今回の話題はこちら。
- 作者: 佐島勤,石田可奈
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2011/07/08
- メディア: 文庫
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なんと言うか、「苦手なものでも自分の目で確認するのは偉い」という称賛が散見されるけれど、地元民からすればガイドブックなしにやってきて文句ばかり言っている観光客みたいなもので、あまり気分はよろしくない。そもそも『魔法科』だけ読んで最近のラノベの傾向を理解するだなんて、『進撃の巨人』だけ読んで最近の漫画の傾向を…みたいな話だろう。まあ、自分だってそういうことをやらないこともないので、声高に非難できるわけでもないが。
しかし、「巷で流行りの俺TUEEEをちょっくら見物に」で『魔法科高校の劣等生』というのは、なかなか難しい旅行プランなのではなかろうか。Web小説自体、作者の趣味が強く現れるジャンルであるが、『魔法科』はとりわけ趣味性の高い作品である。
タイトルから勘違いされることも多いが、『魔法科』は「落ちこぼれがエリートを倒してスカッとする」というような分かりやすい話ではない。主人公は実力を隠しているわけではないし、戦闘などは淡白で、背景にある設定もかなり重い。さらに言えばスカッとするには設定解説がちょっと多すぎるだろう。
「ライトノベルのライト=読みやすい」というのは先入観にすぎない(→ライトノベルの「ライト」に大した意味はない - WINDBIRD)。商品として読みやすいよう心掛けてはいるだろう。しかしそれでもなお読みづらい(それでいて人気のある)ラノベなどいくらでもあるのだ。
『魔法科』の文章は、上手い下手の前にかなり癖が強いし、本編よりも設定解説の方が多いのではないかというくらいで、なかなか気軽に読めるものではない。それはもちろん面白さと背中合わせで、その癖の強さが人気に繋がっているのだが、「気持ちいい俺TUEEEが読みやすい形で提供されて読者はお手軽に万能感を味わえるんだろ?」みたいな気持ちで読み始めれば、そりゃ跳ね返されるだろうというものだ。
作者の思想に問題があるとは各所から指摘されていることで、それについて「どうしても気になって読めない」という人がいるのは仕方がないだろう。
まあ「近視という病」のくだりについては、現実にも「眼鏡がなければ近視は障害扱いだったろう」とはよく言われることで、つまり「治療可能な障害」ということを比喩的に表現しているだけではないかとも思うが。
さらに脱線すると、この作者は別シリーズ『ドウルマスターズ』の一巻において成形炸薬弾の描写が間違っているとのツッコミを受け、二巻で無理やり「この世界では一巻の描写が正しい」ということにしてしまったくらいなので、細かいところに突っ込むのも野暮という気はする。
閑話休題、ともかく観光気分で俺TUEEEを読みたい方々には、『魔法科』は向いていないのではないか、ということを訴えたいのである。
もちろんそれで「ラノベを読むな!」などとは言わない。現地ガイドとして「爽快な俺TUEEEを読みたいならこれ!」というのを挙げておこう。それが、前掲のまとめの最後でも紹介した『火の国、風の国物語』である。
- 作者: 師走トオル,光崎瑠衣
- 出版社/メーカー: 富士見書房
- 発売日: 2007/10
- メディア: 文庫
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一巻の発売が2007年なので…もう8年前かよ恐ろしい…今となってはやや古い作品ということになるだろう。Web小説の書籍化が流行するさらに前に刊行された、俺TUEEEの金字塔である。
主人公のアレスには、生来の剣の才能の上に、悪魔(のような存在)から与えられた人間離れした膂力があり、さらに危機の時には未来を見通したようなアドバイスまで授けられる。本人は忠義の塊のような、生真面目で融通の利かない性格であるため、悪魔の力を借りることに反発を覚えているが、しかし敬愛する王女のためならそれを振るうことを躊躇わない。という設定である。
このアレスがとにかく強い。笑ってしまうくらい強い。智将が用意した周到な策略も、天才魔術師の大魔術も、ただの力任せで打ち破ってしまう。読書中に何度、アレスのライバルたちと同じ顔をして「んな馬鹿な」と呟いたことか。
面白さは保証する。もとより商業作品として発表されただけに、実に読みやすく分かりやすく、しかも十巻程度で綺麗に完結している。
書店には既に置いていないかもしれないが、ありがたいことに電子書籍で買える。良い時代になった。布教も捗るというものだ。観光客の皆様には是非とも買っていただきたいお勧めの特産品である。