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そろそろスペオペなラノベがくるんじゃない?

刊行点数の増加と共にかつてないほどジャンルの幅が広がってきた最近のライトノベル業界。バトルにラブコメにファンタジーにミステリ、戦記モノに青春モノに教官モノにお仕事モノ…と考えていて、ちょうどスペオペが空白地帯になっているんじゃないかと思い至りました。

スペオペ」という語は定義が分裂気味ですが、とりあえず「広大な宇宙を舞台とした冒険もの、もしくは戦記もの」というあたりにしておきましょう

同じ「SF」の中でも、ディストピアな未来の話だとか、タイムループを扱った話だとか、そういうラノベはけっこう多いんですよね。「殺戮のマトリクスエッジ」とか「バベロニカ・トライアル」とか「レターズ/ヴァニシング」とか「ひとつ海のパラスアテナ」とかすぐに思い浮かびますし、ヒット作で言えば「ソードアート・オンライン」や「魔法科高校の劣等生」もSF要素が強い。ハヤカワのほうで書いているラノベ作家もたくさんいますし、SFラノベを読みたいだけなら、わりと簡単に見つかると思います。

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (電撃文庫)


ところが「スペオペ」というと一気に少なくなってしまう。ここ数年で自分が読んだ中では「銀河戦記の実弾兵器」くらいしか思い浮かびません。少し遡って「覇道鋼鉄テッカイオー」。読んでないやつで言えば、ハヤカワの「宇宙軍士官学校」や「天冥の標」、あとは「ミニスカ宇宙海賊」あたりでしょうか。

覇道鋼鉄テッカイオー (集英社スーパーダッシュ文庫)

覇道鋼鉄テッカイオー (集英社スーパーダッシュ文庫)


なにせスペオペラノベの源流のひとつですし、「無責任艦長タイラー」「ロスト・ユニバース」「それゆけ!宇宙戦艦ヤマモト・ヨーコ」などがあった1990年代はもちろん、2000年代に入ってからも大ヒットこそないもののそれなりに作品は出ていたんですよね。2010年代に入って、ファンタジーの復活やライト文芸の興隆があったことで、ちょうど「盲点」みたいになってるんじゃないかなあと思います。

しかしですね、いま、now、2015年末の現在、スペオペには勢いがあると思うんですよ。このあいだまでスペースダンディとかやってましたし、Gレコも面白かったですし、オルフェンズでは鴨志田一が脚本やってますし(まさにデビュー作がスペオペ戦記だったんですよね)、スターウォーズの新作も公開されるし、「星くず英雄伝」が復活したし、そして「銀河英雄伝説」が再アニメ化される! フジリューがコミカライズしてる!

神無き世界の英雄伝 (電撃文庫)

神無き世界の英雄伝 (電撃文庫)

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)

銀河英雄伝説 1 黎明編 (創元SF文庫)


ということで、「そうだ、スペオペ書こう」とばかり、思い出したように執筆をはじめるラノベ作家、およびラノベ作家志望者が増えるんじゃないか、と願望まじりに予測するわけです。いかがでしょう。「俺が2010年代後半のラノベ業界をスペオペに染め上げてやるぜ」というくらいの素晴らしい作品を期待しております。

「ライト文芸/キャラ文芸/キャラノベ」等の定義と呼称の歴史

簡単にまとめてみた。


このあたりも参考に。
これまでのライトノベル定義論の超大雑把な流れ - WINDBIRD::ライトノベルブログ
「大人向けラノベ」の誕生 - WINDBIRD::ライトノベルブログ

2004年10月 有川浩『空の中』がハードカバーで刊行される

有川浩電撃小説大賞を受賞して『塩の街』でデビューしていたラノベ作家。電撃文庫にとって、これが最初のハードカバー作品というわけではないが*1メディアワークス文庫へ直接的に繋がる動きとして、とりあえずここを起点としたい。以降、「富士見Style-F」などハードカバーのラノベが流行り、また「越境」と呼ばれたようなラノベ作家の一般文芸への進出も活発になっていく。

2006年2月 有川浩図書館戦争』のヒット

この作品を輩出したことをもって電撃文庫のハードカバー路線は成功に終わったと言っていいのではないだろうか。これに加え、2007年桜庭一樹『私の男』とそれによる直木賞受賞、2009年冲方丁天地明察』のヒットといったあたりで、ムーブメントとしての「越境」は頂点に達した感がある。以降はあえて「越境」と言うこともなくなった。

