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最近話題の「ラノベ天狗」ってなあに?

「最近のラノベはなぜ叩かれるのか」問題の盛り上がりに伴って、にわかに「ラノベ天狗」の存在が注目されているようです。雑な「ラノベ批判」を見つけ出しては晒し上げて殴りつける神秘の存在・ラノベ天狗。いい機会ですので、その生態について解説を試みたいと思います。

ラノベ天狗の秘密その1:個人の名前です

弓道警察」みたいな曖昧な存在ではありません。Twitterでのアカウントは @srpgloveはてなでは id:srpglove です。「シミュレーションRPGラブ」という意味ですがSRPGの話はあまりしません。

ラノベ天狗の秘密その2:花の女子中学生

ラノベ天狗は中学2年生の女の子です。本人が言っているので間違いありません。

ラノベ天狗の秘密その3:あんまりラノベを読んでいない

ラノベ読者の代弁者・代表者として捉えている方も多いようですが、天狗さんはあんまりラノベを読んでいません。ラノベクラスタとのつながりも薄いです。

ラノベ天狗の秘密その4:元ネタはヤクザ天狗

ラノベ天狗って何? ヤクザ天狗の仲間?」と冗談まじりに言っているニンジャヘッズの皆さん、実は正解です。ラノベ天狗はヤクザ天狗のもじりです。ヤクザ天狗は、小説「ニンジャスレイヤー」の登場人物で、超常的な能力を持たずにニンジャを殺して回るという狂人です。主人公のニンジャスレイヤーではなくあえてヤクザ天狗の方を名乗るあたりがポイントですね。

ラノベ天狗の秘密その5:義賊ではない

建設的な議論をしたいだとか、相手を説得したいだとか、ラノベを擁護したいだとか、そんなことを目的にしているわけではありません。ムカつく奴を黙らせたいだけ、ぶん殴りたいだけだと、普段から主張しています。

ラノベ天狗の秘密その6:彼女は仲間が少ない

「仲間たちを引き連れて周囲を威嚇している」ように見えるかもしれませんが、どちらかと言うと「パトロンたちに見守られながら単身で敵に突っ込んでいく傭兵」という印象です。たまに突っ込みすぎて周囲から窘められたりしている。

ラノベ天狗の秘密その7:わりと感情派

「雑なラノベ批判に対して冷静に反論するラノベ天狗素敵!」という意見をごく稀に見かけますが、見てわかるとおりそんなに冷静ではないし、それほど理論武装しているわけでもないです。

ラノベ天狗の秘密その8:意外に普通

はてな村内で有名な狂人たちと比べるとぜんぜん人間味があるし、気弱な一面を見せることもしばしば。誰かれ構わず噛み付く狂犬というわけでもなく、10代の若い相手は見逃してやるとか、そういうこともいちおう気にしているみたいです。

ラノベ天狗の秘密その9:ガラケーユーザー

現在のところPCを持っておらず、もっぱらガラケーからネットに接続しているそうです。ガラケーでは見れないサイトを天狗さんに送りつけるのはやめたげよう。
(2016/11/18追記)
ついにスマホに買い替えたようです。おめでとうおめでとう。

ラノベ天狗の秘密その10:ブギーポップが大好き

ブギーポップに比べれば最近のラノベはひどい…」などと、大好きなブギポをラノベ叩きの道具にされるのがいちばん嫌なようです。

ラノベ天狗の秘密その11:ブロック多用

Twitterのブロック機能を多用します。「ブロックしたうえでその相手を批判するなんて卑怯だ!」と思われる方もいるかもしれませんが、天狗さん自身は「別に相手をしてくれなくても構いませんよという意思表示」「スパム報告でもないんだから相手に実害はないはず」と述べており、深い意味はなく気軽にやっていることのようです。
(その11は2016/4/29に追記しました)


という感じで思いつくままに10個ほど挙げてみました。

さらに詳しい活動内容についてはご本人のブログなども見ていただいて。


ちなみに私のスタンスは、「あんまり攻撃的に振舞って、ラノベ読み全体が反感を買ったり、ラノベから読者が離れたりすると困るけど、殴りたいから殴るっていうのを止めるのは難しいし、雑なラノベ語りが雑なのも確かだしな、とりあえず静観しとこう」といったところです。別に嫌いなわけではないですし。

ただし、「ラノベ天狗の活動でラノベ読みの評判が下がるようなら適当に切断操作してくれていいよ」という言質は取ってあるので、もしも何かあったときは遠慮なく他人のふりをしていこうと思います。

ライトノベルが馬鹿にされがちな三つの理由

理由1「小説と漫画」

ライトノベルは、小説の中のサブカテゴリであると同時に、漫画・アニメ・ゲームなどと並ぶオタク向けコンテンツの一つでもあります。なので、ある時は小説の側から「低俗で幼稚な読み物である」と貶され、またある時は漫画の側から「バリエーションが少なくてつまらない」と叩かれてしまうのです。

低俗だ何だという批判の鬱陶しさについては、これまでさんざんそう言われてきた漫画の読者が、いちばんよく分かっていることと思います。

それに、考えてみてください。漫画より多様なコンテンツを抱えている業界なんて、他にどのくらいあるでしょうか。この市場規模で、バトルにファンタジーにラブコメに青春モノにSFにミステリに…各種取り揃えているラノベを、むしろ少しくらい褒めてあげても罰は当たらないと思いますよ。

理由2「ライト」

ラノベをあまり読まない人って、ライトノベルの「ライト」にこだわるんですよね。「ライトと称するからにはライトな作品が多いに違いない」。「作者もライトさを意識して作っているに違いない」。そして「ライト」という曖昧な言葉に様々な偏見が仮託されるわけです。

