21世紀の『タイムリープ』になれるか? ―『サクラダリセット』のすすめ― - レスター伯の躁鬱
ええと、まずひとつ。『サクラダリセット』はタイムリープの物語ではありません。
『サクラダリセット』のヒロイン、春埼美空の能力は「リセット」、自分の記憶も含めて世界を巻き戻してしまう。一方の主人公、浅井ケイの能力は「記憶保持」、世界がリセットされてもケイの記憶だけは保持される。
つまり、二人がやっていることは「やりなおし」ですが、実質的な能力は「タイムリープ」ではなく「未来の記憶を保持する」、すなわち「未来視」なのです。『サクラダリセット』の世界にはパラレルワールドもタイムパラドックスも存在しません。
また、「未来視」という能力の存在は、ストーリーが進行するにしたがって次第に重みを増していきます。どのように「未来視」が物語に絡んでくるのか、気になる方は書店で全巻をお買い求めください。
ちなみに、『サクラダリセット』と似た設定を採用した作品に『クイックセーブ&ロード』という作品がありまして、こちらは「ロード(リセット)」よりも「セーブ」のタイミングに重きを置いた作品になっています。また「やりなおし」という点に注目すれば、時間SFの傑作として話題になった『紫色のクオリア』はまさにやりなおし物ですし、小学生から人生をやりなおす『その日彼は死なずにすむか?』という良作もあります。いずれも面白い作品でおすすめです。
閑話休題。
『サクラダリセット』の、キャラよりも文章で勝負するような作風、精神年齢の高い主人公、淡い色使いの落ち着いたイラストは、たしかに最近の流行とは少し違います。どこか懐かしい空気をまとった作品であり、リンク先の記事において盛んに「90年代」と書かれているのも、そのあたりのことを言っているのでしょう。個人的には、電撃文庫よりも『フルメタル・パニック!』や『BLACK BLOOD BROTHERS』といったあたりの富士見作品(のふいんき)に印象が近いんですけど。
ともあれ、しかし、あんまり「90年代」とか「懐かしい」とか言ってると、「おっさん好みの古臭い作品なんじゃねーの」「90年代のラノベとか知らねーし買わねー」といった判断をされないか心配になってきます。リンク先のレスター伯さんも「21世紀の」「10年代を切り開いていく」と書いておられますが、『サクラダリセット』が「懐かしさの皮を被った現代的な物語」であるということは、しっかりと主張しておきたいところですね。
面白いことに、先に挙げた三作品と『サクラダリセット』は、ほとんど同時期に刊行されていたりします。四作品が同時に90年代への回帰を目指したのでなければ、これは『サクラダリセット』のモチーフが現代的であることの証左となるのではないでしょうか。とかなんとか。

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