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2010年ライトノベル個人的ベスト10

1. 『空色パンデミック3』本田誠/ファミ通文庫

空色パンデミック3 (ファミ通文庫)

空色パンデミック3 (ファミ通文庫)

「メアリーちゃんはコーヒー牛乳が好きなの?」

この作品については以前に紹介したのでそちらも。→リンク
「空想病」という設定の妙は、最新刊の短編集を読んだほうがよく分かるかもしれません。某恋愛アニメ映画のヒロインになる話。某ロボットアニメのように宇宙人と戦う話。某TPSゲームの主人公になって戦場を駆け抜ける話。どんなに突拍子もない展開でも物語に組み込める、どんなに異質な物語でも一冊の上で連続再生できる。これこそが空想病の面白さなのです。
とはいえ、個人的に最も気に入ったのは、三巻の「ショタになってお姉さんに可愛がられる」というやつです。私もメアリーちゃんの頭を撫でてあげて復讐されたいです。

2. 『丘ルトロジック 沈丁花桜のカンタータ耳目口司/角川スニーカー文庫

「この美しい世界を、人間から取り返そうじゃないか」

「飛び降りても死なない男」「空飛ぶツチノコ」「切り裂きジャック」――街で噂される都市伝説を解決するオカルト研究会、通称「丘研」。……なんて説明を聞くと、よくある退魔物を想像するかもしれません。『丘ルトロジック』はそれとは全く異質です。
丘研の部員は例外なく狂人です。キャラとか属性とかではなく狂っている。彼らは犯罪を為すことに何ら躊躇いを覚えない。彼らは「美しい世界」を取り返そうとする。誰から? 人間から。そう、『丘ルトロジック』は、人間たちに混じることのできない、人間ならざる者たちの物語なのです。
――というわけで、自意識過剰、外連味満載、本年最高の中二病ラノベでした。

3. 『フルメタル・パニック! ずっと、スタンドバイミー(上・下)』賀東招二/富士見ファンタジア文庫

「君さえいれば、武器などいらない」

『デイ・バイ・デイ』が出たあたりからだったと思うので、十年くらいかな。考えてみれば、いちばん長く買い続けている、買い続けてきた、シリーズだったかもしれません。
次々に明かされるロボットの設定に心を躍らせ、軽々と敵ASを打ち倒していくアーバレストの姿に興奮し、また短編では大いに笑わせていただきました。十年間、存分に楽しみました。ありがとうございました。

4. 『サクラダリセット3 MEMORY in CHILDREN』河野裕/角川スニーカー文庫

「泣いている人を見つけたとき、私はリセットを使います」

なんとなく食わず嫌いしていたんですが(だって見るからに優等生っぽい作品じゃないですか)今年になってようやく手を出してみて、そして後悔しました。どうしてもっと早く読まなかったのか。
能力者たちが住まう咲良田という町を舞台にした、少年少女たちの青春と成長の物語。未来予知と時間改変が入り混じる、完璧に練り上げられた複雑なプロットが、この端正な文章にかかれば、まったく抵抗なくつるんと読めてしまう。最初から最後まで、本当に美しい作品です。

5. 『ミスマルカ興国物語VII』林トモアキ/角川スニーカー文庫

ここでバッドエンドとなるのは、よくできた勇者の物語。
これがバッドエンドとなるのは、よくできた英雄の物語。

「衝撃のラストシーン」にもいろいろありますが、ストーリーを根底からひっくり返すようなラストシーンを書くことのできるラノベ作家となれば数少ないでしょう。「どんな展開になってもおかしくない」「何を仕掛けてくるか予想もできない」「だから面白い」というのは、いまをときめく平坂読や、上述の『空色パンデミック』などにも共通するところだと思います。
ミスマルカ興国物語』は、この第七巻をもって第一部完ということになりました。その「衝撃のラストシーン」を経て、シリーズは第二部へと突入していきます。いまもっともダイナミックに物語が動いている作品のひとつではないでしょうか。おすすめです。

6. 『A=宇宙少女^2×魂の速度』日野一二三/電撃文庫

A=宇宙少女2×魂の速度 (電撃文庫)

A=宇宙少女2×魂の速度 (電撃文庫)

「……それはもう恋でしょう?」

水泳選手として将来を嘱望されながら怪我により挫折した少年、水を泳ぐ能力を失った代わりに彼に与えられたのは、宇宙を泳ぐ能力だった――ってな感じで、幽体離脱/オカルトと宇宙開発/SFをかきまぜて、高校生の恋愛模様の上に、どばどばっと振りかけたような青春ストーリー。
電撃文庫からは今年、『ハロー、ジーニアス』という作品も出ているのですが、それがこちらの作品とけっこう似ているんですよね。スポーツ少年が怪我で挫折し、ヒロインに導かれて新たな道を見つけるという。でも個人的には『宇宙少女』のほうが好きです。だってヒロインのお嬢様が可愛いから! もちろん『ハロー、ジーニアス』も良作なので、二つまとめてお読みください。


