魔志怪小说以及武侠小说发展结合而来,有些夹杂着现实网络流行文化,西方古典文化。但它和仙侠小说一样依照着中国本土的道教修炼文化发展起来的新型小说体裁,所以有人说它与仙侠小说是一对亲兄弟,有些仙侠小说和修真小说真不好区分。
修真小说和仙侠小说比起来极其着重于修为境界的描写,各界划分根据不同的小说也有不同的种类。一般讲述主人公通过(类似)道教的秘法修炼到达更高的境界。
修真小说的最大特点就是对修炼境界等级的描写。这是与仙侠小说的最大区别。修真小说往往比仙侠小说更加的虚幻玄妙,动则上古大神,三界浩劫,甚至还有奇异大陆,时空穿越,星球大战。由于题材基本不受束缚因此更容易被年轻人接受。
修真小说,是仙侠与玄幻的交集。
代表作:《修真世界》《诛仙》

「修真」は、前述のジャンル分けでは「仙侠」に分類されていたものですけど、ここでは「仙侠」との違いが強調されているし、「玄幻小説の中で最大のカテゴリー」と玄幻のサブジャンルのようにも書かれているし、「仙侠と玄幻を掛け合わせたようなもの」とも書かれていますね。まあそういう広義と狭義の入り混じった曖昧なジャンルなんでしょう。

修行に重点を置いているというのは、とにかくレベルアップして新しい魔法やスキルを覚えること自体が目的と化しているような、なろう作品との共通性を感じたりもします。ただ翻訳記事なんかを見ると、中国のこうした作品は、題材が神仙ということもあり、最終的に世界を超越した神的存在になったりして、なろう系の比じゃないくらいインフレしていくらしいですね。

とりあえず「玄幻小説」に関してはこんなところでしょうか。

「あれ、玄幻小説って異世界転生とかはしないの?」と思ったあなた。私もそう思いました。

異世界転移とか転生とかのことは中国で「穿越小説」というらしいです。というわけで見てみましょう。

穿越小説

穿越小说_百度百科

穿越小説は、「穿越時空小説」の略で、Web小説の中でも最も人気の高い題材の一つである。 基本的な要点は、主人公が何らかの理由で、もともと住んでいた年代を離れ、時空を越え、別の時代に到達すると、一連の活動を展開し、特に恋愛を軸にすることが多い。

穿越小説は「玄幻」「歴史」「恋愛」の三大ジャンルの要素を組み合わせて、一体となっている。それから反穿越という、古代から現代へタイムスリップするものもある。

穿越小说,是穿越时空小说的简称,网络小说最热门题材的一种。其基本要点是,主人公由于某种原因从其原本生活的年代离开、穿越时空,到了另一个时代,在这个时空展开了一系列的活动,情爱多为主线。
穿越小说集成了玄幻、历史、言情三大小说类别的要素,自成一体,后来还有反穿越,即从古代穿到现代。

……これ単なるタイムスリップの説明じゃね?

調べてみると、「穿越」自体は「時空間を移動すること」なので、いちおうタイムスリップ以外にも、異世界への移動・平行世界への移動なんかを「穿越」と呼んでもいいみたいです。実際、「穿越 异界」とかで検索してみると「異世界に穿越する」というような用法が出てきます。ただし、「穿越小説」の中心というか、圧倒的にメジャーなのはタイムスリップもののようですね。

発展史

1. 源流を探る

世界初のクロスオーバー小説は、マーク・トウェインの『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』だと一般には言われている。 以下では、現代中国の穿越小説の急速な発展について主に説明する。

2. 80年代・90年代――誕生と萌芽

中国の現代小説では、李碧華の『秦俑』が最初の穿越小説で、1989年に程小東監督、張芸謀・鞏俐主演で『古今大戦秦俑情』として映画化され、タイムトラベル・ファンタジー映画の元祖と言われている。2010年にはテレビドラマとして『古今大戦秦俑情』がリメイクされ、本土の杜淳が台湾の安以軒と手を携えて主演した。

もう一つ、画期的なタイムトラベル作品として、台湾の席絹のデビュー作『交錯時光的愛恋』がある。 『交錯時光的愛恋』は1993年11月に出版され、2012年には『錯点鴛鴦』としてテレビドラマ化、趙麗穎・戚跡・韓棟が出演した(このテレビ放映版では、タイムスリップの設定は削除され、完全に時代劇となった)。