2009年12月 「メディアワークス文庫」創刊


ライト文芸史の画期をなす。メディアワークス文庫電撃文庫編集部が担当し、電撃文庫の作家が書いた作品、電撃小説大賞への投稿作品が刊行されており、いわば「電撃文庫の副業」とも言えるレーベルである。その上であえて「ライトノベルではない」*2と宣言し、書店においてラノベとは別の棚を開拓することに成功した。

2011年3月 三上延ビブリア古書堂の事件手帖』のヒット

電撃ハードカバー路線における『図書館戦争』の立ち位置に近い。この作品によってメディアワークス文庫が軌道に乗り、それを見た他社もこの分野に参入していくことになる。

2011年11月 「富士見ラノベ文芸大賞」創設


ラノベ文芸」という概念が提唱される。要するに富士見版メディアワークス文庫である。

2012年7月 「キャラ立ち小説」

ラノベとも違う! 今人気の“キャラ立ち小説”とは? | ダ・ヴィンチWeb」にて提唱された。

 “キャラクター小説”というジャンルを知っているだろうか。かつては“ライトノベル”と同義だったが、今、一般文芸作品にライトノベルの手法をうまく盛り込んでキャラクターを立たせた“キャラ立ち小説”が読者を強くひきつけているのだ。『ダ・ヴィンチ』8月号では今、大注目のキャラ立ち小説を大紹介。

として『ビブリア古書堂の事件手帖』『彩雲国物語』『図書館戦争』『万能鑑定士Q』などが挙げられている。「ダ・ヴィンチ」はカドカワ系列の雑誌。

2012年8月 岡崎琢磨『珈琲店タレーランの事件簿』のヒット

『ビブリア』に続いて「お店もの」のミステリがヒット。二匹目のドジョウが捕まったなら本物だとばかりに「あやかしカフェのほっこり事件簿」と称される同系統の作品が増えていくことになる。

2012年9月 「ヒーロー文庫」創刊

http://bukure.shufunotomo.co.jp/hero/
アルファポリスイーストプレスといった先発組を別にすれば、フェザー文庫に次いでWeb小説の書籍化ブームの草分けとなる。ちなみに編集者が一人だけで切り盛りしていることでも有名。

2012年9月 「キャラノベ

マンガのような主人公が活躍、「キャラノベ」が人気のワケ|NIKKEI STYLE」にて提唱された。

「キャラノベ」とは、エンターテインメント小説のなかでも、読みやすい文体や言葉遣いで書かれ、舞台や人物がマンガ的に誇張されている作品のこと。

として『謎解きはディナーのあとで』『ビブリア古書堂の事件手帖』『舟を編む』『三匹のおっさん』などが挙げられている。呼称としては、一時は定着しつつあったが、現在は後発の「キャラ文芸」「ライト文芸」に押され気味。

2013年3月 「角川書店キャラクター文芸編集部」が発足


「キャラクター文芸」という概念が提唱される。それ以前から角川文庫で発売されていた『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』『ハルチカシリーズ』『ホーンテッド・キャンパス』といった作品を統括する編集部、ということなのだろうか。いまだによく分かっていない。以降、メディアで「キャラ文芸」という言葉が使われるようになる。
『ビブリア古書堂の事件手帖』に続く大ヒット作は出るか? いま「キャラクター文芸」がアツい | ダ・ヴィンチWeb
小説とラノベを分けるのはナンセンス!? 人気の「キャラ文芸」とは何か?【識者解説】 | ダ・ヴィンチWeb
【広角レンズ】大人向け「キャラ文芸」台頭 ライトノベルと一線 文庫品揃え厚く(1/4ページ) - 産経ニュース

2013年9月 「MFブックス」創刊


創刊時に「30代~40代男性に向けたエンターテインメント小説」と銘打たれたWeb小説系のレーベル。私も当時は「その年代がターゲットなのにWeb小説ってどうなんだ」と思っていたが成功を収めた。すみませんでした。

小説家になろう」の読者層は若い方が中心なんですが、そこから書籍化されたものを購入するのは年齢層が高い方が中心なんですよね。

ラノベと何が違うの? 大人向けエンタ小説レーベル創刊!! | ダ・ヴィンチWeb

このあたりからWeb小説系の単行本レーベルが大きく増加し、また「大人に向けたライトノベル」という一点において、Web小説系レーベルとメディアワークス文庫あたりとが一括りに見られるようになる。

