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悪役令嬢は「小説家になろう」において如何にして生まれたか?

悪役令嬢とは?

簡単に説明すると、

  • 異世界転生もの/異世界トリップものの一種である
  • 主人公が「乙女ゲームが現実化したような異世界」の「意地悪なライバルキャラ」に転生する
  • 原作ゲームでは「意地悪なライバルキャラ」は最後に没落して死亡したりする
  • なので原作どおりに進まないよう主人公が試行錯誤する

といったあたりが基本的な趣向である。

また隣接ジャンル的な感じで、

  • 主人公は王子様の許嫁だったのが「メインヒロイン」の登場で婚約を破棄される=婚約破棄
  • 最終的に主人公が幸せになる/婚約破棄した側は不幸になる=ざまぁ

といった要素も存在する。

この記事では「悪役令嬢もの」の原型としての「悪女もの」と「乙女ゲー転生」について考えてみたい。

「当事者が昔を振り返る」というよりは「よく知らないので改めて調べてみる」という記事なので、間違ったところがあれば遠慮なく突っ込んでもらいたい。

悪女ものとは?

通常は「悪女を主役とした物語」だが、「なろう」では「主人公が誤解から『悪女』として嫌われてしまう」といった、「嫌われ」や「勘違い系」の要素を含んだ類型のほうが多い気がする。紛らわしいので「勘違い悪女もの」とでも呼ぶべきかもしれない。ときには「聖女」によって王子様を奪われてしまい、聖女をいじめる「悪女」の濡れ衣を着せられて「婚約破棄」されてしまう…といった展開になる。

「なろう」内で最初に「悪役令嬢」という言葉を使ったのは、2012年2月12日投稿の『悪役令嬢後宮物語』であるが、この作品は乙女ゲームや転生とは無関係で、「悪人面の伯爵家とその令嬢が裏社会の帝王だとか冷酷な悪女だとか誤解されている」という勘違い悪女ものであった。この「悪人面なので周囲から誤解される」という設定は、のちの「悪役令嬢もの」でも定番となっている(まあ『エンジェル伝説』や『とらドラ!』なども考えればそもそも特異な設定ではないとも言える)。

悪役令嬢後宮物語 (アリアンローズ)

悪役令嬢後宮物語 (アリアンローズ)

  • 作者:涼風
  • 発売日: 2013/08/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

ちなみに、「なろう」以外で最初に「悪役令嬢」という言葉を使ったのは2009年発売の『悪役令嬢ヴィクトリア』であるらしいが、やはり乙女ゲームとは無関係である。どちらかというと森奈津子の『お嬢さま』シリーズ(意地悪お嬢様パロディの先駆けとも言えるライトノベル)との類似が指摘されているようだ。『悪役令嬢後宮物語』の作者がどこかで『ヴィクトリア』を見かけてその単語を用いた…という可能性もないではないが、とりあえずこの作品自体が後続に大きな影響を与えたというわけではないだろう。

悪役令嬢ヴィクトリア (ルルル文庫)

悪役令嬢ヴィクトリア (ルルル文庫)

閑話休題

他の人気作品で言うと、2013年7月25日投稿の『勘違いなさらないでっ!』などが挙げられるだろうか。こちらは逆に「主人公は悪女として振る舞っているつもりが周囲にはバレバレ」という話である。

勘違いなさらないでっ!  1 (アリアンローズ)

勘違いなさらないでっ! 1 (アリアンローズ)

  • 作者:上田 リサ
  • 発売日: 2014/07/11
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

私の知るかぎりでいちばん古いのが2010年8月31日投稿の『エルサティーナの笛吹姫』で、これは「王に嫁いだ主人公が悪女と呼ばれ、もうひとりの妃は皆から愛されていて、耐えきれなくなった主人公が宮廷から逃げ出す」という話である。前出の二作品とは違ってかなりシリアスなタイプの「勘違い悪女もの」だが、「婚約破棄」的な要素もあるのが興味深い。

女性向けの恋愛小説を扱う「ハーレクイン」では、「勘違い悪女」や「婚約破棄」といったジャンルが古くからあるらしい。

ハーレクイン人気漫画 悪女と呼ばれても 特集 | 特集 | ハーレクイン ライブラリ
遺産目当て?!誤解されたヒロイン特集 | 特集 | ハーレクイン ライブラリ
婚約破棄から始まる恋特集 | 特集 | ハーレクイン ライブラリ