もうひとつは、黄易の『尋秦記』です。『尋秦記』は1996年10月に出版され、その後にテレビドラマ化された。 穿越小説とはいえ、『尋秦記』のプロット構造は、その後のクロスオーバー作品よりも武侠小説に近く、黄易自身も武侠小説家である。

发展史

1、探源

一般认为,世界上第一部穿越小说是马克·吐温的《康州美国佬在亚瑟王朝》。下面主要说中国现当代穿越小说的高速发展:

2、80/90年代——诞生萌芽

中国现当代第一部穿越小说是李碧华的《秦俑》。1989年被改编为电影《古今大战秦俑情》,程小东导演,张艺谋、巩俐主演,可谓是穿越时空玄幻片的开山鼻祖。2010年新版电视剧《古今大战秦俑情》再现,由内地杜淳携手台湾安以轩主演。
另一部划时代的穿越作品是台湾席绢的处女作《交错时光的爱恋》。《交错时光的爱恋》1993年11月出版,后来被改编成电视剧《错点鸳鸯》,2012年首播,由赵丽颖、戚迹、韩栋等人主演。(此版改编的电视剧删除了穿越背景,完全是古装题材。)
还有一部是黄易的《寻秦记》。《寻秦记》1996年10月出版,后被拍成电视剧。《寻秦记》虽是穿越题材,但与之后的穿越小说相比,其情节结构更接近武侠小说,黄易本身就是一个武侠小说家。

中国でもこういう話題のときに『アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』が挙げられるんだ…。

あと、前述した黄易の『尋秦記』も挙げられてますね。

3. 2000年代――変革と発展

『交錯時光的愛恋』『尋秦記』以降、穿越小説は燎原の火のように発展し、2000年以降、徐々に文学現象として、特に女性を中心に発展していった。

穿越小説は次第に女性の恋愛小説のサブジャンルとなり、出版市場では男性向け穿越小説と女性向け穿越小説とでは比べものにならなくなった。その理由として、「男性向け穿越小説は受け入れられにくい。男性は一般的に理性的な消費をするのに対し、女性はより感情的な消費をする。だから穿越小説は玄幻では人気がないが、ラブロマンスでは人気がある」と出版人の沈浩波は分析した。

この点については、2つの重要な年がある。

2006年、金子の『夢回大清』がメアリー・スー的な作風で、穿越小説の発展を一段と押し上げた。それ以来、清朝へのタイムスリップは穿越小説の一大ジャンルとなり、無数の作家がこの作風を踏襲しはじめて、「清穿」という専用語が生まれたほどだった。

2007年は穿越小説が発展を迎えた「穿越年」だった。 インターネットだけでなく、書店でも穿越小説があちこちで見受けられた。

(中略)

4. 10年代—成熟创新

2010年以降、「晋江」や「紅袖」といった女性向けWeb小説の主要サイトでは、穿越小説の発展に転機が訪れた。 作家出版社(訳注:という名前の出版社)編集室主任の劉方は、「穿越は、玄幻・歴史・盗墓というWeb小説の三つのブームの後の最新トレンドである。そして、この流れはさらに激しくなり、数え切れないほどの作品が網羅されており、穿越を知らない人は、すでに時代遅れになっている」と指摘した。

3、00年代-—变革发展

继《交错时光的爱恋》、《寻秦记》之后,穿越小说开始如火如荼地发展起来,2000年以后,慢慢演变成一种文学现象,尤其是女性文学现象。
穿越小说逐渐演变为女性言情小说下的一个分支,在出版市场上,男性穿越小说和女性穿越小说也根本没法比,其原因在于:“男性穿越小说不容易被市场接受,因为男性的消费通常比较理性。而女性相对要感性许多,所以穿越小说在玄幻上没红,在言情上却红了。” 出版人沈浩波分析说。
这其中有两个重要年份:
2006年,金子的《梦回大清》玛丽苏风格将穿越小说的发展推向一个新的高度,从此,穿越到清朝成为穿越小说的一大热点,无数作者开始跟风写作,以致有了一个专属名词:“清穿”。
2007年,穿越小说的发展迎来“穿越年”。不仅仅在网络上,书店里也到处都能见到穿越小说的身影。
(中略)

4、10年代—成熟创新

从2010年开始,晋江、红袖等女性网络文学主站的穿越小说涌现新的发展契机,作家出版社总编室主任刘方指出:“‘穿越’是继玄幻、历史、盗墓等三波网上阅读热潮后的最新网络阅读势力。而且这股风潮来势更凶,网罗的作品数不胜数,不知道‘穿越’的人已经过时了。”

