「最近のライトノベルはWeb小説の書籍化ばかりだ」「『小説家になろう』が青田買いの場になっている」といったことがよく言われる昨今、実際のところはどうなのかを、「新人賞経由」「スカウト」「別レーベル」「コンテスト」の四つの分類から見ていきたいと思います。
新人賞経由方式
Web小説の書籍化はあるもののあくまで「新人賞を受賞した作品がたまたまWeb小説だった」というパターン。
電撃文庫(アスキー・メディアワークス)
「ソードアート・オンライン/アクセル・ワールド」「魔法科高校の劣等生」の二大タイトルを擁する電撃文庫ですが、Web小説を直接スカウトするようなことはなく、あくまで新人賞経由で採用するという態度を崩していません。「魔法科高校」の場合はかなりややこしいですが、作者が別作品を新人賞に送って落選したものの、その作品がきっかけで「魔法科高校」が出版されたという話。
- 作者: 川原礫,abec
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2009/04/10
- メディア: 文庫
- 購入: 29人 クリック: 839回
- この商品を含むブログ (295件) を見る
- 作者: 佐島勤,石田可奈
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2011/07/08
- メディア: 文庫
- 購入: 11人 クリック: 434回
- この商品を含むブログ (117件) を見る
GA文庫(SBクリエイティブ)
新人賞受賞作の「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」がスマッシュヒット。「少年給魔師と恋する獣(乙女)」という作品も新人賞を受賞した模様(書籍化予定)。
ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか (GA文庫)
- 作者: 大森藤ノ,ヤスダスズヒト
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2013/01/16
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 50回
- この商品を含むブログ (31件) を見る
集英社スーパーダッシュ文庫
受賞作として「暗号少女が解読できない」を刊行。Twitter小説の書籍化などもあり。
- 作者: 新保静波
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/10/25
- メディア: 文庫
- クリック: 38回
- この商品を含むブログ (14件) を見る
スカウト方式
Web小説の作家に直接声をかけて引っ張ってくるパターン。
富士見ファンタジア文庫(富士見書房)
富士見書房 | WEB小説特集
今年三月に突如として参戦。電撃のように「新人賞経由」ということはなく全てスカウト。富士見書房は、前後して富士見新時代小説文庫(時代小説のレーベル)や富士見L文庫(大人向けライトノベルのレーベル)などを創刊、またプロ作家による無料Web小説サイトファンタジアBeyondを開設するなど、なんだか派手に動いております。
Only Sense Online―オンリーセンス・オンライン― (富士見ファンタジア文庫)
- 作者: アロハ座長
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/富士見書房
- 発売日: 2014/04/19
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (3件) を見る
角川スニーカー文庫(KADOKAWA)
「この素晴らしい世界に祝福を!」をスカウトして大々的に売り出していますが、それ以外だと「神様ライフ」(別レーベルでデビューしたなろう出身作家の書き下ろし作品)くらいでしょうか。
この素晴らしい世界に祝福を! あぁ、駄女神さま (角川スニーカー文庫)
- 作者: 暁なつめ,三嶋くろね
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/09/28
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (3件) を見る
HJ文庫(ホビージャパン)
「姉ちゃんは中二病」シリーズは新人賞経由。「VRMMOを金の力で無双する」はスカウト。ハイブリッドですな。
あとHJ文庫大賞 読者グランプリというサイトを作って、「なろう」から引っ張ってきた作家を蠱毒に放り込んでいる模様(この中では「ハイスクール・シークレット・サービス!」が好きですね)。
- 作者: 藤孝剛志,An2A
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2013/08/30
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (4件) を見る
- 作者: 鰤/牙,桑島黎音
- 出版社/メーカー: ホビージャパン
- 発売日: 2014/02/28
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログを見る
別レーベル方式
同じ出版社の中でWeb小説専門の別レーベルがあるので自レーベルでの書籍化がほとんど無いパターン。
MF文庫J(メディアファクトリー)
メディアファクトリーは「MFブックス」という別レーベルを立ち上げて、Web小説の書籍化は主にそちらでやっています。
ただし一作品だけ、MF文庫Jでは「Re:ゼロから始める異世界生活」をスカウトしてきて、めちゃくちゃプッシュしていますね。
- 作者: 長月達平,大塚真一郎
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/メディアファクトリー
- 発売日: 2014/01/23
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (15件) を見る
コンテンスト方式
「小説家になろう」と共同でコンテストを行ってその優秀作品を書籍化しているパターン。
このライトノベルがすごい!文庫(宝島社)
エリュシオンライトノベルコンテストに協賛しており、応募作品の中から「まのわ」を書籍化。投稿プラットフォームの中で別企業がコンテストを行うのはPixivなんかでも見られる方式ですね。
まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる (このライトノベルがすごい! 文庫)
- 作者: 紫炎,武藤此史
- 出版社/メーカー: 宝島社
- 発売日: 2014/08/09
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
オーバーラップ文庫(オーバーラップ)
オーバーラップ文庫も、小説家になろうと組んで「オーバーラップ文庫WEB小説大賞」を開催しており、そこからの書籍化を進めています。
オーバーラップ文庫|オーバーラップ文庫×小説家になろう
ちなみに「大英雄が無職で何が悪い」だけは、ライトノベル作家が自作品(「灰と幻想のグリムガル」)の外伝を「なろう」に掲載していたものの書籍化なので、これも特殊な感じ。
大英雄が無職で何が悪い 01 Soul Collector (オーバーラップ文庫)
- 作者: 十文字青,エレクトさわる
- 出版社/メーカー: オーバーラップ
- 発売日: 2014/05/22
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
その他、「小説家になろう」からの書籍化作品の一覧はこちら。→書報
という感じで見ると
「Web小説の書籍化」が意外に少ないことが分かるかと思います。積極的に乗り出しているのは富士見とオーバーラップくらいでしょうか。
「いやいやそれはおかしい、もっとたくさん書籍化されているはずだ」と思われるかもしれません。そのとおり。つまり昨今急増しているのは、既存のラノベレーベルとは異なる「Web小説専門の新レーベル」なのですね。アルファポリス(は老舗ですが)、ヒーロー文庫、MFブックス、モンスター文庫などなど。
というわけで「最近のライトノベルはWeb小説の書籍化ばかりだ」というのは少し違って、「最近のライトノベルの中にはWeb小説の書籍化ばかりのレーベルがある」と捉えておくべきでしょう。
で今後はどうなるの
ラノベ新人賞は「作家」を募集しているので、デビュー作ですら容易に打ち切られる一方で、やる気があるかぎりは、あるいは企画が通るかぎりは、次回作を出してもらえます(たぶん)。
それとは逆に、Web小説からのスカウトは「作品」を出版するというところに重きが置かれ、その作家をどう扱うかは未知数であるように思われます。「Webで大人気の小説の書籍化」が完結したあとはどうなるのか?
もちろん、それは「ほとんどの書籍化作品がまだ完結していない」という、単純に時間的な問題でもあります。書籍化作品が完結したあとは書き下ろしの新作を発表していく…という流れが定着すれば、「新人賞受賞作家」と「Web小説スカウト作家」はいずれ緩やかに合流していくのかもしれません。
あとは、そうですね、以前にも書きましたが、やっぱり今のWeb小説書籍化のポジションは「アニメやゲームのノベライズ」に近いような気がします。まとまった分量。異なるファン層。高め安定の売上。新しくライトノベルレーベルを起ち上げる際には「速筆の傭兵作家」「アニメやゲームのノベライズ」に加えて「Web小説の書籍化」が三種の神器となるのではないでしょうか。