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いま注目度No.1のライトノベル、第11回えんため大賞優秀賞『空色パンデミック』!

第14回スニーカー大賞《大賞》を受賞した『シュガーダーク』、第21回ファンタジア大賞《大賞》を受賞した『神さまのいない日曜日』、第16回電撃小説大賞《大賞》を受賞した『幕末魔法士』などなど、激戦となっている今年のライトノベル新人王争いですが、本日はそのなかでもとびきり面白い作品を紹介したいと思います。


第11回えんため大賞優秀賞受賞作、本田誠『空色パンデミック』です。

空色パンデミック1 (ファミ通文庫)

空色パンデミック1 (ファミ通文庫)


語弊を恐れずにひとことで表せば、この作品は「洗練された『涼宮ハルヒの憂鬱』」だと言えます。あるいは「『涼宮ハルヒの憂鬱』の続きを描いた作品」とも言えるかもしれません。*1


涼宮ハルヒの憂鬱』が「世界を改変する(超)能力を持った少女に主人公が振り回される話」だとすれば、『空色パンデミック』は「世界を改変する病気を持った少女に主人公が振り回される話」です。同じ構造を持っているように見える二つの作品ですが、『空パン』と『ハルヒ』には決定的な違いがいくつかあります。『空パン』における「空想病」は、涼宮ハルヒが持つ改変能力とは違い、作中で認知されている歴とした病気である点。ヒロイン・穂高結衣は、自身が空想病患者であることを自覚しているという点。そして、主人公・仲西景が、キョンとは違ってとても素直な性格をしているという点です。


ご存知のように、『涼宮ハルヒの憂鬱』のラストでは、新しい世界を作ろうとするハルヒの願いが否定され、元のままの世界を望むキョンの願いが容れられます。それにより、ハルヒは物語の中心から弾き出され、以降、『涼宮ハルヒ』シリーズは物語的にはまったく進展しなくなってしまいます。「『涼宮ハルヒ』シリーズは『憂鬱』で完結している」と言われる所以です。


この問題を、『空パン』は軽々と越えていきます。『空色パンデミック』第1巻、新しい世界を作ろうとする敵を打ち倒し、すべてが終わったあとのラスト1行に、作品を根底から覆す「最後の一撃」が込められています。この最後の仕掛けは、なんとなく読んでいたら絶対に気付けないので、そのあたり意識して読んでみてください*2


空色パンデミック2 (ファミ通文庫)

空色パンデミック2 (ファミ通文庫)

そしてまた『空色パンデミック』第2巻は、第1巻の最後の一行から、そのままダイレクトにストーリーが展開されていくのです。しかも、「うわ、あれからこう続くのか!」という驚きが消える間もなく、それがまたさらにひっくりかえされるという凄まじいアクロバット。いったい何を信じればいいのか。どこまでが空想病に侵されているのか。足場が透明になってしまったような不安を抱きながら読み進める。確かなのは青井晴が俺の嫁だということだけ。錯綜する空想。曖昧となる現実。二重三重の仕掛けが読者を絡めとります。


さあ、この驚異的な読書体験をあなたも味わってみませんか?(…怪しい通販みたいだな)

*1:とはいえ、「ハルヒのほうがつまらない」というわけでは決してありません。個人的には、たとえ二作品が同時期に刊行されていたとしても、やはりハルヒの方が売れただろうと思っています。

*2:俺も初読では読み流してて気付かなかったので。