7. 『小さな魔女と空飛ぶ狐』南井大介/電撃文庫

小さな魔女と空飛ぶ狐 (電撃文庫)

小さな魔女と空飛ぶ狐 (電撃文庫)

かくしてこの日、二人の天才が人類の宿痾、戦争に関与することを決め、兵器開発という不毛極まりない努力に全才能を注ぎ込むことを決めた。

第二次世界大戦あたりをモチーフにした架空世界、「小さな魔女」と呼ばれるレヴェトリア皇国の天才美少女と、「気狂い賢者」と呼ばれるヴェストニア共和国の老科学者、二人のマッドサイエンティストのあいだで起こった新兵器開発競争を、時にコミカルに、時にシリアスに描き出す。
前作『ピクシーワークス』は、美少女四人が戦闘機を修理して自衛隊と対決するという、なんというか、ちょっとニッチ向けの作品だったのですが、本作はエンターテイメントとして一段と昇華されていたと思います。名作です。

8. 『ニーナとうさぎと魔法の戦車兎月竜之介/集英社スーパーダッシュ文庫

ニーナとうさぎと魔法の戦車 (集英社スーパーダッシュ文庫)

ニーナとうさぎと魔法の戦車 (集英社スーパーダッシュ文庫)

「屋台でソーセージを売ってるおじさんも嫌いだ! 暢気に買い物をしているおばさんだって嫌いだ! 楽しそうに学校に通ってる子供には、戦車がどれだけ怖いか思い知らせてやりたい! みんな、みんな、何もかも大嫌いだ! だ い っ き ら い だ っ !」

無人で動き、人を襲うようになった魔動兵器を破壊するために、戦車に乗り込み戦う少女たちの物語。戦争というものの矛盾、降り注ぐ砲弾の冷たい現実を突きつけつつも、絶望的な状況でも明るさを忘れない少女たちの強さを描いているのがとても良いです。
ニーナという主人公は戦災孤児で、世間知らずで、ソーセージが大好きで、幼い疑問をすぐ口に出し、甘ったるい理想を持ち、しかし呑み込みきれない憎悪も抱えている、あと「ややや」って慌てるのが超かわいい、とても魅力的なキャラです。彼女がこれからどのように成長していくのか、屋台でソーセージを売ってるおじさんに謝る日は来るのか、期待しながら見守りたいと思います。


9. 『織田信奈の野望4』春日みかげ/GA文庫

ついに、現世で夫婦として結ばれることはなかったが……。
今のワシらには、娘が、おる。
ワシらが果たせなんだ天下取りの野望を、美しき夢として継いでくれた娘じゃ。
かけがえのない宝よ。

織田信長徳川家康も、柴田勝家明智光秀も、武田信玄伊達政宗も、みんなみんな美少女になってる戦国物。当然、ただ美少女化しただけではありません。意外なほどにしっかりと史実を踏まえつつも、要所では華麗に史実を逸脱してみせる、非常に「熱い」作品なのです。
いちばん感心したのは、父母の愛情を知らずに育った信奈が、長良川を生き延びた斎藤道三(男)を義父と、松永久秀(女)を義母として、家族の幸せを享受するというところでして。あの爆弾正が母性愛を振りまいてるんだぜ。神がかり的な発想だよ。作者は天才。
本格的な戦国時代好きにも、BASARAしかやってねーよって人にも、可愛い女の子が好きなだけの人にも、みんなにお勧めできる作品です。いやまじで。


10. 『STEINS;GATE-シュタインズ・ゲート- 円環連鎖のウロボロス1』海羽超史郎/富士見ドラゴンブック

「それが運命石の扉の選択か――エル・プサイ・コングルゥ

祝・海羽超史郎復活!
私は原作ゲームをやっていないのですが、その高い評価だけは聞き及んでいます。それでも、名前を変えた海羽超史郎がゲームの開発スタッフに混じってたんじゃないのか、と勘ぐりたくなるほど、これはまったく海羽超史郎の作品だとしか思えません。奇跡的なマッチングです。
いやもちろん、原作の面白さあってのこの面白さなのでしょうし、またノベライズに他ならぬ海羽超史郎を充てた担当者の勝利でもあるのでしょう。というか、これでまだ原作の魅力を完全には引き出せていないのだとしたら、原作はいったいどれほど面白いのでしょうか…PC版買うべき…?


以上です。
来年も良いライトノベルに出会えることを祈りつつ、年越しを迎えるとしましょう。


過去記事:
2009年ライトノベル個人的ベスト10 - ウィンドバード::Recreation 2009年ライトノベル個人的ベスト10 - ウィンドバード::Recreation
2008年ライトノベル個人的ベスト10 - ウィンドバード::Recreation
2007年ライトノベル個人的ベスト10 - ウィンドバード::Recreation 2007年ライトノベル個人的ベスト10 - ウィンドバード::Recreation
2006年 お気に入りライトノベル10冊 - ウィンドバード::Recreation 2006年 お気に入りライトノベル10冊 - ウィンドバード::Recreation