『楽園ノイズ』杉井光
自作曲を動画サイトにアップするときに女装で釣ってみたら思った以上に再生数が伸びてズルズルと女装をやめられなくなったというなかなか業の深い主人公が、それぞれに問題を抱えつつも音楽の才能に溢れる少女たちと出会い、あることをきっかけにバンドを結成して最後にライブ、というシンプルな構成。
ヘタレだけど才能があってやたらモテる主人公。音楽を彩るエモエモな文章に大量のウンチク。まさに素晴らしく濃厚で最高の杉井だ。バンドメンバーたちはどの子もクセがあって可愛いけどメインヒロインは華園先生で間違いないでしょう。ひとつだけ言うなら、最後のライブでは女装してほしかったな!
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『こわれたせかいの むこうがわ』陸道烈夏
いわゆるコージー・カタストロフみたいな感じかと思ったらばりばりに危険を冒しての国外脱出譚でしたね。統制国家の最貧困層の少女が、ふと手に入れたラジオを聴いて学問を学び、その知識を活かして商売を始め、そして出会った人造人間の少女と共に、存在するかもわからぬ他国への亡命を目指すという。
主人公の賢さと幼さ、絶望と孤独にまみれても生き抜く強さと、ひとつずつ増えていく大切なものを抱える弱さにグッときますし、そのひとつのクライマックスである主人公の手紙が届くシーンがもうほんと最高なんですよね。人物描写や世界設定がしっかりしていて地力の高さを感じます。面白かったですね。
「ひとつ海のパラスアテナ」「ヒトの時代は終わったけれど、それでもお腹は減りますか?」「こわれたせかいの むこうがわ」を三大ポスカリ百合ラノベとして崇め奉っていこう。
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『探偵くんと鋭い山田さん』玩具堂
玩具堂ひさびさの「日常の謎」ミステリ、いやあ最高だったな。探偵の息子/いじられ/人畜無害タイプな主人公、天才/気まぐれ/人懐こいタイプな双子の姉・雨恵、秀才/堅物/人見知りタイプな妹・雪音――の三人が、クラスメイトから依頼されるちょっとした謎を三人でわいわい話し合って解決する話。
「丸く収める」方向に推理が働くのでとにかく平和度が高いっすね。そして三角関係ラブコメとしても非常にレベルが高い。個人的には第一話時点で雪音さんのポテンシャルの高さを直感しましたが…姉妹で取り合ってボロボロになったぬいぐるみが示唆する主人公の未来、是非とも続きを読みたいですね!
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『継母の連れ子が元カノだった』紙城境介
継母の連れ子が元カノだった4 ファースト・キスが布告する (角川スニーカー文庫)
- 作者:紙城 境介
- 発売日: 2020/04/01
- メディア: 文庫
っかーっ、今回も最高だったな。夏休み、父方の実家に帰省するということで、連れ子である結女さんにはアウェーな場所に乗り込んでいったところ、水斗くんと仲良さげな親戚のお姉さんに遭遇…ということで、水斗くんの生い立ちというか、アイデンティティ形成の歴史を掘り下げつつ、それを結女視点で描くことで、結女自身のターニングポイントを描くことになっている。もう甘酸っぱ切な尊い描写が満載で、読んでるだけで悶え死にしてしまう。サブキャラたちの恋模様もさらっと描かれて、それがまた単体でも破壊力抜群なんだよな。竹真くん視点の短編とかも読みたいです。
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『りゅうおうのおしごと!』白鳥士郎
いや本当に面白いな。天ちゃん好きの俺が、天ちゃんカッケー!なあのシーンのことを、読み終わった瞬間は完全に忘れていたくらい。というわけで、ヒロインたちの盤外戦と、八一のタイトル挑戦と、三段リーグ決着までの話。姉弟子、鏡洲さん、椚、辛子さんの四つ巴。勝ってプロになれるのは二人。
どの組み合わせもありそうなんだよなこれ。人間性をガリガリ削り捨てて足掻きまくる奨励会員たちが描かれるのを見ると「こいつは勝つでしょ」という予定調和の匂いが消えていくというか。個人的にいちばん響いたのは意外にも(?)椚創多くんで。わざとらしいくらい悪役に振った藤井聡太パロディだと思ってたのに、最後のシーンがめちゃくちゃ心に刺さってしまった。ここまで良いキャラに化けるとは。もちろん姉弟子も本当にね、素晴らしかったですね(見開きはめがイラストにしとけ〜と思ったが)。
