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「小説家になろう」のWeb小説における異世界ファンタジー類型まとめ

maezimas.hatenablog.com
このあたりの話題から、「小説家になろう」(以下「なろう」)における異世界召喚や転生などの類型の話が出てきていたので、思いつくかぎり挙げていってみる。

ただ、私もここ一年くらいは紙のラノベに専念していて、Web小説の方はほとんど追いかけられていない。そもそも一番読んでいたときだって、ランキングを毎日チェックするようなことはなかったし、2chとかも見ていなかったので流行にも疎かった。そのことは、これからの文章中に「だろうか」「気がする」を連発していることからも察していただけると思う。

そんなわけで、もっと詳しい人が、もっと詳しい解説を書いてくれればいいな、と思います。

異世界転生(そのまま)

トラックに轢かれて死亡後、神様的な存在と出会い、特殊能力を貰って異世界に送られる、というのが「トラック転生」「転生チート」などと呼ばれるものである。現在アニメ放送中の『この素晴らしい世界に祝福を!』がこのパターン(のパロディ)だ。

このタイプの異世界転生は、主人公の姿形は変わらず、アイデンティティを保ったまま転生するので、実質的には「召喚」とほとんど変わらない。神様的な存在から目的を提示されているので、序盤から行動に迷うこともなく、スムーズに異世界に馴染んでいくことが多い気がする。

導入部分がテンプレ化しているのは、そういった「前置き」をプロローグで済ませてしまって、さっさと「本編」である異世界に入りたいからだろう。古くからのファンタジー読者の中には「オリジナリティ溢れる異世界をゼロから構築することこそファンタジーの醍醐味」とお思いの方も多いと思うが、「なろう」では「どうでもいいところは積極的に共通化して自分の書きたいところに注力する」というスタイルの作品が多いように感じる。どちらが悪いというわけでもない。スタイルの違いである。と思う。

異世界転生(生まれ変わり)

その一方で、「死んだと思ったら異世界に転生して赤ん坊になっていた」という設定の作品も多い。というか、こっちが本来の「転生」である。現在の累計一位である『無職転生』がその代表格だ。

このパターンでは、生前とは別の人間として生まれることになる。主人公の誕生直後から始まり、こっそり本を読んで*1魔法などを覚えたりしつつ、幼児から少年へ、少年から青年へと成長し、それに伴い物語の舞台も変遷していく、といったような筋書きになる。同じ転生ものでも上記の「アイデンティティを保ったまま転生」とは全くストーリーが変わってくるのだ。

さらに捻ったパターンとしては「多重転生」と呼ばれるものもある。主人公が何度も転生を繰り返し、様々な世界を渡って、いろんな世界の能力を獲得している、みたいなやつである。

と、ここまで書いてきて何だが、このあたりの話は漫画家の後藤寿庵氏のブログの記事が素晴らしくよくまとまっているので、そちらを読んだほうがいいと思う。

「モンスター転生」も紹介しておこう。これは文字通り「転生したと思ったらモンスターになっていた」という話で、ゴブリンだのスライムだのといった雑魚モンスターとなり、別のモンスターを倒してレベルアップしたり、その能力を吸収したりして徐々に強くなっていく、といったものが定番である。代表作は『Re:Monster』や『転生したらスライムだった件』あたりだろうか(どっちも未読)。

Re:Monster(リ・モンスター)

Re:Monster(リ・モンスター)

転生したらスライムだった件1 (GCノベルズ)

転生したらスライムだった件1 (GCノベルズ)

  • 作者:伏瀬
  • 発売日: 2014/05/30
  • メディア: 単行本

他にも、モンスターに生まれて魔王軍で出世を目指すとか、魔王の子供として生まれて魔界で「内政」するといったパターンもある。テンプレが確立されると「それを逆手に取ってやろう」という意識が働くわけだが、「悪の側から描く」というのもその一形態なのだろう。

女性向けでは「ドラゴンなどに転生して将軍や騎士と仲良くなる」といった話をたまに見かける。異類婚姻譚みたいなものだろうか。

異世界転移

死んだり生まれ変わったりするわけではなく着の身着のまま異世界にやってくるパターン。かの『不思議の国のアリス』や『オズの魔法使い』でも使われた伝統の手法だ。

「転生」と違って何の説明もなく異世界に放り出されることになるので、手探りで冒険していく話が多い気がする。「なろう」での代表格はなんだろう。個人的に印象に残っているのは『異世界迷宮の最深部を目指そう』だけど。

女性向けでは、王宮の庭あたりにいきなり現れて、居合わせた王子様に一目惚れされ、「彼女は伝説の聖女だ…」といった感じでラブロマンスになることが多いような気がする。

異世界召喚

異世界転移の下位カテゴリになるのだろうか。勇者や聖女として異世界に召喚されるパターン。勇者として召喚されることで「勇者」に相応しい能力が備わったりする。

転生トラックの省略されっぷりと比べれば、「どうして異世界に召喚されたのか?」「誰が主人公を召喚したのか?」ということが問題になりがちで、それが物語全体の謎とされることもある。先ほど挙げた『最深部』も実はそんな感じだし、あとアニメ化決定の『Re:ゼロから始める異世界生活』もそうだ。

Re:ゼロから始める異世界生活 1 (MF文庫J)

Re:ゼロから始める異世界生活 1 (MF文庫J)

「召喚する側が実は悪役でした」ということも多く、召喚された異世界人が奴隷のように扱われるのを察知して主人公が逃げ出したり、主人公が魔王を倒したところで仲間に裏切られたり*2…といったバリエーションがある。たとえば『ウォルテニア戦記』は自分を召喚した魔術師を殺すところから始まったりする。

ウォルテニア戦記 (HJ NOVELS)

ウォルテニア戦記 (HJ NOVELS)

  • 作者:保利亮太
  • 発売日: 2015/09/19
  • メディア: 単行本

あるいは、友人と一緒に召喚されたけど、友人だけが勇者認定される、みたいな話とか。「なろう」テンプレはわりと「脇役」志向である。こちらのパターンは『異世界魔法は遅れてる!』とか。

集団転移

異世界召喚からの派生で、「大勢の勇者が召喚された」とか、「クラス全員で異世界に転移した」といったパターン。その際に全員がスキルを身に付けるが、主人公は一人だけ役に立たないスキルで、他の仲間たちから切り捨てられてしまい…といったパターンをよく見かける。『十五少年漂流記』の系譜なのかもしれない。

灰と幻想のグリムガル』(外伝が「なろう」で連載)のように、転移者がぽつぽつとやってきている設定も、一種の「集団転移」に含まれるだろうか。

異世界接続

こちらの世界と異世界が接続されていて行き来ができる、というパターン。「なろう」掲載ではないが『ゲート 自衛隊 彼の地にて斯く戦えり』が代表格だろう。とは言え「なろう」においては、現代と異世界を往来するような作品は少ないように感じる。

