『ストライクフォール』長谷敏司
久々の新刊だけどやっぱり素晴らしいっすね。至福。こんなん、フィクションのなかで架空のスポーツを作って、それにおける主流の戦術Aと、そのAを打ち破る破壊的新戦術Bと、そのBすら時代遅れにする革命的新戦術Cを、きっちりシミュレートして描いて、もうそれだけで面白すぎるじゃないですか。今回はますます「スポーツ」と「戦争」という対比が強調されて、そのために背景の政治描写とかもガチガチにやって、軍人も登場して、強化人間みたいなのまで出てきて、でも「スポーツは戦争を超える」という壮大な最終目的が明示されて、物語としてはスケールアップしつつも整理された感じだったな。
【21下ラノベ投票/9784094530254】
『オーク英雄物語』理不尽な孫の手
面白すぎるなあ。今回はドワーフの国で武闘大会に出る話。設定こそパロディ的な作品ではあるけれど、もっと時代劇めいたプリミティブな面白さがあるよな。諸国漫遊譚だし。達人がひたすら愚直に正拳突きをしてくるような強さがある。
【21下ラノベ投票/9784040741840】
『亡びの国の征服者』不手折家
学生たちで戦争見学に行ったところ、案の定のアクシデントで敵支配領域内に墜落、足を怪我したヒロインも抱えて、絶望的な脱出行がはじまる。というわけで、かなりひりついた展開が素晴らしい。なんでも卒なくこなす優秀な主人公だけど、決して無双というわけではないので、「状況はかなり厳しいけど、それでも主人公ならやってくれる…?」と疑問符がつくくらいの絶妙なハラハラドキドキ感がありますよね。展開の予想ができない。敵国側の視点がはっきりと描かれたのも初めてでしたっけ。世界観に深みを出すのが上手いなあ。図ったのか図らずもなのかクリフハンガー的な引きなので早く続きを読みたい。
【21下ラノベ投票/9784824000033】
『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』リュート
今回は銀河辺境の異種侵略戦に駆り出される話。いよいよヒロの活躍が衆目に晒されるというか歴史の表舞台に出ていくような感じで戦闘シーンたっぷり無双感マシマシとなっている。一方で勲章まわりの細かい話だとかレーション食べ比べみたいなミニエピソードを入れてディテールアップしているのもよい。もちろんヒロインごとのイチャイチャ描写も十分に入っていて申し分ない。釣った魚に餌を与えるハーレム主人公の鑑。メイさんのビジュアルマジでいいよね…。
【21下ラノベ投票/9784040742632】
『サイレント・ウィッチ』依空まつり
今回も面白かった。主人公が極端なキャラなのでいちいち反応が楽しいし、新キャラもやはりサドっけがあるので、軽くいじめられている主人公がかわいい。それでいて、主人公の友達の輪が広がっていて、温かな学園生活になっているのがいいなと。それを守るために勇気を振り絞って立ち上がる主人公の健気さもまた強調される。可愛がられすぎず、虐められすぎず、たくましく成長していってもらいたいですね。他国との関係なんかも絡んできて話が大きくなっていく雰囲気だけど、今のままのバランスで十分に楽しいのでどうなるかな、と思っている。
【21下ラノベ投票/9784040742243】
『中野森高校文芸部のホームズ&ワトソン』波戸彼方
日常の謎系青春百合ミステリ。第一話のラストがすごく美しいんですよね。こんなん絶対に運命を感じちゃうし好きになっちゃうよな。「フィクションに憧れる探偵とそれに振り回される助手」の構図と思いきや、途中から唐突に助手のほうがヤバさを醸し出してくるんだけど、それも出会いの美しさに夢を見てしまったなら分かる。そりゃあフィクションのような名探偵が現実にいるんだから、さらに現実にフィクションのような美しさを求めてしまうわけですよ。探偵の責任論みたいなところにもやや踏み込んでるけど、とりあえずは若さ全開でやりたいようにやってくれ、という爽やかな気分で読んだ。面白かった。
【21下ラノベ投票/9784065261460】
『勇者刑に処す』ロケット商会
正統派に上手いな。かっこよくて、かわいくて、適度にケレン味があって、でも読みやすい。勇者と魔王というお約束タームは用いつつも、形式としては現場の兵士を主役とした泥くさい「異種侵略もの」のかたちを取る。主人公たちは言わば「死刑囚軍団」で、それぞれに異能を持つ、とんでもなく迷惑な人格破綻者ばかり、しかしどこか憎めない個性的な連中である。そしてドヤ顔が可愛い「女神」様、もとい人間に奉仕するよう造られた古代兵器であるらしいヒロイン。彼らが酷い戦場をしぶとく生き抜きつつ、しかし徐々に何かを失っていく、痛快さを感じつつも、同時に将来の破滅を予感させるような作品となっている。
【21下ラノベ投票/9784049139037】
『乙女ゲームのハードモードで生きています』赤野用介
タイトルからは全く分からないだろうが、宇宙に満ちた「魔素」を用いた革新的技術によって超光速のワープ航法を実現し、星間国家を築き上げた人類が四分五裂して血みどろの戦争を繰り広げている遠未来で、その歴史が太古の乙女ゲームのストーリーに酷似していることに気付いた主人公(男)が、ゲームの知識を活かして軍人として出世していく宇宙戦記ものである。小説としてはややこなれていない印象だけど、ちゃんと設定は凝っていて、スペオペを求める気持ちに十分に応えてくれている。というか無理やり乙女ゲー転生フォーマットに押し込んだ感は否めない。でも結果的には面白かったので良し。
【21下ラノベ投票/9784065261514】
『偽典・演義』仏ょも
演義では董卓の参謀的な存在として知られる李儒、に転生した社畜が主人公で、この作品では若くして何進に仕えることになる。何進や董卓を中心にして三国鼎立前の後漢朝廷を描いており、図らずも「董白伝」と微妙に被っているのだが、こちらはあちらほどぶっ飛んだ話ではなく、史実をなぞりながらも主人公がそれをちょっとずつ改変していく、オーソドックスな歴史転生ものとなっている。今回は黄巾の乱勃発から西園八校尉の成立あたりまでを扱い、外戚・宦官・名門・軍閥が生み出した泥沼の政争を悠々と泳ぎ切る李儒の活躍が描かれる。期待どおりの面白さだった。
【21下ラノベ投票/9784803015591】
『水の後宮』鳩見すた
良い。無愛想で知恵者の商家の娘が、姉の死の真相を追うために宮女として後宮に入り、いくつかの事件を解決しながら底知れぬ後宮の闇へと踏み込んでいくという、いわゆるひとつの中華後宮ミステリ。鳩見すたの描く少女を久々に堪能した。謎解きの部分では、商人的な目敏さで真相に辿り着く主人公と、証拠第一主義で地道な捜査を行う堅物の女官僚のバディものという感じ。そこにほんのりラブロマンスや、ほんわかグルメ的な要素が散りばめられている一方で、宮女たちの過酷な境遇や、後宮に渦巻く政治の恐ろしさも描かれている。重すぎず軽すぎずバランス良く仕上がっていて読みやすいなと。
【21下ラノベ投票/9784049139549】