ほとんどのラノベ読者は「ラノベはライトでなければいけない」なんて考えていないと思います。だって普通に読んでいればいくらでも「ライト」でない作品に行き当たりますから。文字がみっちり詰まっているのも。鬱展開なのも。ページ数が多くて鈍器みたいなやつもね。

たとえて言えば、ライトノベルの「ライト」は、スマートフォンの「スマート」程度のもの、みたいな。「スマート」であることはスマホアイデンティティじゃないでしょ、という感じ。

まあ「ライト」という言葉にあまり惑わされないようにしていただければと思います。

理由3「規模感」

漫画原作アニメをいくつか観ただけで「最近の漫画は〜〜」と講釈を垂れる人はいませんよね。それは漫画全体の規模感を分かっているからです。

逆に言うと、ラノベ原作アニメをいくつか観ただけで「最近のラノベは〜〜」と言ってしまう人たちは、ライトノベルの規模感を過小に見積もっているのではないでしょうか。

ライトノベルは、月に150冊以上の新刊がコンスタントに刊行されつつも、その読者はかなり少ないです*1。そのくせ、「ライトノベル」の知名度だけが高まり、アニメなどを通して間接的にラノベに触れる人、そしてラノベに物申したい人が爆発的に増加している状況。

木を見て森を見ず、なんて言いますが、ラノベの森の中に踏み入って探索している人よりも、「アニメ」という小さな窓越しに森を眺めている人たちのほうが遥かに多い、つまり外から適当なことを言われやすい環境になっているのが、いまのライトノベルなのでしょう。なんてこったい。

追記。
アニメ化されてないけど評価の高いライトノベルを読んでみたいという人は「ライトノベルツイッター杯」や「好きなライトノベルを投票しよう!」などの結果を参考にしてね。
ライトノベル三大人気投票のランキング結果(2014年下半期) - 好きなら、言っちゃえ!! 告白しちゃえ!!

あとこっちもついでに。
2014年ライトノベル個人的ベスト10 - WINDBIRD

*1:まあ、少ないというのも漫画やゲームの側から見た話であり、出版不況に喘ぐ小説側からすれば稼ぎ頭のひとつなのですが

「好きなライトノベルを投票しよう!! 2014年下期」投票

好きなライトノベルを投票しよう!! 2014年下期
取り急ぎ投票のみ。

【14下期ラノベ投票/9784041016534】

【14下期ラノベ投票/9784906866984】

きんいろカルテット! 3 (オーバーラップ文庫)

きんいろカルテット! 3 (オーバーラップ文庫)

【14下期ラノベ投票/9784906866991】

【14下期ラノベ投票/9784048666893】

【14下期ラノベ投票/9784048666954】

【14下期ラノベ投票/9784047299764】

【14下期ラノベ投票/9784048690447】

王手桂香取り! (3) (電撃文庫)

王手桂香取り! (3) (電撃文庫)

【14下期ラノベ投票/9784048690492】

【14下期ラノベ投票/9784048690539】

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

【14下期ラノベ投票/9784061389786】

2014年ライトノベル個人的ベスト10

王手桂香取り!

王手桂香取り!  (電撃文庫)

王手桂香取り! (電撃文庫)


誤解を恐れずに言えば『ヒカルの碁』の将棋版です。『ヒカルの碁』と同じ面白さを、この作品も持っている。憧れの先輩に告白するため、将棋の駒たちから教えを受けて、ぐんぐん成長していく主人公。3巻かけて将棋も恋も大きく前進して、さてこれからもっと面白くなるぞ、というところで残念ながら「第一部完」となっております。ええ、古来どれほどの作品が「第一部完」のまま終わっていったでしょう。第二部開始のためにも、皆様には是非とも、是非とも買っていただければと思います。

四人制姉妹百合物帳

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

多くの出版社から刊行を断られ、当初は同人誌で出していたという、いわくつきの作品。なぜ出版されなかったのかと言えば、ひとえにこの作品のキーワードが「剃毛」だったからだと思われます。お嬢様学校に通う美しい少女たちが「下の毛」を剃るだの剃らないだので大騒ぎ…それなのに何故か切ない百合恋愛小説として仕上がっているという、まさに奇才・石川博品の面目躍如といった趣きの傑作であります。

サディスティックムーン

こちらもまた奇才と言うに相応しい出口きぬごしの最新作。あらすじとしては、感情の希薄な主人公が頭のおかしいヒロインに振り回されて二人であちこちの復讐に協力していくという、一種の謎部活的なコメディではあるのですが。何が狂ってるってヒロインの頭が本当におかしいんですよね。「気に入らない女を拉致監禁して尿道カテーテルを使って主人公の尿を注入する」とかやるわけです。しかも、そのあたりの描写が実に自然で、「頑張って過激なヒロインを書いてみました」という感じではないわけです。ドン引きするくらい面白い作品でした。

男子高校生で売れっ子ライトノベル作家をしているけれど、年下のクラスメイトで声優の女の子に首を絞められている。

まさにタイトルのとおり。主人公はラノベ作家。ヒロインはアニメ声優。自作品がアニメ化されることになった主人公と、それに出演することになったヒロインが、東京に向かう電車の中で乗り合わせてラノベ作家にまつわるQ&Aを繰り広げるという作品。そのQ&Aコーナーはひたすら淡々としていて正直面白みはありません(興味深くはありますが)。しかし2巻のラスト、「主人公が首を絞められている理由」が描かれることによって、一気に強烈な「物語」に変貌を遂げる。それがすごく面白い。ジャンル的には『俺の教室にハルヒはいない』と併せて読みたい作品ですね。

夏の終わりとリセット彼女

夏の終わりとリセット彼女 (ガガガ文庫)

夏の終わりとリセット彼女 (ガガガ文庫)