沈浩波さん、誤訳でなければめちゃくちゃなこと言ってんな。

ちなみに、最後のほうにちらっと出てくる「盗墓」というのは、これも一つの人気ジャンルで、簡単に言えば墓荒らしをテーマにした、インディ・ジョーンズ的な探検小説のことです。2006年に出版されたWeb小説『鬼吹灯』からブームになったとのこと。「玄幻」「穿越」「盗墓」というのが中国Web小説の三大ジャンルっぽい感じのようです。

ともあれ、この「穿越小説」の記事では、やはりタイムスリップものの説明に終始しているようでした。

あらためて調べ直したところ、「転生もの」と似たような意味で「重生小説」と呼ばれるジャンルがありました。そちらを見てみましょう。

重生小説

重生小说_百度百科

重生小説はネット小説の人気ジャンルで、主人公が記憶を保存して数年前に戻り、もういちど自分の人生を生き直すさまを描く小説である。重生小説は、主人公が生まれ変わる時点によって、「都市重生」「歴史重生」「異界重生」に分けられる。

重生小说是网络小说中的一种热门题材,描写主人公保存记忆回到若干年前重新过一遍自己的人生的小说。根据小说主人公重生的不同历史时间点,重生小说可分为:都市重生、历史重生、异界重生。

これは異世界転生に限らず、いわゆる「逆行もの」「憑依もの」なんかも含めるようです。本当に広い意味での「転生」ですね。

都市重生

都市重生とは、現代に生まれた主人公が過去に戻り、未来の記憶を使って人生を再計画し、過去の後悔を改変するというもの。 重生小説の中で最も大きな割合を占めるジャンルで、政治、オンラインゲーム、ビジネス、娯楽、恋愛、スポーツなどを題材としている。 例:『重生伝奇』『一夢十二年』『隠殺』。

歴史重生

歴史重生とは、主人公が現実の(あるいは架空の)古代〜近代に生まれ変わる小説のことである。 これらの小説は、都市重生に比べると人気がなく、少女向けの作品が主となっている。 例:『謀嫡透色』『卿本風流』『生于望族』『重生之薬香』。

異界重生

異界重生とは、現実とは異なる不思議な世界に生まれ変わった主人公が、歴史の記憶や主人公の生来の長所を活かして世界を支配していくものなどで、そのテーマの多くは「奇幻」や「仙侠」である。 例:『三生三世菩提樹下』『九州・神女赋』『大周皇族』『傲世九重天』『異世邪君』『斬仙』『無上神巫』『重生之風流修真』『重生在三国』。

都市重生

都市重生是主人公在现代重生回到自己的过去,利用对未来的记忆,重新规划自己的人生、改变过去的遗憾。这类小说在重生小说中占的比例最大,涉及的题材有官场、网游、商业、娱乐、言情、竞技等等。例如:重生传奇、一梦十二年、隐杀。

历史重生

历史重生是主人公在现实(或虚构)的古近代中重生回到自己的过去。这类小说相对于都市重生较冷门,而且以女生小说为主。例如:谋嫡诱色、卿本风流、生于望族、重生之药香。

异界重生

异界重生是主人公在不同于现实的奇异世界中重生,利用对历史的记忆或是主角先天的优势等称霸天下,涉及的题材多为奇幻仙侠。例如:伊雪枫叶的三生三世菩提树下、九州·神女赋、大周皇族、傲世九重天、异世邪君、斩仙、无上神巫、重生之风流修真、重生在三国。

お忘れかもしれませんが、この記事の出発点は「異世界転生とかを先にやりはじめたのはどの国なの?」なので、この「歴史重生」や「異界重生」の例として挙げられている作品の開始年を調べてみたいと思います。

調べてみました。いずれも2010年よりは遡らない感じですね。もちろん、ここに挙がっていない作品でもっと古いものがあるかもしれませんが、少なくとも「明らかに中国が先行していた」という感じではなさそうです。また「都市重生」が「重生小説の中で最も大きな割合を占めるジャンル」とされるあたりからも、異世界転生は本当に中国ではマイナージャンルなんじゃないかという気がします。

しかも、ここまで見てきて「日本では異世界転生が流行っていて…」みたいな説明すらまったくないんですよね。何か見落としてるんでしょうか。うーん。

まとめ

ちょっと簡単に整理してみると。

1998年の痞子蔡『第一次的親密接触』が最初にブームを巻き起こしたWeb小説で、台湾発の作品だけど中国本土でも大ヒットした。そこからしばらくは青春小説が流行っていた。