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『犬と勇者は飾らない』あまなっとう
- 作者:あまなっとう
- 発売日: 2020/03/24
- メディア: 文庫
異世界に召喚された勇者が現世に戻ってきて無職として世知辛い生活を送っていたところ妖魔との戦いに巻き込まれてしまうという現代ファンタジー。というかフォーマットとしては異能バトル。しかも異能の存在が世間から隠されているタイプの異能バトルだ。やったぜ。文章があまりこなれてないのと、他作品のパロディを遠慮なく突っ込んでくるあたりが好みの分かれそうなところだけど、単純明快で突き抜けたストーリーと、その裏に張り巡らせてそうな設定の数々、そして主人公周りの三角関係は実にキャッチー。まだまだ一巻だけでは世界観を出し切ってないぞ!という感じ。これは楽しく読めるなあ。
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『亡びの国の征服者』不手折家
これは面白い。何の目標もなく虚無った人生を送ってきた主人公が、異世界の裕福な牧場の息子に転生して、前世には無かった親からの愛情を受けて育ち、実家のお家騒動に巻き込まれたりしつつ、騎士学校に入るところまでを、細かな世界設定も含めてとにかくじっくり丁寧に描いていくという、このスローペース・ロングスパンっぷりはまさにWeb小説の醍醐味ですよ。なにせ一巻の段階では「亡びの国」も「征服者」も「魔王」も何を意味するのか分からんという。これは好きなタイプの転生ものですね。魔法要素がないので、いわゆる知識チート寄りなんですが、いまのところドラスティックに社会を変えていくわけでもなく。本当にまだ本題に入ってない感じがするんですが、しかし現時点で相当に面白いんですよね。将来的には戦記ものっぽくなっていくのかな。楽しみですな。
【20上ラノベ投票/9784865546477】
『ダイブ・イントゥ・ゲームズ』佐嘉二一
いろんな架空のフルダイブVRゲームを扱ったプレイ日記的な連作短編集。コンセプトは「ザ・ビデオ・ゲーム・ウィズ・ノーネーム」と「僕と彼女のゲーム戦争」を混ぜ合わせたような感じか。熱心なゲーマーであると同時に極端な非コミュの男子大学生が、海洋生物シミュレータ、ロボット操縦アクション、モンハンなどといったVRゲームを、ひたすらソロプレイで踏破していくなかで、わずかながら友達ができていくという。ひとつひとつのゲームとそのエピソードはさらっと描かれて、むしろ想像を掻き立てられるのがいいっすね。様々な料理の美味しいところだけを摘み食いするようで、とても楽しい作品でした。
【20上ラノベ投票/9784065199770】
『帝都異世界レジスタンス』遠藤浅蜊
最高に面白かったですね。『魔法少女育成計画』の作者で、DeNAによるゲーム化前提の企画らしいですが、もちろん単体で読んでもまったく問題ありません。舞台は大正、しかもエルフやオークが闊歩する日本。主人公は華族の令嬢にしてハーフエルフの少女。いきなり「刃牙」になるプロローグで笑う。
まずは女学生たちの冒険ジュブナイルといった趣きで、そこに「はむすぴあ」と呼ばれる謎のアイテムとそれにまつわる政治的陰謀、そして「異世界」でのサバイバルが加わる、といったところ。設定だけ見れば完全に「よくばりセット」なんですが、詰め込みすぎという印象がないのは作者の巧さでしょう。
いろんな異世界(?)に転移して冒険しながら、それが現実世界の謎へとつながっていく。主人公がお転婆どころではなく、グリフォンを素手でぶっ殺すような戦闘民族なので、まずそこが最高に楽しいし、その仲間たちも見るからに胡散臭い連中ばかりなのが素晴らしい。間違いなく2020年ベスト級ですね。
【20上ラノベ投票/9784299001931】
『さよならの言い方なんて知らない。』河野裕
- 作者:裕, 河野
- 発売日: 2019/12/25
- メディア: 文庫
『ウォーター&ビスケットのテーマ』が新潮文庫nexに移ったもので、とりあえず移籍前の二巻からちゃんと話が繋がっているので、こちらの一・二巻を書い直す必要はない。でもタイトルは『ウォーター&ビスケットのテーマ』のほうが断然にかっけーよな。この作品を売り切れなかった靴は猛省すべきだよ。
そしてやはり最高の能力バトル。最大のチームと二番目のチームが手を組んで最強のプレイヤーと戦う。最強の彼を追いつめてついに詰ませた状態からさらに主人公が盤面をひっくり返すまでノータイムで鬼手が指され続ける感覚。一気に読まされる。続きが楽しみ。nexでちゃんとラストまでやってくれ。
【20上ラノベ投票/9784101801780】