自堕落で不真面目な主人公。記憶喪失になった生真面目なヒロイン。記憶喪失になる前のヒロインは、実は主人公と恋人同士だったのだが…という話。ヒロインとしては主人公のような屑と恋人だったとは到底信じられない。主人公もまた、恋人らしいことをしないまま彼女が記憶喪失になってしまったので、ヒロインが本気だったのかさえ分からない。そんな二人が再び距離を縮めていく過程が描かれる。実に良い青春ラブストーリーです。

ルガルギガム

古代メソポタミアのような異世界に流されてきた現代日本の少年。その世界には街があり、多くの人が住み、実在の女神が崇められていて、そして主人公と同じくいろんな国いろんな時代の人々が流されてきていた。女神である少女に気に入られ、付き纏われつつ、少年は冒険者となって現代に帰る方法を探す。上下巻で非常によくまとまっている冒険ファンタジー、そしてボーイ・ミーツ・ガールなのです。

魔女は月出づるところに眠る

こちらは上中下巻。表紙から想像されるような仲良し三人組のワクワクドキドキの魔女っ子ライフなんてものではもちろん無くて、魔女となって数奇な運命に巻き込まれた少女たちが、不幸と絶望にまみれて底なし沼に沈んでいくような、それでも最後には希望が残るような、壮大な暗黒ファンタジーなのです。

最終戦争は二学期をもって終了しました

異能バトルと日常系を組み合わせた系の作品。主人公と仲間たちが悪の組織を倒したあと、遅れてやってきた戦闘ヒロイン。悪の組織が倒れたことを説明する主人公たち。それを信じないヒロイン。街を見て回ると、戦いの傷跡が色濃く残っていて、まだ何かが起こりそうではあるけれど、でもやっぱり何も起こらない。コミカルではあるがギャグではない、祭りのあとのような切なさのある作品です。

レターズ/ヴァニシング

世界の法則を規定する文字「世界言語」が発見された世界が舞台。その世界言語を操る少女が老教授を殺して逃げ出したところから物語は始まる。教授の孫である少年、少年の友人、教授を殺した少女、少女に指令を与える謎の男、それらを追う刑事たち。複数の視点から描かれるSFサスペンス。作り込まれた設定とは裏腹に、ストーリーはすっきりしていて分かりやすい。今年の電撃文庫のSF作品としてはこの『レターズ/ヴァニシング』と海羽超史郎の『バベロニカ・トライアル』が双璧でしたね。できれば併せてどうぞ。

銀河戦記の実弾兵器

冷凍睡眠装置から目覚めた主人公。そこは現代から何千年経ったか分からない遠い未来の、宇宙船の中だった。そこで出会った毒舌AIのロボットと、そのあと出会った美少女メカニックと共に、主人公は宇宙船を揃え、会社をおこし、伝説上の存在となった地球を探すために宇宙を駆け巡る。どストレートなスペース・オペラ。…まだ2巻を読んでないんですよね。読まねば。


というわけで、ギリギリ年越しまでに間に合った?
来年もよろしくお願いします!

2014年ライトノベル10大ニュース

少し前にTwitterに書いたのを膨らませてみた記事です。

KADOKAWADWANGOが統合


ラノベ業界のみならずさまざまな方面に対してインパクトのあるニュースでした。DWANGOスマホアプリのi文庫・Webサービス読書メーターを買収したことや、統合キャンペーンとして行われた電子書籍半額セールなども話題になっていましたね。

スーパーダッシュ文庫ダッシュエックス文庫に改装


しばらくはスーパーダッシュのブランドも残るそうですが、新作はダッシュエックスから出るということで、事実上のリニューアルと言えるでしょう。SDの頃はいかにも仲が悪そうだった*1漫画部門との連携を強化するための改装だということらしく、漫画界最強の「ジャンプ」ブランドをどう活かしていくのか、これからの躍進に期待です。

「キャラノベ」のレーベルが多数創刊


キャラノベについては先日も記事を書いたのでそちらをお読みいただければ。
「大人向けラノベ」の誕生 - WINDBIRD
今年創刊されたものをリストアップすると、富士見L文庫新潮文庫nex集英社オレンジ文庫朝日エアロ文庫、T-LINEノベルズといったあたりでしょうか。第1回 角川文庫キャラクター小説大賞なんてのも開催されるようです。

映画『オール・ユー・ニード・イズ・キル』公開


スーパーダッシュ文庫が産んだ名作『ALL YOU NEED IS KILL』がまさかのハリウッド映画化。しかも、ちゃんと面白く作ってもらえてスマッシュヒット。海外でも非常に高い評価を得ているようです。
ちなみに感想はこちらに書きました。
「All You Need Is Kill」と「オール・ユー・ニード・イズ・キル」 - WINDBIRD

映画『僕は友達が少ない』公開


不幸にも『オール・ユー・ニード・イズ・キル』と同年の公開となり何かとネタにされがちでしたが、原作と無関係に見ればそこまで言うほど酷くはないだろ…くらいの評判だったようです。個人的には観ていないので何とも言えません。

『ニンジャスレイヤー』アニメ化発表


数奇な運命を経て日本のTwitterで連載され、たちまちブレイクした海外原作のサイバーパンクニンジャ活劇がついにアニメ化ということで、多くのニンジャヘッズに歓喜をもたらしました。映像化が難しそうな作品ですし、独特なファンコミュニティにアニメ視聴者が流入することなどを考えると、いろいろと不安も多いのですがはてさて。

銀河英雄伝説』&『アルスラーン戦記』再アニメ化発表

http://www.arslan.jp
田中芳樹の名作がダブルでアニメ化。銀英伝は原作を読んだきりですが、既に決定版としてOVAがあるわけですし、再アニメ化のハードルはめちゃくちゃ高くなりそうです。アルスラーン戦記は原作も読んでないんですよね。荒川弘による漫画版のアニメ化ということで楽しみにしております。

