最近のマイブームとして、スペオペと歴史ものがバチクソに来ているので、歴史ものをオススメする記事を書きます。(スペオペを読みたい人は『無双航路』と『一戸建て』を読みましょう)
せっかくなので舞台となる時代順にいきます
項羽と劉邦、あと田中
いわゆる楚漢戦争の時代にタイムスリップしてきた「田中」くんが、項羽でも劉邦でもなく、田儋・田栄・田横の三兄弟が治める第三勢力「斉」を舞台にその舌先三寸で活躍する話。つまり「田中(たなか)」でなく「田中(でんちゅう)」というネタ。
全体的にみるとかなり史実に沿いつつ、たとえば漫画『キングダム』でおなじみの名将・蒙恬の命を救ったりする胸熱な歴史改変もあり、またマイナー勢力視点でかなり細かいところまで描かれているので、楚漢戦争のことをぜんぜん知らない人も、けっこう知ってるよという人も楽しめると思います。
董白伝
知る人ぞ知る董卓の孫娘・董白ちゃんとなってしまった主人公が、史実のバッドエンドを回避するために奮闘することになる話。いわゆる憑依ものというやつで、かつ悪役令嬢もののエッセンスも取り入れているのが特徴。
こちらは史実なんかガンガン無視していくタイプですね。当たり前のように女体化している馬超。軽薄なノリでめちゃくちゃ残虐な呂布。一身是胆どころかまったく覇気の感じられない趙雲。武侠ものの要素もあったりして、三国志の英雄たちによる超人的なバトルが繰り広げられる、とてもハチャメチャで楽しい作品になっています。
緋色の玉座
ところ変わって中世ヨーロッパは東ローマ帝国。ベリサリウスといえばややマイナーどころですが、「中世最高の名将」とも讃えられる、東ローマ帝国の最大版図を実現した大将軍です。ところがこの人は史実でも面白くて、恐妻家で奥さんの言いなりになっていただとか、皇帝に疑われて何度も解任されてはピンチになると都合よく呼び戻されたりだとか、最後は乞食にまで落ちぶれたとかいう俗説もあり。
そんなベリサリウスを無口で生真面目な主人公とし、秘書官のプロコピオスや妻のアントニーナも大胆なアレンジをされて登場、ちょっとしたファンタジーで味付けしつつも本格的な戦記ものとなっています。
斎藤義龍に生まれ変わったので、織田信長に国譲りして長生きするのを目指します!
前世では医者だった主人公が斎藤義龍に転生する話で、危ない橋を渡ったうえに早死するのは勘弁と、斎藤道三や織田信長とは争わない未来を狙うことになります。「義龍と争った道三が敗死したことを理由に信長が美濃を攻める」という史実の流れがどうなるのか気になるところですが、とりあえず、この作品はまだ道三が「長井規秀」と名乗っていた時期からはじまります。
土岐氏と斎藤氏の関係、ひいては守護大名と家臣団の関係、あるいは朝倉氏や六角氏といった周辺大名の状況などについて、かなり細かく書かれているのが興味深いところです。医者ということもあって、主に医療系の現代知識を活用する方向になっていくのも特徴ですね。
淡海乃海
私はまだ一巻しか読めていませんが、すでに八巻まで刊行されている人気シリーズ。こちらも歴史転生もので、主人公は西近江の国人領主である「朽木元綱」(この作品では基綱)となります。近江、すなわち滋賀県というと、京都に面していて足利将軍家と関係が深く、また東日本から上洛するにはだいたい近江を通らねばならない、つまり超がつく要所なんですよね。
そんな中で、朽木基綱は弱小領主として、現代知識を武器に飛躍していくわけです。室町幕府と三好長慶の争いを中心に、四方八方の勢力と関わっていくことになるんですが、一巻時点ではまだ主人公が大名ではないので、周囲に翻弄される国人領主という、かなりミクロな視点で物語が進行していくのが面白い。これからどんどん舞台が大きくなっていくんでしょうね。
戦国昼寝姫、いざ参らぬ
非常に聡明だが極めてぐうたらな公家の娘が、三好長慶麾下の武将に嫁ぎ、夫に宥めすかされながら、男装の軍師として活躍していくという話。家臣たちからの信頼を得て、土地の揉め事を収め、そして合戦に勝利する。
やはり国同士の戦略というよりも、小さな土地での出来事を描いたもので、じつに地に足のついた物語となっています。戦国の世に「軍才豊かな女性」として生まれた主人公のさまざまな苦悩を描いた、『茉莉花官吏伝』などにも通じる女性の生き方の物語でもあるんですよね。
天下一蹴 今川氏真無用剣
『ゴブリンスレイヤー』の蝸牛くもが描く、今川氏真を主人公とした時代小説。一般的には今川氏を滅ぼした愚将として知られる氏真ですが、剣術と蹴鞠の達人という史実を活かして、本作では飄々とした剣客として描かれます。
今川がすでに滅び、織田はますます勢い盛ん。氏真は名刀「義元左文字」を信長に届けに上洛への旅路につく。供は最愛の妻、蔵春院。敵は恐るべき忍び、甲賀金烏衆。氏真と蔵春の仲睦まじさは微笑ましく、奇怪な術を操る忍者との戦いは勇ましく、まさに痛快な剣豪伝奇小説ですね。
皇妃エリザベートのしくじり人生やりなおし
ミュージカルなどさまざまな作品の題材にされるハプスブルク帝国の皇后エリザベートが主人公で、彼女が逆行して人生をやり直す話。エリザベートという人物は、非常な美貌を持ち、皇帝フランツ・ヨーゼフと愛し合って結婚をしたものの、宮廷の暮らしに馴染めず、度重なる不幸もあって気力を失い、最後には暗殺されてしまう、「悲劇の女性」とも「無能な皇后」とも取れる面白い人物なんですよね。
この作品のエリザベートはハプスブルクにまつわる不幸の種をことごとく潰してまわり、フランツ・ヨーゼフとの結婚も避けようとしますが、しかしフランツ・ヨーゼフの熱烈なアプローチを受けて…というラブストーリーとなっています。最後のあたりがやや駆け足ですけど「ありえざるハッピーエンド」を読みたい方におすすめですね。