2014年6月 富士見L文庫創刊


「富士見ラノベ文芸大賞」の成果と言える。このあたりから「新潮文庫nex」「集英社オレンジ文庫」「講談社タイガ」など、メディアワークス文庫のフォロワー的なレーベルが急速に増加していく。

2014年10月 「ライト文芸


2015年に創刊された集英社オレンジ文庫のプレスリリースにて提唱された。

近年、出版業界で活況を呈しているのが「ライト文芸」「キャラノベル」と呼ばれる作品群。
漫画やライトノベルで育った世代の読者は、物語に出てくるキャラクターの魅力に敏感です。

「ライト文芸」に特化した文庫レーベルが集英社から登場!! 集英社オレンジ文庫2015年1月20日(火)創刊!! | 株式会社 集英社のプレスリリース

ライト文芸」と呼ばれる…とあるが、これ以前に「ライト文芸」と呼ばれた作品・レーベルはたぶん無いはず。
http://www.asahi.com/articles/DA3S11704883.html

2015年2月 「小説家になろう大賞」が「ライト文芸新人賞」に改称

http://mfbooks.jp/award/02/lp.html
小説家になろう大賞」は、MFブックスとアリアンローズが「小説家になろう」とタイアップして開催していた新人賞だったが、それが「ライト文芸新人賞」に改称された。Web小説系のレーベルが明確に「ライト文芸」を名乗ったのはこれが初めてだと思われる。

2015年9月 「新文芸」


メディアワークス文庫系を「キャラ文芸」などとして推し進めてきたカドカワが、じゃあWeb小説系をなんと呼ぶのかで「カドカワBOOKS」創刊にあわせて捻りだしてきたのがこの「新文芸」。

我々の定義する「新文芸」とは、UGCと呼ばれる、ネット上で発表された作品を書籍・電子書籍化して出版する小説の総称であり、これが従来の一般文芸とは明確に異なる点です。いわゆるネット小説やボカロ小説、フリーゲームの小説化といったものがこのジャンルに含まれます。

【KADOKAWA公式ショップ】KADOKAWA 井上伸一郎に聞く -WEB発の新ジャンル 新文芸-|カドカワストア|オリジナル特典,本,関連グッズ,Blu-Ray/DVD/CD

「ウェブ文芸」くらいのほうが分かりやすくて良いんじゃないかという気もする。

書店での定義


フロンティアワークス系のレーベル(MFブックスやアリアンローズなど)が「ライト文芸」を自称したためか、書店では「Web系単行本=ライト文芸」「大人向けラノベ文庫=キャラ文芸」と区別されていることがある。実際に「ライト文芸コーナー」としてWeb系単行本が並べられていたりした。

カドカワがWeb系単行本を「新文芸」という名前でアピールしたこともあり、あくまで一時的な混乱に留まったものと思われるが、いまでもこのあたりを混同している人は見かけるので注意が必要である。

*1:タイム・リープ』とかいろいろあった。

*2:そもそも電撃文庫ライトノベルとは自称しないが。

俺TUEEEという言葉にまつわる取り留めもない話、その2


自分の記事を参考にしてくださったようで、ありがとうございます。


「ラ板(ライトノベル板)では主人公と読者である自分とを重ね合わせるような読み方がされている」と断定されているところがちょっと気になりました。



もちろん、自分と主人公を一体化させて物語を楽しむ読者もいるとは思いますが、過去記事中で引用した書き込みを見ても、「レイフォンの俺TUEEE」「フォンフォンTUEEE*1」といった形で使用されており、「主人公」と「読者」はきちんと線引きされているように感じます。


そもそも、なぜ『鋼殻のレギオス』がああまで「俺TUEEE」と言われていたのかというと、そのストーリーに原因があるのではないかと思うんですね。


鋼殻のレギオス』の主人公は、武芸者の総本山のような街のトップランカーだったのに、そこを追放されて普通の学校にやってくる。そして自分より遥かに弱い連中を相手に圧勝してみせる。


主人公の内心はさておき、「他者の視点」から見ると「高レベルプレイヤーが低レベル帯に降りてきてヒャッハーしている」みたいな感じになっている。だからこそ「俺TUEEE」だと言われているのではないか。


そういうことがあるので、俺TUEEEラノベWikiにそう書かれていたからといって、「ラ板では俺=読者という用法だった」と判断するのは早計なのではないかと思います。


とはいえ、スレ内では「レイフォンTUEEEだからつまらない」とかではなく、「TUEEEだから楽しい」と肯定的に使われているわけで、そこにネトゲでの用法からやや離れた、ラ板独自(?)の用法が出来ているのは間違いないと思います。


「もともとはネガティブな言葉だから」というのは理解しているのですが、個人的にはラ板での用法に引きずられているのか、「主人公が強くてスカッとする話」くらいの適当な定義でいいんじゃないのと思って使っています。

*1:「フォンフォン」は『鋼殻のレギオス』の主人公レイフォンのあだな

なぜ「ラノベのしわざ」にされるのか?