次に2001年の今何在『悟空伝』が大ヒットし、青春小説から「玄幻」への流行の転換が起こった。「玄幻」とは武侠や仙侠や中国神話なんかの要素が混じったファンタジーのこと。また人気のあるWeb小説が次々に書籍化されるようになった。

その他、2006年の金子『夢回大清』が穿越小説(タイムスリップ)のブームを引き起こし、同じく2006年の天下霸唱『鬼吹灯』が盗墓小説(霊異探検)のブームを引き起こした。2000年代中盤は、いわば多様化の時期であり、またこの頃から(書籍化ではなく)大手Web小説サイトと専属契約することでプロ作家となる、という制度が広まっていった。

2009年の天蚕土豆『闘破蒼穹』のヒットなどもありWeb小説はさらに爆発的に増えていく。また電子書籍も普及していった。2010年代に入ると、テレビドラマ化・映画化などのメディアミックスが増加し、その原作の供給源としてWeb小説はますます巨大化していった。

…みたいな感じなのかな。

個人的な印象として、やはり日本よりも流行が分厚いというか、大きな流れが三つも四つも同時に走っているあたりが、中国の規模の大きさを感じさせますね。おそらく「中国ではあまり人気のないサブジャンル」くらいのものでも、日本の人気ジャンルより作品数や読者数が多かったりするんでしょう。

その一方で、「異世界転生」の人気がそれほどでもない、というのは意外でした。あくまで「主人公がめちゃくちゃ強い」とか「別の時代へ行って現代知識チート」みたいな部分的なところでは共通点があっても、全体として「日本の異世界転生ものとそっくりだ」という感じでは(少なくともこれだけ調べたかぎりでは)なさそう。これなら日本と韓国のほうが遥かに似通っている気がしますね。

あとは、これは韓国もそうでしたけど、2000年代からWeb小説がどんどん書籍化されていて、そこから連綿とブームが続いているので、Web小説まわりのインフラ(課金とか)が整っているし、「Web小説史」みたいなのもちゃんと記録されてるっていうのに感心しちゃいますね(ただWeb小説史の記録という点では韓国のほうがより詳しかった気がする)。

日本で例えると「ケータイ小説ブームが一過性に終わらず、2002年に発表されたSAOがその年に書籍化されて大ヒット、すぐに各出版社がこぞってWeb小説サービスを立ち上げ、10年前倒しでWeb小説ブームが起きた世界」が韓国や中国だという感じでしょうか。まあ日本は、それ以前から漫画やライトノベルの人気がありましたし、既存の出版社の力が強かったので、すぐさまWeb小説に飛びつかなくてもよかったというか、新しいことをやらなくてもよい環境だったんでしょうね。こういうのリープフロッグ現象とかいうんでしたっけ。

中国なんかは特に、それまで国産のコンテンツが少なかったから、その供給源としてのWeb小説の存在感が高まったという側面がありそうですし、まあ「中国のほうが進んでるんだから日本も真似しろ」みたいな話ではないですよと。

以上、中国のWeb小説事情の紹介でした。

2022年の2大競馬ラノベ――『ブービージョッキー!!』『12ハロンのチクショー道』

「競馬ラノベ」といえば何を思い浮かべますか?

と、いきなり訊かれても、多くの人はなかなか思いつかないんじゃないでしょうか。私も今は亡きノベルゼロの『駿英血統』くらいしか記憶にありません。ラノベ近縁の作品としては『風の向こうへ駆け抜けろ』や『きみはジョッキー』といった作品が挙げられるかもしれません。あるいは、なろう作品では「競馬」ならぬ「競ドラゴン」を描いたファンタジーがいくつかあったと思います。とはいえ、総じて言えば「競馬ラノベ」は珍しいと言わざるをえないでしょう。

考えてみれば不思議なことです。『ダービースタリオン』『ウイニングポスト』といったゲームは競馬ブームの一翼を担いましたし、漫画などでも『みどりのマキバオー』や『じゃじゃ馬グルーミン☆UP!』といった名作が数多くあります。なにより昨年リリースされた『ウマ娘プリティーダービー』の熱狂は記憶に新しいところでしょう。ライトノベルもいわゆるオタク文化の一員なのですから、ライトノベルでだけ「競馬もの」が受けないという道理はありません。

と、編集者も思ったのか、あるいはウマ娘人気を当て込んだだけかは知りませんが、最近になって立て続けに「競馬ラノベ」が発売されました。やったぜ。その作品、『ブービージョッキー!!』と『12ハロンのチクショー道』が、どちらもとっても面白かったので紹介していきたいと思います。よろしくお願いします。

ブービージョッキー!!