「店が異世界と繋がっていてファンタジーの住人たちがやってくる」という『異世界食堂』『異世界居酒屋「のぶ」』のような作品もある。が、個人的にどっちも未読だし、他に同種の作品があるかも知らないので、何とも言えない*3。どんな店を異世界に繋げるかでバリエーションがありそうだが…。

異世界食堂 1 (ヒーロー文庫)

異世界食堂 1 (ヒーロー文庫)

異世界居酒屋「のぶ」

異世界居酒屋「のぶ」

VRMMORPG

ヴァーチャルリアリティなMMORPGを舞台にしたパターン。要するに『ソードアート・オンライン』である*4。ゲーム内では完全にファンタジーな世界が再現されているので、実質的に異世界と変わらない。たった一人で異世界にやってくる転生ものと違って、一緒にプレイしているゲーマーたちがたくさんいるという点では、「集団転移」に近いかもしれない。また、MMORPGではなくFPSRTSを題材としていることもある。

「不人気ジョブを極めたら強かった」とか「使えないスキルも工夫すれば強かった」といった展開が定番である。とはいえ、そのスキルを何に使うわけでもなく、わりと淡々とレベルアップして、新たなスキルを習得して、珍しいアイテムを錬成して、新しいマップに行って…といった起伏の少ない話になることが多い気がする。「なろう」の異世界ファンタジーはよく「ゲーム実況」に喩えられたりするが、このタイプの作品はまさにゲーム実況そのものと言える。

また、ゲーム世界の中で鍛冶や料理、回復薬などの「生産職」を極めんとする作品も多い。そのあたりのクラフトマンシップ感は、「異世界で料理人になる」系の話に繋がるし、「現代知識で内政」系と通じるところもある気がする。

一時期は、SAOの影響を受けて「ログアウト不能」「ゲームオーバーは現実での死」というデスゲーム系も勢いがあったが、最近は下火になっていると思う。

チートやデスゲームといった特別な設定のない、VRMMORPGを普通のゲームとして普通にプレイする作品*5も「なろう」には存在しているが、そういうのは「異世界」っぽさが薄いのでここでは省く。

ゲーム実体化

VRMMORPGものをさらに押し進めて、ゲームが実体化して完全に異世界になっているパターンである。

というか、特に「ゲームが実体化した」と断らなくても魔法でステータスっぽいものが見えたりする作品も多いので、「異世界がゲーム的になっている」と言うべきかもしれない。

この世界がゲームだと俺だけが知っている 1

この世界がゲームだと俺だけが知っている 1

  • 作者:ウスバー
  • 発売日: 2013/04/27
  • メディア: 単行本

ゲーム寄りの異世界にすると何が良いのかと言えば、「ステータス」という形で情報を整理できる点である。たとえば初登場のキャラだってステータスを出せば名前から種族まで一発で説明できる。主人公についても「ジョブ」や「スキル」を持ちだして説明することで、これからどんなキャラを目指すのか、これまでにどのくらい成長したのか、新しく習得した能力がどのようなものなのか、といったことを分かりやすく説明できるのである。

ログ・ホライズン』はゲーム実体化+集団転移の作品だが、『オーバーロード』のように「一人だけゲーム世界に取り残された」といった作品も多い。

ログ・ホライズン (1) 異世界のはじまり

ログ・ホライズン (1) 異世界のはじまり

モンスター系の話とも相性が良いようで、主人公がゲームで作り上げていたモンスター軍団が実体化して…という作品も、いくつか見かけたことがある。他ならぬ『オーバーロード』がその一つだが、このパターンは『オーバーロード』が元祖なのだろうか。そのあたりの歴史はよく分からない。

オーバーロード1 不死者の王

オーバーロード1 不死者の王

  • 作者:丸山くがね
  • 発売日: 2012/07/30
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

モンスター系で言えば、「ダンジョンマスターとなってモンスター蠢く迷宮を運営する」というのも一つのジャンルになっている。ダンジョンを大きくして、モンスターを配置して、やってくる冒険者たちを罠にかけて…という筋書き。これもどこから出てきた発想なんだろう。

Web小説の偉い人は「このジャンルはこの作品が元祖!」「このジャンルはあの作品の影響を受けている!」「このジャンルとこのジャンルを初めて組み合わせたのがこの人!」みたいなことをもっと積極的に書き残して欲しいと思う。

ゲーム転生

「転生してみたら何だか見覚えのある世界が…これは俺がハマっていたMMORPGじゃないか!?」というパターン。実質的には「ゲーム実体化」と変わらない。

女性向けにおいては、「乙女ゲーの中の世界に生まれ変わる」ものと、その派生として「乙女ゲーの悪役ヒロインに生まれ変わったけどこのままだとバッドエンドを迎えるのでなんとかしなきゃ」系が猛威を振るっている。いわゆる「悪役令嬢もの」である。悪役令嬢もので最大のヒットは、ファンタジーではないが『謙虚、堅実をモットーに生きております!』*6。ただ、全体としてはファンタジーを舞台にした作品の方が多いと思われる。
http://ncode.syosetu.com/n4029bs/

また悪役令嬢ものの場合は「普通に暮らしていた主人公があるとき突然に前世の記憶を思い出す」という導入が多い。まあ乙女ゲーで乳幼児期の話をしても仕方ないしね。

異世界内転生

異世界の人物が死んで同じ世界に生まれ変わるパターン。というか、こっちが本来の「転生」である(二回目)。

老いた大賢者が「もっと道を極めたい」という一念で生まれ変わったりとか、世界を救った英雄が誰かに殺されて生まれ変わるとか。作品としては『火刑戦記を掲げよ!』『エルフでやり直す武者修行』あたりが思い浮かぶ。

火刑戦旗を掲げよ!  1 (MFブックス)

火刑戦旗を掲げよ! 1 (MFブックス)

タイムスリップ

異世界で現代知識チートする作品と言えば、まずは『アーサー王宮廷のコネチカットヤンキー』や『戦国自衛隊』が出てくるわけで、つまりタイムスリップだって広い意味で言えば異世界転移のようなものである。

死んだと思ったら戦国時代に生まれ変わっていた、気が付いたら第二次世界大戦の戦場だった、といった作品は「なろう」においても多く書かれている。いわゆる「架空戦記」の系譜でもあるのだろうし、歴史系やる夫スレや、ニコニコ架空戦記なんかともつながっているのだろう。