ソードアート・オンライン』シリーズ国内累計1000万部突破


電撃文庫の中では『禁書目録』に次ぐ快挙だそうで。つい先日のニュースリリースでは「世界」での累計が1670万部を突破したとも発表されていました。なんだか中途半端な数字に見えるけれど、しかし考えてみれば「累計70万部」でも凄いわけだからなあと、どうでもいいことを考えていました。

テスタメントシュピーゲルKindleにて復活

冲方丁シュピーゲル』シリーズの最新作が、5年の時を経てなんとKindleにて連載開始。いまや押しも押されもせぬ売れっ子作家となった冲方丁、(昔からそうでしたが)小説にアニメにと大忙しなので、こういうカタチでの連載になったのでしょうか。BOOK☆WALKERでも配信してください(切実)。

石川博品、プチブレイク

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

四人制姉妹百合物帳 (星海社文庫)

近年カルト的な人気を誇り、2013年には『ヴァンパイア・サマータイム』『後宮楽園球場』という二大傑作を送り出してきた石川博品が、ついに(プチ)ブレイク。「このライトノベルがすごい!」にて5位(新作の中では1位)を獲得。打ち切りを食らっていた作品が初めて重版されて「このラノ新作1位」という帯が巻かれていたという調子の良い話も。さらにファミ通文庫森橋ビンゴ×石川博品フェアを開催したり、どこからも出版できず同人誌として出していた『四人制姉妹百合物帳』が星海社から刊行されたりするなど、まさに充実の一年でした。


というわけで2014年を振り返ってみました。こうして見ると集英社の動きが目につきますね。ダッシュエックス文庫オレンジ文庫、『ALL YOU NEED IS KILL』に『後宮楽園球場』。もしや来年は集英社が大ブレイク!?…………という気はぜんぜんしないけれども、合体怪獣カドカワンゴの動向とあわせて、2015年にどのような作品を出してくるのか楽しみです。


今年のライトノベルニュースをさらに詳しく振り返りたい方はこちらをどうぞ。
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*1:個人の感想です

「大人向けラノベ」の誕生

「大人向けラノベ」あるいは「青年向けラノベ」とでも呼ぶべき作品/レーベルが、今年になって爆発的に増えている。2014年の終わりにこの流れを整理しておきたい。


大人向けラノベレーベルには二つの傾向があるように見受けられる。

まずはWeb小説の書籍化を行うタイプ。これはMFブックスモンスター文庫、あとは微妙に新潮文庫nexなどもそうだ。nexはともかく他の二つは大人向けなのか?と疑問に思われる方もいるだろうが、レーベル自身がそう名乗っているのだから仕方がない。どうも、Web小説の書籍化を購入するのは年齢が高めの読者だというような調査結果があるらしい。

もう一つは女性向けを意識したタイプ。富士見L文庫集英社オレンジ文庫などは特にその傾向が強い。ミステリやホラーが多いようで、特に「お店ミステリ」は流行ジャンルになっている。

前者のWeb小説タイプについては、これはアルファポリスなどが単行本サイズでWeb小説を書籍化してきた流れの延長線上にあるものと思われる。

他方、一部で使われている「キャラノベ」「ライト文芸」などの呼称は、後者の女性向けタイプを指していることが多い。「大人向けラノベ」と言ったとき、女性向けタイプだけを思い浮かべる人も少なくないだろう。

追記。この「女性向け」のくだりに多くの異論が寄せられているので追記します。これについては、「キャラノベ」と呼ばれる作品群にそのような傾向を個人的に感じているというだけで、「キャラノベ」が明確に女性向けを志向しているわけではありません。メディアワークス文庫新潮文庫nexなどは基本的にユニセックスなレーベルだと思います。誤解を招く書き方で申し訳ありません。追記おわり。


こうしたレーベルが今年になって増えてきたのは、メディアワークス文庫と『ビブリア古書堂の事件手帖』の成功を見たからであろうし、

さらにMW文庫の前身としては、電撃文庫のハードカバー戦略、つまり有川浩の活躍があったわけだが、

図書館戦争

図書館戦争

まあ大人向けラノベの変遷についてはid:nyapoonaさんの記事を読んでおけばいい。
[オトナ向けラノベ]記事一覧 - 小説☆ワンダーランド


では、なぜ「大人向け」が狙われるのか。

理由の一つとして、ここ数年のラノベの売上は横這いで、市場の拡大が限界を迎えているということがある。メディアワークス文庫ライトノベルを卒業した読者のためのレーベルと銘打ったように、離れてしまったラノベ読者を呼び戻したい、あるいは新たな読者を開拓したい、ということなのだろう。

大人向けラノベレーベルの特徴の一つとして「うちはライトノベルではありません」「ラノベ棚に置かないでください」と書店にアピールしていることがあるが、これもラノベ棚での熾烈な争いを避けるためだと思われる*1ラノベ棚の狭さについては一つ前の記事でも少し書いた。

増加し続けるラノベ作家の受け皿としても大いに機能している。少年向けのラノベレーベルと掛け持ちしつつ作風をがらりと変えている作家や、少年向けよりも大人向けの方が作風に合っている作家もいる。他ならぬ『ビブリア』がその代表例だろう。

ただ、ラノベ業界のこうした動きは「大人向け」に限った話ではない。中学生に人気のあるニコ動からの書籍化(ボカロや実況者など)、角川つばさ文庫のような児童向けレーベルの好調と併せて、「上下へ拡大を図っている」というのが近年の業界、もといKADOKAWAの戦略であるという印象だ。


漫画業界では既に「青年漫画」が多く存在しているのに対し、「青年ラノベ」というものがこれまで少なかったのは、小説業界においては大人向けの一般文芸がどーんと存在しており、またファンタジー・ミステリ・SFの専門レーベルたちが少なからずその機能を担っていたからだろう。