ちょうどタイミングが良かったので話のダシにさせていただきますけれども、リンク先で言われている「学園祭」だとか「無気力主人公」だとかって、わざわざラノベに限定して語ることじゃないですよね。ラノベでだけ無気力主人公が多いわけでもないし、ラノベが無気力主人公を流行らせたわけでもない。

「こういう話題のときにどうしてラノベを引き合いに出すのか?」ということがずっと気になっているんですよ。

たとえば突拍子もないニュースが流れると「まるでラノベみたいな話だ」と言われる。なにかの商品名が長いと「ラノベのタイトルかよ」と言われる。ある作家さんが「それだけラノベが普及しているということで喜ばしい」とおっしゃられていましたけど、本当にそうでしょうか。

たとえば「おとぎ話のようだ」とか「お芝居のようだ」とか、時を下れば「小説のようだ」「映画のようだ」「漫画のようだ」「テレビドラマのようだ」「アニメのようだ」といった定型句は、確かに発言者にとって最も身近で有名なものを、例として引いているのであろうと思います。

一方で、ライトノベルにそれほどの影響力があるでしょうか。明らかにアニメや漫画の方が普及していて読者も多いですよね。どうして知名度で遥かに劣るラノベが持ち出されるのか不思議なのです。「ラノベでありそうな話だなー」と笑っている彼ら自身がラノベ読者であるようにも見えません。

また、各人が思い描く「ラノベらしいラノベ」像というのにもだいぶ揺らぎがあって、「台詞ばかりで文字数が少ない」という人もいれば「地の文がくどくて長ったらしい」という人もいるし、「厨二病満載の異能バトル」という人も、「妹が登場するハーレムラブコメ」という人も、「謎部活の日常系」という人も、「異世界召喚ファンタジー」という人もいて、それぞれが「最近のラノベはこういうのばかり」と主張している。

しかし、やはりそれらの要素も、ラノベ発祥のものではないし、ラノベだけで多く見られるということもないわけです。というかラノベを特徴づけるような要素なんてあるのでしょうか。そんなものがあったらとっくにラノベ定義論に決着がついているのではないでしょうか。

というわけで。
いったいどういう気持ちで「ラノベみたいだ」と言っているのか。
その時にどういうラノベを想像して言っているのか。
是非とも皆さんのご意見を聞かせて欲しいと思うのです。

過去の議論:「ラノベでありがちなこと」みたいな話をしているときの「ラノベ」のイメージって? - Togetterまとめ

『アルデラミン』『グラウスタンディア』『アルティーナ』三大戦記ラノベ大進撃!

近年、ラノベ業界で盛り上がりを見せている戦記ファンタジーですが、その代表格とも言える『天鏡のアルデラミン』『グラウスタンディア皇国物語』『覇剣の皇姫アルティーナ』の「共通点」と「相違点」について、語りたくなったので語ります。ちなみに見出しで「三大」とか書いてるのはあくまで個人の感想なので、皆さんも「魔弾の王を忘れんな」とか「グランクレストはどうした」とか「いまこそアルスラーンだろ」とかどんどん言ってください。

なぜこの三作品なのかと言えば、もちろん自分が好きだからというのもありますが、先に述べたとおりいくつかの共通点があるからです。

  • ほぼ同時期に始まったこと
  • 魔法的なものがほとんど出てこないこと
  • ヒロインが皇帝の娘であること
  • 主人公がその軍師であること
  • 帝国は大陸最強国であるが、それ故に問題を抱えていること
  • 周辺国との戦いを繰り広げながら、同時に他の皇子たちと後継争いをすること。
  • トリックスター的な、不気味な敵役が登場すること
  • 皇帝の死が物語の転換点となっていること