異世界憑依

「転生」が「異世界の人物として新しく生まれる」ものだとしたら、「憑依」は「異世界に存在している第三者の意識を乗っ取る」というものである。どうしてこういう分類があるかと言えば、「なろう」のWeb小説は二次創作文化からの影響を強く受けているからで、そして二次創作においては「原作キャラクターの意識をオリジナル主人公が乗っ取る」という作品が多かったからである。と思われる。

オリジナルが中心の「なろう」において、わざわざ「既に存在している第三者の意識を乗っ取る」必要があるジャンルといえば、そう、歴史ものである。歴史ものはいわば「史実の二次創作」。主人公が歴史上の偉人になりかわるときに「憑依」という表記が使われることがある。代表格は、元はArcadia掲載だが『腕白関白』あたりか。
http://ncode.syosetu.com/n2046bc/

というか、「なろう」における二次創作界隈の影響というのもあまり明文化されていないと思うので、二次創作SSの偉い人は死ぬ前に是非ともそのあたりを書き残しておいて欲しいと思う。

異世界

いくら「なろう」に異世界転生・召喚が多いと言ったって、異世界だけで完結している作品も、もちろん存在しているのである。『死神を食べた少女』とか『リーングラードの学び舎より』とか。

死神を食べた少女 (上)

死神を食べた少女 (上)

  • 作者:七沢またり
  • 発売日: 2012/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
死神を食べた少女 (下)

死神を食べた少女 (下)

  • 作者:七沢またり
  • 発売日: 2012/12/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

女性向けだと中華ファンタジーもかなりある。そう言えば「中華ファンタジー」の定義って「中国っぽい架空の世界」を舞台にしているだけじゃなくて仙人とか妖怪とか出てこないと駄目なんだろうか。『薬屋のひとりごと』や『紅霞後宮物語』は中華風ではあるけどファンタジーではないよなあ。

薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)

薬屋のひとりごと (ヒーロー文庫)

  • 作者:日向 夏
  • 発売日: 2014/08/29
  • メディア: 文庫
紅霞後宮物語 (富士見L文庫)

紅霞後宮物語 (富士見L文庫)

  • 作者:雪村花菜
  • 発売日: 2015/05/15
  • メディア: 文庫

まあ、それを言ったら西洋ファンタジーだって、魔法とか出てこなくても思わず「ファンタジー」と言ってしまうことがあるし、「文明が滅んだあと科学技術を魔法として使っている」みたいなのだとSFになるし…いや深く考えるのはやめよう。

最後に

テンプレートというのは、面倒な部分を省略して自分が書きたい部分に集中するための補助器具であると同時に、「俺ならこの設定はこうするぜ」「俺はこのお約束を逆手にとってやる」といった形で多様性を生み出すジェネレーターでもある。

この記事を読んでいるあなたも、「現代の弁護士が異世界召喚されてファンタジー裁判する話なんて面白そうだ」とか、「MMORPGの代わりに格ゲーを題材にするのはどうだろう」とか、そんなふうに発想が広がっていかなかっただろうか*7

何かのテンプレートをもとに膨大なバリエーションが恐ろしいスピードで生まれていくのは、小説サイトのみならず、SNS掲示板、イラストサイト、動画サイト、その他さまざまなネットコミュニティの常であり、決して珍しい現象ではない。

問題は、そういった流行を外から眺めたときに、そのスピードについていけず、ひとつひとつの作品の違いを見極められないことである。そうなったときに「最近の若者のなんたらかんたらな願望充足がどうたらこうたらで同じ話ばかり読んでいるなど嘆かわしい」などと切り捨ててしまってはもったいない。是非ともこの記事を参考に「なろう」をスコップ(=面白い作品を新しく探すこと)していただければと思う。

*1:ちなみに「本は高価だからなかなか手に入らない」とか「貴族の家に生まれたので高価な本がたくさんある」といった描写も定番である。そのあたりをテーマに据えた作品に『本好きの下克上』がある。

*2:物語的には、その裏切られたところから始まる。あるいは裏切られて死んで転生したところから始まったりする。

*3:料理ネタ自体は、現代知識チートの一種として定着しており、異世界でレストランを営んだり、宮廷料理人になったりする作品が多い。

*4:ちなみにSAOは「小説家になろう」の作品ではない。

*5:ゲーム世界だけでなく現実世界の出来事も描かれるタイプ。

*6:ツッコミが入ったので補足。『謙虚』の世界は乙女ゲームではなく少女漫画なのでこの項に入れるべきではなかった。自分の中で『ログホラ』が「VR」ではないのと同じくらい忘れがちな設定…。

*7:ちなみに検索してみたらどっちも普通にありました。

「好きなライトノベルを投票しよう!! 2015年下期」投票

決断的に投票だ。
好きなライトノベルを投票しよう!! - 2015年下期

たま高社交ダンス部へようこそ (角川スニーカー文庫)

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グラウスタンディア皇国物語6 (HJ文庫)

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クロニクル・レギオン  3 (ダッシュエックス文庫)

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路地裏バトルプリンセス 3 (GA文庫)

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今期はスニーカーが多いなあ。最近のスニーカーは調子が良い印象。あと「読んでいれば投票したと思うけどまだ積んでる」という作品が増えた…そのあたりは電子書籍でいつでも買えるようになって「新刊はすぐに買ってすぐに読む」というルーチンを気にしなくなったのと、あとは如実に読書ペースが落ちていることの影響が…。

ライトノベルブログ初心者ガイド 〜ネタと感想のブログリムガル〜


こんな記事があったので便乗して書いてみたいと思います。

ライトノベルブログを更新し続ける必要はない

確かに、ラノベの感想ブログでアクセスを稼ごうと思えば、人気作や話題作を真っ先に購入して、真っ先に読み、真っ先に感想を書き上げて欠かさずブログにアップすることを、毎日続けなければならないでしょう。

しかし、そんなふうに新刊に追われるような読書生活で、本当にいいのでしょうか。

自分の好きな作品を、好きなときに購入し、好きなときに読んで、好きなように書いた記事を、好きなだけブログにアップする生活こそ、ラノベ読みが真に目指すべきものではないでしょうか。

実は「感想ブログ」を目指す必要もない

いえ、感想は好きに書けばいいのですが、感想でアクセスを稼ごうとする必要はないのです。ラノベの感想はごく少数のラノベ読みしか読みません。しかし「ラノベについて解説する記事」なら、ラノベをあまり読まない人でも読んでくれるでしょう。

たとえば「ラノベ作家は本当に三年で辞めるのか?」と題して新人賞作家の生存率を調べてみたり。「最近は大人向けのライトノベルが増えていて…」などとトレンドを解説してみたり。「2015年のオススメラノベ」ということで好きな作品を紹介してみたり。「ゲームをテーマにしたラノベ」に絞ってピックアップしてみたり。「ラノベブログをやりたいならこんな記事を書け!」と初心者にアドバイスしてみたり。

そう、「ライトノベル感想ブログ」ではなく、ライトノベルネタブログ」をやればいいのです!

