『声優ラジオのウラオモテ』二月公
声優ラジオのウラオモテ #03 夕陽とやすみは突き抜けたい? (電撃文庫)
- 作者:二月 公
- 発売日: 2020/11/10
- メディア: 文庫
一巻・二巻が「プライベートで問題が発生して声優の仕事が阻害される」という「仕事を取り巻く環境」の話だったのに対して、今回は「声優の仕事でぶつかった壁をどう乗り越えるか」という「内側」の話になっていて、「お仕事小説」として飛躍的に面白くなったように感じる。
展開的に由美子が落ち込む状況が多くて、周りが敵に見えがちなんだけど、めくるちゃんが歌種やすみのこと大好きなのが一つのクッションになってる。めくる周りのエピソードはほのぼのしていて好き。厳しくも優しい先輩方の描かれ方も良い。声優・歌種やすみのサクセスストーリーとして読んでいきたいな。
【20下ラノベ投票/9784049134919】
『ネクラとヒリアが出会う時』村田天
- 作者:村田 天
- 発売日: 2020/07/17
- メディア: 文庫
これは面白かったな。女の子に囲まれて怯えている非モテマインドの残念イケメンと、クールなお嬢様だと遠巻きにされて「もっとくだらない話をしたいのに…」と思い悩むぽやぽや美少女が、互いの顔を知らないまま棚越しにお喋りするようになって惹かれ合うというラブコメ。
少女漫画を彷彿とさせる可愛らしい設定がハマっていて、恋愛経験皆無な二人がのろりのろりと距離を縮めていくのが微笑ましい一方で、ちょっとした言い回しにもギャグセンスが迸る、勢いのある会話がとても楽しい。比嘉智康を好きな人にオススメしたいなあ。
【20下ラノベ投票/9784040737331】
『やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい』芝村裕吏
- 作者:芝村 裕吏
- 発売日: 2020/09/25
- メディア: 文庫
2巻で敗れたリエメンがいよいよ立ち行かなくなり座して死ぬか否かという断末魔のような一大攻勢に打って出て、それを主人公であるお人好しのガーディが残酷なまでに一方的に打ち砕く話。今回はわりとシンプルな構成だけど、毎度の「後世から歴史家が振り返るような」書き方や、ガーディを取り巻くドタバタな人間模様の描写が巧みで、とにかく面白く読める。ますますガーディ視点が減ってその周囲の人物たちが彼を讃えあるいは畏れる様を描くのに力点が移った感もある。そうなるとこの歴史書のような書き方がさらにマッチしてくるなあと思ったり。是非とも続きを読みたいな。
【20下ラノベ投票/9784040647326】
『涼宮ハルヒの直観』谷川流
- 作者:谷川 流
- 発売日: 2020/11/25
- メディア: 文庫
「あてずっぽナンバーズ」。短編。ひたすらニヤニヤ度の高い話。ウェットなラブコメだ。「七不思議オーバータイム」。中編。ハルヒが七不思議を探そうと言い出すまえに七不思議を考える話。キョンと古泉の会話劇でほとんど漫才のようだ。部分的にミステリ的な話もある。最後の話の原型のような趣向。
「鶴屋さんの挑戦」。書き下ろしの長編。初っ端から後期クイーン問題について結構な紙幅が割かれる、作者のミステリ趣味を最大限に詰め込んだ話。鶴屋さんから送られてくる幾つかのエピソードに隠された謎を解き明かす。違和感を持つべきところで違和感を持てるような丁度いい謎解き。面白かった。
【20下ラノベ投票/9784041107928】
『亡びの国の征服者』不手折家
亡びの国の征服者 2 ~魔王は世界を征服するようです~ (オーバーラップノベルス)
- 作者:不手折家
- 発売日: 2020/09/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
この作品の面白さを説明するのはなかなか難しい気がする。何か特徴的な設定があるわけでもないオーソドックスな転生ものだ。幼児から少年、青年へと成長していくなかで、学園編が始まったり、王女さまと仲良くなったり、現代知識をもとに商売を成功させたりするのは、それこそテンプレと言っていい。
特に今巻は、学生でありながら製紙や印刷術で儲けていく展開が中心となっているが、細かな専門知識が売りというわけでもない。にもかかわらず、めちゃくちゃ面白いのは、やはり巧さなんだろうな。作品世界が手に余っていない。自家薬籠中のものにしていて「よそから借りている」という感じがしない。
ようやくタイトルの意味がおぼろげに見えてくるという程度のスローペースで、いまのところ平和で淡々とした進行をしているが、行く手はどうも不穏だし、とにかくどうなるか分からなくて面白い。続きが楽しみだ。
【20下ラノベ投票/9784865547436】