そのためラノベは、殊更に「少年少女向けの特殊なカテゴリ」であることを強調して、「先住民」との住み分けをしてきたように思われる。

しかし、「大人向けラノベ」が定着するならば、これからは漫画業界のように、少年向け、青年向け、さらには中高年向け*2と、幅広い年齢層を対象とした業界構造が成立するのかもしれない。

*1:ちなみに普通にラノベ棚に置かれていることも多い。

*2:このポジションには時代小説が有力である。富士見新時代小説文庫に注目。

ライトノベルが電子書籍になることのメリット

電子書籍をよく買うようになって感じる最大の変化は「新刊にこだわらなくなった」ということだ。と言っても「古い作品ばかり買っている」ということではない。以下のような事情がある。


ラノベの場合、月に100冊以上の新刊が出ているが、書店ではあまり棚を割いてもらえない。漫画、あるいは一般文芸がフロアの大部分を占めていて、ラノベには棚がひとつかふたつがせいぜい、ということも少なくない。これには「電撃組」などの特約店制度も関係しているのだろうが、ともかくラノベ棚は非常に狭いのである。


そのため、ラノベの新刊台は「直近一週間に発売された新刊しか並ばない」というようなことになってしまう。あるレーベルの新刊発売日が来ると、その新刊だけが平積み台に並べられ、その他のレーベルの新刊は撤去されてしまうのだ。そして撤去されたその新刊が、そのまま書店の棚に残っている保証はない。


ラノベ読者としては、発売日から一週間以内に買わないと、それ以降まったく買えなくなる危険があるので、「すぐには読まなくてもとにかく発売日に買っとけ」ということになる。出版社の側も「ラノベは発売後一週間が勝負」と言って、そういう売り方になっていく。


かくして「一週間で売れなきゃ終わり」みたいな状況になってしまうのだった。


このあたりのことは漫画のほうの話も含めて以下のまとめに詳しい。


で、まあ単純に、電子書籍ではそのような心配はないのである。


一週間経ったからといって電子書籍ストアから削除されることはない。売り切れもない。だから新刊を発売日に買うことにこだわる必要はない。好きなときに買えばいい。リアル書店には悪いけども、電子書籍が広まって「初動がー」という売り方が変わっていけば、いろいろと捗ると思う。


ただ、これに関連して心配な点、不満な点をいくつか。


電子書籍ストアではしばしば値下げセールがあるので、読者は「セールがあるまで新刊を買い控える」という行動をとりがちである。それこそ「いま買わなきゃ売り切れてなくなってしまうかも」ということがないので余計にそうなる。
長期的にみて、その過剰な値引き合戦が出版社のためになるのか、作家のためになるのか、というのが分からない。読者にとっては嬉しいことだが、それで出版社が潰れました、作家さんは食い詰めました、というのでは意味がない。そろそろ沈静化してほしいところ。
…ふと思ったが、「値下げセールのときに購入が偏る」のであれば、「初動重視」から「値下げセール時の売上重視」とかになったりするのだろうか。値下げセールのときに売れない作品はなにをやっても駄目。みたいな。


電子書籍ストア(というかBOOK☆WALKER)を「リリース順」で並び替えると、「新刊」だけではなく「新しく電子化された過去の作品」とかも引っかかってくる。つまり「電子版のリリース日」でソートできても「紙の書籍の発売日」ではできない。これは使いづらい。
名作が掘り起こされるのは喜ばしいが、過去の人気作品ばかり購入されると、新人作家にはつらいだろうし、それで新作が出てこなくなれば読者としても困るので、新刊は新刊としてアピールして欲しい。というワガママ。


そして電撃文庫である。電撃文庫電子書籍で新刊を配信しない。いまや書店=電撃文庫の新刊を買う場所になっている。ちょうめんどくさいんだけど。なんとかなりませんかね。
(注・現在は1ヶ月遅れながら配信されるようになっています)


「一週間で売れなきゃ打ち切り」というのは、ある意味、機械的にできる判断であるし、期間を短く区切ることによってそこにリソースを集中できるということもある。だが、もし電子書籍が普及して「初動に集中しない売れ方」が普通になれば、打ち切りを判断するタイミングは難しくなるし、一週間以降もあれこれと手を尽くさねばならなくなる。あるいは電子書籍ストアのページレイアウトなどがダイレクトに売上に響いてきたりするのでは。なかなか大変そうである。まあ昔はそれが普通だったと言えばそれまでだが。


…なんか「メリット」と題しておきながら「デメリット」ばっかり並べ立てている気がするぞ。


えー、私はBOOK☆WALKERを応援しています!

これまでのライトノベル定義論の超大雑把な流れ

ライトノベル」という呼称の誕生

2ちゃんねるに「ライトノベル板」が誕生

2000年1月24日にライトノベル・雑誌・エンターティメント板として開設された。

ジュブナイル」「ヤングアダルト」「ティーンズ文庫」などあった中で「ライトノベル」が採用される。ラノベ読者のあいだで徐々に「ライトノベル」がデファクトスタンダードに。

「あなたがそうだと思うものがライトノベルです。ただし他人の同意を得られるとは限りません。」

ライトノベル板における血で血を洗う定義論の末に生み出されたローカルルール。その後も影響力を保つ。

ラノベVS.ライノベ略称抗争

ライノベ」ってきょうび聞かねーな。

ライトノベル解説本ブーム、ラノベ原作アニメの増加、涼宮ハルヒのヒット

これにより「ライトノベル」という呼称がラノベ読者以外にも広まる。少年向けラノベ中心の流行だったため「少女向けラノベライトノベルに含まれない」という認識の遠因に?