ブログサービスは「はてなブログ」一択

ラノベブロガーが妙に多くて馴れ合ってる感じの雰囲気。サービス全体に溢れるオタクっぽさと理屈っぽさ。そして何より「はてなブックマーク」の存在。「はてなブログ」は癖が強いけど良いサービスですヨ。君もはてな村の一員になろう!

はてなブックマーク」はなかなか説明しづらいですが、ブログの記事などのURLをネット上に保存して、後から読み返しやすくしたり、皆でURLを共有しあったりするようなサービスです。Twitterと連携すれば、ブックマークすると同時にそのURLをTwitterの方に流すこともできて便利です。是非とも利用してみてください。

そして次が肝心です。

記事を書いたら[ライトノベル]というタグを付けてブックマークする

そうすると私がやってきます。

私はタグ「ライトノベル」の新着記事を監視して、面白そうな記事があればそれを読み、だいたいはブックマークしています。するとTwitterに記事のURLが放流され、私をフォローしているラノベ読みの目に触れ、他のブックマーカーもやってきて、さらに上手くいけばはてなブックマークの「注目エントリ」になり、がっぽがっぽとアクセスが増えるというわけです。面白い記事が読めて私は嬉しい、アクセスが増えて貴方も嬉しい。Win-Winですね!

えー、逆に言いますと、ラノベに関するニュースとかブログ記事とかをチェックしたい方は@mizunotori のフォローをよろしくお願いします(宣伝)。

人気投票イベントに参加する

いまの時期なら、そう、「好きなライトノベルを投票しよう!!」という企画なんかいいんじゃないでしょうか(宣伝)。どのブログがどの作品に投票したのか分かるので、趣味の合うブログを見つけたり、そこから交流を深めたりすることができます。

困ったことに1/10(日)が投票の締め切り。急がねばなりません。今すぐブログを作って、すぐさま投票エントリを書き、そのまま投票してやりましょう。「お、知らないブログがあるな…新人ブロガーか…ううむ、何という絶妙なチョイス! 期待のニューカマーだ!」となること間違いなしです。たぶん。

もう一つ注意すべき点として、はてなブログにはトラックバック機能が無いので、投票フォームを使って記事のURLを送らなければいけません(とはいえ今時は「トラックバック」の方が馴染みが薄いのだろうか…)。

そもそもどうしてラノベブログを書くのか?

アクセスを増やしたいのか? アフィで稼ぎたいのか? 単なる読書メモか? 自分の好きなラノベをもっと多くの人に読んでもらいたいのか? ラノベについて自分が考えたことを他人に知ってもらいたいのか? ラノベに関する謂れ無き批判に反論したいのか? ラノベ業界を少しでも盛り上げたいのか? もっとラノベの読者を増やして、もっとラノベの売上を増やして、もっと作品の打ち切りとか、作家さんの断筆とかを減らして、もっと面白いラノベがこの世にたくさん産み落とされて欲しいのか?

そういった指針があれば、自ずとブログの方向性も決まってくるのではないでしょうか。ネタを書くにしろ、感想を書くにしろ、まずは職業を決めて、それに合わせたスキルを磨くのが大事だということですね(無理やりグリムガルと結びつける)。『灰と幻想のグリムガル』、テレビアニメも楽しみです(宣伝)。

2015年ライトノベル個人的ベスト10

1. 『グリモアコートの乙女たち』雨木シュウスケ

男子禁制の名門魔法学校に女装して入学した主人公。その容姿と実力により、あっという間に同級生も憧れる存在となった彼は、しかし夜になれば正体を隠して黒衣を身にまとい、学園に忍びこむ敵を倒してまわる謎の魔女となるのだ……というわけで、魔法+女子校+女装+ダークヒーローと、もう素敵すぎる要素が詰まっていて、まさに「こういうのが読みたかった!」という感じです。最高です。

2. 『ひとつ海のパラスアテナ』鳩見すた

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

今年の電撃小説大賞の「大賞」受賞作。陸地が海に沈んでしまったウォーターワールドで、メッセンジャーとして生きる少女を描く。泥水を啜るようなサバイバルあり、しっかり者の美少女との百合あり、へんてこな遠未来SFネタあり、ツンデレ少女と遭難生活な百合あり、海賊たちとの殺し合いあり、百合あり、百合あり、百合ありの、海洋冒険活劇です。

3. 『俺の教室にハルヒはいない新井輝

祝・完結。わざわざ言うのもなんだかなーと思いつつ、勘違いしている人が多いのであらためて言っておくとですね、この作品を「ハルヒありきのパロディみたいなもんだろ」と思って避けている人は、もう本当に損をしてると思いますよ。声優をやっている幼馴染、同じくトップ声優の同級生、その他アニメ業界の楽屋話を絡めた、最高の青春恋愛ストーリーなのです。
http://sneakerbunko.jp/series/oreharu/

4. 『路地裏バトルプリンセス』空上タツ

こちらも最新四巻で完結したようなのですが、まだ最終巻は読めていない……タイトルどおり路地裏で戦うストリートファイターたちを描いた物語。可愛いヒロイン、個性的なファイターたち、ハッタリの効いた格闘シーンも素敵ですが、なにより女装コスプレで自撮りするのが趣味という変態主人公が、この作品の最大のチャームポイントです。

5. 『東京侵域:クローズドエデン岩井恭平

愛する人を取り戻すため、“人類の敵”によって封鎖された東京に、危険を犯して侵入する主人公たち。怪物が徘徊する廃墟をくぐり抜け、貴重な強化アイテムと回復アイテムを駆使して、パートナーと共にスカイツリーを目指す。超高難易度のステルスアクションゲームのような極限の緊張感。今度も岩井恭平の作品は最高だったのです。

6. 『ゲーマーズ!葵せきな

ゲームを愛する平凡な主人公が、学園一の美少女から「ゲーム部」に誘われ、個性的な面々に引き合わされて、夢のような環境にドキドキしながら……入部を断ってしまう、というところから始まるゲーマーラブコメ。偶然が偶然を呼びまくり、誤解が誤解を生みまくる、おっそろしくベタな展開の連続なんですけど、だからこそめちゃくちゃ面白い。ラブコメ好きに是非ともオススメしたい作品です。

7. 『クロニクル・レギオン丈月城

クロニクル・レギオン 3 (ダッシュエックス文庫)

クロニクル・レギオン 3 (ダッシュエックス文庫)