端的に言いましょう。この作品は競馬版『りゅうおうのおしごと!』です。綿密な取材。熱いストーリー。お色気描写。下ネタ。若くして頂点を極めた主人公がその反動でスランプに陥っているところにヒロインが転がり込んでくる……なんて序盤の展開も『りゅうおう』そのまんまです。ヒロインが「ママみに溢れた年上美少女」というところは違うけどな。

しかし、もちろん『りゅうおう』の劣化コピーというわけではありません。

この作品はGA文庫の新人賞受賞作品ですが、作者は既にデビュー済みの方で、他レーベルでいくつか作品を書いておられます。そんな彼がプロデビューした2018年の桜花賞、そこで一頭の名牝と出会ったといいます。のちの9冠牝馬アーモンドアイ。彼女に惚れ込んだ作家は、そこから二年のあいだ取材に励み、その引退レースとなった伝説のジャパンカップの翌日に原稿を新人賞に送ったのです。

結果として『ブービージョッキー』は、プロ作家としての確かな技量と、競馬に対する瑞々しい初期衝動を併せ持った「サラブレッド讃歌」となっています。作品としては完成度の高いザ・エンタメですが、端々からサラブレッドという生き物の美しさに魅せられた作家の想いが伝わってくるのです。設定や展開だけでなく、作品の「面白さ」も含めて、これは本当に『りゅうおう』に匹敵する傑作だと言っていいでしょう。

12ハロンのチクショー道

こちらは一言でいうと「競馬好きの男がサラブレッドに転生する」という話。いわゆる「現代転生もの」なんですが、それを「転生後のサラブレッド」の視点ではなく、彼を取り巻く馬主、厩務員、調教師、騎手、実況アナウンサー、はたまた2ちゃんねる競馬板住人……といった人々の視点から群像劇的に描いているのがすごく面白いんですよね。

もとが「小説家になろう」の投稿作品だということもあって、実に趣味的で、いかにも競馬ファンが書いた作品という感じなんですよ。レースシーンなんか架空実況だけでまるまる表現していたりする。2chの書き込みも再現度が高い。馬券だとか、実況だとか、ネットの書き込みだとか、そういうものも含めて競馬なんだという、競馬界の広がりを感じさせる作品になっています。そして、もちろんロマンも忘れていない。

いや、主人公となる馬が、オルフェとゴルシを足して割ったような架空三冠馬の仔で、母父はアイネスフウジンで、母母父はトウカイテイオーで、佐賀競馬から中央に移籍してきて、GIを大逃げで勝つ尾花栗毛なんですよ。これはロマンでしょう。現実にいたら絶対に人気が出るよなあ。「サタンマルッコ」と名付けられた、人間のように・・・・・・賢くて人懐こい「怪馬」の一代記とでも言うべき作品。間違いなく傑作なんですよ。

というわけで

こうしてみるとなかなか対照的な背景を持っているようで興味深いですよね。「ウマ娘はプレイしてるけど競馬はあんまり詳しくない…」みたいな人は、『ブービージョッキー』→『チクショー道』という順番で読んでみるのがいいのではないかなあと思います。競馬好きの人も、競馬ラノベの勃興を願って両方とも買ってください。お願いします。

【結果発表】マニアック・ライトノベル・オブ・ザ・イヤー2021

レギュレーション

・「2021年内に読んだライトノベル」の中で面白かった10作品に投票してください。発売日や購入日は関係なく「読了日」を基準とします。
・「重複なし」で「10作品」必須です。
・「シリーズ名」で投票してください。
・ただし「スピンオフ」は別シリーズとみなします。たとえばSAO本編に対する「プログレッシブ」や「オルタナティブ」など。
・あなたがそうだと思うものがライトノベルであり他人の同意は必要ありません。