ライトノベル完全読本 (日経BPムック)

ライトノベル完全読本 (日経BPムック)

  • 発売日: 2004/07/24
  • メディア: 雑誌
涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

涼宮ハルヒの憂鬱 (角川スニーカー文庫)

  • 作者:谷川 流
  • 発売日: 2003/06/07
  • メディア: 文庫


電撃文庫のハードカバー戦略(+富士見Style-F

ライトノベルは文庫で刊行される」という定義の例外となる。もとより新書判のレーベルも多かったが。

空の中

空の中

  • 作者:有川 浩
  • 発売日: 2004/10/30
  • メディア: 単行本


ラノベ作家の一般文芸への進出の増加

電撃ハードカバーにおける有川浩の成功により、ラノベ作家の一般文芸への進出が増える。ラノベ読者のあいだでは当時「越境」と呼ばれた。ラノベと一般文芸の境界が曖昧に。いちどライトノベルとして出た作品が一般のレーベルで再刊行されるということも。以降、ラノベ作家の領域横断的な活動は当たり前になる。
関連:「越境」後のライトノベル - WINDBIRD::ライトノベルブログ

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)

GOSICK ―ゴシック― (角川文庫)

天地明察

天地明察

  • 作者:冲方 丁
  • 発売日: 2009/12/01
  • メディア: 単行本


イラストのないラノベの登場

「イラストが付いていればライトノベル」という定義の例外となる。単純にイラストの有無だけを見る定義の衰退。イラストに限らない総合的なパッケージングを重視する主張が台頭する。

夏月の海に囁く呪文 (電撃文庫 (1178))

夏月の海に囁く呪文 (電撃文庫 (1178))

  • 作者:雨宮 諒
  • 発売日: 2005/11/10
  • メディア: 文庫
(通常なら『僕らはどこにも開かない』をピックアップするところですが以前「イラストのないラノベの例として私の作品を挙げるのはやめてください」と作者が言っておられたので敢えて別の作品を選んでいます)

一般文芸、海外ファンタジーの翻訳、児童文庫(YA)などにおけるラノベ的なパッケージの増加

ラノベ=パッケージ説にのっとれば「一般文芸のラノベ化」と言える。ただし「読者に合わせた結果であって殊更に『ラノベ』を目指しているわけではない」という反論もあり。その場合は「イラスト付きパッケージの普遍化」と言うべきか。

謎解きはディナーのあとで

謎解きはディナーのあとで


Web小説の隆盛

ライトノベルと言えば商業作品であるという(無意識的な)大前提があった時代から、Web上に自称「ライトノベル」が溢れる時代へ。「ライトノベルは商業作品に限るべきか」という問題が立ち上がってくる。

ログ・ホライズン (1) 異世界のはじまり

ログ・ホライズン (1) 異世界のはじまり


ボカロ小説の登場

これまでのラノベ読者のコミュニティとは全く異なるコミュニティが現れたことになる。以降、ニコニコ動画からはフリゲのノベライズ、ゲーム実況者が執筆するラノベなども派生。KADOKAWA・DWANGOの合併とも関係してくる。
関連:ボカロ小説はライトノベルか? - WINDBIRD::ライトノベルブログ

悪ノ娘 黄のクロアテュール

悪ノ娘 黄のクロアテュール

  • 作者:悪ノP
  • 発売日: 2010/08/09
  • メディア: 単行本


「青年向けラノベ」の増加

メディアワークス文庫の創刊、そして『ビブリア古書堂の事件手帖』のヒットにより、「大人向けラノベ」「青年向けラノベ」とでもいうべきレーベルが増えている。「キャラノベ」という呼称が定着しつつあるが、分かりづらいので個人的には好きではない。「ライトノベルは少年・少女向けの小説」というような定義に対して、この青年向けラノベをどう位置づけるか、というのが現在のラノベ定義論のトレンドと言える。

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

いなくなれ、群青 (新潮文庫nex)

  • 作者:河野 裕
  • 発売日: 2014/08/28
  • メディア: 文庫


Kindle Direct Publishing(KDP)の登場

「アマチュアの作品はライトノベルか?」の派生として「KDPの作品はライトノベルか?」ということも今後は問題となってくるだろう。「ライトノベル=商業作品=出版社が品質を保証している商品である」という信頼性に(ライトノベルを名乗る)KDP作品はタダ乗りしている…というような批判も見受けられる。

だいたい一年以内に刊行されたオススメの単巻ラノベ10選(石川博品抜き)

ライトノベル読まない人に単巻ライトノベルをオススメしてみた。 - 本読んで、音楽聴いて

という記事を読んだ女子中学生が「石川博品ばっかりじゃん!」って怒ってたので石川博品抜きで10作品ほど挙げてみる。しかし「カマタリさん」と「ヴァンパイア・サマータイム」を挙げておいて「後宮楽園球場」を挙げないのは何故なんだ。「ライトノベル読まない人」向けじゃないからか。いや「女装+後宮+野球」の分かりやすいインパクトこそライトノベル読まない人向けじゃないのか。まあいい。

後宮楽園球場 ハレムリーグ・ベースボール|スーパーダッシュ文庫


結局石川博品紹介してんじゃねーかというツッコミはスルーして10作品並べていく。

魔法の子

富士見書房 | 魔法の子
アニメ化もされた「神さまのいない日曜日」の作者が贈る魔法学園ファンタジー。子供のときにだけ発現し、天災のように扱われる「魔法」、その子供たちを集めた学園を舞台に、魔法を否定する少年と、魔法を肯定する少女のボーイミーツガールを描く。ライトでもダークでもない独特な雰囲気にセピア色の表紙がよく似合う。

ガリレオの魔法陣

ガリレオの魔法陣 (集英社スーパーダッシュ文庫)

ガリレオの魔法陣 (集英社スーパーダッシュ文庫)

作者の青木潤太朗は「℃りけい。」という漫画の原案もやっている人。
ウルトラジャンプ Web連載 0003 ℃りけい。
で「ガリレオの魔法陣」は、DTPで魔法陣を描き、それをホログラムで投影して利用するという設定の現代魔法アクション。古代遺産の強力な魔法陣を巡っていろんな奴らが相乱れる展開は冒険伝奇的でもある。そしておそらくラノベ史上もっともフェティシズムに満ち満ちた「腹パン」描写は必見!

