5/9に発売される新作『日和ちゃんのお願いは絶対』ですけど、端的に言うと、セカイ系の作品を目指して書きました。
— 岬鷺宮/『日和ちゃん~2』『三角の距離~6』11/10発売 (@msksgnmy) 2020年4月29日
セカイ系要素があるとかではなく、セカイ系そのものというか、その王道を。https://t.co/fpid9ccN97
去る5月9日、電撃文庫から『日和ちゃんのお願いは絶対』というライトノベルが発売されました。
この作品がにわかに注目を集めた理由のひとつに、作者から「セカイ系」との宣言がなされたことが挙げられます。
セカイ系。
もちろん、このバズワードにロクな定義がないことは知っています。
私の「セカイ系」と、作者の「セカイ系」が重なっていないのは当然ですし、どちらかの「セカイ系」が否定される謂れもありません。
それはそれとして、「これはセカイ系ではない!」とか騒いでいるほうがセカイ系論壇っぽいと思ったので、私の考えを書いておきたいと思います。
以下、作品のネタバレもありますので、セカイ系というだけで興味をそそられた方は記事を読まず、すぐに作品を購入して読んでください。
- 作者:岬 鷺宮
- 発売日: 2020/05/09
- メディア: 文庫
セカイ系の定義
最初に、こちら側の定義を明らかにするため、原典にあたりたいと思います。
●「セカイ系」のまとめ
「セカイ系」関連の記述
・ぷるにえが一人で勝手に使ってる言葉で、大した意味はない。
・エヴァっぽい(=一人語りの激しい)作品に対して、わずかな揶揄を込めつつ用いる
・これらの作品は特徴として、たかだか語り手自身の了見を「世界」という誇大な言葉で表したがる傾向があり、そこから「セカイ系」という名称になった
成長して自立するのって、要はひとりぼっちになるってことなんだよなあ。「自分探し」のセカイ系に堕したりしない本物の話力(わりょく。画力に相当する言葉)に感服ですわ。あーすごい! すごい! すごすぎです!
「セカイ系」関連の記述
まずもって「一人語り」「自分探し」といったあたりがコアイメージですよね。
第1回セカイ系大賞でも発表しようかなーと。
「セカイ系」関連の記述
1位『ほしのこえ』電線とかコンビニの看板がセカイ系。昔飯野賢治が企画してた携帯ゲーム「宇宙っTEL」を思い出しました。
2位『スパイラル 推理の絆』極度に思い込みの激しい人たちが不必要にテンパってる所がセカイ系。アイキャッチって実はエロくない?
3位は西尾維新、セカイ系ミステリ、という言葉があればその旗印に掲げられる作家。オタクが面白がれる清涼院流水がついに出たよねと。
いくつか挙げられている作品も、いまの感覚ではセカイ系とはちょっと違う。
ここでのセカイ系は、主人公の内面の語り、その幼稚とも見える心情描写を重視するものであって、「世界の危機」といった道具立てを指し示すものではありません。
しかし、「思春期の自意識」を描くというだけでは散漫にすぎ、該当する作品が多すぎるので、定義の発散を防ぐための「枠」が求められました。
そこで登場するのがいわゆる「三大セカイ系」です。
『最終兵器彼女』『ほしのこえ』『イリヤの空、UFOの夏』の三大セカイ系から、「世界の危機」「社会の省略」といった枠組みが抽出され、「思春期の自意識」と「世界の危機」を組み合わせた新たな「セカイ系」定義が生まれた、どころか、やがてその「枠組み」だけでセカイ系と見なされるようになっていきました。
このあたりまで書いてから「いちおう目を通しておかないとな」と思って前島賢『セカイ系とは何か』を読んだんですけど、だいたい似たようなことが書かれていたので満足しました。
- 作者:前島 賢
- 発売日: 2014/04/11
- メディア: 文庫