私もさすがにハーレクインは詳しく語れないが、「なろう」では昔からハーレクイン的な現代ラブロマンスが地味に投稿されているので(自宅でできる趣味としてWeb小説を投稿している主婦層が多かったりするらしい)、意外に影響があるのではないかと思っている。

あるいは、ハーレクインに限らず女性向けの恋愛小説では、こうした「薄幸」「いじめ」「嫌われ」を前提としたシンデレラストーリーが普遍的に好まれるということでもあるのだろう。

乙女ゲー転生とは?

その名のとおり、乙女ゲームの世界に転生する話のことである。「悪役令嬢もの」の原型、というか悪役令嬢ものも含む大ジャンルと言うべきか。以下は「なろう」内の「乙女ゲーム」作品の年毎の投稿数である。

2009年:2作品
2010年:3作品
2011年:11作品
2012年:47作品
2013年:343作品
2014年:778作品
2015年:1,094作品
2016年:1,006作品

2012年に流行の兆しが見えはじめ、2013年から本格的流行、といったところか。

悪役令嬢ものの(「なろう」における)最大のヒット作品は、2013年7月投稿の『謙虚、堅実をモットーに生きております!』である。書籍化もされないまま一時期は累計ランキング2位まで上り詰め、この作品の人気をきっかけに悪役令嬢ものが流行したと言われている。というわけで次は『謙虚』までの「乙女ゲー転生」人気作品を並べてみよう。

初回掲載日タイトル総合評価ジャンル主人公の役柄書籍化備考
2012年2月7日ロザリアンの庭14,821pt現代ヒロインの友人
2012年7月13日結構ハードな乙女ゲーの世界31,284ptファンタジーヒロインのライバル 死亡フラグあり
2012年10月23日漆黒鴉学園25,719pt現代ヒロインの友人
2013年1月05日転生少女は自由に生きる。18,911ptファンタジー攻略対象の異母姉
2013年1月13日だから彼女はキューピッドになりたい17,954pt現代攻略対象の親友の妹
2013年3月11日乙女ゲーム世界で主人公相手にスパイをやっています16,407pt現代攻略対象の従妹
2013年6月9日ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです96,850ptファンタジーヒロインのライバル死亡フラグあり
2013年7月3日幸せな脇役17,796ptファンタジーヒロインと共に育った妹的ポジション
2013年7月21日謙虚、堅実をモットーに生きております!375,988pt現代ヒロインのライバル 乙女ゲーではなく少女漫画 / 没落フラグあり
(この表は横にスクロールできる)

まずひとつの特徴として、『謙虚』も含め「現代もの」が多いことが挙げられる。私も、この時期に「乙女ゲー転生」をいくつか読んで「現代の学園が舞台」という印象を持っていたので、数年後に「悪役令嬢もの」のブームを知ったとき、それらの大半が「ファンタジー」だったことに違和感を覚えたものだった。

実際の乙女ゲームではファンタジーと現代ものはどちらが多いのだろうか。元祖の『アンジェリーク』はファンタジーで、そのフォロワーもかなり出ていたと思うけど、2000年代に入ってからは現代もの・学園もののほうが多いイメージがある(あくまでイメージで語っています)。

まあいいや。

さらに、主人公が「脇役」志向であるという点も特徴である。ほとんどが「乙女ゲームの主人公」ではなく「主人公の友達」や「攻略キャラの家族」が主人公となっているのである。「乙女ゲームの主人公」や「召喚された聖女」の物語から、やがてパロディ的に「脇役」「悪女」の物語へとスライドしていくあたり、「二次創作」の空気を引き継いでいるような感じがする。

これは「乙女ゲー転生」に限ったことではなく、「外れスキルを引いてゲーム攻略から脱落する(が実は有用なスキルだった)」とか、「争いを嫌って辺境でのんびり暮らす(が結局争いに巻き込まれる)」といった「主役になるのを避ける」話は、「なろう」全体で人気がある。直近の流行である「追放もの」もその一種と言えるだろう。

一時は猛威を奮った「勇者召喚もの」でも、友人や兄弟が勇者に選ばれて自分は脇役に回る、というタイプの類型があった。たとえば2010年6月13日投稿の『義妹が勇者になりました。』などがある。

義妹が勇者になりました。 (アリアンローズ)

義妹が勇者になりました。 (アリアンローズ)

  • 作者:縞白
  • 発売日: 2013/07/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

こちらの記事によると、2011年2月18日投稿の『脇役の分際』や、削除済みだが2011年10月17日投稿の『ジュディハピ!』なども大きな影響を残したらしい。

脇役の分際 (フェザー文庫)

脇役の分際 (フェザー文庫)

  • 作者:猫田 蘭
  • 発売日: 2011/11/10
  • メディア: 文庫

ジュディハピ!