『目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい』リュート
目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい 4 (カドカワBOOKS)
- 作者:リュート
- 発売日: 2020/12/10
- メディア: 単行本
貴族令嬢送り届け編の後半ということで、艦隊戦から白兵戦まで派手なバトルが繰り広げられて非常に楽しかったな。ちょいちょい出てくる謎技術とか珍兵器とかこれぞスペオペという面白さがあるし、母船の購入を検討して、スピードがあるほうがいい、いや防御力重視だ、なんて語り合ってるのもワクワク感があって嬉しい。やはりスペオペの王道的な面白さが詰まった良作だよな。クール眼鏡アンドロイドの可愛さは宇宙一やで。
【20下ラノベ投票/9784040738932】
『オーク英雄物語』理不尽な孫の手
- 作者:理不尽な孫の手
- 発売日: 2020/07/17
- メディア: 文庫
『無職転生』の人の新作。豚顔で凶暴で他種族を犯して孕ませるタイプのオークたちから一身に尊敬を集める「オーク英雄」が実は童貞で、しかも何千年も続いた戦争が終わって平和になったためにオークたちはレイプが禁じられてしまい、正攻法で嫁探しするしかなくなったので旅に出る…という話。
「オークと女騎士」のミームをパロったキレのいい軽さと、作り込まれたファンタジーとしてのコクの深さを併せもった読み味はさすがという感じ。ボンドガール的に各巻で一人のヒロインを描いていくのかな。すごく面白いのにページ数が少なくて物足りなさすら感じたので早く続きを読みたい。
【20下ラノベ投票/9784040736655】
『王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語』森山光太郎
王立士官学校の秘密の少女 イスカンダル王国物語 (メディアワークス文庫)
- 作者:森山 光太郎
- 発売日: 2020/10/24
- メディア: 文庫
辺境の島からやってきて王都の軍事学校「黒の門」に入学する男装の少女は、曰く付きの騎士の娘であり、かつてその圧倒的な軍才により島の内乱を鎮圧したが、しかし今はトラウマによりその才能は失われている。…というわけで、本編中の大半で怯えて震えている主人公が、騎士たちの確執と陰謀渦巻く「黒の門」をいかに生き延びるか、あるいはその才能を取り戻せるのか。また故郷の「兄様」と王国の「麒麟児」という二人の英雄を中心に大陸はどうなっていくのか。優秀な人物が次々に登場して英雄譚の趣きがあり、敵もわかりやすい憎まれ役のようでいて一本筋が通っていて良い。
焦らして焦らしてどかんといく、主人公の「覚醒」は否応なく盛り上がる。キャッチーな設定で非常に楽しい作品だった。前に読んだ作品は面白いながらもデコボコしている印象だったけど、本作はバランスが取れていて期待どおりの面白さだったな。
【20下ラノベ投票/9784049134599】
『僕は天国に行けない』ヰ坂暁
- 作者:ヰ坂 暁
- 発売日: 2020/12/15
- メディア: 文庫
余命僅かな青年。カルト宗教と集団自殺。連続殺人。死後の世界はあるのか。何のために生きるのか。「死と宗教」というテーマに沿って描かれる青くさいミステリ。良いですね。何が良いってヘビースモーカー眼鏡ボク女が最高に良いですね。親友が事故死した直後に現れるヘビースモーカー眼鏡ボク女。
主人公は彼女とともに親友の死の真相を探ることになる、という話。主人公がその親友に抱く崇拝にも近い愛情とか、主人公とヘビースモーカー眼鏡ボク女の恋愛とも言えない共犯者的な関係とか、めちゃくちゃツボにハマりますね。自嘲的で、露悪的で、しかし後ろ向きな希望があって。面白かったですね。
【20下ラノベ投票/9784065219287】
『ボクは再生数、ボクは死』石川博品
- 作者:石川 博品
- 発売日: 2020/10/30
- メディア: 単行本
2033年の近未来、バ美肉おじさんがVR風俗で百合えっちしてるところから始まって此は何事ぞという感じだけど、主人公が風俗の金を稼ぐためにVR内で配信を始めて、最初は再生数4の弱小配信者から、GTAみたいな街中での殺し合い、仲間を引き連れての大戦争へと発展していくドライブ感。
現在のYouTuber/Vtuber文化をしっかり下敷きにしたディテール感と、近未来VR世界のSF的な描写力。この「あるあるw」と「ねーよw」のバランスの良さ。台詞も展開もとにかくテンポが良くて読みやすい。さすが俺たちのヒロシ。傑作でしたね。
【20下ラノベ投票/9784047363847】