世界各地に神獣が降臨し、歴史上の英雄たちが蘇った、現実とは異なる20世紀末が舞台。日本の内戦に巻き込まれた主人公――正体不明の「復活者」は、野心溢れる皇女と共に起ち上がる。偉人集合ネタで現代ファンタジー戦記。「エドワード黒太子」や「衛青」といったメジャーともマイナーとも言いづらい絶妙なチョイスも最高。三巻までは、主人公の正体を推理する楽しみもあります。

8. 『いでおろーぐ!椎田十三

恋愛至上主義の打倒を標榜し、過激な演説やビラ撒きを繰り返す少女と、その活動を支える主人公を描いた青春ラブコメ。反恋愛運動を展開する中で、主人公とヒロインは明らかに惹かれ合っていくのですが、もちろん素直に告白して両想い……なんてわけにはいかない。でも周囲の仲間たちが、「裏切りモノ!」なんて無粋なことは言わず、温かく見守ってくれているあたり、実はとても優しい物語だと思います。

9. 『CtG -ゼロから育てる電脳少女-』玩具堂

いわゆるVRMMORPGモノなんですが、そこから生身の幼女が飛び出して現実世界にやってくるという一捻りがミソ。主人公とヒロインは彼女の「両親」として、現実とネットを行き来しながら、さまざまな陰謀や育児や幼馴染と戦っていくことになります。意外にSF要素も濃いのですが、とにかく幼女・ハルハの元気さ、健気さ、可愛さが、軽妙な文体で描かれていて、とても楽しいです。三巻で(残念ながら)完結してしまったので買いやすいと思いますよ。
http://sneakerbunko.jp/series/CtG/sneakerbunko.jp

10. 『保育の騎士とモンスター娘』神秋昌史

今年は豊作すぎて20作品くらい同率で並んでる感じなんですが、読みやすさと楽しさでこの作品を選んでみました。『CtG』と同じく子育て系ですね。人間と魔族の和平が成ったことで「人間が魔族を育てる保育園」が作られ、そこに生真面目な騎士が派遣されてくるというファンタジーコメディ。「平和な学校に馴染めない兵士」と「人間の常識が通じない魔族の学校」で二重に常識がねじれているわけです。個人的には、かつての強敵、いまは同僚のシルヴェイラ将軍が大好きです。
http://sneakerbunko.jp/series/hoikunokishi/

そろそろスペオペなラノベがくるんじゃない?

刊行点数の増加と共にかつてないほどジャンルの幅が広がってきた最近のライトノベル業界。バトルにラブコメにファンタジーにミステリ、戦記モノに青春モノに教官モノにお仕事モノ…と考えていて、ちょうどスペオペが空白地帯になっているんじゃないかと思い至りました。

スペオペ」という語は定義が分裂気味ですが、とりあえず「広大な宇宙を舞台とした冒険もの、もしくは戦記もの」というあたりにしておきましょう

同じ「SF」の中でも、ディストピアな未来の話だとか、タイムループを扱った話だとか、そういうラノベはけっこう多いんですよね。「殺戮のマトリクスエッジ」とか「バベロニカ・トライアル」とか「レターズ/ヴァニシング」とか「ひとつ海のパラスアテナ」とかすぐに思い浮かびますし、ヒット作で言えば「ソードアート・オンライン」や「魔法科高校の劣等生」もSF要素が強い。ハヤカワのほうで書いているラノベ作家もたくさんいますし、SFラノベを読みたいだけなら、わりと簡単に見つかると思います。

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)


ところが「スペオペ」というと一気に少なくなってしまう。ここ数年で自分が読んだ中では「銀河戦記の実弾兵器」くらいしか思い浮かびません。少し遡って「覇道鋼鉄テッカイオー」。読んでないやつで言えば、ハヤカワの「宇宙軍士官学校」や「天冥の標」、あとは「ミニスカ宇宙海賊」あたりでしょうか。

覇道鋼鉄テッカイオー (集英社スーパーダッシュ文庫)

覇道鋼鉄テッカイオー (集英社スーパーダッシュ文庫)


なにせスペオペラノベの源流のひとつですし、「無責任艦長タイラー」「ロスト・ユニバース」「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」などがあった1990年代はもちろん、2000年代に入ってからも大ヒットこそないもののそれなりに作品は出ていたんですよね。2010年代に入って、ファンタジーの復活やライト文芸の興隆があったことで、ちょうど「盲点」みたいになってるんじゃないかなあと思います。

しかしですね、いま、now、2015年末の現在、スペオペには勢いがあると思うんですよ。このあいだまでスペースダンディとかやってましたし、Gレコも面白かったですし、オルフェンズでは鴨志田一が脚本やってますし(まさにデビュー作がスペオペ戦記だったんですよね)、スターウォーズの新作も公開されるし、「星くず英雄伝」が復活したし、そして「銀河英雄伝説」が再アニメ化される! フジリューがコミカライズしてる!

神無き世界の英雄伝 (電撃文庫)

神無き世界の英雄伝 (電撃文庫)

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)


ということで、「そうだ、スペオペ書こう」とばかり、思い出したように執筆をはじめるラノベ作家、およびラノベ作家志望者が増えるんじゃないか、と願望まじりに予測するわけです。いかがでしょう。「俺が2010年代後半のラノベ業界をスペオペに染め上げてやるぜ」というくらいの素晴らしい作品を期待しております。

「ライト文芸/キャラ文芸/キャラノベ」等の定義と呼称の歴史

簡単にまとめてみた。


このあたりも参考に。
これまでのライトノベル定義論の超大雑把な流れ - WINDBIRD::ライトノベルブログ
「大人向けラノベ」の誕生 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

2004年10月 有川浩『空の中』がハードカバーで刊行される

有川浩電撃小説大賞を受賞して『塩の街』でデビューしていたラノベ作家。電撃文庫にとって、これが最初のハードカバー作品というわけではないが*1メディアワークス文庫へ直接的に繋がる動きとして、とりあえずここを起点としたい。以降、「富士見Style-F」などハードカバーのラノベが流行り、また「越境」と呼ばれたようなラノベ作家の一般文芸への進出も活発になっていく。

2006年2月 有川浩図書館戦争』のヒット

この作品を輩出したことをもって電撃文庫のハードカバー路線は成功に終わったと言っていいのではないだろうか。これに加え、2007年桜庭一樹『私の男』とそれによる直木賞受賞、2009年冲方丁天地明察』のヒットといったあたりで、ムーブメントとしての「越境」は頂点に達した感がある。以降はあえて「越境」と言うこともなくなった。