給食争奪戦

給食争奪戦 (電撃文庫)

給食争奪戦 (電撃文庫)

給食争奪戦|電撃文庫公式サイト
いじめっ子との対決、ささやかな初恋、万引きの顛末など、小学校を舞台に語り手を変えながら描かれる連作短編。とても爽やかな作品なのでロリコンの気のない人にもオススメです。ロリコンにもオススメ。

東池袋ストレイキャッツ

東池袋ストレイキャッツ|電撃文庫公式サイト
池袋の路上ミュージシャンたちを描いた連作短編。音楽をモチーフにベッタベタにノスタルジックな話を書かせたらいつも同じように面白いという安心の杉井光作品。ただし主人公とヒロインもいつも同じような性格になる。つまり、これが気に入ったら「さよならピアノソナタ」や「楽聖少女」も買えということだ。

葵くんとシュレディンガーの彼女たち

葵くんとシュレーディンガーの彼女たち|電撃文庫公式サイト
眠るたびに二つの世界を行き来してしまう主人公。それぞれの世界にはそれぞれに別の幼馴染がいて、一方の世界では幼馴染でも、もう一方の世界では会話すらしない関係だったりする。そんなややこしい平行世界をどちらも守ろうと奮闘する主人公を描いたSF青春ストーリー。

夏の終わりとリセット彼女

夏の終わりとリセット彼女 (ガガガ文庫)

夏の終わりとリセット彼女 (ガガガ文庫)

夏の終わりとリセット彼女 | ライトノベル | 文学・小説 | 書籍 | 小学館
青春ならこちらも負けていないぜ。恋人になったと思ったらその彼女が記憶を失ってしまう。彼女は生真面目で几帳面で正義感が強すぎて、やる気がなくて何事にも逃げ腰な主人公とは正反対。そんな彼らがどうして付き合っていたのか、彼女は本当に主人公のことが好きだったのか。二人でそれを確かめていくという青春恋愛モノ。

ファイティング☆ウィッチ

ファイティング☆ウィッチ (電撃文庫)

ファイティング☆ウィッチ (電撃文庫)

ファイティング☆ウィッチ|電撃文庫公式サイト
表紙を見るたびにMF文庫Jっぽいと思ってしまう。いやそれはどうでもいい。実直でない父親から拳法を叩きこまれて育った実直な主人公が、母親が顧問をつとめる拳法部に入って美少女たちと親交を深めていく青春スポーツもの。これもどうでもいいことですが、ライバル校の美人顧問が好きです。

アナザー・ビート 戦場の音語り

アナザー・ビート 戦場の音語り|電撃文庫公式サイト
現代モノが続いたのでファンタジーを。旋律を奏でる器官を身体に持つ「旋律士」の見習いである少女と、有名作曲家の出会い、対立する二国間の火種がくすぶる中、音楽が存在しない宗教国家にとらわれた少女が戦争に利用されそうになる…という盛りだくさんなファンタジー。かなり読み応えがあります。

ルガルギガム

じょ、上下巻は「単巻」のうちに入るよね…? 現代日本の少年が古代オリエント風の都市に飛ばされる異世界ファンタジー。その都市で崇められる「女神」に気に入られたりしつつ、さまざまな時代から飛ばされてきた人たちや、もとからその都市に住んでいる人たちと協力しながら、「旧市街」と呼ばれるダンジョンを探索していく。という、ものすごく青春くさいボーイミーツガール。ヒロインは女神さま。

魔女は月出づるところに眠る

魔女は月出づるところに眠る 上巻 ―ローブを纏って生まれた少女―|電撃文庫公式サイト
上下巻が「単巻」なら上中下巻だってもちろん「単巻」だろ、ああん? 小学生の少女が町の片隅に住む老婆から内緒で魔法を教えてもらって…というところから始まる暗黒マジカルファンタジー。流行りの「魔法少女」というよりは「魔女」モノ。膨大な設定に裏打ちされた容赦のない展開にただひたすら圧倒される。


以上、いずれも「ライトノベル読まない人にオススメできるライトノベル」でもあります。あると思います。たぶんある。おそらくあるはず。是非とも読んでみてください。石川博品の作品を買うのも忘れずにな。

ライトノベルレーベルごとのWeb小説書籍化方針

「最近のライトノベルはWeb小説の書籍化ばかりだ」「『小説家になろう』が青田買いの場になっている」といったことがよく言われる昨今、実際のところはどうなのかを、「新人賞経由」「スカウト」「別レーベル」「コンテスト」の四つの分類から見ていきたいと思います。

新人賞経由方式

Web小説の書籍化はあるもののあくまで「新人賞を受賞した作品がたまたまWeb小説だった」というパターン。

電撃文庫アスキー・メディアワークス

ソードアート・オンライン/アクセル・ワールド」「魔法科高校の劣等生」の二大タイトルを擁する電撃文庫ですが、Web小説を直接スカウトするようなことはなく、あくまで新人賞経由で採用するという態度を崩していません。「魔法科高校」の場合はかなりややこしいですが、作者が別作品を新人賞に送って落選したものの、その作品がきっかけで「魔法科高校」が出版されたという話。

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)


GA文庫(SBクリエイティブ)

新人賞受賞作の「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」がスマッシュヒット。「少年給魔師と恋する獣(乙女)」という作品も新人賞を受賞した模様(書籍化予定)。

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか (GA文庫)

ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか (GA文庫)


集英社スーパーダッシュ文庫

受賞作として「暗号少女が解読できない」を刊行。Twitter小説の書籍化などもあり。

暗号少女が解読できない (集英社スーパーダッシュ文庫)