特に、帝政の軍事国家を舞台とし、主人公は帝国側に味方している、という点は興味深いと思います。他のファンタジーでは、そういう国ってたいてい悪役だったりするイメージですしね。

さて、それぞれの作品を紹介していきましょう。


ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン (1) (電撃文庫)

ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン (1) (電撃文庫)

『天鏡のアルデラミン』は、精霊たちと共生していた古い時代と、科学が勃興する新しい時代のちょうど過渡期を舞台に、幼い皇女の下に集った五人の優秀な若者たちが協力して戦い、成長し、絆を育み、拭いがたい不穏な香りを漂わせつつも、激しい戦いに身を投じていく群像劇です。
主人公のイクタ・ソロークは、「全ての英雄は過労で死ぬ」を座右の銘として、英雄主義を批判する怠け者の青年です。ヤン・ウェンリーと違うのは、国家にさえ何の期待もしていないことでしょうか。しかし、彼がやってのけることは「国家の英雄」そのものなのです。彼が考え出す作戦は「肉を切らせて骨を断つ」というものが多いように思います。少勢で不利を強いられつつ、敵軍には強力なライバルが存在している、という状況が多いため、互いに手の内を読み合いながら最後にギリギリで凌ぐという、手に汗握る戦いが展開されます。
単純な出来の良さだけで言えば『アルデラミン』は三作品の中で随一でしょう。各種投票でも常に上位に入っており、特にマニア層から高く評価されているタイプの作品です。
ちなみに、知っている方はタイトルだけでピンとくるかもしれませんが、ピンとこない方は一巻を読んだあとでWikipediaの「ケフェウス座アルファ星」のページを見てみると良いと思います。


グラウスタンディア皇国物語1 (HJ文庫)

グラウスタンディア皇国物語1 (HJ文庫)

『グラウスタンディア皇国物語』は、先の大戦で活躍した「皇国七聖」と呼ばれる者たちが皇女の下に集い、再び激しい戦いを繰り広げていくという作品です。と書くと、ほら、『アルデラミン』とけっこう似てるじゃないですか。しかし、こちらは「七聖たちの群像劇」というよりは、大陸に割拠する三国の動向が物語の中心となっています。
主人公はクールな肉体派軍師クロム・ジャレット。イクタと違うのは、物語開始時点で軍の指揮を任されていることでしょう。そのため、特に大軍勢を率いての一大決戦が描かれる第三巻以降、個人の能力だけでは戦況を打開できなくなってくるあたりから、ぐっと面白くなってくるのです。相手がどう進軍してくるか、相手の行動のうちどれが陽動でどれが本命なのか、といったあたりの心理戦は、その点に限れば『アルデラミン』を凌ぐのでは、とさえ思います。
また、「世代交代」というテーマもあり、かっこいい老将・名将が次々に登場して、かっこいい散りざまを見せていくというのが、ちょっと反則的な魅力を醸し出しています。三作品の中では最もファンタジー度が高く、残虐な描写もままあるということで、『アルデラミン』よりも尖った印象を受けますが、独自の面白さを確立していることは間違いありません。


覇剣の皇姫アルティーナ (ファミ通文庫)

覇剣の皇姫アルティーナ (ファミ通文庫)

『覇権の皇姫アルティーナ』は、辺境に追いやられた妾腹の皇姫が、読書狂の軍師を見出し、皇帝即位を目指して目覚ましい功績を挙げていくというストーリーです。舞台となる「ベルガリア帝国」は近世あたりのフランスがモチーフとなっています。とにかく分かりやすく、読みやすく、楽しい作品です。
主人公レジス・オーリックは、三作品の中では最もオーソドックスというか、つまりは奇策を使って大軍を軽々と打ち破るような「軍師」です。本人は虚弱で、臆病で、自信もなく、ただひたすら本を読むことが大好きなだけのモヤシですが、一方のアルティーナは人並み外れた膂力を持つ脳筋ヒロインなので、まったくお似合いのカップルですよね。
この作品の特長については、各巻の冒頭に必ず「これまでのあらすじ」を挿れつつ、巻末に「設定資料」を載せているあたりが象徴的ですね。設定をきちんと作りこんだ上で、同時に分かりやすい物語を心がける。平原に、海に、攻城に、政争にと、各巻で異なる戦いを扱っているあたりも、サービス精神旺盛だなあと思うところです。


いずれのシリーズも(いまのところ)(まだ)(なんとか)10巻以内に収まっていますので、手を出すなら今がチャンス。戦記ラノベの実りの秋。是非とも読み比べてみてください。

2014年から創刊されたライトノベルレーベルはこんなに、違う?