2009年12月 「メディアワークス文庫」創刊


ライト文芸史の画期をなす。メディアワークス文庫電撃文庫編集部が担当し、電撃文庫の作家が書いた作品、電撃小説大賞への投稿作品が刊行されており、いわば「電撃文庫の副業」とも言えるレーベルである。その上であえて「ライトノベルではない」*2と宣言し、書店においてラノベとは別の棚を開拓することに成功した。

2011年3月 三上延ビブリア古書堂の事件手帖』のヒット

電撃ハードカバー路線における『図書館戦争』の立ち位置に近い。この作品によってメディアワークス文庫が軌道に乗り、それを見た他社もこの分野に参入していくことになる。

2011年11月 「富士見ラノベ文芸大賞」創設


ラノベ文芸」という概念が提唱される。要するに富士見版メディアワークス文庫である。

2012年7月 「キャラ立ち小説」

ラノベとも違う! 今人気の“キャラ立ち小説”とは? | ダ・ヴィンチWeb」にて提唱された。

 “キャラクター小説”というジャンルを知っているだろうか。かつては“ライトノベル”と同義だったが、今、一般文芸作品にライトノベルの手法をうまく盛り込んでキャラクターを立たせた“キャラ立ち小説”が読者を強くひきつけているのだ。『ダ・ヴィンチ』8月号では今、大注目のキャラ立ち小説を大紹介。

として『ビブリア古書堂の事件手帖』『彩雲国物語』『図書館戦争』『万能鑑定士Q』などが挙げられている。「ダ・ヴィンチ」はカドカワ系列の雑誌。

2012年8月 岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿』のヒット

『ビブリア』に続いて「お店もの」のミステリがヒット。二匹目のドジョウが捕まったなら本物だとばかりに「あやかしカフェのほっこり事件簿」と称される同系統の作品が増えていくことになる。

2012年9月 「ヒーロー文庫」創刊

http://bukure.shufunotomo.co.jp/hero/
アルファポリスイーストプレスといった先発組を別にすれば、フェザー文庫に次いでWeb小説の書籍化ブームの草分けとなる。ちなみに編集者が一人だけで切り盛りしていることでも有名。

2012年9月 「キャラノベ

マンガのような主人公が活躍、「キャラノベ」が人気のワケ|NIKKEI STYLE」にて提唱された。

「キャラノベ」とは、エンターテインメント小説のなかでも、読みやすい文体や言葉遣いで書かれ、舞台や人物がマンガ的に誇張されている作品のこと。

として『謎解きはディナーのあとで』『ビブリア古書堂の事件手帖』『舟を編む』『三匹のおっさん』などが挙げられている。呼称としては、一時は定着しつつあったが、現在は後発の「キャラ文芸」「ライト文芸」に押され気味。

2013年3月 「角川書店キャラクター文芸編集部」が発足


「キャラクター文芸」という概念が提唱される。それ以前から角川文庫で発売されていた『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』『ハルチカシリーズ』『ホーンテッド・キャンパス』といった作品を統括する編集部、ということなのだろうか。いまだによく分かっていない。以降、メディアで「キャラ文芸」という言葉が使われるようになる。
『ビブリア古書堂の事件手帖』に続く大ヒット作は出るか? いま「キャラクター文芸」がアツい | ダ・ヴィンチWeb
小説とラノベを分けるのはナンセンス!? 人気の「キャラ文芸」とは何か?【識者解説】 | ダ・ヴィンチWeb
【広角レンズ】大人向け「キャラ文芸」台頭 ライトノベルと一線 文庫品揃え厚く(1/4ページ) - 産経ニュース

2013年9月 「MFブックス」創刊


創刊時に「30代~40代男性に向けたエンターテインメント小説」と銘打たれたWeb小説系のレーベル。私も当時は「その年代がターゲットなのにWeb小説ってどうなんだ」と思っていたが成功を収めた。すみませんでした。

小説家になろう」の読者層は若い方が中心なんですが、そこから書籍化されたものを購入するのは年齢層が高い方が中心なんですよね。

ラノベと何が違うの? 大人向けエンタ小説レーベル創刊!! | ダ・ヴィンチWeb

このあたりからWeb小説系の単行本レーベルが大きく増加し、また「大人に向けたライトノベル」という一点において、Web小説系レーベルとメディアワークス文庫あたりとが一括りに見られるようになる。

2014年6月 富士見L文庫創刊


「富士見ラノベ文芸大賞」の成果と言える。このあたりから「新潮文庫nex」「集英社オレンジ文庫」「講談社タイガ」など、メディアワークス文庫のフォロワー的なレーベルが急速に増加していく。

2014年10月 「ライト文芸


2015年に創刊された集英社オレンジ文庫のプレスリリースにて提唱された。

近年、出版業界で活況を呈しているのが「ライト文芸」「キャラノベル」と呼ばれる作品群。
漫画やライトノベルで育った世代の読者は、物語に出てくるキャラクターの魅力に敏感です。

「ライト文芸」に特化した文庫レーベルが集英社から登場!! 集英社オレンジ文庫2015年1月20日(火)創刊!! | 株式会社 集英社のプレスリリース

ライト文芸」と呼ばれる…とあるが、これ以前に「ライト文芸」と呼ばれた作品・レーベルはたぶん無いはず。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11704883.html

2015年2月 「小説家になろう大賞」が「ライト文芸新人賞」に改称

http://mfbooks.jp/award/02/lp.html
小説家になろう大賞」は、MFブックスとアリアンローズが「小説家になろう」とタイアップして開催していた新人賞だったが、それが「ライト文芸新人賞」に改称された。Web小説系のレーベルが明確に「ライト文芸」を名乗ったのはこれが初めてだと思われる。

2015年9月 「新文芸」


メディアワークス文庫系を「キャラ文芸」などとして推し進めてきたカドカワが、じゃあWeb小説系をなんと呼ぶのかで「カドカワBOOKS」創刊にあわせて捻りだしてきたのがこの「新文芸」。

我々の定義する「新文芸」とは、UGCと呼ばれる、ネット上で発表された作品を書籍・電子書籍化して出版する小説の総称であり、これが従来の一般文芸とは明確に異なる点です。いわゆるネット小説やボカロ小説、フリーゲームの小説化といったものがこのジャンルに含まれます。

【KADOKAWA公式ショップ】KADOKAWA 井上伸一郎に聞く -WEB発の新ジャンル 新文芸-|カドカワストア|オリジナル特典,本,関連グッズ,Blu-Ray/DVD/CD

「ウェブ文芸」くらいのほうが分かりやすくて良いんじゃないかという気もする。

書店での定義


フロンティアワークス系のレーベル(MFブックスやアリアンローズなど)が「ライト文芸」を自称したためか、書店では「Web系単行本=ライト文芸」「大人向けラノベ文庫=キャラ文芸」と区別されていることがある。実際に「ライト文芸コーナー」としてWeb系単行本が並べられていたりした。