今回の投票者は21人、すなわち全体では210票でした。少ねえ。

それでは投票結果です。

4票

『キミの青春、私のキスはいらないの?』
『公務員、中田忍の悪徳』

3票

『嘘と詐欺と異能学園』
『楽園ノイズ』
『祈る神の名を知らず、願う心の形も見えず、それでも月は夜空に昇る。』
『僕が答える君の謎解き
『魔王2099』

2票

『エリスの聖杯』
『ここでは猫の言葉で話せ』
『サイレント・ウィッチ』
『シャークロアシリーズ』
『ストライクフォール
『スパイ教室
ミモザの告白
りゅうおうのおしごと!
『わたし、二番目の彼女でいいから。
『王様のプロポーズ
『経験済みなキミと、経験ゼロなオレが、お付き合いする話。』
『今はまだ「幼馴染の妹」ですけど。』
『佐々木とピーちゃん』
『絶対にデレてはいけないツンデレ
『董白伝』
『亡びの国の征服者』
葉隠桜は嘆かない』
『霊能探偵・藤咲藤花は人の惨劇を嗤わない』
筺底のエルピス

1票
『《このラブコメがすごい!!》堂々の三位!』『3分間のボーイ・ミーツ・ガール』『Ghost ぼくの初恋が消えるまで』『VS!!』『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』『Y田A子に世界は難しい』『アンデッドガール・マーダーファルス』『いでおろーぐ!』『イリヤの空、UFOの夏』『インフルエンス・インシデント』『エゴに捧げるトリック』『オーク英雄物語』『オタク同僚と偽装結婚した結果、毎日がメッチャ楽しいんだけど!』『カレとカノジョと召喚魔法』『ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン』『きみは本当に僕の天使なのか』『クズだけど異能バトルで覇権狙ってみた』『クロス・コネクト』『クロバンス戦記 ブラッディ・ビスカラ』『ゲーマーズ!』『サキュバスニート』『シャドウテイカー』『スカートのなかのひみつ。』『ダークエルフの森となれ』『タクティカル・ジャッジメント』『ただ制服を着てるだけ』『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』『ティアムーン帝国物語』『とある飛空士への夜想曲』『どうでもいい 世界なんて -クオリディア・コード-』『ニンジャと司教の再出発!』『パパ活JKの弱みを握ったので、犬の散歩をお願いしてみた。』『ハル遠カラジ』『ブサメンガチファイター』『フシノカミ』『ふつつかな悪女ではございますが』『プリンセス・ギャンビット』『ブレイドスキル・オンライン』『フレイム王国興亡記』『プロペラオペラ』『ぼくたちのリメイク』『マグダラで眠れ』『ミスマルカ興国物語』『ムシウタ』『むすぶと本。』『やせいのいしおの!』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』『ようこそ実力至上主義の教室へ』『ラ・のべつまくなし』『レイの世界』『レオ・アッティール伝』『ロクでなし魔術講師と禁忌教典』『ロストマンの弾丸』『ロミオの災難』『わたしが恋人になれるわけないじゃん、ムリムリ!(※ムリじゃなかった!?)』『悪役令嬢、ブラコンにジョブチェンジします』『悪役令嬢の中の人』『椅子職人ヴィクトール&杏の怪奇録』『異修羅』『異世界とわたし、どっちが好きなの?』『異世界迷宮の最深部を目指そう』『育ちざかりの教え子がやけにエモい』『雨の日のアイリス』『黄金の鹿の闘騎士』『俺にはこの暗がりが心地よかった』『俺は知らないうちに学校一の美少女を口説いていたらしい』『我が驍勇にふるえよ天地』『外れスキル【地図化】を手にした少年は最強パーティーとダンジョンに挑む』『楽園殺し』『貴サークルは“救世主”に配置されました』『疑似人間メルティア』『義妹生活』『丘ルトロジック』『吸血鬼は目を閉じ、十字を切った』『虚構推理』『金星特急』『空よりも遠く、のびやかに』『空色パンデミック』『君は僕の後悔』『継母の連れ子が元カノだった』『月とライカと吸血姫』『月光』『元カノが転校してきて気まずい小暮理知の、罠と恋。』『元世界最強な公務員』『現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変』『五人一役でも君が好き』『後宮の百花輪』『護衛のメソッド』『公園で高校生達が遊ぶだけ』『康太の異世界ご飯』『才女のお世話』『四人制姉妹百合物帳』『死んでも推します!!』『私のほうが先に好きだったので。』『私立!三十三間堂学院』『七つの魔剣が支配する』『住めば都のコスモス荘』『春夏秋冬代行者』『女王の化粧師』『女同士とかありえないでしょと言い張る女の子を、百日間で徹底的に落とす百合のお話』『蒸気と錬金』『神様のメモ帳』『神様は少々私に手厳しい』『推しが俺を好きかもしれない』『星詠みの魔法使い』『生徒会の一存』『声優ラジオのウラオモテ』『西野』『青春ブタ野郎シリーズ』『青春失格男と、ビタースイートキャット。』『双血の墓碑銘』『蒼と壊羽の楽園少女』『蒼海ガールズ!』『第四大戦』『探偵くんと鋭い山田さん』『探偵は御簾の中』『男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!)』『超世界転生エグゾドライブ』『転生!太宰治』『転生従者の悪政改革録』『伝説の勇者の伝説』『田中』『豚のレバーは加熱しろ』『薄幸な公爵令嬢(病弱)に、残りの人生を託されまして』『叛逆のドレッドノート』『美少年シリーズ』『髭と猫耳』『“文学少女”シリーズ』『変人のサラダボウル』『編集長殺し』『母親がエロラノベ大賞受賞して人生詰んだ』『放課後の宇宙ラテ』『僕の軍師は、スカートが短すぎる』『僕は天国に行けない』『僕は友達が少ない』『魔王の俺が奴隷のエルフを嫁にしたんだが、どう愛でればいい?』『魔法少女ダービー』『夢の国から目覚めても』『無職転生』『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』『野崎まど劇場』『幽霊たちの不在証明』『傭兵と小説家』『葉桜が来た夏』『理想の聖女? 残念、偽聖女でした!』『龍鎖のオリ』『麗しのシャーロットに捧ぐ』『煉獄姫』『貘』