この世の全てはこともなし : 2014年から創刊されたレーベルがこんなに、多すぎ?

これまでにも「ラノベレーベル多すぎ」問題というのは何度も言われてきたと思うのですが、ここ一年ほどのレーベルの増加はこれまでとは状況が違うんじゃないか、ということを説明したいと思います。

第一に、Web小説系のレーベルも含め、リンク先で挙げられているほとんどが、対象年齢が高めの「ライト文芸」系のレーベルだという点。これについては以前にも書いたのでそちらを参照いただければ。→「大人向けラノベ」の誕生 - WINDBIRD

第二に、これも対象年齢が高いことと関連していますが、本のサイズが大きめでやや高価格な「ノベルス」を名乗るレーベルが多いという点。特にオーバーラップ文庫やHJ文庫などの既存のライトノベル文庫レーベルが「ノベルス」レーベルを新設しているのが興味深いです*1

以上の二点からは、書店におけるライトノベルの戦場が、これまでの「少年少女向け」から「青年向け」へ、「文庫の棚」から「四六判ソフトカバーの棚」へと移っている――「少年少女向けライトノベルレーベルの増加」が遂に飽和して止まり、「青年向けライトノベルレーベルの増加」へと転換した、ということが言えるわけです。

つまり、この「ライト文芸戦争」とでも呼ぶべき戦いは、まだ始まったばかりなのです。いまのうちからレッドオーシャンなどと言っていては生き残れません。激しい競争になっていくのはまさにこれからだと思われます。

ところで、飽和してしまった少年少女向けライトノベルレーベルはどうなっているでしょうか。長年危惧されていたとおり廃刊が多発しているのでしょうか。と言えば、実はそうでもありません。有名どころではスマッシュ文庫がヤバいというくらいじゃないでしょうか。なんだかんだで皆さん生き延びているように見えます。

だから青年向けライトノベルでも、ヤバイヤバイと言われていても二年くらいなら普通に生き残って、本当に定着するかは十年は待たないと分からないんじゃないでしょうか。


ついでに補足すると、T-LINEノベルスは公式Twitterにて電子書籍レーベルを目指すとのアナウンスがありました。実現可能性はどれほどか分かりませんが。


また、comicoは自社レーベル「comico books」の設立を発表しており、comicoノベルもこの扱いではないかと思われます。双葉社には販売委託しているだけですね。
スマホ漫画「comico」が出版事業に参入--新レーベル立ちあげ - CNET Japan
NHN PlayArt Corp. | プレスリリース

こちらからは以上です。

*1:オーバラップノベルスが2015/5/25、リンク先には書かれていませんがHJノベルスが2014/11/22に創刊されています。

「好きなライトノベルを投票しよう!! 2015年上期」投票

http://lightnovel.jp/best/2015_01-06/

【15上期ラノベ投票/9784041025734】【15上期ラノベ投票/9784063814682】
ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)

ひとつ海のパラスアテナ (2) (電撃文庫)

【15上期ラノベ投票/9784048650526】【15上期ラノベ投票/9784048693363】
路地裏バトルプリンセス (GA文庫)

路地裏バトルプリンセス (GA文庫)

【15上期ラノベ投票/9784797382075】
アルテミジアの嗜血礼賛 (一迅社文庫)

アルテミジアの嗜血礼賛 (一迅社文庫)

【15上期ラノベ投票/9784758046701】【15上期ラノベ投票/9784040705330】【15上期ラノベ投票/9784041013823】
あの夏、最後に見た打ち上げ花火は (ガガガ文庫)

あの夏、最後に見た打ち上げ花火は (ガガガ文庫)

【15上期ラノベ投票/9784094515497】【15上期ラノベ投票/9784040676609】

『魔法科高校』へ観光に来られる皆様へ

今回の話題はこちら。

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)


なんと言うか、「苦手なものでも自分の目で確認するのは偉い」という称賛が散見されるけれど、地元民からすればガイドブックなしにやってきて文句ばかり言っている観光客みたいなもので、あまり気分はよろしくない。そもそも『魔法科』だけ読んで最近のラノベの傾向を理解するだなんて、『進撃の巨人』だけ読んで最近の漫画の傾向を…みたいな話だろう。まあ、自分だってそういうことをやらないこともないので、声高に非難できるわけでもないが。