カドカワがWeb系単行本を「新文芸」という名前でアピールしたこともあり、あくまで一時的な混乱に留まったものと思われるが、いまでもこのあたりを混同している人は見かけるので注意が必要である。

*1:タイム・リープ』とかいろいろあった。

*2:そもそも電撃文庫ライトノベルとは自称しないが。

俺TUEEEという言葉にまつわる取り留めもない話、その2


自分の記事を参考にしてくださったようで、ありがとうございます。


「ラ板(ライトノベル板)では主人公と読者である自分とを重ね合わせるような読み方がされている」と断定されているところがちょっと気になりました。



もちろん、自分と主人公を一体化させて物語を楽しむ読者もいるとは思いますが、過去記事中で引用した書き込みを見ても、「レイフォンの俺TUEEE」「フォンフォンTUEEE*1」といった形で使用されており、「主人公」と「読者」はきちんと線引きされているように感じます。


そもそも、なぜ『鋼殻のレギオス』がああまで「俺TUEEE」と言われていたのかというと、そのストーリーに原因があるのではないかと思うんですね。


鋼殻のレギオス』の主人公は、武芸者の総本山のような街のトップランカーだったのに、そこを追放されて普通の学校にやってくる。そして自分より遥かに弱い連中を相手に圧勝してみせる。


主人公の内心はさておき、「他者の視点」から見ると「高レベルプレイヤーが低レベル帯に降りてきてヒャッハーしている」みたいな感じになっている。だからこそ「俺TUEEE」だと言われているのではないか。


そういうことがあるので、俺TUEEEラノベWikiにそう書かれていたからといって、「ラ板では俺=読者という用法だった」と判断するのは早計なのではないかと思います。


とはいえ、スレ内では「レイフォンTUEEEだからつまらない」とかではなく、「TUEEEだから楽しい」と肯定的に使われているわけで、そこにネトゲでの用法からやや離れた、ラ板独自(?)の用法が出来ているのは間違いないと思います。


「もともとはネガティブな言葉だから」というのは理解しているのですが、個人的にはラ板での用法に引きずられているのか、「主人公が強くてスカッとする話」くらいの適当な定義でいいんじゃないのと思って使っています。

*1:「フォンフォン」は『鋼殻のレギオス』の主人公レイフォンのあだな

なぜ「ラノベのしわざ」にされるのか?

ちょうどタイミングが良かったので話のダシにさせていただきますけれども、リンク先で言われている「学園祭」だとか「無気力主人公」だとかって、わざわざラノベに限定して語ることじゃないですよね。ラノベでだけ無気力主人公が多いわけでもないし、ラノベが無気力主人公を流行らせたわけでもない。

「こういう話題のときにどうしてラノベを引き合いに出すのか?」ということがずっと気になっているんですよ。

たとえば突拍子もないニュースが流れると「まるでラノベみたいな話だ」と言われる。なにかの商品名が長いと「ラノベのタイトルかよ」と言われる。ある作家さんが「それだけラノベが普及しているということで喜ばしい」とおっしゃられていましたけど、本当にそうでしょうか。

たとえば「おとぎ話のようだ」とか「お芝居のようだ」とか、時を下れば「小説のようだ」「映画のようだ」「漫画のようだ」「テレビドラマのようだ」「アニメのようだ」といった定型句は、確かに発言者にとって最も身近で有名なものを、例として引いているのであろうと思います。

一方で、ライトノベルにそれほどの影響力があるでしょうか。明らかにアニメや漫画の方が普及していて読者も多いですよね。どうして知名度で遥かに劣るラノベが持ち出されるのか不思議なのです。「ラノベでありそうな話だなー」と笑っている彼ら自身がラノベ読者であるようにも見えません。

また、各人が思い描く「ラノベらしいラノベ」像というのにもだいぶ揺らぎがあって、「台詞ばかりで文字数が少ない」という人もいれば「地の文がくどくて長ったらしい」という人もいるし、「厨二病満載の異能バトル」という人も、「妹が登場するハーレムラブコメ」という人も、「謎部活の日常系」という人も、「異世界召喚ファンタジー」という人もいて、それぞれが「最近のラノベはこういうのばかり」と主張している。

しかし、やはりそれらの要素も、ラノベ発祥のものではないし、ラノベだけで多く見られるということもないわけです。というかラノベを特徴づけるような要素なんてあるのでしょうか。そんなものがあったらとっくにラノベ定義論に決着がついているのではないでしょうか。

というわけで。
いったいどういう気持ちで「ラノベみたいだ」と言っているのか。
その時にどういうラノベを想像して言っているのか。
是非とも皆さんのご意見を聞かせて欲しいと思うのです。

過去の議論:「ラノベでありがちなこと」みたいな話をしているときの「ラノベ」のイメージって? - Togetterまとめ

『アルデラミン』『グラウスタンディア』『アルティーナ』三大戦記ラノベ大進撃!

近年、ラノベ業界で盛り上がりを見せている戦記ファンタジーですが、その代表格とも言える『天鏡のアルデラミン』『グラウスタンディア皇国物語』『覇剣の皇姫アルティーナ』の「共通点」と「相違点」について、語りたくなったので語ります。ちなみに見出しで「三大」とか書いてるのはあくまで個人の感想なので、皆さんも「魔弾の王を忘れんな」とか「グランクレストはどうした」とか「いまこそアルスラーンだろ」とかどんどん言ってください。

なぜこの三作品なのかと言えば、もちろん自分が好きだからというのもありますが、先に述べたとおりいくつかの共通点があるからです。

  • ほぼ同時期に始まったこと
  • 魔法的なものがほとんど出てこないこと
  • ヒロインが皇帝の娘であること
  • 主人公がその軍師であること
  • 帝国は大陸最強国であるが、それ故に問題を抱えていること
  • 周辺国との戦いを繰り広げながら、同時に他の皇子たちと後継争いをすること。
  • トリックスター的な、不気味な敵役が登場すること
  • 皇帝の死が物語の転換点となっていること

特に、帝政の軍事国家を舞台とし、主人公は帝国側に味方している、という点は興味深いと思います。他のファンタジーでは、そういう国ってたいてい悪役だったりするイメージですしね。

さて、それぞれの作品を紹介していきましょう。


ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン (1) (電撃文庫)

ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン (1) (電撃文庫)

