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「ライトノベル=漫画を小説にしたもの」論

ライトノベルの特徴は、「小説文化」と「オタク文化」の境界にあって、その両方のカルチャーに食い込んでいるというところにあります。

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そのためか、ライトノベルはしばしば「漫画を小説にしたもの」と評されることがあるわけですが、これがなかなかセンシティブな話なのです。なぜなら「漫画を小説にしたもの」はだいたいネガティブな文脈で言われてきたからです。「大人の鑑賞に堪えない作品だ」「あれは『本物の小説』とは別物だよ」といったような。

かつてラノベは「字マンガ」などと呼ばれて馬鹿にされたとも聞きますが、そうした歴史もあって「漫画を小説にしたもの」という評価には、ラノベ関係者からは強い反発があったりするわけです。

ところで、「漫画を小説にしたもの」と聞くと、どんなものを思い浮かべるでしょう。「デフォルメされたキャラクターによる喜劇的で夢想的な子供向けの作品」といったようなものを思い浮かべることが多いような気がします。これはしかし、よく考えてみればおかしな話です。

現代の漫画界においては、老若男女の幅広い読者に向けて、さまざまな作品が描かれています。「デフォルメされた夢想的な作品」は当然として、社会問題をリアリスティックに扱った作品や、中高年男女の自意識を描くような作品だってまったく珍しくありません。

おそらく日本で最も多くのクリエイターが集まり、最も多様な物語が生み出されている業界です。小説で扱うような題材はたいてい漫画でも扱っている……というより「漫画で扱われていて小説では扱われていない題材」のほうが遥かに多いでしょう。

そう考えたとき、小説文化とオタク文化の中間に座す我らがライトノベルは、オタク文化、なかでも特に豊かな漫画文化を、小説に取り込むためのムーブメント」と位置づけることが可能なのではないかと思うのです。つまり「ライトノベル=漫画を小説にしたもの」という見方を積極的に肯定できるのではないかということです。

たとえば、漫画で大ヒットしているような題材が、なぜかラノベでは扱いが少ないということがあります。ライトノベルが「漫画を小説にしたもの」という前提からすると、それはつまり「漫画を小説にする」努力が足りていない、どんどん「漫画を小説にして」いきましょうよ、ということになるわけです。

あるいは、ライトノベルを「読者層」で定義するかどうかという問題があります。「メディアワークス文庫の読者層は電撃文庫とは違うからライト文芸ラノベじゃない」みたいなやつですが、これなんて漫画に置き換えれば「ヤンジャンの読者層はジャンプとは違うから青年漫画は漫画じゃない」という話になるわけですよ。そんなおかしなこと誰も言わないでしょう。

複数の異なる読者層をまるごと抱え込んでいるからこそ、漫画業界はその豊穣さを維持できるわけで、ならばそれを目指すライトノベルが、複数の異なる読者層を抱えて何の不思議があるでしょうか。

……といったわけで、「ライトノベル=漫画を小説にしたもの」論、あらためて考えてみるとそう悪くはないな、と思っている今日この頃です。よろしくお願いします。