人間とともに
亜人たちも暮らす架空の大正時代を舞台に、ハーフエルフの貴族令嬢や、オークの軍人、忍者の新聞記者といった個性的な面々が、謎めいた装置を使ってさまざまな
異世界を行き来し、怪しげな陰謀と世界の謎へと迫っていくというお話。とにかく魅力的なのがハーフエルフの貴族令嬢こと主人公のエアルミアで、ただの
お転婆な女学生と思いきや、エルフの誇りを胸に日頃から鍛錬を積んでいるバイオレンスお嬢様なんですよ。モンスターを
素手で縊り殺す完全戦闘民族。超かっけえ。それでいて可愛らしい大正浪漫の雰囲気もたっぷりで、作者の力量が遺憾なく発揮されています。時代小説とファンタ
ジー、SF的な要素が見事に調和した痛快な冒険活劇。紛れもなく2020年ベストです。
2. 亡びの国の征服者
こちらの世界で死んだ主人公が、
異世界の貴族の息子に生まれ変わり、長じて騎士学校へ入学するという、実にオーソドックスな
異世界転生ものです。何か目新しいアイディアがあるわけでもなく、意外な展開が目白押しというわけでもないスローペースぶりなのですが、とにかくディ
ティールが優れていて、主人公の半生がじっくりと描かれていくだけでも滲み出るような面白さがあります。スタンダードな作りだからこそ実力が際立つと言いますか、ただ「テンプレに乗っかっている」のではなく、この作品世界を自家薬籠中のものとして「乗りこなしている」感じがするんですよね。いま
異世界転生ものをどれか一つオススメしてくれと言われたら迷いなくこの作品を選びますよ。
亡びの国の征服者~魔王は世界を征服するようです~|株式会社オーバーラップ
3. 目覚めたら最強装備と宇宙船持ちだったので、一戸建て目指して傭兵として自由に生きたい
いまいちタイトルはそそられませんが、しかしその内容は「力!」「女!」「金!」のたった三言で説明できるような王道的な
スペースオペラとなっております。ふと主人公が目覚めるとそこはゲームによく似た世界。ゲームでも愛機だったハイスペックな戦闘艦と、ゲームで培った変態的な操縦手腕を武器に、傭兵として星々を駆け回り、美女を助けてハーレムとし、夜はとっかえひっかえでベッドイン、宇宙海賊と出会ってはこれを退治し、大金を稼いではまた新たな装備を購入していくわけです。さまざまなSFガジェットが登場するのも楽しいところ。
スペオペというジャンルの魅力をこれでもかと詰め込んだ素晴らしい作品です。
4. 楽園ノイズ
この世に存在する「間違いのないもの」の一つ、
杉井光の音楽
ラノベですよ。『
さよならピアノソナタ』をセルフカバーしたようなあざとい作品なんですが、そうとわかっていても私には効いてしまうわけです。女装してアップしたオリ曲の演奏動画がバズってしまった主人公と、その弱みを握った破天荒な女教師と、それぞれにワケありの少女たちが集まってバンドを結成するという輝かしい青春なんですよ。まあエモい文章を書かせたら
杉井光の右に出る者はなかなかいないですよね。
楽園ノイズ | 特設ページ | 電撃文庫・電撃の新文芸公式サイト
5. オーク英雄物語
『
無職転生』作者の最新作。長く続いた
大戦争が終わったあとの平和な時代、女騎士とかをレイプするのが生き甲斐のオークにおいて「英雄」と呼ばれる最強のオークが実は情けなくも童貞で、その彼がこっそり童貞を捨てるべく嫁探しの旅に出るという
ヒロイック・ファンタジー。素軽く切れのいいコミカルと、きっちり作り込まれたシリアスが見事なバランスで溶け合っていて、作者がその実力を再び示した良作だと言えます。
オーク英雄物語 忖度列伝 | ファンタジア文庫
天賦の軍才を持つ少女が、さまざまな政治的事情のもと、男装して王都の騎士学校に入学することになる学園ファンタ
ジー。この主人公、過去のトラウマから現在はまったく覇気を無くしていて、戦いに怯えて気を失ってしまう
ありさま、もちろん騎士学校では周囲から馬鹿にされているのですが、そうしたフラストレーションの溜まる展開があってこそ、ここぞというところで見せる彼女の「覚醒」が大いに盛り上がるんですよね。非常にキャッチーで優れた作品だと思います。
7. ダイブ・イントゥ・ゲームズ
シビアすぎる海洋生物シミュレータ、ロボット操縦アクションでのレイドバトル、モンハンめいたVRMMORPG、
中二病ロールプレイな
対戦格闘ゲーム――コミュ障の主人公がさまざまな架空の
VRゲームをプレイしていく趣向で、いわばビュッフェ形式でいろんな料理の美味しい部分だけを摘み食いするような作品となっています。主人公に少しずつ友人ができていくのも楽しいところで、ゲームに興じる若者を描いた青春小説としても高く評価できます。
9. やがて僕は大軍師と呼ばれるらしい
限りなく優しい天才軍師の活躍を描いた戦記ファンタ
ジー。豊富な知識に裏打ちされた独自性の高い
異世界描写が面白く、また後世の歴史家が書いているというような体で「この出来事からこういうことわざが残っている」とか「今ではこう伝わっているが史実ではないと思われる」などといった「くすぐり」を入れてくるのも楽しい作品です。戦記ファンタ
ジーでは『我が驍勇にふるえよ天地』や『天才王子の赤字国家再生術』などと並んで今が旬の作品ですね。
10. 探偵くんと鋭い山田さん
2010年代の学園ミステリの傑作『
子ひつじは迷わない』の作者である
玩具堂が再び挑む「
日常の謎」。天才肌の姉と秀才タイプの妹と調整役の主人公の三人が、何かにつけて持ち込まれる相談に対して、あれこれと推理を巡らせていくお話です。いわゆるホームズとワトソンのような関係ではなく、得意分野の異なる三人で相談しあって真相を探っていくあたりが好きですね。もちろん三角関係ラ
ブコメでもあり、かつて「お気に入りのぬいぐるみを取り合ってボロボロにした」という姉妹二人の修羅場にも期待したいところです。
探偵くんと鋭い山田さん | 特設ページ | MF文庫J オフィシャルウェブサイト