しかし、「巷で流行りの俺TUEEEをちょっくら見物に」で『魔法科高校の劣等生』というのは、なかなか難しい旅行プランなのではなかろうか。Web小説自体、作者の趣味が強く現れるジャンルであるが、『魔法科』はとりわけ趣味性の高い作品である。


タイトルから勘違いされることも多いが、『魔法科』は「落ちこぼれがエリートを倒してスカッとする」というような分かりやすい話ではない。主人公は実力を隠しているわけではないし、戦闘などは淡白で、背景にある設定もかなり重い。さらに言えばスカッとするには設定解説がちょっと多すぎるだろう。


ライトノベルのライト=読みやすい」というのは先入観にすぎない(→ライトノベルの「ライト」に大した意味はない - WINDBIRD)。商品として読みやすいよう心掛けてはいるだろう。しかしそれでもなお読みづらい(それでいて人気のある)ラノベなどいくらでもあるのだ。


『魔法科』の文章は、上手い下手の前にかなり癖が強いし、本編よりも設定解説の方が多いのではないかというくらいで、なかなか気軽に読めるものではない。それはもちろん面白さと背中合わせで、その癖の強さが人気に繋がっているのだが、「気持ちいい俺TUEEEが読みやすい形で提供されて読者はお手軽に万能感を味わえるんだろ?」みたいな気持ちで読み始めれば、そりゃ跳ね返されるだろうというものだ。


作者の思想に問題があるとは各所から指摘されていることで、それについて「どうしても気になって読めない」という人がいるのは仕方がないだろう。


まあ「近視という病」のくだりについては、現実にも「眼鏡がなければ近視は障害扱いだったろう」とはよく言われることで、つまり「治療可能な障害」ということを比喩的に表現しているだけではないかとも思うが。


さらに脱線すると、この作者は別シリーズ『ドウルマスターズ』の一巻において成形炸薬弾の描写が間違っているとのツッコミを受け、二巻で無理やり「この世界では一巻の描写が正しい」ということにしてしまったくらいなので、細かいところに突っ込むのも野暮という気はする。


閑話休題、ともかく観光気分で俺TUEEEを読みたい方々には、『魔法科』は向いていないのではないか、ということを訴えたいのである。


もちろんそれで「ラノベを読むな!」などとは言わない。現地ガイドとして「爽快な俺TUEEEを読みたいならこれ!」というのを挙げておこう。それが、前掲のまとめの最後でも紹介した『火の国、風の国物語』である。



一巻の発売が2007年なので…もう8年前かよ恐ろしい…今となってはやや古い作品ということになるだろう。Web小説の書籍化が流行するさらに前に刊行された、俺TUEEEの金字塔である。


主人公のアレスには、生来の剣の才能の上に、悪魔(のような存在)から与えられた人間離れした膂力があり、さらに危機の時には未来を見通したようなアドバイスまで授けられる。本人は忠義の塊のような、生真面目で融通の利かない性格であるため、悪魔の力を借りることに反発を覚えているが、しかし敬愛する王女のためならそれを振るうことを躊躇わない。という設定である。


このアレスがとにかく強い。笑ってしまうくらい強い。智将が用意した周到な策略も、天才魔術師の大魔術も、ただの力任せで打ち破ってしまう。読書中に何度、アレスのライバルたちと同じ顔をして「んな馬鹿な」と呟いたことか。


面白さは保証する。もとより商業作品として発表されただけに、実に読みやすく分かりやすく、しかも十巻程度で綺麗に完結している。


書店には既に置いていないかもしれないが、ありがたいことに電子書籍で買える。良い時代になった。布教も捗るというものだ。観光客の皆様には是非とも買っていただきたいお勧めの特産品である。

ラノベの表紙でよく見かけるデザイン・あまり見かけないデザイン

以下の記事に触発されました。

センス良い表紙デザインを考える - 主ラノ^0^/ ライトノベル専門情報サイト

あと参考にしたサイト。

ラノベの新刊の表紙一覧
漫画の新刊の表紙一覧
この装丁がすごい!