『天鏡のアルデラミン』は、精霊たちと共生していた古い時代と、科学が勃興する新しい時代のちょうど過渡期を舞台に、幼い皇女の下に集った五人の優秀な若者たちが協力して戦い、成長し、絆を育み、拭いがたい不穏な香りを漂わせつつも、激しい戦いに身を投じていく群像劇です。
主人公のイクタ・ソロークは、「全ての英雄は過労で死ぬ」を座右の銘として、英雄主義を批判する怠け者の青年です。ヤン・ウェンリーと違うのは、国家にさえ何の期待もしていないことでしょうか。しかし、彼がやってのけることは「国家の英雄」そのものなのです。彼が考え出す作戦は「肉を切らせて骨を断つ」というものが多いように思います。少勢で不利を強いられつつ、敵軍には強力なライバルが存在している、という状況が多いため、互いに手の内を読み合いながら最後にギリギリで凌ぐという、手に汗握る戦いが展開されます。
単純な出来の良さだけで言えば『アルデラミン』は三作品の中で随一でしょう。各種投票でも常に上位に入っており、特にマニア層から高く評価されているタイプの作品です。
ちなみに、知っている方はタイトルだけでピンとくるかもしれませんが、ピンとこない方は一巻を読んだあとでWikipediaの「ケフェウス座アルファ星」のページを見てみると良いと思います。


グラウスタンディア皇国物語1 (HJ文庫)

グラウスタンディア皇国物語1 (HJ文庫)

『グラウスタンディア皇国物語』は、先の大戦で活躍した「皇国七聖」と呼ばれる者たちが皇女の下に集い、再び激しい戦いを繰り広げていくという作品です。と書くと、ほら、『アルデラミン』とけっこう似てるじゃないですか。しかし、こちらは「七聖たちの群像劇」というよりは、大陸に割拠する三国の動向が物語の中心となっています。
主人公はクールな肉体派軍師クロム・ジャレット。イクタと違うのは、物語開始時点で軍の指揮を任されていることでしょう。そのため、特に大軍勢を率いての一大決戦が描かれる第三巻以降、個人の能力だけでは戦況を打開できなくなってくるあたりから、ぐっと面白くなってくるのです。相手がどう進軍してくるか、相手の行動のうちどれが陽動でどれが本命なのか、といったあたりの心理戦は、その点に限れば『アルデラミン』を凌ぐのでは、とさえ思います。
また、「世代交代」というテーマもあり、かっこいい老将・名将が次々に登場して、かっこいい散りざまを見せていくというのが、ちょっと反則的な魅力を醸し出しています。三作品の中では最もファンタジー度が高く、残虐な描写もままあるということで、『アルデラミン』よりも尖った印象を受けますが、独自の面白さを確立していることは間違いありません。


覇剣の皇姫アルティーナ (ファミ通文庫)

覇剣の皇姫アルティーナ (ファミ通文庫)

『覇権の皇姫アルティーナ』は、辺境に追いやられた妾腹の皇姫が、読書狂の軍師を見出し、皇帝即位を目指して目覚ましい功績を挙げていくというストーリーです。舞台となる「ベルガリア帝国」は近世あたりのフランスがモチーフとなっています。とにかく分かりやすく、読みやすく、楽しい作品です。
主人公レジス・オーリックは、三作品の中では最もオーソドックスというか、つまりは奇策を使って大軍を軽々と打ち破るような「軍師」です。本人は虚弱で、臆病で、自信もなく、ただひたすら本を読むことが大好きなだけのモヤシですが、一方のアルティーナは人並み外れた膂力を持つ脳筋ヒロインなので、まったくお似合いのカップルですよね。
この作品の特長については、各巻の冒頭に必ず「これまでのあらすじ」を挿れつつ、巻末に「設定資料」を載せているあたりが象徴的ですね。設定をきちんと作りこんだ上で、同時に分かりやすい物語を心がける。平原に、海に、攻城に、政争にと、各巻で異なる戦いを扱っているあたりも、サービス精神旺盛だなあと思うところです。


いずれのシリーズも(いまのところ)(まだ)(なんとか)10巻以内に収まっていますので、手を出すなら今がチャンス。戦記ラノベの実りの秋。是非とも読み比べてみてください。

2014年から創刊されたライトノベルレーベルはこんなに、違う?

この世の全てはこともなし : 2014年から創刊されたレーベルがこんなに、多すぎ?

これまでにも「ラノベレーベル多すぎ」問題というのは何度も言われてきたと思うのですが、ここ一年ほどのレーベルの増加はこれまでとは状況が違うんじゃないか、ということを説明したいと思います。

第一に、Web小説系のレーベルも含め、リンク先で挙げられているほとんどが、対象年齢が高めの「ライト文芸」系のレーベルだという点。これについては以前にも書いたのでそちらを参照いただければ。→「大人向けラノベ」の誕生 - WINDBIRD

第二に、これも対象年齢が高いことと関連していますが、本のサイズが大きめでやや高価格な「ノベルス」を名乗るレーベルが多いという点。特にオーバーラップ文庫やHJ文庫などの既存のライトノベル文庫レーベルが「ノベルス」レーベルを新設しているのが興味深いです*1

以上の二点からは、書店におけるライトノベルの戦場が、これまでの「少年少女向け」から「青年向け」へ、「文庫の棚」から「四六判ソフトカバーの棚」へと移っている――「少年少女向けライトノベルレーベルの増加」が遂に飽和して止まり、「青年向けライトノベルレーベルの増加」へと転換した、ということが言えるわけです。

つまり、この「ライト文芸戦争」とでも呼ぶべき戦いは、まだ始まったばかりなのです。いまのうちからレッドオーシャンなどと言っていては生き残れません。激しい競争になっていくのはまさにこれからだと思われます。

ところで、飽和してしまった少年少女向けライトノベルレーベルはどうなっているでしょうか。長年危惧されていたとおり廃刊が多発しているのでしょうか。と言えば、実はそうでもありません。有名どころではスマッシュ文庫がヤバいというくらいじゃないでしょうか。なんだかんだで皆さん生き延びているように見えます。

だから青年向けライトノベルでも、ヤバイヤバイと言われていても二年くらいなら普通に生き残って、本当に定着するかは十年は待たないと分からないんじゃないでしょうか。


ついでに補足すると、T-LINEノベルスは公式Twitterにて電子書籍レーベルを目指すとのアナウンスがありました。実現可能性はどれほどか分かりませんが。


また、comicoは自社レーベル「comico books」の設立を発表しており、comicoノベルもこの扱いではないかと思われます。双葉社には販売委託しているだけですね。
スマホ漫画「comico」が出版事業に参入--新レーベル立ちあげ - CNET Japan
NHN PlayArt Corp. | プレスリリース

こちらからは以上です。

*1:オーバラップノベルスが2015/5/25、リンク先には書かれていませんがHJノベルスが2014/11/22に創刊されています。