ジュディハピ!

『謙虚』以前から「死亡フラグを回避する」という趣向が取り入れられていたことも興味深い。特に「ヒロインのライバル」に転生して「死亡フラグを回避する」という条件を満たした作品として、『結構ハードな乙女ゲーの世界』→『ヤンデレ系乙女ゲーの世界に転生してしまったようです』→『謙虚、堅実をモットーに生きております!』という流れが見てとれる。これを「悪役令嬢」の本流と見るべきだろう。

ただし、この段階では「悪役令嬢」概念はまだエクスキューズ抜きで使えるほどではなかったのか、代わりに「やたらキャラの死亡率が高い高難易度ゲー」「ヤンデレばっかりでキャラがすぐ刺される怪作」みたいな概念が(微妙に)広まっていたりした。「実際の乙女ゲームに悪役令嬢なんて登場しない」とは言われがちだが、「キャラがよく死ぬ乙女ゲーム」はけっこう実在するらしい。

ヤンデレゲー」で「主人公に死亡ルートがある」という設定では、2011年2月3日投稿の『Dear 狂愛』がおそらく「なろう」では最古だと思われる(もちろんそれより古い作品が削除されている可能性もある)。が、やはり、この作品が始祖というわけでもないのだろう。

既に知られているとおり、いわゆる「なろうテンプレ」は(女性向けの夢小説も含む)二次創作SSの影響を強く受けているし、さらに2000年代には個人サイトでも「異世界トリップもの」が盛んに書かれており、そうした書き手が「なろう」に流れ込んでいたと思われる。ただし、そうした2000年代の動向は「検索避け」「ホームページサービスの終了」「投稿日時の不明」「歴史を語っている人が少ない」などによって、とにかく把握しづらかったりする。ぶっちゃけよくわからんのである。

「悪役令嬢」は如何にして生まれたか?

ここまで悪役令嬢の「なろう」における源流とも言うべき二つの流れを説明してみたが、いずれにしても「なろう」のなかでゼロから生み出されたわけではないことが分かる。

  • 童話に登場する「意地悪な継母」
  • 史実のマリー・アントワネット(悪女とみなされて処刑される)
  • 少女漫画などで定番の「高飛車なお嬢様」
  • ハーレクインなどにも見られる「勘違い悪女」や「婚約破棄」
  • 乙女ゲームを題材にした「二次創作小説」
  • 夢小説などで流行した「嫌われ

といった要素が間接的に、あるいは直接的に「なろう」に注ぎ込み、組み合わされて、現在の「悪役令嬢」テンプレが生まれたのであろう。

「なろう」で悪役令嬢ものを含む乙女ゲームものが急増したのが2013年頃、「悪役令嬢」という呼称が定着したのは2015年頃となる。

おまけ

つまり「悪役令嬢もの」はけっこう古くからある流行なのだが、悪役令嬢ものの一つがようやくアニメ化されて「悪役令嬢もの」というジャンルの認知が進んだのが今年なので、『謙虚』から数えてもざっと七年くらいのタイムラグがあるわけだ。書籍化→漫画化→アニメ化と経由するうちにやたら時間が経ってしまうのは「なろう」あるあるである。

これは個人的な考えなのだが、悪役令嬢ものは書籍化ではなくコミカライズから一般的な人気が出てきた感じがする。悪役令嬢ではないが女性人気の高い『薬屋のひとりごと』もそんな感じ。女性向けのなろう作品がコミカライズ経由で売れるようになった。そうして他のなろう系と比べてワンテンポ遅れたぶん、特にタイムラグが大きくなったのではないだろうか。

なろう作品はこのあたりの時系列認識が狂いがちなので気をつけたいね。