ラノベの表紙でよく見かけるデザイン

下半身まで入っている

全身か、そうでなくても太もものあたりまで見えていることが多い。漫画だと胸や腰のあたりで切れている構図も多いですが、ラノベだとそれほど多くはありません。ラノベ表紙はパンチラが多い…という偏見があるのも、つまりは下半身が見えているからなのでは、という仮説を持っています。

関連:漫画の表紙とライトノベルの表紙のデザインについて - Togetterまとめ

タイトルロゴが明朝体

漫画に比べると明朝体の割合が多い印象です。「小説といえば明朝体」というイメージがあるのかも。

魔法戦争 (MF文庫J)

魔法戦争 (MF文庫J)

タイトルがキャラを避けるように配置

真ん中にキャラを持ってきて、右上・左上の余白にロゴが配置される。漫画だと、キャラの顔にタイトルが被るのもそこまで無くはないという感じ。

王手桂香取り!  (電撃文庫)

王手桂香取り! (電撃文庫)

ラノベの表紙であまり見かけないデザイン

顔のアップ

「下半身まで~」と被りますが、やっぱり顔のアップはほとんど無いですよね。正面を見据えた主人公の顔がどーんとか。二人の顔が左右に配置されてるのとかも。

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

四月は君の嘘(1) (講談社コミックス月刊マガジン)

四月は君の嘘(1) (講談社コミックス月刊マガジン)

白以外の単色背景

ラノベの表紙と言えば「白背景」が有名ですが、最近は背景が描き込まれていることも多いです。ただ「白以外の単色背景」は少ないですよね。

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

暗殺教室 1 (ジャンプコミックス)

巨大タイトルロゴ

漫画だと、ものすごく大きかったり、逆にものすごく小さかったりというのがあるけど、ラノベでそういうのは少ない感じ。

ラーメン大好き小泉さん 1 (バンブーコミックス)

ラーメン大好き小泉さん 1 (バンブーコミックス)

彼女とカメラと彼女の季節(1)

彼女とカメラと彼女の季節(1)


最近は単行本サイズのラノベも増えてきているし、大人向けラノベだとまた違った風味のデザインになっている。相乗効果で全体のバリエーションが増えていくといいですね。

そういえば、最近(でもないのか?)花とゆめコミックスが統一フォーマットをやめていたのに驚いて、そこから富士見ファンタジア文庫が統一フォーマットをやめたときのことを思い出しました。漫画もラノベもブックデザインはまだまだ発展中ということなのでしょう。

「小説家になろう」の異世界ファンタジーと『ゼロの使い魔』について簡単な整理

この記事は、小説投稿サイト「小説家になろう」において、ある種の異世界ファンタジーが流行あるいは定着しているのは何故か、という問題について、簡単に整理したものです。


アーサー王宮廷のコネチカット・ヤンキー』や『オズの魔法使い』や『火星のプリンセス』や『聖戦士ダンバイン』の話ではありませんのでご留意ください。


さて、現時点での情報を整理してみますと、


1. 最強、召喚、転生、憑依、逆行、内政といった特徴的な要素は、二次創作SSの界隈で熟成されてきたものである


2. 『ゼロの使い魔』の二次創作SSが流行し、「好きなキャラをファンタジー世界へ召喚するためのフレームワーク」として確立された


(3. このフレームワーク的な異世界ファンタジーが、その他の特徴的な要素と共に、「小説家になろう」に流入した?)


4. 「小説家になろう」が二次創作禁止になり、受け皿として用意された二次創作専用サイトの「にじファン」も2012年に閉鎖されてしまったので、「小説家になろう」における二次創作の影響が分かりづらくなった(「二次創作への対応」参照


という感じです。


私自身は二次創作コミュニティに参加したことがありませんので、このあたりはほとんどが他人の受け売りになります。思い違いなどありましたらツッコミ歓迎です。


それと、もちろん『ソードアート・オンライン』からのVRMMORPG物だとか、その他の類型、あるいは純粋に「小説家になろう」内で生まれた流行だとかもあるのでしょうけども、そこまでいくと手がつけられませんので、とりあえずは措かせてください。


ともかく、上記でいうところの「3」の部分がよく分からないのですね。


そのあたりのことについて我乱堂さんに語っていただいたのがこちらのTogetterになるのですが。


「小説家になろう」の異世界ファンタジーの源流は『ゼロの使い魔』? - Togetterまとめ


これでもまだ「有力」という段階であって「確定」ではない。


というわけで、当時のことをよく知る方々からのさらなる情報をお待ちしております。


余談。
Internet Archiveで昔の「小説家になろう」を確認してみると、やけに名探偵コナンの二次創作が多い。…主人公が子供に生まれ変わる…そしてチートじみた才能…なろうテンプレ=コナン起源説が爆誕する…?