暗号少女が解読できない (集英社スーパーダッシュ文庫)


スカウト方式

Web小説の作家に直接声をかけて引っ張ってくるパターン。

富士見ファンタジア文庫富士見書房

富士見書房 | WEB小説特集
今年三月に突如として参戦。電撃のように「新人賞経由」ということはなく全てスカウト。富士見書房は、前後して富士見新時代小説文庫(時代小説のレーベル)や富士見L文庫(大人向けライトノベルのレーベル)などを創刊、またプロ作家による無料Web小説サイトファンタジアBeyondを開設するなど、なんだか派手に動いております。


角川スニーカー文庫KADOKAWA

「この素晴らしい世界に祝福を!」をスカウトして大々的に売り出していますが、それ以外だと「神様ライフ」(別レーベルでデビューしたなろう出身作家の書き下ろし作品)くらいでしょうか。


HJ文庫ホビージャパン

「姉ちゃんは中二病」シリーズは新人賞経由。「VRMMOを金の力で無双する」はスカウト。ハイブリッドですな。
あとHJ文庫大賞 読者グランプリというサイトを作って、「なろう」から引っ張ってきた作家を蠱毒に放り込んでいる模様(この中では「ハイスクール・シークレット・サービス!」が好きですね)。

姉ちゃんは中二病 地上最強の弟!? (HJ文庫)

姉ちゃんは中二病 地上最強の弟!? (HJ文庫)

VRMMOをカネの力で無双する (HJ文庫)

VRMMOをカネの力で無双する (HJ文庫)


別レーベル方式

同じ出版社の中でWeb小説専門の別レーベルがあるので自レーベルでの書籍化がほとんど無いパターン。

MF文庫Jメディアファクトリー

メディアファクトリーは「MFブックス」という別レーベルを立ち上げて、Web小説の書籍化は主にそちらでやっています。
ただし一作品だけ、MF文庫Jでは「Re:ゼロから始める異世界生活」をスカウトしてきて、めちゃくちゃプッシュしていますね。

Re:ゼロから始める異世界生活1 (MF文庫J)

Re:ゼロから始める異世界生活1 (MF文庫J)

ファミ通文庫エンターブレイン

エンターブレインもWeb小説を積極的に出版しているんですが、ファミ通文庫から刊行するのではなく、「ログ・ホライズン」「ニンジャスレイヤー」などのように単行本サイズでの刊行が基本となっています。
ファミ通文庫のなかでは「天啓的異世界転生譚」だけで、それも作者のウスバーが「この世界がゲームだと俺だけが知っている」を単行本で出したあとの話なので、わりと特殊な感じ。

天啓的異世界転生譚 1 (ファミ通文庫)

天啓的異世界転生譚 1 (ファミ通文庫)


コンテンスト方式

「小説家になろう」と共同でコンテストを行ってその優秀作品を書籍化しているパターン。

このライトノベルがすごい!文庫(宝島社)

エリュシオンライトノベルコンテストに協賛しており、応募作品の中から「まのわ」を書籍化。投稿プラットフォームの中で別企業がコンテストを行うのはPixivなんかでも見られる方式ですね。

まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる (このライトノベルがすごい! 文庫)

まのわ 魔物倒す・能力奪う・私強くなる (このライトノベルがすごい! 文庫)


オーバーラップ文庫(オーバーラップ)

オーバーラップ文庫も、小説家になろうと組んで「オーバーラップ文庫WEB小説大賞」を開催しており、そこからの書籍化を進めています。
オーバーラップ文庫|オーバーラップ文庫×小説家になろう
ちなみに「大英雄が無職で何が悪い」だけは、ライトノベル作家が自作品(「灰と幻想のグリムガル」)の外伝を「なろう」に掲載していたものの書籍化なので、これも特殊な感じ。


その他、「小説家になろう」からの書籍化作品の一覧はこちら。→書報

という感じで見ると

「Web小説の書籍化」が意外に少ないことが分かるかと思います。積極的に乗り出しているのは富士見とオーバーラップくらいでしょうか。

「いやいやそれはおかしい、もっとたくさん書籍化されているはずだ」と思われるかもしれません。そのとおり。つまり昨今急増しているのは、既存のラノベレーベルとは異なる「Web小説専門の新レーベル」なのですね。アルファポリス(は老舗ですが)、ヒーロー文庫、MFブックス、モンスター文庫などなど。

というわけで「最近のライトノベルはWeb小説の書籍化ばかりだ」というのは少し違って、「最近のライトノベルの中にはWeb小説の書籍化ばかりのレーベルがある」と捉えておくべきでしょう。

で今後はどうなるの

ラノベ新人賞は「作家」を募集しているので、デビュー作ですら容易に打ち切られる一方で、やる気があるかぎりは、あるいは企画が通るかぎりは、次回作を出してもらえます(たぶん)。

それとは逆に、Web小説からのスカウトは「作品」を出版するというところに重きが置かれ、その作家をどう扱うかは未知数であるように思われます。「Webで大人気の小説の書籍化」が完結したあとはどうなるのか?

もちろん、それは「ほとんどの書籍化作品がまだ完結していない」という、単純に時間的な問題でもあります。書籍化作品が完結したあとは書き下ろしの新作を発表していく…という流れが定着すれば、「新人賞受賞作家」と「Web小説スカウト作家」はいずれ緩やかに合流していくのかもしれません。

あとは、そうですね、以前にも書きましたが、やっぱり今のWeb小説書籍化のポジションは「アニメやゲームのノベライズ」に近いような気がします。まとまった分量。異なるファン層。高め安定の売上。新しくライトノベルレーベルを起ち上げる際には「速筆の傭兵作家」「アニメやゲームのノベライズ」に加えて「Web小説の書籍化」が三種の神器となるのではないでしょうか。