さて私としては、「思春期の自意識」と「世界の危機」とを組み合わせたものがセカイ系である、と考えつつも、あくまで「思春期の自意識」がメインディッシュであって、「世界の危機」はスパイスにすぎない、と思っています。
親への反発、大人への反抗、将来への不安、恋愛に対する視野狭窄、狭い教室が自分の世界のすべてであるような感覚、そういった思春期的な心理を思い切り強調してやるために、対比的に大げさで非現実的な世界設定を持ってくる。これが「セカイ系」ではないかと。
この定義では、セカイ系は極めて狭い範囲に限定されます。というか、ごく短期間に「セカイ系語り」が流行っただけで、作品としてのブームなんてものは存在しなかったと思っています。
- 作者:谷川 流
- 発売日: 2019/01/24
- メディア: 文庫
たとえば『ハルヒ』もセカイ系ではありません。『ハルヒ』は思春期の鬱屈を乗り越えてまだ見ぬ非日常を探しにいくアクティブオタクの物語であり、心情描写どころかペラペラと韜晦を繰り返すだけの主人公の物語であり、そこには思春期のまま悩んでいるような青臭さが決定的に欠けているのです(念の為に言うと『ハルヒ』は私の中でオールタイムベスト3には入る思い出深い作品です)。
といったところを私の側の「セカイ系」定義として、『日和ちゃんのお願いは絶対』がどういう作品かを紹介していきます。ネタバレありです。
『日和ちゃんのお願いは絶対』とセカイ系の相違
『日和ちゃん』は、「絶対にお願いを聞かせられる」という超能力を持ったヒロインと、その彼女に告白されて付き合い始めた主人公を描いた物語です。
やがて主人公は、ヒロインが「天命評議会」なる組織を密かに作り、自らの超能力を活かして世界中の問題や紛争を解決していることを知るのです。
作者によると、特に『最終兵器彼女』から影響を受けているようで、確かに朴訥な交際風景など、序盤の雰囲気はよく似ているように思います。
ただ、この能力周りの設定ってモロに『DEATH NOTE』『コードギアス』の系譜じゃないですか。
子供らしい善意によって腐った世界を変革しようとするテロリストの話なんですよ。
『デスノ』や『ギアス』をセカイ系に分類する人もいるみたいですけど、もちろん私はその考えには与しませんし、どちらかと言えば、あまり使いたくない言葉ですが「サヴァイブ系」の代表格ですよね。
ヒロインの秘密が明らかになっても、いまのところ主人公は「ヒロインを手伝いたい」と思うくらいで葛藤や苦悩というほどの感情は描かれませんし、ヒロインの周囲の大人たちはヒロインを崇拝していて、むしろ彼女の邪魔をしないように努めていたりします。つまり、どうも思春期的な要素が薄いように思えるんですよ。
そもそも、作者・岬鷺宮の作風からして、切ない恋愛を扱っていてもあまりネチっこい心理描写はせず、サラッと描いてみせるのが得意な方だと思いますし(とは言いつつも、すみません、あまり数を読んでいないので見当外れの可能性もあります)。
- 作者:岬 鷺宮
- 発売日: 2018/05/10
- メディア: 文庫
というわけで『日和ちゃん』は、「思春期の自意識」よりも「世界の危機」を描くことに寄った作品であり、しかも「世界」の描き方がセカイ系からはズレているので、セカイ系とは思えない、というのが個人的な見解となります。
最初に言ったとおり、これは作品批判ではありませんし、何かしら反論を受けても「ぼくはこう思うんだ」「きみはそう思うんだね」で終わってしまうような話でもあると思います。
ただ激しく熱いセカイ系語りは読んでみたいんですよね。
『日和ちゃん』の感想を検索してみても、「セカイ系って読んだことなかったけどこういうのがセカイ系なんだ!」とか「セカイ系の定義については明言を避けますがこの作品はセカイ系だと思います!」みたいな感想が多くて…。
いまだからこそセカイ系!について語りませんか!