「好きラノ 2021年下期」投票


『ストライクフォール』長谷敏司

久々の新刊だけどやっぱり素晴らしいっすね。至福。こんなん、フィクションのなかで架空のスポーツを作って、それにおける主流の戦術Aと、そのAを打ち破る破壊的新戦術Bと、そのBすら時代遅れにする革命的新戦術Cを、きっちりシミュレートして描いて、もうそれだけで面白すぎるじゃないですか。今回はますます「スポーツ」と「戦争」という対比が強調されて、そのために背景の政治描写とかもガチガチにやって、軍人も登場して、強化人間みたいなのまで出てきて、でも「スポーツは戦争を超える」という壮大な最終目的が明示されて、物語としてはスケールアップしつつも整理された感じだったな。

【21下ラノベ投票/9784094530254】

『オーク英雄物語』理不尽な孫の手

面白すぎるなあ。今回はドワーフの国で武闘大会に出る話。設定こそパロディ的な作品ではあるけれど、もっと時代劇めいたプリミティブな面白さがあるよな。諸国漫遊譚だし。達人がひたすら愚直に正拳突きをしてくるような強さがある。

【21下ラノベ投票/9784040741840】

『亡びの国の征服者』不手折家

学生たちで戦争見学に行ったところ、案の定のアクシデントで敵支配領域内に墜落、足を怪我したヒロインも抱えて、絶望的な脱出行がはじまる。というわけで、かなりひりついた展開が素晴らしい。なんでも卒なくこなす優秀な主人公だけど、決して無双というわけではないので、「状況はかなり厳しいけど、それでも主人公ならやってくれる…?」と疑問符がつくくらいの絶妙なハラハラドキドキ感がありますよね。展開の予想ができない。敵国側の視点がはっきりと描かれたのも初めてでしたっけ。世界観に深みを出すのが上手いなあ。図ったのか図らずもなのかクリフハンガー的な引きなので早く続きを読みたい。

【21下ラノベ投票/9784824000033】

『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』リュート

今回は銀河辺境の異種侵略戦に駆り出される話。いよいよヒロの活躍が衆目に晒されるというか歴史の表舞台に出ていくような感じで戦闘シーンたっぷり無双感マシマシとなっている。一方で勲章まわりの細かい話だとかレーション食べ比べみたいなミニエピソードを入れてディテールアップしているのもよい。もちろんヒロインごとのイチャイチャ描写も十分に入っていて申し分ない。釣った魚に餌を与えるハーレム主人公の鑑。メイさんのビジュアルマジでいいよね…。

【21下ラノベ投票/9784040742632】

『サイレント・ウィッチ』依空まつり

今回も面白かった。主人公が極端なキャラなのでいちいち反応が楽しいし、新キャラもやはりサドっけがあるので、軽くいじめられている主人公がかわいい。それでいて、主人公の友達の輪が広がっていて、温かな学園生活になっているのがいいなと。それを守るために勇気を振り絞って立ち上がる主人公の健気さもまた強調される。可愛がられすぎず、虐められすぎず、たくましく成長していってもらいたいですね。他国との関係なんかも絡んできて話が大きくなっていく雰囲気だけど、今のままのバランスで十分に楽しいのでどうなるかな、と思っている。

【21下ラノベ投票/9784040742243】

中野森高校文芸部のホームズ&ワトソン』波戸彼方

日常の謎系青春百合ミステリ。第一話のラストがすごく美しいんですよね。こんなん絶対に運命を感じちゃうし好きになっちゃうよな。「フィクションに憧れる探偵とそれに振り回される助手」の構図と思いきや、途中から唐突に助手のほうがヤバさを醸し出してくるんだけど、それも出会いの美しさに夢を見てしまったなら分かる。そりゃあフィクションのような名探偵が現実にいるんだから、さらに現実にフィクションのような美しさを求めてしまうわけですよ。探偵の責任論みたいなところにもやや踏み込んでるけど、とりあえずは若さ全開でやりたいようにやってくれ、という爽やかな気分で読んだ。面白かった。

【21下ラノベ投票/9784065261460】

『勇者刑に処す』ロケット商会

正統派に上手いな。かっこよくて、かわいくて、適度にケレン味があって、でも読みやすい。勇者と魔王というお約束タームは用いつつも、形式としては現場の兵士を主役とした泥くさい「異種侵略もの」のかたちを取る。主人公たちは言わば「死刑囚軍団」で、それぞれに異能を持つ、とんでもなく迷惑な人格破綻者ばかり、しかしどこか憎めない個性的な連中である。そしてドヤ顔が可愛い「女神」様、もとい人間に奉仕するよう造られた古代兵器であるらしいヒロイン。彼らが酷い戦場をしぶとく生き抜きつつ、しかし徐々に何かを失っていく、痛快さを感じつつも、同時に将来の破滅を予感させるような作品となっている。

【21下ラノベ投票/9784049139037】

乙女ゲームのハードモードで生きています』赤野用介

タイトルからは全く分からないだろうが、宇宙に満ちた「魔素」を用いた革新的技術によって超光速のワープ航法を実現し、星間国家を築き上げた人類が四分五裂して血みどろの戦争を繰り広げている遠未来で、その歴史が太古の乙女ゲームのストーリーに酷似していることに気付いた主人公(男)が、ゲームの知識を活かして軍人として出世していく宇宙戦記ものである。小説としてはややこなれていない印象だけど、ちゃんと設定は凝っていて、スペオペを求める気持ちに十分に応えてくれている。というか無理やり乙女ゲー転生フォーマットに押し込んだ感は否めない。でも結果的には面白かったので良し。

【21下ラノベ投票/9784065261514】

『偽典・演義』仏ょも

演義では董卓の参謀的な存在として知られる李儒、に転生した社畜が主人公で、この作品では若くして何進に仕えることになる。何進董卓を中心にして三国鼎立前の後漢朝廷を描いており、図らずも「董白伝」と微妙に被っているのだが、こちらはあちらほどぶっ飛んだ話ではなく、史実をなぞりながらも主人公がそれをちょっとずつ改変していく、オーソドックスな歴史転生ものとなっている。今回は黄巾の乱勃発から西園八校尉の成立あたりまでを扱い、外戚・宦官・名門・軍閥が生み出した泥沼の政争を悠々と泳ぎ切る李儒の活躍が描かれる。期待どおりの面白さだった。

【21下ラノベ投票/9784803015591】

『水の後宮』鳩見すた

良い。無愛想で知恵者の商家の娘が、姉の死の真相を追うために宮女として後宮に入り、いくつかの事件を解決しながら底知れぬ後宮の闇へと踏み込んでいくという、いわゆるひとつの中華後宮ミステリ。鳩見すたの描く少女を久々に堪能した。謎解きの部分では、商人的な目敏さで真相に辿り着く主人公と、証拠第一主義で地道な捜査を行う堅物の女官僚のバディものという感じ。そこにほんのりラブロマンスや、ほんわかグルメ的な要素が散りばめられている一方で、宮女たちの過酷な境遇や、後宮に渦巻く政治の恐ろしさも描かれている。重すぎず軽すぎずバランス良く仕上がっていて読みやすいなと。

【21下ラノベ投票/9784049139549】